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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第10章 狙われた魔道学院
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定期航路

ラウラに意外な弱点が!


新章突入です

 陽も沈み、皆が夕食を終えて各々寛いでいる頃、ラウラの書斎にはラウラと3人の人影があった。それはサラとマーク、スージーだった。サラはラウラに相談があると言って時間を割いてもらっていた。


「私、ルーセントには戻らない」


 その発言に皆が驚く。サラはルーセントの始祖の正統な血縁者だ。そんな彼女が母国を捨てるような発言をしたのだから無理もないだろう。


「それで、お前はどうするつもりなんだ?」

「私はもっと強くなりたい。強くなって、色々な国を回りたい」


 その目には迷いの色は無い。


「マーク、スージー、お前達はどうなんだ?」

「俺は…サラ様についていくつもりだ」

「私も…一緒にいたいわ。生き返らせてくれたラウラには申し訳ないけど…」


 申し訳なさそうな表情のスージー。だが、ラウラは気にしていない。


「そうか、それなら魔力体の心臓を安定させる術式を組まなきゃいけないな。魔力の供給も自分でできるようにしないと」

「…怒らないの? 私はラウラに創られたも同然なのに、勝手に行動して…」

「何故怒る必要がある? お前はサラのために生きたかったんだろう? それなら自分の生きたいようにすればいい」

「ラウラ…」


 思わず涙ぐむスージー。マークもサラも嬉しそうだ。


「だが、強くなりたいと言っても、どうするつもりなんだ? 私の周りはこれからきな臭くなってくるぞ。お前達には直接関係がないから、あまり巻き込みたくないんだ」


 これからはラウラの戦いが激化していくのは必至だ。おそらく敵も手段を選ばなくなってくるとなると、皆を守りきるためには屋敷に軟禁状態にでもするしかないだろう。


「関係無くないわ。ルーセントの巫女3位までがアンタの敵だなんて。それに勇者を拉致したなんて、一体何を考えているのか分からない」




 サラには2位の巫女を屠ったことを話してある。しかしラウラの予想に反して、サラの反応はあっさりとしたものだった。


「別にいいわよ、私は死んだことになってるらしいし。それにアンタに喧嘩売るような馬鹿が身内にいたことが恥ずかしいわよ」


 サラとしても、自分を魔物化させるような呪式を施したような連中を擁護するつもりは全く無かった。むしろ、もっと壊して欲しかった。今のサラにとってルーセントは自分を縛りつけようとする過去の鎖でしかない。


 それに、今ルーセントに戻っても、サラの力では太刀打ちできないのは明らかで、下手をすれば操られてしまうかもしれない。その上でラウラに敵対させられるかもしれない。かつてはラウラを敵視していたサラだったが、今では大事な友人の1人として認識していた。


「ユーリエとの訓練も力になってるんだけど、私としてはもっと知識を深めたい。攻撃魔法だけじゃなく、治癒魔法や儀式魔法も覚えたい。これまで巫女に関わって消された人たちの魂を鎮めたい…」


 そこにはサラの両親も含まれていることをラウラは何となく察した。ラウラにサラの希望を否定する権利は無い。ラウラもいくつかの儀式魔法は知っているが、本格的なものには少々疎いところがあった。


「儀式魔法か…確かユーリエもいくつか持ってたな…でも、ユーリエの儀式魔法は悪魔族の種族特性に則ったものだから、お前では無理だな」


 それを聞いてがっくりと肩を落とすサラに、ラウラはある事実を思い出す。


「儀式魔法か…確か魔道学院の大書庫にそれらしい文献があるはずだな」

「本当!?」


 身を乗り出して聞いてくる。その勢いに若干引き気味のラウラだが、大事なことに気付く。


「だが、魔道学院は魔道連合国にある。連合国はルーセントとは国交を開いてないから、ルーセントの人間だとわかると厄介だぞ?」

「うう……そうよね。やっぱり無理があるか…」

「いや、そうでもありませんよ?」


 横から声をかけてきたのはユーリエだ。皆の視線がユーリエに集まる。


「私は月に数日、魔道学院で教鞭をとっています。サラは私の助手ということで連れていけばいいでしょう。私の権限でそのくらいはどうとでもなります」

「本当か? ユーリエ!」


 思わず声を上げるラウラに、溜息混じりでぼやくユーリエ。


「ラウラ様…私よりもラウラ様のほうが魔道連合国への影響は大きいんですよ? カーナの魔物素材の唯一の取引先にしたのはラウラ様でしょう? そのおかげで魔道連合国は3大国にも負けない力を持つことが出来たんですから。その恩義を忘れるような国ではありあせんよ?」

「あー、正直なところ、そういうのは別段どうでもよくてな…。ところでユーリエ、魔道連合国には特産品はあるのか?」

「私はあまり詳しくありませんが、大小の島々の集合体ですので、海の幸山の幸が豊富だと思います」


 その話を聞いた途端、ラウラの瞳の輝きが増す。シャーリーが見れば「いつもの病気ですか」と呆れるところだ。食の探求者でもあるラウラにとって、海の幸山の幸という言葉はまさに宝の山と同義なのだ。そんなものを探しに行かないラウラではない。


