表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第6章 壊れていく者たち
45/124

叱責と覚悟

「さて、まずは何から話しましょうか? あ、そうそう、貴方には御礼をいわなければならないわね、貴方のイレギュラーな行動のおかげで、奴らが尻尾を出し始めたんだから。まさか天使直々に手を下すなんて、今まででは有り得なかったわ」

「イレギュラー? 尻尾? まさか天使って…」


 ラウラは息をのむ。天使と言って思いつくのは佐々木達に持ち逃げを許した天使だ。


「そう、あいつらよ。相当焦ってるわ、見ていて滑稽だもの」



 朗らかに笑う少女は、ラウラに話し続ける。



「時間に制限があるから掻い摘んで説明するわ。まず、今回の召喚は、ある存在が仕組んだシナリオ通りに動く筈だったのよ。貴方達が召喚されたこと、説明を受けさせること、そして…態と力を偏らせたこと。あれは召喚者の持ち逃げなんかじゃない、天使に押し付けられたのよ」

「ちょっと待ってくれ、アンタもあの場所にいたんだろ? どうしてそんなに他人事なんだよ」

「今は詳しく言えないけど、私はあいつ・・・の半身のようなものよ。私はあいつを止めたい、いえ、消滅させたい。でも、それが出来ないの。時折繋がるリンクによって邪魔するくらいしか…」



 唇を噛む少女。ラウラは問いかける。



「それじゃ、あの質問に応えてくれたのはアンタなのか?」

「ええ、あなたがこちらの意図に気付いてくれたのは僥倖だったけど、あまりやりすぎる訳にもいかなかったから…」

あいつ・・・に見つかるからか?」

「ええ、そうなったら全てが強制終了よ。それだけはどうしても避けたかったの。だから、本来予定されていた配役を無理に替えてまで、その場を乱した。それによって、一時的だけどあいつらは先が読めなくなったわ。当然ね、シナリオが無視されはじめたんだから」



 ラウラは少女の言葉を反芻するが、解らないことが多すぎる。一体何のためにこのようなことが仕組まれたのか?



「この召喚の本当の目的はね、私の力を召喚者に与えて、その力をあいつ・・・が喰らうためだけに仕組まれたのよ。つまり、あなたたちはあいつのエサになる運命だったのよ」

「喰らう…エサ…そのために…」



 茫然とするラウラ。



「あいつは私の半身を取り込んだけど、私の力はそのまま取り込むことが出来なかったの。そこで、召喚した者に力を与えることで、私の力を消費したの。あとはその召喚者を…」


 俯く少女に、ラウラは問う。



「さっきシナリオって言ったよな? もしかして結末は…全員死亡か?」

「それに近いわ。あいつは気に入った者は仲間にする、だけどそうじゃない者は喰らうの。それから、あの場所にいた天使はシャーリー以外、皆あいつの仲間よ」



 とりあえず安心する。シャーリーまで敵の仲間だとしたらもう誰を信じていいのかすら解らない。



「あいつの作ったシナリオでは、ラウラになるのはあなたじゃなかった。シナリオでは前島悠子がラウラになる予定だったのよ」

「…何だと?」

「だって可笑しいと思わない? 何であなたの身体が女性なのよ。本当は別の女性がなるはずってすぐわかるでしょう? 私はあなたの質問に応えながら、あなたの思考を誘導した、あなたが最後になるようにね。でもそのおかげであいつを欺けた。やはりイレギュラーは想定していなかったのよ」



 少女はお茶を飲んで一息つく。



「それに気付いたのは、吟が来た時。吟の時は、本来ラウラになる予定の召喚者が勝手に順序を変えたから、仕方なく吟をラウラにした。でもそのせいで、あいつは仲間を増やしても、その力を喰らうことが出来なかった。無理矢理違う性別を身体に入れるという齟齬、そして好き勝手に動くという想定外、それがあいつらのシナリオから外れていったのよ」

「それじゃ、今回は…?」

「前島悠子なら大丈夫かと思ったけど、彼女は壊れかけであっても壊れてはいなかった。だから除外したの。あなたという、壊れた過去を持つ人間が現れたから…壊れた存在を確実に壊せるのは、同じく壊れた存在でなければならないの。正常な者が壊れた存在を壊すことは不可能だから」

「私の過去を…」

「そうよ、でもそれが今回は良かった。あなたの『食』に対する執着、敵への残虐性、身内への愛情、どれもがあいつのシナリオから外れた、だからここまで生き残れたのよ」



 ラウラの思考が纏まり始める。つまり、今回の召喚は、少女の半身を取り込んだ奴の仕組んだ茶番劇。結末は全員死亡、だが自分というイレギュラーがいるせいで台本通りに動かなくなったので、それを修正するために直接手を下した…。



