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初代勇者 桐原勇斗

ちょっと短めです。

 その少年は貪欲だった。



 常に何かに飢えていた。

 常に渇望していた。


 

 だがその少年、桐原勇斗は決して貧しい家庭に生を受けたわけではない。

 むしろ優遇された、それも一握りの特権階級といっても差し支えないほどの家庭に産まれた。



 親族には国会議員が多数おり、祖父は与党の重鎮、父は官僚、母は元モデルという家系。

 そして少年もまた飛び抜けた高性能の持ち主だった。

 


 容姿端麗、知能明晰、運動万能。

 それに加えて財力、権力。

 彼に尻尾を振る者達も、男女問わず多かった。



 女性達は媚を売りつつ、彼に縋り付く。

 男達は彼をもてはやす。

 彼が望むものは何でも手に入った。

 それが彼にとって当然のことだった。



 当然の如く手に入る物への興味は次第に薄れてゆく。

 それがとても退屈だった。

 やがて彼は思う。

 手に入らないものが欲しい、と。

 自分の自由にならないものが欲しい、と。



 そして彼は行動する。

 自らに興味を示さない者を、強引に手に入れる。

 それが非合法なやり方でも意に介さずに。

 彼は知ってしまう。

 力で屈服させる悦びを。

 壊しつくす悦びを。



 そしてついに、彼は同志を手に入れる。

 それこそが蓼沼一樹。

 同じような家庭環境、同じような苦悩。

 2人が意気投合するのに時間は不要だった。

 2人は夜の街を徘徊する。



 たくさん奪った。

 たくさん壊した。

 そして…たくさん殺した。

 その全ては闇に葬られた。

 事件の発覚を恐れた大人達によって。



 きっかけは2人の少女だった。

 いつものように、壊している最中だった。

 少女の1人は自分達を狙っていた。

 それに気付くことなく、彼らは壊し、殺した。

 それが少女が仕組んだ罠とも知らずに…



 彼らが少女を殺した場所は、少女が逃げ込んだ廃ビルだった。

 もう1人の少女は震えていた。

 そして、その光景は世界中に配信された。



 リアルタイムで流される殺人の一部始終。

 廃ビルには無数のカメラが仕掛けられていた。

 殺した少女が仕掛けた、言葉通りの「命がけ」の罠。

 少女は自分の命と引き換えに、彼らを罠に嵌めたのだ。



 鳴り響くパトカーのサイレン。

 踏み込んでくる警察官。

 彼らは犯罪者となった。

 だが、彼らは笑っていた。

 この程度の罪、揉み消すのは容易い。

 そう思っていた。

 


 お座成りな取り調べにお座成りな裁判。

 判決は当然「無罪」

 だが、歯車は狂った。

 裁判所の廊下にて立ちふさがる男。

 その手に持つのは手榴弾。

 考える間もなく、彼らは閃光に包まれる。

 そして、桐原勇斗は真っ白な空間にいた。



 彼は女神に依頼された。

 「魔神」を滅ぼしてほしいと。

 退屈な日々を吹き飛ばすほどの衝撃が彼を襲う。

 そして、彼はその世界で初めての「勇者」となった。

 人間の国の「勇者」に…



 彼の力は凄まじかった。

 女神に与えられた力は、剣と魔法の力。

 地球には存在しなかった力に酔った。

 いくつもの種族を滅ぼした。

 老若男女皆平等に死を与えた。

 彼の通った後には、死しか残らなかった。

 そして彼は「魔神」と相対する。



「魔神」は強かった。

 彼の力をもってしても、滅ぼすことはできなかった。

「魔神」は自らの存在を複数に分け、その場を逃れた。

 彼にはそれが気に入らなかった。



「もっと力があれば殺せたのに」

「何故これだけしか力をくれないのか」

「どうして女神はそんなに力を残しているのか」


 

 彼は女神に敵意を持った。

 そして、女神に戦いを挑んだ。

 女神は既に、「魔神」との戦いで消耗していた。



 故に、彼には勝てなかった。

 女神は力の粒子となり、彼に取り込まれた。

 彼は新たな神に近づいた。

 


 彼は「魔神」を追い求める。

 それは彼が初めて見せる「執着」だった。

 


「魔神」の力が欲しい。

 自分を苦しめたその力が欲しい。

 

 

 女神はそれまでの戦いで、「魔神」の力を取り込んでいた。

 しかし、その力は女神にしか取り出せなかった。

 唯一、その力を使える方法があった。



 それは、「召喚」



 勇者として召喚し、その加護として「魔神」の力を分け与える。

 後でその力を取り込めばいい。

 彼は何度も召喚を繰り返す。

 しかし、それも綻びが生じ始めた。



 取り込まれた「魔神」の力に、「魔神」の自我が残っていた。

 女神が作った天使達を操って召喚したが、それを邪魔してきた。

 ほんの些細な妨害だった。

 故に、見逃していた。

 しかし、その種は着実に芽吹き、大輪の花を咲かせようとしていた。

 彼は焦り、これまでに無い規模の召喚を行った。



 彼にとっては良いことと悪いことがあった。

 良いことは、かつての親友、蓼沼一樹を召喚できたこと。

 悪いことは、自分の書いた台本シナリオ通りに進まなかったこと。

 それが「ラウラ=デュメリリー」の復活につながってしまった。



 彼は思う。

 ラウラを殺さなければならない。

 ラウラこそ、「魔神」の鍵だ。

 着実に力をつけてきている「イレギュラー」

 そんなものは存在してはならない。

 全ては自分の思い通りに進まなければならない。

 


 桐原勇斗は待っている。

 ラウラを殺すその瞬間を。

 全てを手に入れるその瞬間を。

年内にあと1~2話、幕間を入れるつもりです。

ただ、諸事情により投稿時間が確定できません。

すみませんがよろしくおねがいします。

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