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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第10章 狙われた魔道学院
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炙り出される鼠

この話を書いてる時、何故か「ガンバの冒険」を思い出しました。

「全く…どうしてくれようか…」


 ラウラは意識を現実に向け、平伏す職員達を見ながら思案する。

 ちなみに、先ほど無謀にも反論を敢行した職員は、威圧を受けて泡を吹いて倒れてしまい、部屋の隅に放置されていた。


「それから、魔道学院の技術が横流しをしているという話が上がっているが…」


 その発言に職員達に動揺が走る。だが、その反応はおおよそ二通りだった。

 一つは唖然、もしくは呆然といった表情を浮かべるというものだ。


 その理由は明らかで、ラウラとユーリエの開発した技術を盗み出すという暴挙に思考が追いついていないからだ。だが、その反応はラウラの想定内だ。


 問題はもう一つの反応だ。


 はっきりとわかるほどに焦りの表情を浮かべているのだ。


(もう少し誤魔化すなりすればいいのに…)


 露骨に視線を逸らす者、大量の汗を流し始めた者、そわそわと身体を揺すり始める者など、挙動不審な者が数人いた。


(あいつらは………なるほどな、妥当だといえば妥当な顔ぶれだ)


 その顔ぶれの共通点は複数あった。

 

 連合国内でも発言力の強い大国出身であること。

 王族、またはそれに近い地位の子息が学院生であること。

 貴族制度を採用していること。


 などがあった。


「私の物を盗み出して売り捌くなんて、これは喧嘩を売ってきているんだろうなぁ? 売られた喧嘩は買ってやるのが筋だと思うんだが…。 

 ああ、お前達には関係のない話だったな、まさか連合国内にそんなことをする奴などいないはずだからな」


 その言葉に動揺していた者達が安堵の息を吐きそうになるが、ラウラの話はまだ続く。


「今、私の手の者が各地に飛んでいる。しばらくすれば詳細な情報が入ることだろう。

 さて、私に喧嘩を売る奴はどんな最期の言葉を吐いてくれるのか楽しみだよ。

 これが裏切り者だったらどうしてくれようか…死よりも苦しい絶望を与えてやるとするか」


 関係者と思われる者達がそれを聞き、明らかにその顔色を青褪めさせた。あまりにも判りやすい動揺にラウラはこみ上げる笑いを堪えるのに必死だった。


 だが、追撃の手は緩めない。


「もし、裏切り者がいた場合は、そいつの国にも責任があるな…所謂、任命責任ってやつだ。

 当然だろう? 連合国の中枢に関わる者は各国の代表であり、その者の発言や行動はその国の総意として捉える必要がある。

 個人が勝手にやったなんていう幼稚な言い訳は通用しないぞ? もしそう言い張っても、真実を聞き出す方法など腐るほどあるんだからな」


 聞いている者の中には、白目を剥いている者も見受けられた。

 アドルフ評議長は『もうそのくらいで…』という視線を送ってきたが、ラウラは中途半端に終わらせるつもりは全く無かった。


「まあ犯人がわからないうちにこんな話をするものじゃないな。ただ、何かしらの災害・・・・・・・が起こることだって有りうるからな。

 例えば、その国が甚大な水害に遭ったり、野良古代竜エンシェントドラゴン息吹ブレスを撒き散らしたり、暴食蟻が異常発生したり…

 お前達も気をつけてくれよ? 」


 ラウラはそこで一旦話を区切り、職員達を睥睨する。

 誰かが発言しようとした瞬間を見極めて、それを遮るように声を張り上げる。


「それでは、これで終了とする! 各自、自分の持ち場に戻ってくれ!」


 それだけ言うと、ラウラは窓からその身を躍らせる。


「それじゃ、後を頼むぞ、アドルフ。私は皆の事を信じているからな」

「わかりました。ご安心ください、ラウラ様、この国にはラウラ様の信頼を裏切るような者は存在しておりませんので」


 それを聞くと、不敵な笑みを浮かべてその場から転移した。




 後に残された職員達は、それぞれに持ち場に戻ろうとしていた。特に一部の職員達は慌てて室外に出ようとしていたが、そこである異変に気付いた。


「あ、あれ? 開かない?」

「どういうことだ? 出られないぞ?」


 評議長室の扉が開かない。急いで出ようとしていた者達は、数人がかりで強引に開けようとしていたが、ぴくりとも動かない。