「よし、私も魔道連合国に行く! 」


 またしても行動が脱線していくラウラだった。







「おえぇぇぇぇ…気持ち悪い…」


 魔道連合国への定期船の甲板に、ラウラの姿があった。その顔は蒼白で、普段の可憐さは影も無い。船の縁に縋り付いて、海に胃の中のものを撒き散らしていた。


「船を愉しもうなんて言うんじゃなかった…」


 ラウラは飛行魔法も転移も使える。船に乗る必要など欠片も無いのだが、サラ達と船旅を楽しみたいという理由で船に乗っていた。また、乗っている船にも興味があった。


 カーナへの定期便の航路は、海流や風向きの影響により、自然の力に任せていると絶対に

魔大陸には辿り着かない。その為、定期便の船は調教した魔物に曳かせている。魔物はその時々で変わるが、今回は海亀のような魔物が船を曳いていた。


 尤も、その魔物達を集めてきたのはラウラなので、ちょっとしたペットのような扱いになってしまっていた。ちなみに、船を曳く魔物はそこそこ強いが、念のために護衛も魔物も待機させている。今回、船と一緒に移動しているのは、以前保護した水竜のうちの数体だ。

 しかし、今のラウラはそれどころではない。船酔いを舐めていたのだ。体質によっては、酔い止めが全く効かず、事前の対処も完璧だったにも拘らずに船酔いになる人がいる。ラウラもその1人だったようだ。


「まさかラウラちゃんが船に弱いなんて…」


 楓は介抱してやりたかったが、船酔いには決定的な解決方法が存在しないので、ただ見てるだけだった。ちなみに、楓を始めとした数人の勇者達が今回の旅に同行している。楓はユーリエの魔法の講義を聴くため、他の勇者達もそれぞれ魔法の勉強をするために参加した。状況によっては勇者数人を留学させることも視野に入れている。


「ううう…仕方ない、浮く・・か」


 残念そうに呟くと、その体を甲板から10センチほど浮かせる。しばらくすると、徐々に顔色が戻ってきた。だが、完全復調には程遠い。


 しかし、ずっと浮遊し続けるのはただの魔力の無駄遣いでしかなく、何時敵の襲撃があるか分からないラウラは万全の状態を保っておきたかった。だが、魔道連合国までの航路は片道約7日かかり、その間船酔いに苦しめられるのも嫌だった。

 

 ちなみに、現在船は約30ノットほどで航行しているが、この世界の船の速度としては有り得ない速度だ。30ノットは時速50キロ以上というスピードであり、魔物が曳航するからこそ出せる速さだ。


「飛行であれだけ自在に動けるのに、何で船酔いなんかするのよ」

「自由に動けるのと、強制的に揺らされるのでは感覚が違うんだよ」


 呆れ顔のサラに、ばつの悪そうな顔を見せるラウラ。強制的に三半規管を刺激されるようなことは吟との特訓でも味わったことがなかった。おかげで朝食べたものを全て吐くという、ラウラにとっては拷問に等しい苦しみを味わってしまった。


「…腹減ったな…飛魚でも飛んでこないかな」


 そんな馬鹿みたいなことを真剣に考えるほど、ラウラは消耗していた。いきなり魚なんて食べられる状態ではない為、食べられる物も限定されるのだが、そんなことも失念するくらい消耗していた。


「ねえ、バナナでも食べたら?」

「ああ、そうさせてもらう…」


 ラウラは楓からバナナのような果物を受け取ると、何とか胃に入れる。ラウラは船酔い対策を実践していた。船酔いで一番してはいけないことは、胃の中を空っぽにした状態で吐いてしまうことだ。胃液を吐くようになってしまっては回復することが難しくなる。

 そんな時は、兎に角何か胃に入れて、それを吐くということを繰り返すうちに回復することもある。しかし、一番の対処法は横になって寝ることだ。


「すまないが…少し寝る…」


 ラウラは甲板に用意された大きなクッションに横たわる。隣にはラウラと同様に顔面蒼白なユーリエがいた。


「ラウラ様も…駄目でしたか…」

「…ユーリエも…駄目か…」

「こればかりは…慣れることができません…」


 自分と同様に船酔いに苦しむユーリエに同情の気持ちの籠った視線を向ける。一瞬だけ目が合い、小さく頷くユーリエに、ラウラは目と目で通じ合ったような気がした。やがてユーリエは瞳を閉じると、小さな寝息を立てはじめる。それを確認すると、ラウラは仰向けになり、抜けるような青空と、戯れるように飛ぶ海鳥達を眺める。


 あまりにも平和な風景に、数瞬、自分の置かれている立場を忘れそうになる。だが、自分自身に注意を促して、平和ボケしかけた思考を現実に引き戻す。情勢は予断を許せるほどに安定していないのだ。


(さて…あちらさんはどう動いてくるんだろう…)


 この先に繰り広げられるであろう、敵の本体との戦いを想像し、その両手を太陽の光に翳してみる。そこには先日、海で作った切り傷が残っていた。うっかり包丁で切った小さなものだったが、未だにその傷跡は消えていなかった。それを見つめて、一瞬だけラウラが表情を曇らせたが、それに気付く者はいなかった。


船酔い…きついですよね…


次回は13日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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