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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第8章 ハイエルフさん南へ
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人魚と水竜

鰹はどこに…

「人魚族っていうのは…あの人魚か? それなら解るが、何で水竜族まで一緒なんだ? 」

「おや? 御存知ないのですか?」


 少々小馬鹿にしたような紫水晶竜の口ぶりに、不快感を露にするラウラ。


「…私は『森』の住人だぞ? 海の種族については通り一辺倒の知識しか持っていない。…そういう言い方しかできないのなら、お前が庇護してやればいいだけだろう? 私は忙しいんだ、余計な手間を取らせるな」


 不快感というレベルを遙かに超えた威圧に、思わずたじろぐ竜達。若竜達は既に逃げ腰になっている。


「そ、そのようなことは………申し訳ありません、私にも立場というものがありまして…」

「…そういうことか…まあいい、手短に話せ」


 ラウラは渋々ながらも謝罪を受け入れる。結局のところ、紫水晶竜は配下の手前、あまり下手に出ることが出来なかっただけだ。わかりやすく言えば、部下に舐められない為にも、胆の据わったところを見せたかったのだ。


「はい、実は、この海域に新たに人魚族と水竜族がやって来たのですが、どうやら追われている様子でして…その追跡者というのが、また厄介な相手なんです」


 竜の表情の機微はよく解らないが、その言葉から、かなり苦々しい顔をしてるんじゃないかと考えたラウラは、おおよその目的を理解する。


「それで、私にその『追跡者』を何とかしろということか?」

「はい、実は私の配下の若竜を向かわせたのですが、一向に戻って来ないのです。若竜とはいえ、強さではそれなりの者ですので、戻ってこれない程となると敵は相当な者かと…」

「…何だと?」


 ラウラの瞳に殺意の光が宿る。紫水晶竜の配下ということは、『森』の住人ということだ。自分の庇護する者に手を出されたことへの怒りが滲み出ていた。


「この先の入江に避難させています。詳しいことはその者達に聞いていただければよろしいかと…」

「…分かった、案内しろ」


 もはや殺意の塊になっているラウラを、腫れ物でも触るかのような丁寧さで案内する竜達。しばらく進むと、やや大きめの入江が見えてくる。そこには、岩の上で寛ぐ人魚達と、水面から鎌首をもたげている水竜と思しき竜の姿があった。無邪気に水遊びをしているその姿に、ラウラは毒気を抜かれてしまった。


「あ! 紫のおじさんだ!」


 人魚の一人が気付くと、こちらに手を振っている。それに合わせて、皆がこちらに手を振っている。水竜達もその尾を振って挨拶してくる。とりあえず近くの岩に降り立つと、詳しい事情を聞くことにした。


「私がラウラだ、『デュメリリーの森』を纏めている。お前達が庇護を求めてきた者達か?」

「「「「「 可愛い~ 」」」」」


 人魚の女達に黄色い声で迎えられてしまうラウラ。水竜達は遠巻きから眺めているだけだが、どこか違和感があった。


「…ところで、何で女だけしかいないんだ? 男はどこに行った?」


 見渡すと、そこには女性しかいない。皆、若々しい姿をしており、しかも皆美しく、上半身は裸だ。年頃の男性がいたら、色々と我慢するのが大変になりそうな光景が広がっている。


「私達人魚族は、雌しかいないんです」


 一人の人魚が前に出てきた。外見は20代後半といった感じの、ウェーブのかかった金髪の美しい女性だ。


「私はこの集団の長をしております。私達人魚族は雌しか産まれません。そのため、繁殖には他の種族を利用します。私達は水竜族にお願いしているんです」

『我々は何故か雄しか産まれない。なので、人魚族とともに繁殖活動を行っている。しかし、我々が交わっても、水竜は雄しか産まれず、人魚は雌しか産まれてこない』


 どうやら複雑な事情がありそうな様子なので、ラウラは敢えてそこをスルーして本題に入ることにした。


「お前達、追われているっていうのは本当か?」


 その言葉に、明らかに怯えた表情を見せる人魚たち。水竜は口惜しそうな様子だ。


「はい、私達人魚族を不老不死の薬の材料として狩る者達がいるんです。不老不死なんて噂にしか過ぎないのに…」

『我々の同胞も狩られていった。敵に洗脳されて、我等に攻撃してくる者もいた』


 ラウラは苦々しい表情で話を聞いている。そして、敵の正体も漠然とだが理解していた。

 ラウラが読み漁った文献の類には、人魚族の血肉が不老不死を齎すなどという記述は何処にも無かった。知る限り、アステールにそんな事実は存在していない。ならば、その話はどこから発生したのか…人魚の血肉が不老不死の妙薬というのは、地球にある民間伝承だ。即ち、人魚族を狩っているのは…召喚者だということだ。


「本当に…碌な事をしないな…」


 頭痛に顔を顰めながら、忌々しげに呟く。おそらく攻撃してきた水竜達は何らかの方法で隷属させられたのだろう。とすると、戻ってこない若竜も同じように捕獲された可能性が高い。自らの庇護者を害されたということに、怒りがこみ上げてくる。


「私達は、あちらの方から逃げてきました。大陸間を渡る間に、他の集団は敵に狩られてしまいました。彼女達はもう…」

『我々も戦ったが、敵を守護する魔物はあまりにも強く、我々とて人魚族を護りながら逃げるのが精いっぱいだったのだ。臆病者だと笑いたければ笑うがいい』


 自嘲的に言う水竜の言葉にも、ラウラが相好を崩すことはなかった。ラウラが見る限り、水竜の強さはそこそこある。しかも、水竜は集団を形成していたとなると、それだけの戦力差をものともしない敵がいるということだ。それが召喚者だというのなら…恐らくは天使の仕業だろう。しかし、ラウラには一つ疑問が残った。


