勇者の処遇
「なあ、参田。お前はどうして欲しい? 助けてくれなんてのは却下だ、楓を殺そうとしたお前を生かしておく理由は無いんだよ。せめて死に方くらいは決めさせてやる。安楽死以外ならリクエストに応えるぞ?」
「いやだ…死にたくない…たすけて…」
参田はひたすら命乞いを繰り返すばかりで、会話が成り立たない。
「仕方ない、さっきは『火葬』だったから、今度は『鳥葬』なんか良さそうだ」
そんなことを呟いていると、楓と前島が近づいてくる。
「あの…本当に…徹君なの?」
「随分見た目が違うけど、本物なの?」
2人は未だに信じられないようで、訝しげな目を向けてくる。ラウラは2人に話しかける。
「見た目はこんなだけど、本物だ。こっちではもう東山徹の名前は使ってないんだ。ラウラ=デュメリリーとしての活動のほうが長いから」
「長いって? どういうこと、徹君?」
「ああ、私がアステールに来たのは200年前なんだ」
「「 200年? 」」
2人は想像をはるかに超えた答えに、目を白黒させていた。
「おい、逃げるな、参田。お前のことはまだ終わってないんだから」
隙を見て逃げようとした参田を拘束魔法で縛り付けると、首だけ出して土に埋める。改めて2人に向き合うラウラ。
「シャーリーから大方の話は聞いてると思うけど、私は召喚者から力を回収する役目を任されている。それと…天使の抹殺だ、あれは召喚者を食いつぶす寄生虫だ」
「どういうことなの? 詳しく説明してもらえないかしら」
ようやく再起動した前島が、何とか平静を保つ努力をしながら聞いてくる。楓はまだ呆けているようだ。
「徹君が…女の子で…200歳のお婆ちゃん…」
「その認識はとても間違ってるぞ、楓」
先ほどの聡明さが何処かに逃げてしまったような天然発言をする楓に苦笑いしながらも、「やはりこの幼馴染はこうじゃないと」と、安堵の笑みを浮かべるラウラ。
「さっきの先生の質問についてだけど、正直な話、ここでは危険だ。だから移動するんだが、兵士と村人はどうしたものか…」
「それなら一度、首都に戻ったほうがいいと思うわ。…亡くなった兵士さん達も手厚く葬ってあげないと…そのあたりを皇帝陛下にお願いしたいの」
「それなら…少し離れててくれ、この村を氷結しておく。これなら遺体が腐敗することも無いだろう」
即座に魔法で村を氷漬けにすると、その光景を見て、今まで以上に青褪める参田に吐き捨てるように言う。
「おい、参田、お前はとりあえず私が連れていく。その前にお前の力は回収するぞ? お前みたいのに力を持たせたら、何するかわからん」
ラウラが参田に手を翳すと、淡い光が滲み出てくる。それはラウラの持つポーチに吸い込まれていった。
「まず一人目か…漸くスタートだな…」
呆然とする参田を掘り出して担ぎあげると、2人の元へ急ぐ。
「シャーリーは先生を頼む、私は楓を連れて転移する。場所は…皇城の謁見の間だ」
「て、転移? そんなの大丈夫なの?」
「心配ありませんよ、空間に干渉する魔法ですから。貴女方も修行すれば習得できるかもしれませんよ?」
心配する前島とは対照的に…
「まさか徹君が女の子になるなんて…しかも凄く可愛いなんて反則だよ! でもこの姿で徹君って呼ぶのも変だから、ラウラちゃんって呼ぶね」
「…もう好きにしてくれ」
再会した喜びでテンションが高まったのか、違う方向で心配している楓。そんな楓も満更ではなさそうな表情のラウラ。
そして4人は参田を伴って、ティングレイに向かって消えていった。
ティングレイ皇城では、いきなり起こった事態に騒然となっていた。突如現れた勇者に付き添うのはあのラウラだ。しかも、兵士と村人も連れてきているという。さらに、参田による叛乱で大多数の兵士が死んだことも報告されたのも拍車をかけていた。
今、謁見の間において、皇帝と対話しているのはラウラだ。玉座の皇帝に対し、その肘掛に腰掛けて話すという、傍若無人な振る舞いをしていた。
「ほう、では参田を渡すつもりは無いと?」
