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そうだ、海に行こう 前編

幕間なのに前後編とは…

 マークとスージーが合流したので、一同は歓迎のための催しをすることにした。といっても、結局はラウラの鶴の一声だった。




「そうだ、海へいこう」




 その言葉に反論は出なかった。速攻でラウラ用の紐水着を持ち出してきたシャーリーは、それを楓に見せつける。


「これが私の作ったラウラ様専用水着です。紐の色を赤く染めたので、ラウラ様の魅力は3倍です」

「それはどこの仮面将校の話だ? そんなもの着るか!」


 その紐水着を見て、ドン引きする勇者一行。楓すらも顔を真っ赤にして震えている。楓はシャーリーを睨みつける。


「…シャーリーさん? 布が少なければいいってもんじゃないですよ? これじゃほとんど裸じゃないですか! シャーリーさんは全然解ってない!」

「楓…お前…」


 シャーリーに毅然と言い放つ楓の姿に、思わず目頭が熱くなるラウラ。流石に楓は自分の味方だ。…そう思っていたのだが…


「シャーリーさん? あなたには羞恥という趣向への理解が足りませんね。そんな紐だけなんて、開き直られたら、ただ漢らしいだけじゃないですか! それじゃ駄目なんです! 見た目は普通でも、水から上がった時に真価を発揮する…そう、純白の海女服です。それも生地の薄いものです。水から上がった時に身体に貼り付いて、否応なしに露わになる身体のライン、そして身体の其処此処が透けて見えるのを、真っ赤な顔で両腕で隠すラウラちゃん…それだけでご飯3杯おかわりできます!」


 思わず倒れるラウラ。楓は勝ち誇ったようにシャーリーの顔を見る。対するシャーリーはそれを聞いて膝から崩れ落ちる。


「ま、まさかそんな高尚な愉しみ方があるなんて…私がこれまで信じていたものは一体なんだったんでしょうか…」

「…シャーリーさん、あなたの道は間違っていません。ただ、その道はいずれ行き止まりになります。全裸という行き止まりに。だから、私はラウラちゃんの内面を愉しむことにしたんです。…私もかつて、露出が多ければいいと思っていました。でも、それだけじゃ魅力は半減です。むしろ、ラウラちゃんの内面を刺激して、新たな魅力を引き出してこそ、道は続いていくんです」

「楓さん…」


 何やら師匠と弟子のような雰囲気の2人。むしろ羞恥プレイに走る楓のほうが余計に性質が悪いと思えた。この2人に任せていたら自分はどうなってしまうのか? どんな姿に行き着いてしまうのか? それを想像したラウラはこれまでに感じたことのない戦慄に襲われた。 


「私は自分のを着るからいい…」


 皆が楽しそうにあれやこれやと話しているのを尻目に、ラウラは沈んだ表情で書斎に向かった。椅子に腰掛けて、ふーっと大きく一息つく。


(海に行こうなんて言わなければ良かったかな…)


 そんなことを考えていると、小さくドアをノックする音がする。


「開いてるぞ、入ってくれ」

「ラウラ様、失礼いたします」


 入ってきたのはユーリエだ。今日は楓とサラの修練の日だったことを思い出したラウラは、海に行くことを駄目元で話してみる。





「それは素晴らしいです。是非ともご一緒させてください」


 予想以上の食いつきを見せるユーリエに若干引いてしまうラウラ。しかし、いつも色々と世話になっているユーリエにも楽しんでもらえるなら…と、何とか自分を納得させた。そして、普段から世話になっているもう1人にも声をかけることにした。






「本当ですか? 私もご一緒していいんですか? 」

「ああ、メアリにはいつも美味い米や麦や野菜を作ってもらってるからな。1日くらい思い切り羽を伸ばして楽しむのもいいかと思ってな」


 目の前で嬉しそうな笑顔を見せるメアリを見ると、やはり誘ってよかったと思うラウラだが、そこに突然来客が訪れた。


「うぇ! 何でラウラ様がこんなところにいるのよ!」

「ここは私の縄張りだろう、居たら悪いか?」


 入ってきたのは場違いな真紅のドレスを身に纏った、長身の美女だ。ソファで寛ぐラウラを一目見て露骨に表情を変える美女は、臆面も無くラウラの隣に座ると、テーブルの上のクッキーを食べ始めた。


