闇の中にて待つ者
閑話本日2話目です。
ご注意ください。
こちらも短いです。
漆黒の闇がひろがる空間に、唯一つ明るい光が灯る。
それは、まるでテレビのように、ある映像を映し出していた。
「うふふふふ………思いのほか順調ね…」
映像の傍に現れたのは一人の少女。
映像の放つ光によって照らし出されたその顔は、誰もが見蕩れてしまうであろう可憐さを持っている。
今この場所に、その少女以外は存在していない。
少女はその映像を見ながら笑みを浮かべる。
誰もが虜になってしまうであろうその笑みの効果は、その瞳によって打ち消されていた。
その瞳にあるものは………空虚。
その瞳の奥にあるのは、あらゆる存在を飲み込むブラックホールの如き深淵。
「これで…やっと願いが…叶う…」
少女は笑みを浮かべたまま、まるで熱病に冒されたような口調で呟く。
恍惚とした笑みが歪に形を変えていく。
「願い…それは…誰の…?」
そこに一瞬だけ浮かんだのは、まるで何かに怯えているような表情。
両目を瞑り、両耳を塞いでその場に蹲ってしまう。
「私は…いらない…そんなもの…ほしくない…」
幼い子供のように、イヤイヤと首を横に振る。
しかし、辺りの闇がその身体に纏わりつくと、少女は再び笑みを浮かべて立ち上がる。
だが、決定的に違うのは、その笑みだ。
空虚だった瞳は澱んだ闇が支配し、その口元は歪な笑みを象っている。
誰もが拒絶するような闇を、まるで戯れるようにその身に纏う。
「今回のあの子は逸材だったわ。私の思い通りに育っているようだし…」
映し出されている映像は、ラウラが二村を倒した場面だった。
「その肉体の強さと魔力制御の大きさと繊細さ、器となるには十分ね」
その映像を見つめる表情は、恋焦がれた相手を見る表情に近かった。
「だから…あんな連中に傷つけられたりしたら…許さないんだから…」
そこで映像は一変する。
映し出されたのは2つの映像。
一つは、どこぞの城にて豪奢な玉座に座る男に頭を垂れているローブの男。
もう一つは、暗い広間にて、ただ一人玉座に座る男。
少女は、玉座に座る男を見ると、忌々しそうに表情をゆがめる。
「あの時は不覚を取ったけれど、今回は違うわ…」
怒りの形相を浮かべてその男を睨みつける。
それを察したかのように、映像の男が少女を見返した。
実際にはそのようなことは在りえないことは、少女は理解している。
だが、少女には男が意識的に行ったかのように見えた。
「そのにやけた顔が恐怖に染まる瞬間…存分に愉しませてもらうから…」
映像はそこで消え、辺りは闇に包まれる。
少女の姿もまた、闇に溶け込んでゆく。
「私の期待を裏切らないでね…ラウラ?」
長い耳を持つ少女は、そう言い残して闇の中に消えていった。
これで本年の更新は最後となります。
来年は本編ですが、もしかすると正月用の閑話を入れるかもしれません。
あまり期待しないでいただけると助かります。
お読みいただいてありがとうございました。
来年も色々とがんばりますので、拙作にお付き合いいただければ幸いです。
では皆様、良いお年をお迎えください。