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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第1章 召喚されてしまいました
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ラウラ=デュメリリー

「なあ徹、3で割り切れる数でキリのいい数ってそんなに無いよな」


 いきなりの吟の問いかけに一瞬呆気に取られるが、すぐにその真意に気付く。


「もしかして…3等分出来なかったから…揉めたの?」

「ああ。当時は能力が一人4つ、存在の力は一律100だったんだ。当然3で割り切れない。そこで連中はとんでもないことを言い出した。当時は3つの国が戦争をしていたんだが、それぞれに加担して、他の2国を滅ぼせた奴が俺の分の残りを貰うってな。やつらは俺の能力を一つずつ、存在の力を33ずつ盗んで召喚された。そして…世界中に3国の戦禍は広がっていったんだ」

「残りって…1しかないじゃん…」

「ああ、でも奴らにとってはその残り1がどうしてもほしかったんだろうよ。そういう考えは俺には理解できなかったがな。そして俺はここで…ただ震えて戦争の様子を見ていたんだ」


 目を細めて周囲を見回す吟。その表情は複雑で、徹にも読み取れないものだった。


「そしてこの空間の存続期限直前に、俺は怒られたんだ。あの時に友人である3人を止められなかったこと。鬱陶しくなって放置したこと。ただ震えて見ていただけだったことを。まあ向こうが俺を友人と思っていたかどうかは怪しいけどな。そして俺はこのハイエルフの身体を借りて連中を止めることになったんだ。揉め事の後始末ってやつだ。

結局、ハイエルフの力と俺の残りの力で何とか連中を止めたんだが、最後の頃はもう理性の欠片も残ってなかったな。姿も醜く成り果てて、最早人間ですら無かった。禁忌の邪法に手を出したらしいんだが、それが何かは未だにわからない。ただ…最後に暴走して弱ったところを止めを刺したんだ。禁呪を邪法にぶつけて競り勝って、あとは骨も残さず焼き尽くしたよ…」


 徹はしばらく何も言葉が見つからなかった。あまりの壮絶な内容にだ。


「それで…『罰』っていうのは?」

「ああ、それはこのハイエルフの特性も絡むんだが…俺は多分死ぬことが出来ないと思う。エルフは長寿の種族だが、ハイエルフはもっと長寿だ。エルフは1000年ほど生きる者もいるが、ハイエルフは1万年を軽く超えるらしい。寿命が無いという説もあるらしい。そこに加えて病気の類にも強いからまず病死はない。身体能力も馬鹿みたいだから殺されるなんてのもない。孤独に苛まれながら永遠に近い時を過ごし続ける…それが俺の『罰』なんだ」


 しばしの無言の時間を経て、徹は言う。


「本当に碌な事しないね、あの3人は」


 そして、徹は吟に語った。吟が死んだ後、葬儀の席での3人の家族の行動を。その為に徹がどれほど悔しい思いをしたかを。


「そうか…そんな事が…ありがとう、徹。俺のために悔し涙を流してくれて。 …ところで徹、お前がここに居るってことは…成る程、兄弟揃って同じような目に遭ってるってことか」

「でも俺は一人じゃないよ。楓も一緒にこっちに来た。楓は無事召喚されたみたいだけど、クラスのほとんどが存在エネルギーを少しずつ掠めていったんだ」

「…それは拙いんじゃないか? 俺の経験上、存在エネルギーってのはほんの少し足されただけで爆発的に能力が上がる。デフォルトでもかなり強いと思うが、お前の話を聞く限りでは、他のクラスメートとは能力差が相当出ているはずだ。そいつらにしてみれば、デフォルトの力なんてのは雑魚と同じくらいにしか見えないだろう。早く何とかしないと楓ちゃんが危ない!」


 吟はよく知る弟の幼馴染の状況の悪さに焦りの声を上げる。しかし、徹は冷静に話し続ける。


「吟兄の『罰』はどうなるんですか?」

「おいおい、今はそれどころじゃ…」

「俺にとってはどっちも大事なんだよ! もし俺がその身体を貰ったら…吟兄はどうなるんだよ! 