「そういう訳じゃない。私はあいつから聞き出したいことがあるだけだ。それが終われば魔法の実験台にでもするつもりだったが、欲しいならくれてやるよ。処刑でも何でもすればいい」
皇帝は前島を見ると、口を開く。
「マエジマ、そなたはどうなのだ? 勇者の教育係なのだろう?」
前島は重々しく言葉を返す。
「本当のことを言えば、彼にはやり直してもらいたいです。ですが、彼のしたことでたくさんの人が亡くなりました。これは許されないことです。彼はラウラがいくつか尋問した後に、お引渡しいたします」
これはラウラと前島達が話し合って決めたことだった。参田には情状酌量の余地は無かった。いくら少年とはいえ、天使に唆されたとはいえ、参田のとった行動により、多数の兵士が蟷螂の魔物の餌食になったのだ。その結論には、他の生徒達にも異論は無かった。異論をあげようものなら、即座にラウラの威圧が飛んでくるので、怖くて口出しできなかった。
「それは処刑を認めるということか?」
「私個人の気持ちは、処刑には反対です。でも、彼はアステールの罪も無い人々を殺しました。ならばこちらの法にて処罰されるべきだと思います」
毅然と言い切る前島だが、その顔は蒼白だ。参田の暴走の兆しを見極められなかった自分への怒りや、佐々木への対処の遅れから生徒を犠牲にしてしまった後悔、他にも色々な感情がせめぎ合っているんだろう。
「ラウラよ、お前はそれで良いのか?」
「くどいぞ、お前。それから、勇者は私が預かる。お前達では、同様な事が起こっても対処出来ないだろう?」
「…わかった、好きにするがいい。『勇者召喚』などに関わったおかげで皇族の血筋断絶の危機だ」
「ちょっと待て…お前の所には召喚術式など無いだろう?」
皇帝が召喚について触れると、ラウラが食いつく。
「召喚はミレーネが主導で行っていた。何やら、天の啓示があったとかで…」
「やれやれ、全く碌なことをしない連中だ、本当に…」
頭痛を堪える仕草のラウラを皇帝が不思議そうに見ていた。何故勇者とこんなにも友好的なのかも気になった。つい先日、この場を荒らした人物とは思えなかった。
「何故それほどまで勇者に拘るのだ?」
「厳密に言えば、勇者を換ぶ為の手段を与えた奴を知りたいだけだ」
その答えに、より一層複雑な顔をする皇帝をそのままにして、ラウラ達は謁見の間を後にする。勇者達には移動の準備をさせ、その間にラウラが向かったのは佐々木が使っていた部屋だ。手がかりを探していると、そこで奇妙な感覚に陥る。
まるで自分の内側から誰かが見ているような感覚だが、不思議と違和感がない。ただ、異様なまでに不快な気分になる。さらに何かが流れ込んでくるような感覚…
「…これはヤバい!」
拳を自分の頬に向けて放つ。手加減なしの一撃により口内は蹂躙され、鉄の味が広がる。そのおかげか、先ほどの感覚は消えている。
「…今のは一体…これは早々に『森』に戻ったほうが良さそうだ」
特に目ぼしい手がかりを見つけることも出来なかったので、足早に待ち合わせ場所に向かう。すると、楓がラウラの頬の痣を見つけて慌てて近寄ってくる。
「ラウラちゃん!? どうしたの、その顔! もしかして転んだの?」
「転ぶって…まぁ似たようなものか」
「大丈夫? 痛くない? ラウラちゃんがいなくなったら、私嫌だよ」
甲斐甲斐しく世話を焼こうとしてくる楓に、懐かしい光景が脳裏に蘇る。それはまだ幼い頃の光景だった。
(あの頃もこんな感じだったな…懐かしい)
そんな2人を他所に、勇者達が集まってくる。前島が確認するとラウラの元にやってきた。
「これから何処に向かうの? 安全な場所なんてあるの?」
「私の屋敷に向かう。あの場所ならあいつらも手出しできない」
「ラウラちゃんのお家? 楽しみ~」
相変わらず暢気な楓とは対照的に、表情を強張らせる前島。
「あなたの屋敷がある場所って…」
「ああ、魔大陸だよ。デュメリリーの森にご招待だ」
ちなみに、魔法の強さは
初級<中級<上級<超級<神級<災厄級です。
これで第6章は終了です。次章より、ヒロイン達に動きがあります。
読んでいただいた方、誠にありがとうございます。