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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第6章 壊れていく者たち
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捧げるハイエルフさん

仕事が立て込んで、推敲が遅れました。

すみませんでした。

 シャーリーと天使は対峙する。前島には結界を頼み、自身も2人に結界を張る。

前島の結界が天使に通じるかどうか解らないが、そこに自分が上掛けすればそれなりの強度になるはず…との判断だ。


 それと同時に天使が仕掛ける。シャーリーは2人に余波が行かないように手刀の攻撃をいなしながら、改めて距離を取る。その頬には一筋の赤い線、完全に衝撃を殺しきれなかったのか、その表情に若干の焦りが生じる。


(力の制限がされていなければ問題ないのですが…なのにあちらは完全に制限無し…本当に何て理不尽なんでしょうか)


 シャーリーは即座に攻撃を諦め、防御に徹する。多重結界に魔力の盾シールドを重ねて耐える。


「本物の天使ってこの程度? 全然大したことないわ」


 攻撃を繰り返す天使を見て前島と楓は驚愕する。その容姿は黒髪黒目、自分達日本人にそっくりだった。それを察した天使は攻撃しながら2人に告げる。


「あんたたち日本人ね、私の力の糧になれるんだから感謝しなさい。同じ日本人として光栄に思いなさい」


 何の冗談か、それが2人の率直な感想だった。日本人が異世界で天使になって同じ日本人を攻撃している。何故そんなことをしているのか?


「それが今回の召喚の目的だからですよ」


 嵐のような攻撃に耐えながらも、2人に説明するシャーリー。


「勇者の力を取り込んで、己の力を強くするためだけに行われたんです。言い方を変えれば、貴方達はこの天使達を育てるエサにされる予定だったんです」

「予定じゃなくて、決定事項なんだけど」


 2人はその会話の内容に愕然とする。自分達は困ってる人たちのために召喚されたのだと思っていた。だが、実際はただのエサとしての召喚…。


「力が使えなくなったのもこっちの計画通りよ、『スキル』とか言って喜んじゃって馬鹿みたい」

「まさか…さっき力が使えない子達がいたのは…」


 楓は思い出した。確かに力が使えない者がいたことを。


「そう、私達がやったの。もうそんな力は使えないよ、なのにアンタ達が魔法を使えるのはどうしてなのかな?」


 天使がシャーリーの防御をすり抜けて2人に迫る。思わず目を閉じる2人だが、その攻撃は一向に来ない。恐る恐る目を開けると、そこには天使の手刀を自らの腹部に受けているシャーリーがいた。


「それは…貴方達が…頑張って…身に付けた…からですよ…」


 シャーリーが腹部から流血しながら、2人を賞賛する言葉を紡ぐ。


「シャーリーさん…」

「頑張るとか、馬鹿じゃないの? 他人から奪ったほうが早いじゃん」

「努力…する…ことを…否定した…あなたには…わかり…ません…」

「あー、うざい。いい加減に消えて」


 天使が残忍な笑みを見せてその手を振り上げる。狙いはシャーリーの首、しかしシャーリーは動ける状況ではない。動けばその攻撃を受けるのは背後の2人だからだ。


「どうやら…ここまで…でしょうか…」


 シャーリーはゆっくりその目を閉じる。しかし到来したのは斬首の攻撃ではなく、敬愛する主の声。


「2度も…させるかよ!」


 目を開ければそこには小柄なエルフの少女。天使の顔面に飛び蹴りを炸裂させると、軽快なステップでその場に着地する。


「大丈夫か? シャーリー」

「あなたは…ずるい…方ですね…こんな…劇的に…登場するなんて…泣いている…のですか?」


 ラウラの流す涙を怪訝そうな顔で見つめる。ラウラは微笑みながら返す。


「色々と事情があってな、まぁいずれ教えるよ」」

「本当…ですか? …まあ…いいです。格好いい…登場に…免じて…許します」

「…そんなことよりも、よくも3人を…覚悟は出来てるんだろうな?」


 顔面を押さえて立ち上がる天使に、涙を拭って笑顔を見せながら、宣言する。



「お仕置きの時間だ、クソ天使」


 どこかふっ切れたようなその笑顔は、シャーリーが今まで見た中で一番輝いていた。






 