「あいつはあなたを殺したい、喰らいたい。常に物事を想定外に導くあなたに存在してほしくない。でも、私はあなたを殺させない、どんな手段を使ってもね」

「…………」

「今回、あなたは死んだわ、それはもう見事なほどの油断でね、いつもなら用意している蘇生術式すら忘れてたんだから。でもあなたには身代わりがいるから大丈夫よ」

「身代わりって…誰だよ?」

「それは…数多の世界に散っていったラウラわたしよ。私はあいつに取り込まれる時、私の存在を分割されたの。そのうちのいくつかを違う世界に飛ばしたのよ、勿論リンクは残してね。それぞれの世界で自由に生活していた彼女らに、あなたの『死』を身代わりになってもらった。だからあなたは死なないのよ? どこかのあなたは死ぬけどね」



 いきなりラウラを襲う虚脱感。自分の中身が抜け落ちたような不快感に吐き気を催す。これが身代わりを使った代償とでもいうのだろうか。少女はラウラを睨みつけて声を荒げる。



「あなたは甘いの、激甘よ。だから召喚者にも手出しできなかったんでしょう? いくらでも力を回収するチャンスはあったはず。でもそれが出来なかったのは、クラスの人間だからでしょう? 本当はそこまで恨んでないから、殺すのに気が引けたんでしょう? だから無意識に手加減したのよ。そんな甘ちゃんの身代りになるラウラが可哀そうだとは思わないの? あなたは知らないだろうけど、既に召喚者の一人は死んでるわ、佐々木の手でね。ずるずると引き摺ってる間に、あいつのエサになったのよ」



 少女の叱責にラウラは動けなかった。確かに力を回収するチャンスはあった。だが、それには「殺して奪う」という手段になる可能性があったため、何となく自分を納得させて引き延ばした。それがクラスメイトの命を奪った。突き刺さる辛辣な言葉に涙が溢れる。



「それに、クラスメイトには躊躇うくせに、仕掛けてきた貴族やらには平気な顔で魔物をけしかけたり、一体何なの?」



 ただ俯いて涙を流すしか出来ないラウラ。



「でもね、これだけは評価してあげる。あなたが動いたおかげで、小さいけど違うイレギュラーが出てきたわ、それは…前島悠子と西川楓よ」

「 ? 」

「あの時、召喚者が貰った力ってのはダミーなの。最初こそその通りの力が使えてたけど、態々エサに刃向かう力を与える馬鹿はいないわ」

「それじゃ『スキル』とかは…」

「全部あいつが仕組んだ嘘よ。信憑性を持たせるために実際に力を使えるようにさせたりしたようだけど、そんな都合のいいものある訳ないじゃない」

「でも…先生は…楓は…」

「あの2人は今回の召喚で早々に脱落する予定だったのよ? それが今まで生き残って、独自に力を付け始めてる。それはあいつらのシナリオに無い展開、新たなイレギュラーになりつつある。このまま成長すれば、あいつらも無視できない存在になる…つまり、あいつらに狙われる可能性がより高くなるということ」



 少女は諭すように語り掛ける。



「今更言うことじゃないけど、覚悟を決めなさい。あいつらが直接手出ししてきた以上、どこにだって危険がある。それこそ『森』のほうが安全よ、『森』はあなたの力で出来た結界のようなものだから」



 ラウラはじっと少女の目を見る。やがて自嘲めいた笑みを浮かべて呟く。



「覚悟…か、確かに私にはそれが無かった。ラウラとしての覚悟はあっても、東山徹としての覚悟が無かった。本当は嫌だった…仲間を殺すかもしれないことが…。ラウラとして、『森』を守るという言い訳があるうちは平気だった。でも、力の回収が…どうしても………………でも、こうして悩む時間も無駄使いなんだろ? こうやって時間をつぶしたせいで…犠牲が出たんだ」



 ラウラは立ち上がる。流れ続ける涙は級友への贖罪か、それとも、遠い世界の自分ラウラへの謝罪か…



「分かったよ、あの2人は守るし、力の回収もする。でも、力を望まない奴は仕置きの対象外だ。でも、力に溺れた奴は…手段は選ばない。それと…仕置きの対象を増やす。天使は…絶対に潰す。こんなのでどうだ?」

「そう、今はそれでいいわ。いずれあなたとはまた会う必要があるのだから。その時にはもっと詳しい話が出来ると思う。役目を押し付けた私が言うことじゃないけど、その時まで死なないで。身代わりには限りがあるし、あなたは私の最後の希望なんだから。…そろそろタイムリミットみたい、向こうの身体は修復しておいたわ。それと、身代わりになったラウラの力も加えておいた。彼女達もこの戦いのことは知ってる。せめてその力、使ってあげてね…いずれあなたにも彼女達とリンクできるようになるわ…」



 少女はそう言うと、闇に溶け込んで消えていった。



 ラウラはそこで目が覚めた。そこでは天使と天使シャーリーの戦いが繰り広げられていた。シャーリーの劣勢は明らかで、楓と前島を庇っている。その腹部からは大量の出血があり、さらに天使の手刀がその首を狙う。



「2度も…させるかよ!」



 闇色の繭を突き破ったラウラの、渾身の飛び蹴りが天使の顔面を捉えていた。









読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