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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第9章 動き出す者達
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遭遇

色々と動き始めます。

 デュメリリーの森の最深部に近い場所にあるラウラの屋敷の地下室、そこはラウラが様々な研究を行う実験室だ。魔法の灯りがぼんやりと辺りを照らす中、そこには4人の人影があった。うち1つは石造りの台に横たわっており、のこりの3つはその台の傍にあった。


「さて、準備はいいか? もうお前の体は修復が完了してる。呪式を完全に除去したから、抑制されていた身体の成長が再開した。最初は戸惑うかもしれないが、徐々に慣れていってくれ」


 そこにいるのはラウラと楓、そしてサラ(仮)。台に横たわるのはサラの本体だ。ラミアのココの心が完全に戻ってきたのと、サラの身体の修復が完了したので、晴れてサラ(仮)の『仮』が取れることになった…つまりは本体に戻れることになった。


「でも、こんなことまで出来ちゃうなんて…ラウラちゃんってやっぱりすごいんだね」


 何故かラウラの隣で興味深そうに見守る楓。本来ならばユーリエが助手を勤めるのが最近の流れだったのだが、ユーリエにはカーナ付近の守りを任せたため、楓がその役目を買って出た。前島はユーリエに同行している。ユーリエは勇者の顔を知らないので、見分けるために同行することになった。まだ力を残されているため、何かあっても護りくらいはできるという本人の強い意思によるところもあった。


「本当に大丈夫なの? 信用してもいいのね?」

「そんなに不安なら、ココの魂をそっちに移すことにするが…」


 いまいち安心出来ない様子のサラ(仮)が素直な心境を吐露すれば、それを聞いたラウラが不機嫌そうに返す。


「じょ、冗談よ! さっさと済ませちゃって!」

「大丈夫だよ、サラちゃん! ラウラちゃんだから!」

「楓のその自信はどこから来るのよ…」


 最近、仲良くなった2人がそんな会話をしている間、ラウラは術式の下準備に入る。術式を安定させるための結界を張りなおし、石台を中心に描かれた魔法陣に魔力を通していく。


「なんだか…眠くなってきた…」

「眠った状態が魂魄を扱うのに一番いいんだ、そのまま眠っていろ」

「うん…わかった…」


 自分の本体の隣に横たわると、サラ(仮)はゆっくりと瞳を閉じる。無意識のうちに、本体の左手を右手でしっかりと握っていた。静かな寝息が聞こえ始めたのを確認すると、ラウラが術式を開始する。


 魔法陣が魔力を供給され、淡い光を放ち始める。やがてその光は強力なものになっていき、周囲には燐光が舞う。その燐光は横たわるラミアの身体を包み込むと、まるで意思を持ったかのようにラミアの右手を伝い、サラの本体までをも包んでいく。やがて2人の身体が全て燐光に包まれると、その光は2人の身体に吸い込まれるように消えていった。


「これで完了だ、おい、ココ、大丈夫か?」

「…う、わ、私は…」


 呼びかけに応えて目を開き、身体を起こそうとするココ。ラウラはそれを制した。


「まだ無理に動くんじゃない、どうだ、サラの魂はきちんと移動したか?」

「はい、大丈夫です。こんなにしていただいて、ありがとうございます」

「気にするな、こっちもお前の身体を使わせてもらったんだからな」


 弱弱しくも礼を述べてくるココに確認する。魂の移動はうまくいったようだ。


「あとはサラだな…魂を完全に定着させるまでにはあと3日くらいはかかるだろう。その間の世話は…シャーリーにでも頼むか…」

「あの…それなら、お願いがあります。私にサラの世話を任せてください」


 ラウラは却下しようとしたが、ココの視線に気付いた。ココの視線は、未だにしっかりと握り合っている2人の手に注がれていた。その視線は決して厳しいものではなく、とても柔らかなものだ。


