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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第7章 森へ御招待
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真実の告白

 ラウラの屋敷に滞在することになった勇者達は、最初こそ戸惑っていたが、次第に屋敷の快適さに負けていった。


「ここのお風呂、広くていいね」

「トイレが水洗だ! しかも温水洗浄!」

「食事が美味しい! こんなに柔らかいパン…ううっ」

「これって醤油の香り? こっちは味噌…懐かしいよぉ…帰りたいよう…」

「ラウラちゃん可愛い」


 等等、口々に賞賛の声を上げていた。それも当然だろう、この世界においては個人での風呂など貴族以上の家格や資産がなければ所有できない。ましてやトイレなどは消臭の魔法のかかった小部屋に壺がおいてあるだけだ。地球でもトップレベルの清潔さを誇る日本生まれの勇者達にとっては、漸く一息つけたといったところだろう。


 さらに食事の質も段違いだった。米こそ自給には至っていないが、パンは酵母を使った柔らかなパンにパスタ、うどんにピザやパンケーキ等、小麦を原材料とした「主食」は充実し、調味料もほとんどのものが再現されていた。味噌や醤油の香りが漂うと、泣き崩れる者もいたほどだ。


 ちなみにラウラは皆が寝静まった頃に浴場を使っている。ラウラの容姿に中てられた一部の男子勇者達が覗きを決行しようとしたが、ユーリエが入り口で魔王の威圧を放っていたため、全て未遂に終わっている。


 別室を与えられていた前島と楓は、最初こそ、その部屋の快適さにかなりの高揚感を抱いていたが、落ち着くにつれて前島は楓の様子に違和感を感じていた。


「どうしたの、楓? 何か悩みでもあるの?」

「お姉ちゃん…」


 楓の表情は優れないが、体調不良と言う訳ではなさそうだ。前島はその真意を探ろうとするが、逆に楓に問いかけられる。


「お姉ちゃん、ラウラちゃんのこと、どう思う?」

「え? …確かにあの天使シャーリーさんは、あの時に東山君と一緒にいたけど、それだけでは確証がないわ」

「私は徹君だと思う」


 きっぱりと言い切る楓に、前島は調子を狂わせる。楓は時折、これまでの天然ぶりを全く見せない行動をとることがあった。それが顕著だったのは、ラウラが天使と戦った時だ。ラウラの指示に全く戸惑うことなく治癒魔法を使い、ラウラの魔法にも理解を示す。確かに彼女達の魔法は上達したが、普段の楓を知る前島としては、何か違和感を感じていた。


「どうしてそう思うの? 本人だっていう証拠は無いのよ?」

「ラウラちゃんの『目』を見たときに、昔の徹君そっくりの『目』だったの。あんな『目』、一度見たら絶対忘れない。壊れそうな自分を必死に隠そうとしてる、でも心の奥で必死に助けを求めてるような『目』。私は10年以上、ずっと徹君を見てたんだよ? そのくらいわかるよ」


 前島は言葉に詰まる。前島が徹と関わりを持ったのはこの召喚でのことが初めてだ。そういう意味では、前島も徹の表面だけしか見ていなかった。だからこそ、楓の言う、ラウラの『目』が徹と同じという言葉は重みがあった。


「でも、詳しいことは本人に聞かないとわからないんじゃない?」

「でも、私が知ってる『あの頃』の徹君なら、絶対隠すと思う。私でも見抜けるかどうかわからないほど上手に」


 前島としては、あの理性的な徹が、あんな傍若無人な振る舞いをするとは到底考えられなかった。残忍で、高圧的で、かつての徹と同一人物と言われて、はいそうですかと納得出来るものではない。


 楓は前島を諭すように言う。


「ねぇ、お姉ちゃん。私達が狙われてるのは確かだと思う。だってシャーリーさんが私達を庇う理由が見あたら無いから。徹君は私達を守るつもりだと思うけど、守られるはずの私達が誰も信じて無かったら、またあの時・・・・・みたいになっちゃう」


またあの時・・・・・…?)