まさか俺のかわりに消滅なんて言うなよな。兄貴を犠牲にして命を繋ぎましたなんて、胸張って楓に言えるわけないだろう!」


 あまりの剣幕に吟が困っていると、声の主から助け舟が出された。


「吟、あなたには徹君への指導を任せます。そのハイエルフが持つ全てを、そしてあなたが1000年の間に作り上げた全てを徹君に伝授してください。その報酬として、あなたを解放します。魂だけの状態になりますが。その状態でですが、地球にお返しします。勿論転生できるような術にします。そして徹君、その術は…あなたが執り行ってください」


 まさかの内容に驚きを隠せない徹。ハイエルフの技術云々については元々きっちりと教わるつもりだった。使い方を知らなければ、どんなに強い身体を貰っても素人同然だからだ。そんなことよりも…


「しかし、以前聞いた話では…」

「あれは肉体を構築させなければならない状況での話です。魂だけを送って転生の輪に組み込むのであれば方法はあります。徹君がハイエルフの能力と吟の技術全てを使えるようになればその方法は解るはずです。勿論必要術式のヒントは差し上げます。ただ、正確な術式はあなたが作り上げてください。いいですね」


 徹は素直に頷くことが出来なかった。寿命という『罰』のことだった。果たして自分は孤独に耐えられるのだろうか…。そんな徹を見越して、声の主が頭の中に語りかけてきた。


『もしかして…寿命のことで悩んでますか?』

(はい…)

『それは…楓さんのことも関係ありますか?』

(はい…)

『それならば、成功報酬ということで何か対応してあげましょう。勿論後払いになりますけど』

(本当ですか?)


 徹の表情が明るくなる。


 声の主は安堵した。徹が楓のことをどれだけ想っているのかは容易に想像できた。そしてこれから二人が立たされるであろう苦境も。だからこそ、徹の後顧の憂いを拭い去るような報酬を上乗せしたのだ。


「解りました。やります!」


 力強く宣言する徹。吟も覚悟を決めたように真剣な眼差しを送る。


「よーし、徹、これからびしびし行くぞ。俺の1000年分の知識や技術も教えなきゃいけない」

「へ? 何? 1000年って?」

「何行ってんだ。さっきの話にも出てたろ?1000年って」

「だからその1000年って…」

「ああ、そうか。あのな、俺は去年地球からアステールに召喚された。でも、現在じゃないんだ。俺が召喚されたのは…1000年前のアステールなんだよ」


 徹の思考がフリーズする。やがて再起動すると、吟と何やら話し始める。どうやら修行についてらしい。やがて結論が出たのか、二人で声の主の下へとやってきた。


「あのー、相談があるんですが…」

「…なんでしょうか?」


 申し訳なさそうに聞いてくる徹に話の続きを促す。おそらくこの相談は悪いものではないのだろうと何となくではあるが思えた。


「僕の召喚を、クラスの皆よりも200年前にしてください。兄とも話しましたが、みっちり修行すれば200年で何とかできるとのことなので。おそらく皆は力の本当の意味を理解できていないと思っています。だからこそ、しっかりと基礎から知っておく必要があると思います」


 ああ、何て素晴らしい! 声の主は思わずそう叫びそうになった。彼は力を持ち逃げした者がどう動くか、どのような思考に陥るかまで理解している。だからこそ、自分は違うということを証明するために敢えて基礎から始めるのだと。それには時間が足りないのだと。

もしこのままアステールに行き、どうしようもなくなって助けを求めてきたら、救いの手を差し伸べるのも吝かではなかった。しかし、彼の言葉はそれを見据えて、窘められたようにも思えた。あまりあなたの力に頼ってばかりいては彼らと同じになってしまいますよ…と。


「わかりました。許可しましょう。それでは徹君、吟、こちらへ」


 声の主の前に立つ二人。やがて光に包まれる。その光が収まると、そこには徹の姿は無く、ハイエルフの少女と1本の杖があった。


「徹君、もうあなたはハイエルフです。それから吟はその杖に魂の状態で定着させました。それではこれから200年前のアステールに送ります。送った場所で修行に励んでください。それから、歴史に重複があるといけませんから、あなたは200年前に放浪の魔法使いによって封印されたということにして情報操作しておきます。いいですね」