「わかった、でも無理するなよ? そこでお前が無理してどうにかなったら、一番悲しむのはサラだぞ? そこを忘れるな」

「…はい! ありがとうございます!」

「礼には及ばない、この儀式が成功したのは、お前達がそこまで絆を深めてくれたからだ。それじゃ、サラのことは任せるから、何か必要なものがあれば言え」


 そういい残すと、実験室を出て行くラウラと楓。ココはそれを見送ると、隣で安らかな表情で寝息を立てる親友・・を見る。未だに2人の手はしっかりと握られている。それを見つめながら、ココは呟く。


「これで私達は離れてしまうかもしれないけど…私はあなたを親友だと思っているわ…出来ることなら…あなたにもそう思っていて欲しい…」


 頬を伝う涙を拭いながら、眠っているサラを見つめていると、光の加減もあったのだろう、一瞬だけサラが微笑んだように見えた。まるでココの言葉に応えるように…






 実験室を後にして書斎に戻ったラウラと楓は、ルーセントに拉致された勇者について再確認していた。


「それじゃ、行方不明なのは一之瀬で間違いないんだな?」

「うん、めぐちゃんは佐々木に愛想つかしてたみたいで、もう一緒に動きたくないって言ってたから…」


 意外なことに、楓と一之瀬は仲がよかった。一之瀬は言葉がキツイことで知られていたが、その奥底にある本当の気持ちを理解してくれる者には、きちんと心を開いていた。モデル事務所に所属していたこともあり、妙に自信を持ちやすい少女ではあったが、楓にはそれなりに接していた。勿論、口は悪いが。


「でも、めぐちゃん攫って何がしたいんだろう? 彼女、聖女なんかじゃないよ? 彼氏いっぱいいたし、それに…」

「…それに…どうした?」

「ううん、なんでもない! とにかく、そんな感じだから、聖女には程遠いよ」

「そうか…」


 一瞬、言葉を濁した楓を訝しむが、徹の頃の記憶を遡ってみても、楓の指摘は正しかった。全寮制の学校なのに平気で無断外泊を繰り返し、生徒指導室の常連だった。


「詳しいことはサラが目覚めてから相談だな、場合によってはルーセントとも一戦交えることになる」

「…無茶しないでね? もう私のこと置いていったりしないでね? もう離れるのは嫌だよ…」

「…大丈夫だ、もうあの時みたいなことはしない」


 楓の懇願に、ラウラは複雑な想いで生返事するしかできなかった。










 ラウラがサラの儀式を執り行っている頃、ユーリエは前島を連れてカーナの町にある冒険者ギルド2階の支部長室にいた。現在、カーナの冒険者ギルドは他の大陸の冒険者ギルドとは決別状態になり、独自の進化を遂げている。元々、様々な種族が生活する魔大陸のギルドそのものが他の大陸のギルド支部から疎まれていたため、半ば喧嘩別れのような形でカーナ支部が孤立してしまった。


 しかし、冒険者達はそんなことを気にしない豪気な者が多く、魔大陸の魔物素材に魅せられたり、実力の向上を目指す者達はより一層カーナを目指すことになる。そのため、カーナとしても何らかの対応をせざるを得なかった。何故なら、冒険者はより強い魔物の素材を求めて『森』に入りたがるが…『森』の魔物は強すぎた。実際、『森』の魔物素材を換金しに来る者のほとんどが人族以外の種族であり、人族の冒険者など、魔物のエサになりに行くようなものだった。


 そんな時に現れた救世主が、魔王マオラムだ。彼女は『森』を冒険者に踏み荒らされることを快く思っておらず、頻繁に立ち入ってくる人族に辟易していた。ギルドに苦情を言いに来た魔王とギルド支部長は問題の解決を図る。支部長が提案したのは『探索エリアの限定』だった。しかし、それでは不十分と2人で練り上げたのが『魔王城探索』だった。