 楓の言葉に違和感を感じるが、色々と考えることが多すぎる上に、普段と違う楓に押し切られてしまったため、指摘できずに終わってしまった。


「私は…まだ信じられないわ…一体こんな状況で、誰を信じればいいの?」


 前島の呟きに対して、楓はきっぱりと言い放つ。


「私は当然、ラウラちゃんを信じるよ。それが、今私達がしなくちゃいけない・・・・・・・・・ことなんだから」






 

 その頃、ラウラは地下研究室にて、参田と向き合っていた。参田の表情はまるで幻覚を見ているようで、うわ言のように何かを呟き続けている。


「てんし…ちから…くれた…てんし…」


 それを傍らで聞いていたラウラだが、その表情は優れない。


「何の手掛かりもない…こいつは捨て駒だってことか」


 参田に術をかけ、深層心理に残った情報を掻き集めようとしたが、まともな情報は残っていなかった。敵ながら、その手際の良さを忌々しく思うも、感心してしまった。


「これでは、まともな情報は得られませんね」


 尋問を手伝っていたユーリエも、落胆の色を隠せない。この方法を提案したのもユーリエであり、少しでも力になれればと思っていたのだが、ほとんど成果が無かったので気落ちしている。


「でも、とりあえず勇者をここに隔離するのは決定事項だ。ここなら天使が来てもすぐに判るだろう。ユーリエ、魔王城付近の種族にも気を配っておいてくれ。方法はお前に任せるよ」


 落ち込むユーリエに声をかける。ユーリエは役目を任されたことで、その目を輝かせている。


「はい! お任せください!」


 ユーリエの機嫌が直ったことを確認すると、参田にかけた術を解除し、睡眠状態にして研究室に隔離する。今の参田は力を持たない人間だが、大声で喚かれて周囲の人間に変な勘繰りをされるのも面倒だったからだ。


「それよりも問題は…先生にどう説明するかな…」


 実は、まだ前島に、本当は前島がラウラになるはずという事実を説明できていない。前島がどうなってしまうのかを予測できないのが、一番の理由だ。責任感の強い前島なら、自分が身代りになるくらいのことは平気で言い出すだろう。しかし、このままずるずると引き摺っていても、事態が好転するとは思えない。ラウラは考えながら、ユーリエと共に研究室を後にした。



「先生…楓…寝る前に…ちょっといいかな?」



 夕食の際、給仕のタイミングで2人に短く伝える。ラウラは自分の知る限りの事実を伝える覚悟を決めた。就寝前に2人を書斎に呼び出し、向かい合ってソファに座る。


 3人分の香茶の支度を整えたラウラは柔らかな薄緑の貫頭衣のような寝間着姿、前島と楓はベージュ色をした同様の寝間着姿だった。やや気まずい雰囲気の中、一口香茶を飲んで、喉を潤したラウラが口を開く。


「まず、先生は私のことを疑ってると思う。だからこそ、敢えてこの話を聞いてもらうんだが、まずこの名前に聞き覚えがあるかどうかだけ確認させてほしい」

「な、何かしら?」


 必死に動揺を隠そうとする前島にやや苦笑するが、すぐさま表情を戻し、慎重にその表情を観察しながら、その名前を口にする。


『蓼沼一樹』


「!!!!!!!」


 明らかに今までと違う反応を見せる前島。その動揺は明らかで、香茶のカップを取り落としそうになる。それを確認した上で、ラウラは話し始める。


「まず、今回の召喚が、天使への生贄ってことはシャーリーから聞いてると思う。問題なのは、誰がそれを行ったかなんだよ」


 動揺を隠せない前島をそのままにして、ラウラは続ける。


「今回の召喚、本当は前島先生が・・・・・ラウラになるはずだったんだよ」


 流石にこれには2人とも驚愕の表情だ。自分でも聞かされて驚いたのだから、当然と言えば当然だろう。


「それは、ある人物が召喚されたことに起因する。それは…佐々木だ」


 前島はようやくラウラの言おうとしてることに気付く。顔色は青白く変化している。



「佐々木一樹は偽名…本名は『蓼沼一樹タデヌマカズキ』、前島先生の関係者だった人物…。間違いないな?」

楓が…


読んでいただいてありがとうございます

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