明かされる真実
続けて投稿です。
ご注意ください。
ラウラの首が天使の手で刎ねられるところを、シャーリーは少し離れた場所から見ていた。しかしその表情に焦りの色は見られず、静かに一人呟く。
「やはり…あちらもかなり焦っているようですね、こんな強引な手段でラウラ様を陥れるとは。ですが心配は無用です、私は私の仕事をするだけです…その時のために…」
口元に笑みを見せるシャーリーは、己を天使の姿に戻し、行動を開始した。
「は、ははは、やったぞ、この化け物を倒したぞ!」
参田が勝利の感動に酔いしれながら、喜びを露わにする。最早潰された腕の痛みすら忘れるほどに興奮していた。
「よく来てくれたな、あんたに貰ったドラゴンが負けたときにはどうなるかと思ったが」
参田の発する、理解不能の単語に楓は不信感を抱くと、つい話しかけてしまった。
「貰った? 何を言ってるの? 」
「この天使に魔物を操る力とさっきのドラゴンを貰ったんだよ。蟷螂は自分で捕まえたけどな。おい、こいつは操れるのか?」
参田はラウラの死体を蹴る。
「それは無理ね、もう死んでるから。生きているものじゃなきゃ無理よ。さあ、さっさと勇者を操り人形にしなさい」
「ああ、わかってる」
楓も前島も思考が追いつかない。何故天使がここで参田に力を与えるのか? 自分達を操り人形にする意味は何なのか?分からないことが多すぎる。
そうしているうちに、参田がその手に小さな魔法陣を浮かび上がらせて近寄ってくる。おそらくあの魔法陣が、勇者を操る魔法なんだろう。恐怖で膝が震え、喉は乾ききって声が出ない。アレを使われれば、自分達は参田の、そしてあの天使の言いなりだ、それだけはなりたくない…
「お姉ちゃん…」
「楓…大丈夫よ、私が護るから」
参田の歩みが止まる、まるで見えない壁にぶつかったように…。前島は無詠唱で結界を張った、ラウラも認めた防御結界だ、参田如きが破れるものではない。それを見た天使が驚愕の声を上げる。
「何で魔法が使える!?」
その時、一瞬の閃光とともに、楓と前島の身体は参田から離れた、いや、引き剥がされた。それが何者かの手によるものだと解った時には、既に20メートル以上離されていた。
「それは困ります、楓さん達はラウラ様の大事なお方ですから。もし何かあれば私が叱られてしまいます」
楓の傍には見知った顔の天使。 あの時、徹の傍でうろたえていた天使だ。邪魔されて憤慨する参田に、冷ややかに言い放つ。
「私はシャーリー、ラウラ様にお仕えする者です。あまりふざけた真似はしないほうがいいですよ? 後で苦しむのは貴方なんですから」
「何だと? おい、天使なら早く力をくれよ! お前らの言うとおりにラウラをぶっ殺したんだからよ!」
(成る程、やはり相当焦っているのは確かですね…今、この愚か者を始末するのは容易いですが、今の私の仕事は楓さんたちの確保と時間つなぎです。ラウラ様は今頃、あの方に会われている頃でしょうから、お戻りになるまでここでお待ちすることにしましょう)
シャーリーは参田を一切無視して、己に与えられた役割を着実にこなしていく。この場にいる勇者達と生存者を全て回収すると、ラウラから預かった鞄に収納する。その作業をほんの数瞬で終えると、再び楓と前島の傍に立ち、2人を護る。
「あ、あの、天使さん…助けてくれて、ありがとうございます…」
「私のことはシャーリーと呼んでくだされば結構です。楓さん、前島さん、ある方の依頼にて、貴女方を保護しにきました」
おずおずと礼を言ってくる楓に、笑顔で返すシャーリー。楓は申し訳なさそうに続ける。
「私のせいで…ラウラさんが…すみません」
「ああ、そのことですか…心配いりません、あの方があんな愚物に殺されるなど有り得ませんから…ほら、見てください」
2人は言われるままにラウラの死体を見る。ラウラの死体だったものは泥の塊に変化し、その隣には小さな闇が蟠っていた。その変化に声を発しようとするが、シャーリーに止められる。
「それはいけません、向こうに知られると少々厄介ですから。あと、勝手に動かないでください、もし貴女方が殺されるようなことがあれば、ラウラ様は壊れてしまいます。ただでさえ、お2人が戦場に向かったと聞いただけで焦っていたくらい危うかったんですよ。…貴女方お2人は大事にされていたんですね…羨ましいです」
「え? 私達がラウラさんの大事な存在? どういうことですか?」
不思議そうに首を傾げる楓に、シャーリーは少し困った表情を見せながらも、諦めたように語った。
「ラウラ様は貴女方の探している東山徹さんです。彼はラウラ=デュメリリーの身体を借りてこちらに来たんです。そして…」
ちらりと参田を一瞥すると、再び2人に話し続ける。
「あのような愚かな者から、与えられた力を『回収』するための仕事をしています。もちろん、楓さんと前島さんは除外されていますが。そしておそらく…今回の召喚の裏にある真実を突き止めることになるでしょう」
その説明を受けても、2人の頭が正常に戻るにはまだまだ時間が必要だった。
ラウラは暗闇の中にいた。落とされたはずの首は綺麗につながっているらしいが、身体があるという実感が全く無かった。
「もしかして…これが死ぬってことなのか?」
(そう考えてもらっていいわ)
いきなり声が響く。周りを見回すが、暗闇の中なので何も見えない。すると、目の前の闇が蠢くような気配があった。それははっきりと視認できる状態にまで変化する。それは一枚の扉だった。何の変哲もないただの木製の扉だが、その奥から染み出してくる異常なまでに強い、だがその反面、とても懐かしさを感じる魔力に一瞬身構える。
(大丈夫よ、あなたに危害を加えるつもりはないわ。ただ、ちょっとだけお話したいの、向こうの時間ではほんの一瞬だから大丈夫、中に入ってきて)
ラウラは確信を得たかのような表情を浮かべると、扉を開けて中に入る。そこには向かい合うように設置された椅子と、小さなテーブルがあった。しかし、まだ誰も座っていない。
「どうぞ、座って寛いで」
「…やっぱりあんただったのか、『声の主』さん。どういうことか、きっちり説明してくれるんだよな?」
声が着席を促すと、ラウラは警戒を解かぬまま椅子に座る。暫くすると、奥のほうに蟠っていた闇からティーセットを持った一人の少女が現れた。ラウラはその姿を見て絶句する。
――― 奥から現れたのは、自分自身にそっくりな少女だった。
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