「その扉は開きませんよ。貴方達にはまだやってもらいたいことがありますから」


 アドルフの落ち着き払った声が響く。


「貴方達には別な仕事があります。これからそちらにご案内いたします」


 突然、室内に魔法陣が浮かび上がり、光を放ち始める。その大きさは評議長室全体に亘るものだ。


「誰一人、ここから出ることは許しません。大人しくついてきていただきましょう」


 その言葉を切欠に、評議長室が光に包まれる。その光が収まった後、そこには誰一人いなかった。








 職員達が現れたのは、ラウラが二村と戦った無人島だ。そこには一面の水田が広がっており、既に黄金色の穂がたわわに実っており、頭を垂れている。


「こ、ここは…?」

「私達をどうするつもりだ!」


 不安な表情を浮かべる職員達。見渡す限りの水田に、プレハブのような建物が2つあるだけだ。


「貴方達にはここで農作業をしていただきます。ここはラウラ様の水田です。しっかりと刈入れをお願いしますね」

「何故我々がこんなことをしなければならんのだ!」

「早く私達を戻せ!」


 アドルフの説明に異議を唱える職員達。しかし…


「黙りなさい」

「ひいぃぃっ!」


 殺気の籠った声に、皆声を出せなくなってしまう。


「貴方達は一時的にとはいえ、ラウラ様を裏切ったのですよ? 洗脳されていたなどは理由にはならないんです。それを理解していますか?」


 腰を抜かしてへたり込んでいる職員達を見渡し、アドルフはなおも続ける。


「これでも最大限の譲歩なんですよ? 本来ならばあの場で処分するつもりだったんですが…貴方達はラウラ様の慈悲にて生かされているに過ぎないということを理解しなさい。

 それが農作業をするだけで赦すと仰られているんですよ? むしろ泣いて感謝して然るべきだと思いますが…。

 そうそう、言い忘れましたが、自国と連絡を取ろうとした一部の方々、自国には臨時研修で連絡が取れないと伝えてあります。…研修後には故郷が無くなっているかもしれませんがね…」


 この時、職員達は改めて思った。目の前にいるエルフは『森』の出身であり、ラウラの庇護者であると。その忠誠は『森』の頂点であるラウラにのみ捧げられていると。


「ちなみに、ここでは貴方達の魔法は一切使えませんから、自分達のその手足でしっかりと働いてください。生活するに最低限のものはあの建物に備え付けてありますから。

 しっかり働いて、ラウラ様の御慈悲に報いるようにしてください。

 では、私はこれで失礼します。貴方達の分の仕事もしなければなりませんので」


 そういい残し、アドルフの姿は掻き消えた。後には呆然とした表情の職員達が残されていた。









 魔道学院の敷地内、ユーリエの研究室にラウラの姿があった。質素なソファで寛ぐその隣には寄り添うようにユーリエが座っている。


「さて、次はこっちだな。本当にふざけた真似をしてくれるよ」


 忌々しそうに吐き捨てるラウラの視線の先には、エルフの少女が横たわるソファ。二村に操られていた少女は、二村の消滅と同時に意識を失っていたようだった。


「その少女が何かを知っているとしても、重要なことは教えられていないのでは?」

「ああ、勿論だ。あいつは手駒だから大して情報は持っていない。だが、エルフとして考えるなら、奴等にとってはまだまだ使い道があるはずだ」


 意味深な物言いに、ユーリエは怪訝な表情を浮かべる。


「奴等…ですか?」

「ああ、二村の洗脳といっても、学院生ならば無条件で洗脳されるほど抵抗力は少なくないだろう? そんな奴等を洗脳するには何かの切欠が必要なのはお前も知っているはずだ」

「切欠…まさか、元々何らかの反抗の意志を持っていた?」


 洗脳といっても、誰もが簡単にかかるわけではない。それが魔法によるものであれば、魔法に対する抵抗力が強ければ、かかる確率は魔力量に反比例して小さくなる。


 しかし、洗脳する目的に沿った意志を元々持っていれば話は変わってくる。その目的のために自ら洗脳を受け入れたとすれば、洗脳中のこともしっかりと記憶に残っている。


「では、あの羽虫はラウラ様への反抗心を持つ者を選び出していた可能性があると…

 しかし、そんなことをすれば自国での立場が………成る程、そういうことですか」


 ユーリエがその想像の終着点に辿り着き、ラウラもそれを察して頷く。


「バラムンドからの商人連中なら、各国の貴族共に取り入るのは簡単だ。そいつらが私への反抗心を持つ貴族共に接触していれば、私の排斥を煽って学院の技術を持ち出そうとするのも簡単だ。