 魔王城までの一定エリアを冒険者立ち入り可能なエリアとし、参加者の自己申告によるレベルによって、探索するルートが変わる。そこに出てくる魔物は、まだ若くて経験が足りないものや、幼生体に限定する。場合によっては力を制限させて強い魔物を登場させる。勿論、魔物を殺す訳ではない。その空間では、致命レベルの攻撃を受ける直前に魔王城の1室に強制転移される。その時にランダムで魔物素材が転移されてくる仕組みだ。もちろん冒険者も死ぬ直前で強制転移され、魔王城で魔族から、修正点などをみっちりと教え込まれるという特典付きだ。魔王城からはカーナまで一方通行の転移陣を設置し、帰りも安心というわけだ。当然ながら、勝手にルートを外れた者はこれまで通りに魔物のエサになってもらう。


 このプランが、強くなりたい冒険者に人気になった。そのためにカーナには冒険者が多く来るようになり、町が発展していったのだ。前島はカーナの町がモトロよりも活気に満ちて栄えていることに驚きを隠せなかった。魔大陸といえば誰もが人外魔境を思い浮かべるのが普通だった。





「それでは、今回の探索メンバーの名簿です。これを元に本人確認を行ってください」

「…わかりました。何かお困りのことはありますか?」


 ユーリエはギルド職員から探索者名簿を受け取ると、支部長に近況を尋ねた。


「相変わらずだが…他国が直行便を作るように要請しているな。確かに現在は月1回の便のみだからな…」

「その話は却下です。交易路を増やせばそれに伴い危険も増します。ラウラ様の性格からして、下手に『森』に手を出されれば戦争になりかねません。尤も、一方的な殺戮劇になるのは明白ですが」

「それはそうだな、そんなこともわからん馬鹿と付き合う必要は無いな」


 がははは、と豪快に笑う支部長。前島はそんな2人を呆気に取られた表情で見つめる。魔族と人族が同席で対等に付き合う…ガニア大陸では考えられない光景だ。


「どうしました? 何かおかしな点でもありましたか?」

「え? い、いや、何も…」


 いきなり話を振られて動揺する前島。ユーリエは何かに気付いたような表情を浮かべる。


「私と支部長が対等に話しているのが不思議なんでしょう? ここではそんな常識こそ非常識ですよ」

「おお、魔王陛下の言うとおりだ。ここでは種族なんざ大して意味無いんだよ。出身地の違いくらいにしか考えていない。それとも、この町の姿は異常だと思うかい、勇者様?」

「…いいえ、理想的だと思います…」


 地球では人種差別は非人道的な考え方とされていたため、こちらでの人族至上主義、貴族至上主義に馴染めなかった前島としては、カーナの姿こそが理想的だと思えた。しかし、この大陸を支配しているのがあの・・ラウラだと考えると、素直に納得できなかった。


「前島、あなたの考えていることは理解できますが、この大陸はあの方がいらっしゃるからこそ安定しているんです。ただし、これだけは忘れないでください。あの方はその力を以って他国を侵略したことは一度たりともありません。報復や救出のために出向いたことはありますが」


 その言葉に、前島は自分の気持ちがますますわからなくなっていた。


「私は…どこに向かおうとしているのかしら…」


 混乱する自身の気持ちを何とか落ち着かせようと、窓からカーナの町を見下ろすと、そこにはいるはずのない人物がいた。


「え? うそ? どうして?」


 考えが纏まらない。その人物がここにいる理由もわからない。その人物は、体中傷だらけで身なりも酷く汚れている。着ている…というよりも、ただ身に纏っているだけのようなローブは異臭を放つほどに汚れているのか、町の人々も遠巻きに見ているだけだ。その人物は町のメインストリートを、身体を引き摺るように歩いてくる。


「どうかしましたか? …誰ですか、あれは? お知り合いですか?」


 ユーリエの問いかけにも応じる余裕がない前島は、支部長室を飛び出すと、階段を駆け下りてその人物の前に立つ。


「何故…何故あなたがここにいるんですか? ミレーネ皇女!」


 そこにいたのは、佐々木達と共に行方をくらました、ティングレイ第3皇女、ミレーネだった。







カーナは冒険者達のための英才教育機関と化しています。ちなみに、冒険者の手に入れた素材は全てカーナにて売却が義務付けられています。その売却益で町は潤っています。

次回は27日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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