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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第10章 狙われた魔道学院
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死闘?

ついにあの2人が…

 ユーリエが組み上げた術式を解放すると、異変はすぐに現れた。先ほど投げた布袋の中身から、白い触手のようなものが生まれた。


 それは二村に纏わり付いたものからだけでなく、周囲に散ったものも同様だった。


「な、何だこれは! 身体に…入り込んで…」


 触手は二村の皮膚を破り、身体へと侵入する。それと同時に、沼地からも触手が伸び、二村の身体を沼地へと引き摺りこもうとする。


 沼地から伸びる触手は次第にその数を増してゆき、ついには二村の身体を完全に覆ってしまう。


「や…めろ………」


 すぐに二村の声は遮られた。触手は二村を沼地へと誘う。触手はまるで意志があるかのように、身体を波打たせて歓喜を表す。その時、触手に覆われた二村から、緑色の何かが生まれ始めた。


「貴様が天使を取り込んでくれたおかげでこちらもやりやすかったぞ? 精神生命体アストラルは魔力の集合体でもあるからな」


 ユーリエは表情を全く変えずに言い放つ。


「あれは…植物の『種』か?」

「はい、その通りです」


 ラウラが緑の物体を見て、その正体を看破する。


 先ほどユーリエがぶつけたのは植物の種だ。それも、ラウラが欲しがっていた種だ。


「泥沼…種………水稲か!」


 そう、その種とは、メアリが品種改良した稲籾だった。元々はラウラのために稲作地を増やそうと、ユーリエとメアリが画策し、その為にユーリエが預かっていたものだ。


「成程…それでメアリの魔力が必要だったのか…」


 メアリの能力は植物操作だ。その魔力を増幅することで稲籾を強制的に発芽させたのだ。しかし、それだけでは終わらない。


「当初、『森』での栽培は困難でした。それは稲籾が魔力に対応できなかったからです。そこで彼女は『魔力を養分として成長する稲籾』を作りだしたんです」


 既に二村の体は沼地に埋没しており、その周辺からは凄い勢いで稲が成長している。精神生命体でもある天使と化した二村にとっては、魔力を吸いつくされれば存在することが出来ない。最早その魔力の残滓すら感じ取れなくなっていた。


 そして、2人の眼前には、青々とした稲が緑の絨毯を作りあげていた。次第に黄金色の絨毯へと変わっていくことだろう。


「この稲は種籾として連合国各地に撒こうと思います。これで連合国のどこでも米が食べられるようになります」


 恭しくお辞儀をしながら、ラウラに報告するユーリエ。主の好物を献上できたユーリエは得意げだ。


「あ、ああ、ありがとう。いつも私のことを考えてくれて」


 何とか労をねぎらうラウラだったが、そこには一抹の不安があった。


(下衆な二村の魔力で育った米…食べたら性格悪くなったりしないよな?)


 少しずれたことを考えるラウラに向かって、過去最大とも言える脅威が向かっていることを、二村への怒りですっかり忘れていた。









 一之瀬は飛ぶ、ラウラの残滓を探して。と、そこに強大な魔力の反応があった。


「もしかして…これ?」


 一之瀬は飛ぶ、ひたすら飛ぶ、その先に求め続けた存在がいることを信じて…




 二村の始末が終了してすぐに、巨大な魔力の塊が接近してくるのを感じた。


「これは…しまった! 一之瀬を放っておいたままだった!」

「それは…敵ですか?」

「うーん、敵といえば敵だと思うが…ある意味、私のことを狙っている奴だな…」

「それでは、私が相手になります…」

「お前は大分消耗してるんじゃないのか?」

「大丈夫です…」


 と、そんなところに、遠くから声が聞こえてきた。


「………ラウラー! お待たせー! 一緒に楽しいことしよー!」


 一之瀬がラウラの前に辿り着く…が、ユーリエがその前に立ちふさがる。


「ラウラ様はあなたのものにはなりません、さっさと消えてなくなりなさい」

「ふーん、邪魔するんだ? 鬱陶しいからそっちが消えてよ」


 一之瀬の魔力が無数の刃を形成する。その刃は万全の調子ではないユーリエの障壁をごりごりと削り取っていく。


「ほらほら、さっきの威勢の良さはどこに行ったのかな? ラウラ、見てる? 私すごいでしょ?」

「くっ! 強いですね…」


 ユーリエも魔法を展開するが、その魔力の大きさに、発動前に潰される。万全の状態であればユーリエの経験に基づいた戦い方に敵うはずもないのだが、二村の処刑でかなりの魔力を消費していた。


「このままでは…拙いですね…」


 徐々に圧され始めるユーリエ。それはラウラから見ても明らかであった。

 このままではユーリエが殺されてしまう…一之瀬の様子からすれば、|ラウラ(自分)を手に入れるためには、躊躇い無くユーリエを殺すだろう。


 ユーリエはラウラの腹心でもあるが、それ以上に良き理解者だった。共に魔法理論を研究したり、実験をしたり…ラウラにとって、ユーリエとの時間はかけがえのない大事なものになっていた。