 『その技術があれば、ラウラに対抗する兵力を揃えられる』とか言ってな」

「お言葉を返すようですが、活動していた主要メンバーには、それらしい家柄の出身はいませんでしたが…」

「それは当然だな、得てして悪巧みをする連中の親玉ってのは滅多に表に出てこないのが定番だからな」


 と、ソファの袖机に置いてあった書類の束を手に取り、ぱらぱらとめくる。


「それは…アドルフからの報告書ですか?」

「ああ、今回の叛乱を企てた連中のリストだ。ご丁寧に学院で活動していた生徒の一覧もある。これと照らし合わせれば、学院内にいる黒幕はすぐにわかる」


 ラウラは報告書を見比べながら、片方に印をつけていく。その印は3つだった。


「ライゲートにペルヴィ、それとエンセか…」

「それは…連合国内でも発言力のある国の王族じゃないですか………そうですか、この者達は自ら滅びを望む愚か者ということですね」

「それに………問題はまだある。これを読んでみろ」


 ユーリエは手渡された報告書の1枚を読んで僅かに表情を曇らせる。そこには、本来ならばあってはならない事が書かれていた。


「…まさか、持ち出されていたのが『転移術』の術式だったとは…しかし、あの術式は魔力不足の場合は発動しないはずでは? 人族のレベルでは到底無理でしょう、命を無駄に散らすだけです」

「だが、方法はあるんだよ」


 ラウラは立ち上がり、眠っている少女の傍に落ちている『首輪』を拾い上げた。ユーリエはその真意に気付いて息を呑む。


「そう、自発的に魔力を枯渇する必要なんて無いんだ。強制的に魔力を差し出させればいいんだよ。言うなれば『生贄』だな」


 術者だけが魔力を供給しなければいけないわけではない。魔力を他から供給できればそれでいいのだ。

 ならば、命令に従うことしかできない者…つまりは『奴隷』を使えばいい。しかも、魔力の大きい者を奴隷に出来れば言う事はない。


「叛乱に加担した生徒は今どこにいる?」

「それは………まさか、彼等を使って?」


 使い魔からは学院内にはいないことは報告されていた。もう既にどこかに移動しているのだろう。


「魔力の大きい奴隷は重宝されるだろう? おまけに各種魔法も使えるなんて、捨て駒にするには勿体無い気もするが、亜人を見下しているあの連中ならば、喜んで敵陣に突入させるだろうよ。おそらく女子生徒は慰み者になって、最終的には転移術の生贄だ」

「そんなこと………許されていいはずがありません!」


 憤りを露わにするユーリエ。それを宥めるように、ラウラは言う。


「もちろん、そんなことは許すつもりは無い。あれだけの人数を転移で運ぶことはあいつらには不可能だ。だとすれば、移動手段は限られてくるはずだろう。そこを叩けばいい」


 連合国への移動手段は船のみだ。しかも、そう頻繁に船が来る訳でもない。となれば、おおよその目星はつく。


「では、早速港や船を停泊させられそうな海岸を探しましょう………どうなされたのですか? 何か可笑しいことでも?」


 隣で笑いを堪えているラウラを怪訝そうに見ているユーリエ。


「いや、あいつらは入り込んだ鼠のくせに、大事なことを忘れているんだな…と思うと、笑いが止まらなくて」


 やがて我慢できなくなったのか、大声で笑い始めるラウラ。いきなりのことに戸惑うユーリエを他所に、ひとしきり笑いを吐き出したラウラは笑顔で応える。


「昔から言われてるだろう? 『鼠の乗る船は沈む』ってな」


 その笑顔は、無邪気な年相応の少女のものだった。



これって大航海時代の言い伝え…ですよね?

船に穴をあけるとか、病気を持ち込むとか理由は様々ですね。

次回は11日を予定しています。

読んでいただいてありがとうございます。

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