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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第7章 森へ御招待
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ご招待

第7章のスタートです。

 デュメリリーの森の最深部、ラウラの屋敷で訓練に励む姿があった。ラミア姿のサラ(仮)と、魔王マオラムだ。


「駄目ですよ、もっと集中しないと。術式の構成は常に意識下に置きなさい。詠唱は短縮でもいいですが、最終的には無詠唱をマスターしてもらいます」

「は…はい…」


 中庭に張られた結界の中で、魔王マオラムこと、ユーリエが防御結界を張りながら、サラ(仮)の放つ魔法を相殺している。サラ(仮)はすでに、肩を大きく上下させているのに対して、ユーリエは汗ひとつかいていない。


「魔力は限界まで使いなさい。出し切ることで、魔力量の全体量を増やせます。それと並行して、術式の構成力を高めなさい。発動しなくてもいいです、いかに素早く、正確な術式を組めるかが戦術の要です」

「はぁはぁ…はい…わかりました…」


 ユーリエはラウラから、サラ(仮)の訓練の相手を頼まれていた。ユーリエの見立てでも、彼女は鍛えれば強くなる可能性があった。


「でも…ラミアの…身体で…意味が…あるの…?」


 サラ(仮)が、尤もな質問をする。


「ラミアは魔族なので、魔力の扱いはあなたより上です。ラミアの身体を使って、魔力の操作を感覚で覚えてください。元の身体に戻ったときに、違和感なく魔力を使えるように」

「でも…元の身体では魔力量が高くなかったはず…」


 ユーリエは、魔女帽子のつばを軽く上げると、その深紅の瞳で見つめながら言う。


「あなたの身体は、術式によって成長を止められていました。ラウラ様の施術によって、あなたの身体は相応の年齢に戻ろうとしています。それに伴い、魔力量の増加も見込まれます。だから、今の訓練は無駄ではありません。それに、魔力を扱うのは身体であるとともに魂でもあります。訓練で魂魄の強さを上げれば、それもまた魔力の強さにつながります」


 魔法の造詣についてはラウラも認めるユーリエの説明に、深く理解は出来ていないが納得するサラ(仮)。暫しの休憩をとっていると、急に玄関付近が騒がしくなった。ラウラの気配とともに、複数の知らない人間の気配がある。


 サラ(仮)がユーリエを見ると、先ほどの穏やかな表情は消え失せ、その瞳には凶悪なまでの殺意が宿る。もしラウラを害する者ならば、即処分・・することも辞さないという意志が、サラ(仮)にも明確に伝わる。


(流石に魔王を名乗ってるだけある…これほどの力を持ってるなんて…)


 膨れ上がるユーリエの魔力に少し怯えていると、ラウラの暢気な声が響く。


「おーい! サラ(仮)! お客さんだぞ! 少し多いから手伝ってくれ!」


 全く緊張感のないその声に、ユーリエも毒気を抜かれたような顔をしている。


「それじゃ、私は行きますね」


 サラ(仮)は急いでメイド服に着替えると、屋敷に戻っていった。ユーリエはいきなりやる事が無くなってしまったので、興味本位でついていった。





 裏口から屋敷に入り、玄関扉を中から開けると、そこには屋敷の主とシャーリー、20人ほどの少年少女達。一人だけ大人の女性がいる。


「勇者達を連れてきたぞ、しばらくうちで預かることにした。客間に寝具の用意をしておいてくれ、私は浴場を作り直す」

「わかったわ、みなさん、初めまして。当屋敷でメイドをしているサラといいます。よろしくお願いします」

「(仮)な?」

「わかってるわよ! こんなところで言わなくてもいいじゃない!」


 そんなやりとりを、勇者達が生温い目で見ていると、奥からユーリエがやってきた。ラウラがそれに気付くと、声をかける。


「ユーリエ、こいつらが例の勇者だ。しばらくうちで預かることになる。魔法について色々と教えてもらうかもしれんから紹介しておく。おい、お前ら、彼女はユーリエ=マオラムだ。この『森』で魔王をやってる」

「初めまして、みなさん。私がユーリエ=マオラムです。ラウラ様の忠実なしもべです。一応、魔王という職についています。ラウラ様を害する者は問答無用で殺しますから、くれぐれも余計な考えを持たないようにお願いします」


 魔王という、ファンタジー定番の単語にざわつく勇者達。まさか連れてこられた先で魔王を紹介されるとは誰が考えただろうか。しかし、物腰は柔らかいが、最後の言葉に込められた威圧に思わず足が竦む一同。やはり魔王なのだと実感させられた。


「それでは皆さん、こちらへどうぞ」


 勇者一同は、サラ(仮)に連れられて、屋敷の2階にある客間に向かう。ラウラは参田をシャーリーに任せて、浴室へ向かった。今の浴室はラウラ一人用なので、これだけいたら自分がいつ風呂に入れるかわからない。だから、いっそのこと浴場にしてしまえという考えだった。


 土魔法で浴室の壁を取り去ると、続けて巨大な箱状の建物を作る。明かり取りの天窓に、遠隔で起動できるライトの魔法具で照明代わりにする。床はきれいに均して傾斜を作り、排水設備を作る。浴槽は土魔法の応用で、土を圧縮して大理石のような岩に変化させて作った。もちろん、床も浴槽も滑り止め加工済みで、最後に脱衣場を作って完成だ。


 ちなみに、ラウラの浴室は、地下水を魔法具で暖めてから汲み上げている。魔大陸の特徴なのか、地下水に魔力が宿っているので、魔温泉と言われる泉質になっており、魔力回復効果があったりする。なので、ユーリエがちょくちょく風呂を借りに来ている。ラウラは今後、カーナを一大温泉地にしようかなんて考えていたりする。なお、排水は冷却して、庭園の植物に撒かれている。


「また随分と豪華な作りね」


 勇者を案内してきたサラ(仮)が、ラウラの作った浴場を見て、どこか諦めた表情をする。


「とりあえずはこんなもんだろ、後で個室の浴室をいくつか作れば、いつでも入れる。大浴場は時間で男女の切り替えだな」


 もはやホテルか旅館のようになりつつあるが、そんな知識の無いサラ(仮)は、ただただ呆れるばかりだ。


「ちゃんと指示通りに部屋割りしたわ、それと、あの2人はあなたの部屋の隣だけど、いいの?」


 あの2人とは、当然楓と前島のことだ。


「ああ、ちょっと訳ありでな。あの2人には特別に気を配らなければならないんだ」


 サラ(仮)には、天使の一件については話していない。彼女はルーセントの巫女なので、天使と敵対することに抵抗があるかもしれないからだ。2人を自室の隣にしたのは、襲撃に備えてのことで、2人がイレギュラーになれば、真っ先にその命を狙われる可能性が高い。その為にも、できるだけ自分の意識の届くところに置いておきたかった。



「さて…これからは戦いになるぞ?」



 真剣な表情で言うラウラに、サラ(仮)はその表情を固くする。ラウラが真剣に戦いを意識するなど、一体どこの国家と一戦交えるのか? そもそもこんな、常識の通じない化け物相手にどこの馬鹿が仕掛けるというのか。サラ(仮)は一言も発せずに、ラウラの言葉を待った。








「あれだけの人数分の食事だ、気合い入れて作らんと足りなくなるぞ」



 ラウラはいつも通りだった。


 

この章から、ヒロイン達にも動きがあります。


読んでいただいてありがとうございます。

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