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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第9章 動き出す者達
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ついに再会

「しかし、本当に来ちまうとはな…ここが魔大陸か」

「私にとっては…何だか居心地いいわ。たぶん心臓がラウラの魔力で作られているからだろうけど」


 前島を助けた2人は、ギルドの1室にいた。ギルドへは2人のことは伝えてあったので、ギルドからラウラの屋敷に連絡していた。


「もうすぐこちらにお見えになるそうなので、こちらで少々お待ちください」


 ギルドの職員がとても丁寧にもてなしてくれる。今いる部屋もVIP待遇の部屋だ。2人も前島も居心地が悪い。出された香茶も高級品のようで、スージーが驚いている。


「何よ、この香茶! 超高級品じゃない! こんなの出すギルドなんて聞いたことないわ!」

「確かにな、この調度品だって侯爵クラスの貴族じゃなきゃ手に入れられない品だろう」


 前島はそんな2人を呆然と眺めていたが、助けてもらった礼すら言っていないことに気付く。


「先ほどは助けていただいて、ありがとうございます」

「大したことじゃねえよ、そんなに畏まらないでくれ」

「あなたからラウラの匂いがしたからね、恩返しってわけじゃないけど」

「恩返し?」

「ええ、私はラウラに生き返らせてもらったのよ。私の心臓はラウラの魔力で作られたものだから、創造主の気配には敏感なの」


 そう言って微笑むスージーに前島は驚きの表情を隠せない。


(生き返らせる? 心臓を魔力で作る? 一体どこまで規格外なの?)


 そんなことを考えていると、扉が開かれて陽気な声がする。


「よう、2人とも、久しぶりだな。よく来たな、歓迎するぞ」


 そこには笑顔のラウラと、目に涙を溜めた少女がいた。年の頃は14~5といったところか、マークとスージーはよく知る人物に似た雰囲気を持つ少女に目が釘付けになる。


「まさか…サラ様?」


 スージーが思わず呟くように口にする。マークはまだ信じられないようだが、そんな迷いは少女の行動でふっ切られた。


「マーク! スージー! 良かった! 生きててくれて良かった!」


 サラが泣きながら2人に飛び込んできた。2人はそれを力強く受け止めると、優しい表情を浮かべる。見た目は成長しているが、その雰囲気は全く変わっていない。それが2人の迷いを吹き飛ばしたのかもしれない。


「先生も助けてくれたらしいな、改めて礼を言わせてもらう」


 そう言って頭を下げるラウラに、一同が驚愕の表情を隠せない。しばらく寝食を共にしたサラですら唖然としている。そんな反応を見たラウラは忌々しげな目つきで睨む。


「私だって礼を言わねばならない時には礼を言う。どんな礼儀知らずだと思っているんだ」


 ラウラは傍若無人な振る舞いはするが、それはラウラを敵視、あるいは格下と判断してくる者に対してのみだ。味方となる者や、信頼を寄せる者に対してはその類から外れる。


「それはそうよ、上に立つ者は礼儀を知らなければ下の者はついてこないわ。それに、私も恩知らずのままでいたくないから」


 スージーは改まってラウラの前に立つ。


「助けてくれてありがとう。それに、マークもサラ様も助けてくれて…言葉で言い表せるほど小さなものじゃないけど、それでもきちんと言葉にしないとね」


 頭を下げてくるスージーと、慌てて追随するマーク。ラウラは特に気にすることもなく、2人を手で制する。


「気にするな、私は美味い茶が飲みたいだけだ。スージーの茶の味はなかなか再現出来ないからな。この味を失うことは私にとっては重大な損失だ」

「相変わらず食べ物中心なのね…」


 呆れるスージーを余所に、サラに話しかける。


「なあ、サラ? お前も本来の身体に戻りつつあるから、暫くは修行中断だ。2人と一緒に屋敷でゆっくりするといい。どこか行きたい所があれば都合つけてやるぞ?」


 実際のところ、サラの身体はほぼ通常の成長速度に戻りつつあったのだが、再会の感動に浸りたいだろうという建前と、スージーに施した代用品としての魔力核コアの調整という大事な目的があった。むしろそっちの方が本命で、もしいつまでも魔大陸に来なければ、強引にでも連れてくるつもりだった。


