本当に委員長のお仕事?
声の主からの忠告があってすぐに、佐々木が叫んだ。徹は終わったと思った。コイツは間違いなく地雷を踏むだろうと直感した。すぐさま楓と前島先生に小声で話す。
「多分、佐々木…先生が地雷を踏みます」
「もう佐々木でいいんじゃない? 私も徹君と同感だわ」
ここにきて前島先生がぶっちゃける。
「ここから先はできるだけ僕の独断で動きます。多分地雷を踏んだ後はいきなり話が進むと思いますので、佐々木に邪魔させないようにします」
「わかったわ。私達はどうすればいいの?」
「さっき僕が引き出した情報は覚えてますか?」
「ええ、アステールの世界情勢と種族、それから通貨と…」
「あとは貴族についてです。恐らく、いえ、間違いなくアステールは命の価値が低いです。貴族相手に下手を打つと色々と厄介ですから…」
「成程ね…とにかく、これから先は話ができる可能性が低いかもってことよね」
「はい。だから今ここで簡単に今後のことを言っておきたいと思います。まず、召喚されたら、とにかく少ない情報で判断しないでください。人道的なことを言われるかもしれませんが、酷いこと言うようですが、僕たちにとってはアステールの人間は完全なる他人です。いいですね。絶対に召喚主の言いなりにはならないでください。もし食べ物を出されても手を付けないでください。身につけるモノも極力拒否してください。奴隷への隷属魔法があるそうなので、それらしいものを使われる可能性は否定できません」
「本当に凄いわね、この短時間でここまで冷静に把握するなんて」
「とにかく、楓をお願いします。楓、先生の言うことちゃんと聞けよ?」
「わかってるよ、もう!」
楓の頭を撫でようとしたところで、佐々木が声の主に質問しはじめた。
「おい、あんた、さっきから偉そうにしやがって、あんた一体何者なんだよ!」
(やっぱりこの質問だったか)
徹は冷や汗が止まらない。一体これからどんな目に合うか分からないからだ。
「…私はあなた方の認識で言うところの『神』のようなものと考えてください」
「やはりそうだったか! それで、私達は何かしらの力をもらえるのか?」
「…そうですね、それでは力を差し上げましょう。となりの部屋に用意しておきます。そこの扉から移動してください」
その言葉に反応して扉が現れる。佐々木達が移動しようとしたとき、徹が声の主に話しかけた。
「すみません、いいですか?」
「…いいですよ、何でしょう?」
「その力っていうのはどういうものでしょうか?」
そう、徹はこのことに全く触れていなかった。この質問もさっきの状況では地雷だと思ったからだ。
だが、今この場においては徹の最大の切り札だった。
「…力は基本的に4種類です。戦闘系と補助系、生活系とユニーク系です。戦闘系は剣や槍、弓とかのスキルです。攻撃魔法もここに分類されます。補助系はいわゆるサポートスキルですね。初歩回復魔法はここに分類されます。生活系は料理とか鑑定などの暮らしに密着するスキルですね。ユニークは希少なスキルです。内容はお教えできませんが、使い方によって左右されるスキルです」
「その4つの他に何かありますか?」
「その後は『存在エネルギー』を受け取ってもらいます。これは召喚先の世界にてあなた達の肉体を構成するエネルギーです。必ず規定量だけ受け取ってください」
「わかりました。ではその力を受け取るために、隣の部屋には一人ずつ入ります。4つの力はそれぞれ1つずつを選べるようにしてください。ただし、力の内容は外からはわからないように」
徹の提案はすんなり通った。声の主も徹の考えを理解してくれたのだろう。これは先ほど、徹だけに声の主が教えてくれた情報をもとに徹が導き出した方法だ。これが佐々木への牽制だった。
佐々木はきっと何かしら理由をつけて一番最初に隣の部屋に行くだろう。おそらく自分に都合のいい力だけ選ぶために。おそらく図星だったのだろう、徹をを射殺さんばかりに睨みつけている。
多分この後も何かしてくるだろうが、徹にできるのもここまでだった。
「素晴らしいよ、東山君。さすがはクラス委員長だ。そんな君に是非任せたいことがあるんだが、いいだろうか?」
「…いいですよ」
佐々木が作り笑顔で徹に話しかけてきた。徹は「やはり来たか」と思いつつも話を聞くことにした。
「君にはこのクラスを纏める者として、全員が力を受け取ったのを確認してから移動してくれないか?こんな大事なこと、君にしか頼めないんだ」
「わかりました」
佐々木はにやりと笑うと、取り巻き共と何やら話をした後、一番最初に部屋に入っていった。
佐々木に続いて、佐々木の取り巻き数人が順番に入っていった。
半数近くが部屋に入っていった時、背中に白い翼を生やした女性が生徒と入れ替わりで入ってきた。
なにやら酷く慌てているようだ。徹はその様子を無言で眺めていた。
「あの人は天使ですか?」
「ええ、あなた達が力を受け取った後、アステールへと送り出す者達です。一人につき一名付きます。最後の注意事項などを聞いてください」
声の主は徹の質問に答えると、入ってきた天使の報告を受けていた。何を話しているのかは全くわからなかったが、何か問題が起きてるだろうことは何となく理解できた。
続々と入ってくる天使たちが慌しく動き回る中、生徒たちは次々と部屋へ入っていく。そしてついに徹達3人を残すのみとなった。
「すみません、いいですか?」
「何ですか?」
再び声の主に質問する徹。
「あとは僕ら3人だけなんですけど、先にこの二人を一緒に部屋に入らせて欲しいんです」
楓と前島先生に視線を向ける。
「それはどうしてですか?」
「えーと、実はそちらの楓は少々おバカなところがありまして…一人で色々決めさせるのはちょっと不安なんです。こちらの前島先生は校医ですけど、大人としてアドバイスできるかと思いまして…」
「……楓さんというのはあなたの恋人ですか?」
「はい、昨日告白されまして…付き合いはじめました」
楓はいきなり話題に上げられて、真っ赤になっている。前島先生は微笑みながら楓の頭を撫でてる。
かなり癒されているようだ。
「わかりました。一人ずつというのはあなたからの提案だったのですが…色々とあなたには助けられましたから、特別に許可しましょう」
声の主がそう言うと、二人の両脇にそれぞれ天使が現れた。天使に促されるように部屋に進む。
そしてついに徹の番が来た。徹の隣にも天使が現れた。まるで芸術品のような美貌を持つ天使は徹を部屋へと促す。徹は一度振り返り、声の主のほうを見据えると、意を決して部屋へと入った。
徹が天使と共に部屋に入ると、楓と前島先生は次の部屋に移動した後だった。気付くと、今入ってきた扉は消えていた。もうさっきの部屋には戻れないということだろう。部屋を見回すと、4つのテーブルのようなものがあり、それぞれ戦闘・補助・生活・ユニークと札がついていた。「バイキングかよ…」とどうでもいいことを考えながら、徹はあたりを見回すと、ため息を一つ吐いて隣の天使に向かって話しかけた。
「あのー、すみません。僕の分の力が無いんですけど…」
本来、残ってるはずの徹の分の力がどこにも見当たらなかったのだ。
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