「メアリを海に誘いに来たんだよ、皆で遊んで、バーベキューでもして楽しもうかと思ってるんだ」

「海? バーベキューって?」

「変なところで食いつくな…海岸で肉とか魚とかを焼いて食べるんだよ」

「私も行くわ!」


 いきなり参加を表明してくる美女。その瞳はぎらぎらと捕食の輝きを放ち、心の弱い者ならばそのまま昇天しそうなくらいだ。


「ところでルビーさん? 水着は持ってるんですか?」

「全員水着着用がルールだからな? 水着が無ければお断りだ」

「水着? そんなもの私にかかれば簡単よ。見ていなさい」


 ルビーと呼ばれた美女の身体が光に包まれる。光が消えた後には、真紅の水着に身を包んだ状態だった。



 シャーリーの用意した紐水着と全く同じデザインの…。



「どう? これなら私の美しさを引き立てること間違いなしでしょ?」


 ドヤ顔で言う美女にかなり苛つくも、これが『森』でも上位の存在である紅玉竜であることに頭痛がするラウラ。


「参加してもいいが、その水着で来たらお前を捌いて料理してやるからな?」


 紅玉竜のルビーは、もう少し露出の少ない水着にしようと心に決めた。そしてバーベキューという未知の料理への期待が膨らみ、涎がとどまることを忘れたように流れ続けていた。











「いい天気だな、絶好のバーベキュー日和だ」


 ラウラは砂浜に降り立ち、大きく伸びをした。燦々と輝く2つの太陽が心地いい。盛夏ほどに蒸し暑くもなく、なかなかにいい気候だと改めて思った。


 皆が向かった場所は、魔大陸南部の海岸線。以前、ラウラが助けた人魚達が暮らす入り江だ。他の皆はルビー率いる竜達の背に乗ってこちらに向かっている。ラウラは待ちきれなくなり、一人だけすっとんで来た。勿論、それには理由があった。


「久しぶりだな、元気だったか?」

「「「「「 ラウラ様かわいい~ 」」」」」


 黄色い声を上げる人魚達。相変わらず上半身は裸だ。ラウラは鞄から人数分のビキニとパレオを出して人魚に配った。


「これから人間がここに来る。若さを持て余した連中にはお前らの裸は毒だから、これを着ておけ」

「「「「「 はーい 」」」」」


 勇者達はまだ高校生、人魚とはいえ、美女の上半身裸の姿を見たらどのような行動をとるかわからない。なので、予防策として水着を着せることにしたのだった。


「一緒に産卵してくれるなら構わないんですけど…」

「それは…やめておいてやれ」


 人魚の長が残念そうに呟くが、ラウラはそれを止めた。人魚の繁殖は産卵だ。魚と同じで、人魚が産んだ卵に精子をかけて受精させる。その後は孵化するまで母親が守るそうだ。・・・もし、勇者の男達が人魚と一緒に繁殖行動をしたら…


「嫌なものを想像してしまった…気持ち悪い…」


 うっかり想像して精神的ダメージを負うラウラだが、何とか人魚全員に水着を着せることに成功した。入江で遊ぶ人魚達を眺めていると、一人の人魚が何かを持ってきた。どうやら以前から頼んでいたものを入手してくれたらしい。彼女が持ってきたものを目にして、ラウラは拳を握りしめる。


(ついに入手できたか! これで今日持ってきたアレを存分に使える!)


 今日の為というわけではないが、いずれはお披露目しようと思っていた。ならば、目的の品が入手できる可能性がある今日がちょうど良いと思えた。


「ふふふ、愉しみにしていろ。抗えぬ力に蹂躙されるがいい!」


 どこの魔王かと思える台詞を吐きながら、ラウラは下準備にとりかかった。






 


 そんなラウラから遅れることしばし、漸く皆がやってきた。流石にルビーの背にはメアリしか乗っていなかったが、他の皆はそれぞれ呼び出された中位の竜達に乗っていた。ちなみにシャーリーは紐水着をラウラに着せようとした罰で留守番させられていた。さすがに参田やミレーネを留置してあるので、無人にするわけにはいかなかったからだ。