「楓と先生は無事…あの天使は…あからさまに日本人だな?」

「はい…あれが『取り込まれた勇者』です…結構な使い手ですから…」

「気をつけろって? 当然だろ、もう首を落とされるなんて経験したくない」


 首をさすりながら、天使の動きを探る。


「何よ! 生き返るなんて聞いてない! 何なのよ!」


 その手に輝く剣を出現させると、正眼に構える…が、


「お前、剣なんか握ったことも無いくせに、そんなもの使っていいのか?」

「私は勇者だから、剣の『スキル』があるのよ、それじゃ死んで?」


 低空を高速飛行しながら剣を振りかぶる。数多の敵を分割してきたその剣技は、そのエルフも分割する……………はずだった。


―――― ぐしゃ ――――


 金属がひしゃげる音、そして顔を顰めながらラウラから距離を取る天使。


「痛い! 何したの!? 何で?」

「いちいち五月蠅いなぁ、少しは自分で考えるってことをしないのか、お前は?」

「う、うるさい!」


 明らかに動揺している天使。ラウラは大したことはしていない、剣を握る手をガントレットごと蹴り潰しただけだ。


「そんな力、反則でしょ! ずるいわよ!」

「お前らがそれを言うか…笑い話にもならないな。こんな奴に首を落とされたなんて…」

「…黒…歴史…ですね」

「シャーリー、お前のその無駄知識については一度話し合う必要があるな」

「無視するなぁ!」


 蚊帳の外に置かれていた天使が激昂し、それに伴い急激に魔力が上昇していく。


「もう頭にきた! もういい! お前らなんかいらない! 全部殺す!」


 整った顔を醜く歪め、怒りを露わにする。その魔力は禍々しく、清廉な印象の天使が放つ類のものではない。それをつまらなそうに見つめるラウラ。


「先生、シャーリーと協力して結界を張っておいてくれ、楓はシャーリーの治療を頼む。結界はシャーリーが上掛けしろ、治癒は中級程度で大丈夫だろ」

「え、ええ…」

「分かった!」


 戸惑う前島と対照的に元気良く応える楓。それを見たラウラは満足げに頷くと、改めて天使を睥睨する。


「お前…本当に餓鬼だな…ま、私も他人のこと言えた義理じゃないが。だが餓鬼だろうと何だろうとお前は此処では害悪でしかない。勇者にたかる羽虫のくせに偉そうにするな」

「あああああああっ! 絶対殺すぅぅっ!」


 もはや知性の欠片も見当たらない絶叫を上げて、魔法を放とうとして停止する。その顔には驚愕の表情を露わにし、何が起こったのか全く分かっていないようだった。


「…もしかして…術式のキャンセル?」

「お、良い線だな楓。だけどちょっと違う、今のは術式の割り込みだ」


 まさか楓からそんな高度な答えが返ってくると思わなかったラウラは驚きながらも、素直に楓に称賛を送ると、説明を始める。


「割り込み?」

「そうだ。あいつが使おうとしたのは火属性の超級魔法だろう、だから術式が完成される前に、基礎部分に私の術式を割り込ませたんだ。それによって全く違う術式になってしまったんだ」


 目線で天使を見るように合図する。それに従い天使を見ると、先ほどまでの魔力はどこにも見当たらない


「…お前…まさか…」

「お、やっと気付いたか? 今のは術式を違うものにして起動させた。発動した術式は『展開した魔力全てを魔石に変換する』術式だ。ここんところ魔石が足りなかったんでな、協力感謝する」


 嬉しそうに話すラウラの足元には、子供の頭くらいありそうな魔石が無数に転がっている。天使には最早、まともに飛ぶ為の魔力すら残っていない。おそらく、魔法で全員を殺してから、何らかの方法で回復するつもりだったのだろう、明らかな狼狽の表情が窺える。


「お前、私だけならともかく、楓と先生を狙ったな?」

「あ…い、いや…助けて…」

「あれだけ簡単に私を殺しておいて、今更命乞いなんて許されると思ってるのか?」

「わ、私は悪くない! あいつが…あいつらが…仲間にならなきゃ殺すって…」

「そうか…嫌だったのか…」

「そ、そうよ、じゃなきゃこんな事…」

(多分、これからこういう奴が相手になるんだよな…)


 うろたえながら弁明する天使を睥睨しながら、心の中で愚痴を零す。


「その割には随分楽しそうだったな? 糧になれて光栄…なんだろ?」

「あ…ああ…ゆ…許して…」


 泣きながら命乞いを繰り返す天使には一瞥もくれずに、拘束魔法で作られた鎖で絡め取ると、空中に固定する。磔台に固定された罪人の如き姿を確認した上で、詠唱・・を開始する。


『汝は唯一、汝は運命さだめ…』


 ラウラの詠唱を聞き、シャーリーが表情を変える。


「その詠唱は! …そうですか、あの方に…」


 

 その詠唱は捧げる為に唱えられるもの、捧げられるものは贄。それは勿論…


「いや! 何よこれ! 出してよ!」


 天使が半透明な箱に封じ込められ、鎖の拘束が解除される。そこに浮かび上がる魔法陣が輝きを放ち始める。


『汝が赦しを賜りし我が贄を捧げん ―――― 火葬クリメイション


 ラウラが無詠唱を多用するのは、臨機応変に対応するためと、無詠唱でも十分な威力の魔法を発動できるからだ。だが今は詠唱をしている。



 それは自らの主に呈する証明。


 

 敵となる天使、歯向かう召喚者は同郷の日本人だ、その容姿で命乞いをされれば、僅かながらも情に絆されてしまうかもしれない。だからこそ、全力で断ち切る。自身の油断が、優柔さが大事なものを失う原因にならないように。眼前の天使は、その為に捧げる生贄だ。


「たすけ……」


 全方位から放たれた業火に埋め尽くされて天使の姿が見えなくなる。高熱で喉を焼かれたのか、叫び声も途絶える。箱の中で悶えながら焼き尽くされていく天使、それを淡々と見守るラウラ。楓も前島も声を出すことができない。


「お前の行先は決まってる、機嫌が良ければ・・・・・・・転生くらいはできるだろう」


 未だ蠢き続ける物体に、そう声をかける。やがてその動きは緩慢になっていき、ついには動かなくなった。魔法を解除すると、そこには骨はおろか、灰の一つまみすら残っていない。


「さて、こっちは終わった…あとはお前だ…参田」


 ラウラは腰を抜かして失禁している参田に、晴れやかな顔で微笑みかけた。

ここしばらくは更新が不定期になるかもしれません。でも、できるだけ短期間の更新を目指します。


読んでいただいてありがとうございます。

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