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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第6章 壊れていく者たち
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ラウラの失敗

少々短めです

ラウラは焦っていた、冷静な思考が出来ていなかった。今この場に於いて、何が最善の行動か、いつものラウラなら最優先に考えていた。


 今、ラウラの頭の中には2人の救出しか無かった。


 気配を探ると、前島は村の外れにいた。大勢いるのは村人や負傷した兵士で、彼女は魔物から皆を守るように結界を張っていた。その強度はラウラをして感嘆の声を上げるものだった。


「先生、上達したな。あれなら防御に関してだけなら『森』の中位魔物の攻撃くらいなら防げそうだ」


 一瞬表情を緩めるが、再び緊張感を漲らせる。楓の無事を直接確認するまでは安心できない。ラウラは前島の前に降り立つと、魔物と相対する。はっきり言って雑魚に等しい魔物だったが、違和感を感じる。


 それはこの魔物の生息域がかなり離れていることと、召喚されたであろうことを証明する、召喚術師の魔力の匂いを感じ取ったからだ。その匂いはラウラも知る匂いだった。その表情が険しくなり、圧倒的な威圧が放たれる。


 大鬼蟷螂はただそれだけでその生命活動を停止し、死骸になった。


「後は任せる。私は楓の元に向かう」


 そう言い残し、ラウラは村の中央へ飛んで行く。その姿を見送った前島は、辺りに危険が無いのを確認すると、村の中央へ向かって走り出した。



 ラウラがその光景を見たとき、全身が凍りつく思いだった。楓が勇者達を守っている、その相手は参田だ。血に塗れた剣を突きつけて、嫌らしい笑みを浮かべてその手を楓に伸ばしている。


大事なものを奪われるという恐怖がラウラを狂わせる。その存在を一切隠そうとせずに降り立つと、楓を亡き者にしようとする参田の腕を掴み、力のままに握り潰した。


激痛に絶叫する参田を睨みつけると、いつもの話し方すら忘れて吐き捨てる。



「楓にふざけた真似してんじゃねえよ、屑が」




背後で楓が小さくラウラの名を呼ぶ声が聞こえる。ラウラは参田が泡をを吹いて失神するのを見ると、振り向いて楓に声をかけた。


「楓、無事か? 助けに来たぞ。前島先生と一緒に行こう。こんな危険な場所から離れよう」

「え? あの? ラウラさん…がどうして私達のことを?」


 楓は混乱していた。当然だろう、楓とラウラには直接の接点は無い。皇城での会話以外、全くの他人と言っても過言ではない。こんな事にすら気付かないほど、ラウラは焦っていた。漸くそのことに気付いたラウラは、どうやって本当のことを切り出そうかと思い悩む。


「もしかして、徹君に頼まれたんですか? 私達のことを…?」


 意外にも切欠は楓が作ってくれた。楓は、徹がラウラに救出を頼んだのだと思っている。ならばそこに乗って窮地を乗り切ることにした。最優先されるのは楓と前島の無事だ。


「あ、ああ、そうだ。私はあいつに頼まれたからな。もうすぐ前島もここに来る」

「本当ですか? 無事なんですか?」

「ああ、魔物は私が始末したから安心していいぞ」


 ほっと安心の息を吐く楓。そこへ参田が復活してきた。


「何すんだよ、てめえ! 俺を誰だとぶへっ!」

「お前なぞに何の興味も無い。鬱陶しいから近寄るな、死にたいならそう言え。さっさと殺してやるから」


 参田の言葉を終まで聞くことなく、ラウラの拳が参田の顔面を捉える。鼻血と涎を撒き散らしながら転がる参田。その表情が恥辱により真っ赤に染まる。


「ふざけるなよ! おい、蟷螂! こいつをやっちまえ! 」


 しかし、蟷螂は現れない。先ほどラウラに駆除されている。


「もう出し物はお終いか? もう少しまともに頭使えよ」


 ラウラの挑発に、参田は腕と顔の痛みに耐えながらも、腐った笑みを浮かべている。


「お前、強いんだろ? ならこいつに勝てるのか?」


 参田の前に魔法陣が現れる。そこから現れたのは一頭のドラゴン、焔の如き朱の鱗を持つその巨体、レッドドラゴンだった。参田は勝ち誇る。


「ははははは! どうだ、ドラゴンだぞ! お前なんかに勝てるものか!」


 複雑な表情で頭を掻くラウラ。どうしようか本気で悩む。レッドドラゴンなど、『森』では「火を吹くトカゲ」程度の認識でしかない。それこそカーナの町の上級冒険者でも討伐できてしまう。

 

 しかし、その悩みもすぐに吹き飛ぶ。ドラゴンがこちらに向かってくる前島を標的にしたからだ。すぐさま魔法を構築し、解放する。


 術式は土と木。地中より突出した高硬度の岩の槍は、ラウラの魔力でコーティングされ、金剛石の如き硬度を持っていた。


 岩の槍がドラゴンの腹部を抉ると、続いて発動するのは木の術式。それはドラゴンの体内で芽吹くと、血肉を糧にして急速に成長を始める。やがてドラゴンは身体中から蔦のような植物を繁茂させると、蔦とともに干からびていった。


「何で…ドラゴンだぞ…それを無詠唱で…」


 参田は自信を持って送り出したドラゴンが、全く歯が立たないことに愕然としている。ドラゴンの死骸すら確認せず、ラウラは参田に向き合う。


「おい、もう打ち止めかよ、つまらない奴」


 参田は蹲り、現実逃避するかのように何かをぶつぶつと呟いていた。それを見たラウラは、もう安心だとばかりに背後の楓を確認しようとして、首に違和感を感じた。やがてその視点は激しく回転し、やけに低い位置で漸く止まる。その視界には…鮮血にその身を染め上げた天使が映っていた……やがてラウラの意識は暗転した。





 ラウラは天使に首を刎ねられていた。



これで終わり…ではありません。


読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

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