「ひどいです…ラウラ様…」

「皆の前で私に恥をかかせるからだ! 少しは反省しろ!」

「ううう…ならせめてお土産を…」


 こんなやりとりがあったのだが、もう誰もが海に気をとられて忘れていた。


「あれ? ラウラちゃんがいない? どこに行ったのかな?」

「楓さん、あちらに建物が…どうやらここで着替えるようですね」


 入り江の入り口に、砂を固めて作った建物があった。入り口には「更衣室」と書いてあるその建物は、どこをどう見ても、学校のプールにあるような更衣室だ。中に入れば、そこにはロッカーが並んでいる。輪ゴム付きのロッカーキーまであった。


「ラウラちゃん…拘りすぎでしょ…」


 流石の楓もこれには苦笑いするしかない。しかし、快適さはしっかり確保してあるので、そのあたりは感心してしまった。何故なら、その室内は決してじめじめしておらず、当然のごとく海水を洗い流す真水シャワー完備だ。


 そんな快適な更衣室で各々着替える一同。水着はシャーリーがそれぞれの好みを聞いて作ったものを用意した。ちなみに男性用はカーナで大量購入したズボンを切っただけのものだ。シャーリーが男性用の水着の作成を拒否したからだった。




「こ、ここは楽園か?」


 思わず男子の誰かがそう漏らす。透き通るような海の色、綺麗な砂浜、そして岩場では見目麗しい人魚達が戯れる。その幻想的な光景に皆も言葉が出ない。そこに女子達も合流しはじめた。日本と違って娯楽の乏しいこの世界で、女性の水着姿など、そうそう見ることはないので、男性陣のテンションは上がりまくりだ。女性陣も満更でもない様子だが、真打の登場で格差というものを思い知ることとなった。


「ふーん、なかなかいい場所じゃない」

「当然ですよ? ラウラ様が選んだ場所ですから」

「素晴らしいですね」

「ラウラちゃん、どこに行ったんだろ?」


 スレンダーな身体を真紅のワンピースで包んだルビー、メアリはライトブルー、ユーリエは黒、そして楓は白のビキニだ。3人の暴力的なまでのプロポーションは、男性陣の視線を釘付けにしてしまった。だが、4人はそんなことを全く気にしていない。


 そんな時、海から何かが上がってくるのが見えた。それは巨大なマグロのような魚だが、何者かが担いで上がってくる。担いでいるのは……ラウラだ。


「マグロっぽい魚を見つけたんで、ちょっと獲ってきた」


 いとも簡単に言うラウラだが、その魚体はおよそ10メートルくらいある巨大魚だ。ラウラをよく知らない連中は一様に顔を引き攣らせている。


「よくそんなの捕まえてきたわね」

「相変わらず規格外だな」

「本当、こんなのと戦う相手が気の毒だわ」


 サラ達はラウラのことをそれなりに知っているので、何とか理解することができた。


「とりあえず捌いて食べよう。醤油はまだ無いが魚醤ならあるから、まずは刺身にしてみるか」


 海の家のようなつくりの建物に魚を持ち込むと、一人で捌き始めるラウラ。ちなみにラウラはウェットスーツのような水着を着ていた。自作の包丁で捌いていくが、ついうっかりして自分の指を浅く切ってしまった。


「痛っ!」

「大丈夫ですか、ラウラ様」


 傍で手伝ってくれていたユーリエがそれに気付くと、その指をくわえて血を舐め取ってしまった。その血を嚥下すると、恍惚の表情を見せるユーリエ。しかし…


(おや? これは一体…?)


 何か引っかかる部分があるが、それをうまく表現できなかった。だがユーリエにはそれよりもやることがあった。それはユーリエにとってはとても大事なことだった。早速行動に移ると、手際よく事を進めていく。そしてそれは誰にも気付かれることなく終了した。


(これで…これで私は…)


 燦燦と降り注ぐ太陽の光の下で、ユーリエは満足そうな笑みを浮かべていた。

 

 

ユーリエの謎の行動…

次回は7日の予定です。仕事の都合で遅い時間の更新予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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