「本当? いいの? それじゃ考えておくわ!」


 嬉しそうなサラを見て一瞬目を細めるが、部屋の隅にロープで縛られて転がっているミレーネを視界に入れてしまい、露骨に嫌な顔をする。


「この皇女は…本当に碌なことをしない…相当深い洗脳だな」

「おいおい、皇女に洗脳って…誰がそんなことを…」

「そんなの決まってる、私の敵だ」

「お前に仕掛ける馬鹿がいるなんて考えにくいが…おそらく人間じゃないんだろ?」


 いきなり発せられた殺気に一瞬たじろぐが、ラウラのことを若干ではあるが理解しているマークは気にしない。


「そうだよ、相手は人間じゃない。ただ、これ以上話すと確実にお前達を巻き込むことになる。それだけは避けたいんだ」

「水臭いな…って言いたいところだが…それほど強いヤツってことなんだな?」

「ああ、たぶんお前達じゃ歯が立たないだろう。カーナここの上級冒険者達が連携して…なんとか同レベルってところだな」

「そうか…それじゃ今の・・俺達じゃ難しいだろうな」


 何かを含んだ物言いのマークに、ラウラは訝しげな表情を見せる。


「俺達はここで鍛えるつもりで来た。みっちり鍛えて、せめてサラ様だけでも護りきれるようになりたいんだよ」

「そうよ、私だってあんたのおかげで力が上がったけど、全然制御できてない。こんなんじゃ力があっても無駄遣いだわ。だから、ここで力の使い方を覚えたいのよ」


 2人の表情には強い意志が見て取れる。スージーも力に溺れる様子は無い。ラウラはそんな2人に相好を崩す。


「それはともかく、折角魔大陸ここまで来たんだ、少しはゆっくり休め。それなりに時間がかかったんだからな」

「そうだよ、何で直行便が出て無いんだ? 態々魔道連合系由にしたから、結構な長旅になったんだぞ?」


 憤慨するマーク。ラウラは当然といった様子だ。


「ガニア大陸への直行便なんて作ったら、奴隷商人が蔓延るだろう? 成人ならば返り討ちにできるが、子供はそうはいかない。魔道連合はガニア大陸の国とは国交を開いていないから、厄介な連中を篩にかけるには丁度いい」


 相変わらず、魔大陸の種族を狙う連中は後を絶たない。隙あらば入り込もうとする害虫のような連中を駆除するのもラウラの仕事だった。


「とりあえず、屋敷の客室を使って貰おう。カーナへの移動は私に声をかけてくれればいい」


 そう言って、転がされているミレーネを肩に担ぐと、転移魔法陣を展開する。流石に合計6人の転移となれば不安定になる可能性があるので、敢えて魔法陣を展開させたのだ。


「なんて精巧な魔法陣…本当にアンタは規格外ね…」

「このくらい、きちんと理論を認識できていれば難しくない。今度教えてやるよ」

「本当? アンタの魔法理論ならどこよりも先を行ってるから楽しみ!」


 いきなり高位の魔法を教えるというラウラにサラは喜ぶが、他の面々は驚きを隠せない。

ラウラの魔法理論は他の国々の魔法技術のはるか先を進んでいる。通常なら秘匿されて当然の技術を惜しげもなく公開するなんて、巨万の富を捨てているも同然だ。


「おいおい、いいのかよ。そんなの簡単に教えちまって…」

「何言ってるんだ? 技術は公開されてこそ発展するんだぞ? 頭の固い老害どもが墓場まで持ち込むから進歩しないんだよ。まあ使えるだけの基礎技術がない奴にはいくら教えても無駄だけどな。ほら、行くぞ」


 ラウラは皆を急かすと、屋敷へと転移していった。何故そんなに急かしたのか…それは、ラウラにとってはとても重要なことが待っていたからだ。それこそ、皇女など放っておいてもいいと思えるくらいの重要なことが…。






 屋敷に転移したラウラはマークとスージーをサラに任せて、自分の書斎に急いだ。ミレーネは応接間のソファに放置しておいた。何故なら…ラウラが待ち望んでいるものが届いているはずだからだ。書斎のドアを勢いよく開けると、そこには待ち望んだ人物がいた。


「ついにできたか! メアリ!」


 書斎には、一抱えほどの大きさの袋を持ったメアリが立っていた。メアリは微笑みを絶やさずに会釈する。


「はい、やっと出来ました。今度こそ気に入って貰えると思います」


 ラウラは差し出された袋を受け取ると、その中にある、白い小さな粒を少量取り出して口に含む。


「これは…間違いなく『米』だ! ちゃんとジャポニカ米だ! これでまた料理の幅が広がるぞ! うう…ありがとう、メアリ!」

「ああ…ラウラ様…」


 涙を流して感謝の抱擁をするラウラ。メアリはいきなり抱きしめられて恍惚の表情を浮かべている。しかし悲しいことに、ラウラの興味は完全に『米』に向いていた。


(これでやっと『ご飯』が食べられる…それに、米味噌に米酢に味醂…米麹を作れば日本酒だっていけるはずだ。最初はインディカ米っぽいものばかりだったからな…)


 当初、メアリの用意した自生の米はインディカ米だった。確かにインディカ米も料理によっては美味いが、日本人としては米の飯が食べたくなるのは当然だろう。ラウラは既に各種調味料の原材料も見つけてある。これで屋敷の食生活が更なる向上を見せるのは確実だ。


「そ、そういえば…こんなものも作ってみました」


 メアリは抱きしめられた状態ながらも我に返ると、懐から小さめの袋を取り出した。ラウラが受け取って中身を確かめる。そこには、『米』が入っていた。ラウラは少量を口に含んで…


「これは…餅米だな! すごいぞ! ここまでしてくれるなんて!」


 メアリが作ったのは、まぎれもなく餅米だった。これはラウラにも想定外だった。米があるなら、餅米があってもおかしくはないと思っていたが、まずはうるち米を充実させることを優先させていた。


「ラウラ様に喜んでいただこうと思いまして…お気に召しましたでしょうか?」

「メアリ…お前…そんなにまでして…」


 ラウラは滂沱の涙を流している。まさか一度に餅米まで手に入るとは思っていなかったので、感極まってしまった。


「私はラウラ様のためにここにいるんです。この程度、何の問題もありません」


 メアリは優しく微笑むと、抱きついてくるラウラの頭を優しく撫でる。


「…こういうラウラ様も新鮮です…」


 新しい悦びに目覚めそうなメアリだった。

 






この話でこの章は終わります。幕間を数話挟んで新章の予定です。

次回更新は3日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。感想・評価お待ちしています。

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