「お前達が来た方角…バラムンドじゃないな、お前達、ルーセントから来たのか?」

「はい、私達はルーセントと呼ばれている国の沿岸に棲んでいました。ここ数日前から、私達への侵略がはじまりました。最初の頃は何とか逃げられたのですが、ついにヤツが出てきてしまったんです」

「…ヤツ? それは一体…」


 人魚たちは怯えてしまい、話せる状態では無くなってしまった。見かねた水竜が話を引き継ぐ。


『ヤツは海の支配者と呼ばれている。海に棲む我々でも、ヤツには敵わない。その力は圧倒的だ、おそらくそちらの古代竜殿でも勝てるかどうか…』


 ラウラはその存在に心当たりがあった。実際に見たわけではないが、その存在を示唆する話を聞いたことがあったからだ。ラウラは確認のため、その話をしてくれた本人に聞いてみることにした。

 ラウラは念話のリンクを繋ぐと、話しかけた。相手が念話の魔法を使えないということも考慮せずに。


「おい、サラ(仮)! 聞こえるか!」

(うわ! ラウラの声が聞こえる! …私、疲れてるのかな…)

「おい、私だ! ラウラだ! 今、念話で話しかけてる!」

(やだ…何これ…耳を塞いでも聞こえる! 私、おかしくなっちゃったの?)


 サラ(仮)は混乱しているらしく、こちらの念話が通じない。そこで、ラウラは違う方法でアプローチしてみた。


「おい、ココ・・! 聞こえるだろう? サラに落ち着くように言ってくれ」


 ラウラはココの意識が戻ってきているという報告を貰っていた。そのため、ココからサラに説明してもらう方法をとった。


(サラ…ラウラ様が念話でお話してくださってるのよ? 早く答えなさい)

(あれ、ココ? 念話って? 私、念話なんて使えないけど?)

「私が無理矢理リンクを繋いだんだ。ちょっとばかり急ぎで訊きたいことがあってな」

(いきなりそんなことしないでよ! 私がおかしくなったのかと思ったじゃないの!)

「すまんすまん、で、本題に入りたいんだけど、いいか?」

(いいわよ、どうぞ)

「ルーセントに、海を主戦場としている守護獣はいるか?」

(海…それなら第2位の巫女の守護獣ね、海の支配者と呼ばれているわ)

「そいつはどんなヤツだ? どうやらこっちに向かっているらしい」

(全く…本当にアンタは厄介事に巻き込まれるわね…そいつは老齢の大海蛇シーサーペントが力を得て変化した魔物よ。力のある獲物が大好きで、水竜くらいなら平気で喰らう化け物よ。海中ではほとんど敵はいないわ)

「戦るなら水上での決着だな…ちなみにそいつの名前は?」

(レヴィアタン…第2位の巫女シラヌイの守護獣よ)




 ラウラが念話を切ると、巨大な魔力を持った存在が近づいてくるのを察知した。それは高速でこちらに向かってきており、人魚達を求めているのは明白だった。おそらくはこいつがレヴィアタンなのだろう、だが、問題はそこではない。守護獣だけが遠くまで来るとは考えにくい、となれば、第2位の巫女も同行していると考えるほうが自然だろう。


「しかし…『不知火』なんて、どこの設定馬鹿だよ。どう考えても日本人だろうが。間違いなく召喚された人間なんだろうが…佐々木達とは別口っぽい感じがするな。もしかすると、過去に召喚されて取り込まれた勇者かもしれない」


 そう呟きながら、戦闘準備を整える。蘇生と全回復の魔法を遅延発動ディレイ状態で組み上げ、自身の絶命をトリガーにして発動させておく。さらに、高度回復をいくつか、発動状態で鞄に仕舞いこむ。ラウラの鞄は魔法の効果も収納できるため、万全を期すために保険としておく。あとは全身の関節と筋肉をほぐしながら、人魚達のいる入江に結界を張って待つ。


 そして待つこと小一時間…


―― グオオオオオォォォン ――


 一般人ならそれだけで絶命しそうな、威圧の籠った雄叫びがこだまする。ラウラの目には既に、海上に頭を出して向かってくるレヴィアタンと、その頭上に立つ人の姿を捉えていた。その姿は、かつてサラが着ていたような、宗教的な服装をしている。腰まである黒髪を風に靡かせて、その漆黒の瞳はラウラを見据えている。そして決定的なのは…その背にある、1対の白い翼だ。


(やはり…だが、クラスの連中じゃないな…過去に召喚されて取り込まれた勇者なんだろうが…吟兄の頃に召喚された奴かもしれない)


 そんなことを考えていると、その脇に飛んでいる若竜が目についた。それは紫水晶竜と一緒にいた若竜と同じ種類の竜だったが、明らかに様子がおかしい。その様子にラウラは見覚えがあった。サラがラウラに攻撃してきた時と同じ状態のようだった。


「何てふざけた真似してくれてるんだ…」


 自らの庇護者を操るという暴挙に、ラウラの顔が怒りに歪む。ルーセントの巫女を完全に敵として認識した。そして、その殺気を隠すことなく叩きつけてくるレヴィアタンも、同様に敵として認識した。


「どこの天使か知らないが、私を怒らせたことを後悔しながら消えてもらおう」



 魔大陸の支配者と海の支配者、相容れない支配者が南の海で激突する。





だから鰹はどこに…

次回更新は21日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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