 それを聞き、深々と頭を下げる徹。隣に浮かぶ杖を手に取り、その感触を確かめると可憐に微笑む。

やがてその姿はぼやけていき、ついには完全に消えてしまった。徹が消えたことを確認して、声の主は

呟く。


「徹君ならば問題なくやってくれるでしょう。自由にのびのびやってください。何せあなたは『…』なんですから。あなたの生き方で…を…」


 その呟きが終わるよりも早く、声の主はその場から消えていった。














――― 150年後 ―――




 ここは魔界よりも恐ろしいと言われている森、デュメリリー大森林。魔王すら凌駕する魔物が闊歩すると噂されている秘境の中の秘境である。そのあまりの危険さに一流の冒険者も麓にすら近寄らないという。そんな森の最深部に佇む豪華な屋敷。その中庭に一人の少女の姿があった。


 森に溶け込むような深緑のローブを身に纏い、目を閉じて術を組み上げてゆく。その魔力の高まりは尋常ではない。周囲の魔物共はその異常さに気付き、皆逃げ出してしまったようだ。白磁のような肌を珠のような汗が流れ落ちる。


 やがて彼女の前に複雑かつ精密な魔法陣が浮かび上がる。それと同時に空中に漂うよな光の玉が現れる。少女は光の玉と会話する。


「ようやくここまで来たな。よく頑張った」

「うん、でも最後の仕上げが残ってる」

「…本当に…済まないな」

「それは言わないで。むしろこっちの台詞だよ。今まで教えてくれてありがとう」

「俺が知ってることは全て教えた。あとはお前次第だ。徹、いや、ラウラよ。お前はこれからこの

デュメリリーの森のハイエルフ、ラウラ=デュメリリーとして生きるんだ」

「わかったよ。吟兄」

「もうそろそろ頃合だな。改めてありがとう。魂だけとはいえ、まさか地球に帰れるとは夢にも思わなかったよ。向こうに帰ったら父さんと母さんにしっかり謝っておくよ。俺のかわりに異世界で後始末してるって。二人共なんて言うかな。まあ元気でやってるから心配せずに安心して転生しろって言っておくよ」

「うん、お願い。それじゃそろそろ行くよ。 ――― 彷徨える魂よ、我が照らす道を辿りて彼の地へと旅立て。その魂は命の輪へと紡がれん  送還!」


 彼女が呪文を解き放つと、魔法陣から光の柱が天を貫く。その光は一瞬で消えると、彼女の前にあった光の玉は跡形も無く消えていた。少女は光が昇った空を見上げて呟く。


「さようなら…吟兄…」


 そして頬を伝う涙をローブで拭うと、屋敷へと入っていった。






―――― 某所 某空間 ――――



 そこには二つの光があった。一つは巨大で眩い光。もう一つは小さな光。


「どうやらうまくいったようですね。魂の損傷も全くありませんし、やはり私の見込み通りですね」

「そりゃ俺の弟ですから。俺とちがってあいつは優秀ですからね」

「おまけにあなたの転生先ももう決まってますね。…おや、こんな因果の操作まで…やっぱりすごいですね、彼は」

「何かあったんですか?」

「あなたの転生先なんですが、あなたの両親が転生して再び夫婦になるように因果が組まれています。あなたはそこの子供として転生するということですね。あなたへの恩返しということでしょうか?」

「…ばかやろう…こんなすげえもの返してもらうほどのこと…してねえよ」

「よかったですね、優しい弟さんで」

「…俺、そろそろ行きますんで。…あいつのこと、ちょっとは気にかけてください…」


 小さな光は溶けるように消えていった。


「さて、と。ちゃんと、向こうに着いたようですね。でも因果操作なんてちょっとやりすぎでしょう。…注意しておかないと…って何でしょうか? 彼の魂に付いていた残留思念? ふむ…、勝手なことしてごめんなさい、今度からは事前に許可取ります…本当に愉しいですね、彼は。この感じだとまだやるみたいですが…。いいでしょう、どんどんやりなさい。あなたは自由にやりなさい。あなたの進む道を進みなさい。あなたはそのためにそこにいるのだから」


 その声は非常に愉しげだ。


「…しかし、1000年かかった修行を200年にするだけでも凄いのに、さらに150年に短縮するなんて、どれほど規格外なんでしょう。これは将来がとても愉しみですね…」



ようやく徹がハイエルフに!

でも実は徹って結構鬼畜かも…

150年間のことはいずれ明らかにします。


熟女フェチのお兄さんも結構辛い経験してます。


読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

誤字・脱字指摘・感想等、宜しくお願いします。

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