 だから…身体が先に動いてしまった。


「あれ? ラウラ? その雌牛を庇うの? 何で?」

「ユーリエは大事な存在だ、お前に殺させるわけにはいかない」

「じゃあ一緒に遊ぼうよ、いっぱい楽しいことしてあげるから」


 一之瀬の目はもうラウラしか見えていない。ユーリエにトドメをさすことすらもう頭の中には無い。何故なら、もう手の届く距離にラウラがいるのだから。


 だが、ラウラが拒絶すれば、一之瀬は腹いせにユーリエを殺すかもしれない。だから、ラウラは決意する。ユーリエを守るために…それ以上に、自分の貞操を守るために…



「一之瀬、遊びたいなら、私を倒してみろ。私に勝てればお前のものになってやる」







 ラウラは一之瀬と対峙する。一之瀬がその両手をわきわきと動かしているのが気持ち悪さを倍増させている。


「ラウラ~、遊ぼう~、いいコトしよう~」

「何だよ! いいコトって! 嫌な予感しかしない!」

「大丈夫よ~、気持ちいいコトだから~」


 まるで泥酔しているかのような口調だが、その攻撃は鋭さが増している。ラウラはそれを何とか避け続けていた。


「お前! 私のこと傷つけてどうするんだ!」

「大丈夫だから~、怪我しても治癒魔法で治してあげる~」

「いや、これ即死モノだぞ!?」


 一之瀬の攻撃は単調そのものだ。魔力をそのまま属性を与えて紐状にして、鞭のように振るっている。今は水属性の鞭でラウラを追い詰めようとしていた。


(うわ! 今のはやばかった! こいつ、殺す気なんじゃないのか?)


 目の前ぎりぎりを通過した水の鞭をやりすごし、心の中で悪態をつく。


「ラウラ? 私はあなたを傷つけたくないんだよ~? でも、天国には連れて行ってあげちゃうけど~」

「それだけは遠慮願う!」


 ラウラも反撃してはいるが、その全ては一之瀬に弾かれている。魔力量、戦闘経験、魔道知識全てが優っているにも関わらずだ。


(おかしい…私の力はこの程度だったのか?)


 自問自答するが、回答は出てこない。

 実は、ラウラは現在、弱体化していた。というよりも、無意識に力をセーブしていた。

 何故セーブしたのか、それはラウラの戦いの仕掛け方に原因があったのだ。


 ラウラの戦いは常に何かを守ることに重点を置いている。自分を守るためだけに戦うことはほとんど無い。それに、いつも自分達への敵意や害意をぶつけてくる相手だったので、遠慮なく戦えた。


 だが、今は自分の・・・貞操を守るために戦っている。それはラウラにとっては未知の領域であり、どのくらいの力を出せばいいのかわからないので、無意識に力を抑えていたのだ。


 さらに悪いことは重なる。一之瀬にはラウラに対する敵意、害意は存在しない。今繰り出されている攻撃も、ラウラを捕まえるためのもので、決して傷つけるためのものではない。

 ラウラは一之瀬の不気味さで気付いていないようだが、実はその攻撃には致死性がない。

なので、ラウラの危機察知が働いていない。



 自分を傷つけない相手には、本気で戦うことが出来なくなっていたのだ。



「このままでは…まずいかもしれん…」


 大事な存在を守るためなら、己の貞操などどうでもいいが、楓の前で穢されるのだけは受け入れられない。だからこそ、何とか一之瀬を無力化しなければならない。


(せめて『森』での戦いだったら…)


 そんな考えが頭をよぎるが、すぐさまそれを否定した。


(無いものねだりしている場合じゃないだろう! 今の私の状態で何とかしなければ!)


 今、ラウラに求められているのは一之瀬の撃破だ。そのためにはどのような手段を用いても一之瀬を無力化しなければならない。



 一之瀬を殺す………最も後腐れない手段だが、今のラウラの状態では到底無理だろう。


 一之瀬と和解………交渉しても、要求されるのはラウラだ。それでは何の意味もない。



(…これは…詰んだかもしれない…楓…私は穢されてしまう…)


 ラウラは観念しようとした。穢されるだけで、命まで奪われることはないだろう。尤も、楓が穢れた自分を受け入れてくれるかどうかが不安だった。




(諦めちゃだめだよ! ラウラちゃん!)


 楓の声が脳内に響く。思考停止しかけた脳が再び活性化する。楓がユーリエに念話の術式を教えてもらったようだ。


 ラウラは弾かれるように、一之瀬から距離を取る。


(私に考えがあるの! これなら恵ちゃんの動きを止められるよ!)

(本当か? 楓!)


 そう言えば楓がそんなことを言っていたな…と思い出した。楓は一之瀬の性癖も知っており、何か流れを変える一手のヒントになるかと思い、続きを促した。


(うん、あのね、恵ちゃんはね…)










(それを…私がやるのか? 意味があるのか?)

(絶対大丈夫だよ! 恵ちゃんも手が出せなくなるから!)

(…他に手立てが無いから…仕方ないか…)


 解決の糸口が見えたはずなのに、ラウラの表情は暗く落ち込んだ。











「あれ~? どうしたのかな~?」


 いきなり距離を取ったラウラに怪訝な表情を浮かべる一之瀬。ラウラにとって、その行動は悪手と言えた。実は既に周囲に結界を張っており、自ら逃げ場を捨てたようなものだ。


「そっか~、やっと私のものになってくれるんだ~」


 まるで熱病に冒されているかのような潤んだ瞳でラウラを見る。若干表情が暗いが、それもまた保護欲を刺激する。欲しかった存在モノが漸く手に入る…一之瀬は至福の絶頂を迎えようとしていた。





 しかし………






 それは為されなかった………






 ラウラの一言によって………







「それ以上やったら………嫌いになっちゃうからね!」


 一之瀬の顔から喜悦の表情が消え去った。


ラウラはどこに向かうつもりなのでしょうか…


次回は12月2日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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