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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第5章 森の日常?
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魔王と魔女とハイエルフさん

 それは200年前に遡る。シャーリーが「ラウラの封印」という偽情報をカーナの町に摺りこんでいる時のことだった。カーナの町を臨む丘の上にシャーリーの姿があった。


「さて、これはラウラ様が私に下さった初めての任務です。絶対に失敗してはいけません。私の持てる全ての力を使ってでも成功させるのです」


 これから行う呪法は偽の記憶を書き込む呪法だ。カーナの町の住民全てに、偽の記憶を共通認識として書き込まなければならない。ましてや心酔するラウラから初めて任された仕事である。当然のことながら、彼女はなんとしてでも成功させるつもりだった。だから、当然の如く出してしまったのだ。




 天使としての全力を。




 アステールに滞在するため、その力はかなりの制約を受けている。しかし、天使の力の制約を受けた状態でもアステールでは上位に位置するほどの能力を持っている。性格、というか性癖はかなりアレだが、実力だけ・・を見れば、大変有能な天使だ。


 その彼女が、現在持てる限りの力を全て使った呪法。成功しないはずがない。そして、カーナの町を覆うシャーリーの呪法。呪法は成功した…カーナに限って・・・・・・・は。


 シャーリーの放った呪法はカーナの町を覆うだけに留まらず、さらなる広がりを見せていった。それはどんどん広がりを見せ、デュメリリーの森を覆い、挙句には魔大陸全てとその周辺海域にまで広がった。


 勿論、ラウラや吟はその呪式を組んだ本人なので、一切効き目は無かった。しかし、効果の及んだ地域の全ての存在に偽の記憶が書き込まれてしまった。さらには、その記憶を書き込まれた者が移動した際に、接触した者にまで情報が書き込まれるという、ある意味でパンデミックのような状態になっていった。そのおかげで、ラウラの恐怖が世界中に植えつけられていった。


 そして、魔大陸に偽情報に踊らされる者がいた。それが魔王だ。魔王は過去にラウラに挑み、徹底的にボコられて半泣きで城に逃げ帰るという失態を見せていた。元々はラウラのお情けで城を作ってもらい、そこを間借りしていただけなんだが、『森』で多少鍛えて強さに自信を持ってしまったため、挑んでしまった。


 そんな彼にとって、ラウラ封印の知らせは朗報だった。たしかにラウラの屋敷周辺には広範囲の結界がある。実は徹の修行を感知させないためのものだが、魔王にはそんな内情は分からない。ただ、その結界にラウラが閉じ込められているという事実があるだけだ。


 魔王は狂喜した。これで邪魔者はいない、自由気儘に行動できる。これまでは何か悪さをすれば確実に〆られていたが、もうそんなことに怯える必要は無い。だから、羽目を外してしまった。周囲の森の種族達を弾圧し、殺し、犯し、嬲った。やがて彼は名実ともに魔王として『森』の一部に名を轟かせた。


 何故、『森』の一部なのか? それは、森の奥にはラウラほど出鱈目ではないが、それでも自分よりもはるかに強い者が闊歩しているのだ。だから『森』の一部だけしか支配できない。…とんでもない器の小ささだ。



 そして、また一人、偽情報に踊らされた者がいた。その名はユーリエ=マオラム。各地を流浪し、『森』の中ほどで小さな庵を作って自給自足の生活をしていた。


 彼女は「魔女」だった。様々な魔術、呪術に長けた魔族だ。実は「魔女」は特定の種族を指し示すものではない。魔術、呪術、治癒術、所謂法術と呼ばれる技術に長けた者全般を表す。故にその外見は一般的なイメージの魔女とは異なっていることが多い。彼女もそのうちの一人だった。


 彼女の頭部には角があり、その背には蝙蝠のような翼、さらには尾骶骨から伸びる細くてしなやかな尻尾。彼女は魔族の中でも、アステールにはもう存在しないと言われていた「悪魔族」の生き残りだ。


 悪魔族は、その如何にもな外見からあらゆる種族に忌避され、迫害されてその数を減らしていった。しかし、その実態は、闘争を嫌い、高い魔力で周辺の環境を整えるという、恐ろしさの欠片もない、「いい人達」だった。その種族名さえ、「その外見、なんか悪そうじゃね?」といったイメージだけで付けられてしまったほどだ。


 それ故に生き残った彼女は自身の安住の地を求めて『森』に入り、己の力でそこに居住していた。『森』ならば、力を示せば迫害されることなど無いのだから。


 迫害された過去を持つ彼女が、ラウラが魔族や他の種族を迫害から救ったという記憶を植え付けられればどうなるか……当然の如く、ラウラを神の如く崇拝する者が誕生する。


 そして彼女、ユーリエ=マオラムは知ってしまう。かつてラウラが救った種族を弾圧し、殺し、犯し、嬲る存在がいることを。そしてそれが「魔族」である魔王だということを。


 彼女は激怒する。新雪のような目映さを持つ白髪を逆立て、その真紅の瞳には憤怒の炎が宿る。白磁のような肌は薄く桃色に紅潮し、高められた妖艶さはまだ何処と無く少女の面影残しつつも女性らしさを強調するその肢体を際立たせる。

 

 本来なら闘争など毛嫌いする種族のはずが、彼女は単身魔王城に攻め込むという行動をとった。彼女にとってラウラは神であり、神が救った種族を迫害する者は即ち「神敵」だ。


 元々、魔王城よりも『森』の奥で生活していた彼女の強さは魔王軍を上回っており、魔王軍は悉く魔法の餌食になった。肉弾戦を挑む者もいたが、その全てが討ち死にした。


 彼女は魔女として様々な研究をしており、フィールドワークで『森』を歩き回っていたため、その身体能力も鍛え上げられていた。こうして、魔王は一人の魔女に殺され、魔王軍は壊滅した。


 気付くと、彼女は一人、魔王城の玉座にいた。しかしそこには何の実感も無い。自分は神に仇名す敵を葬っただけ、そんな感情しか無かった。しかし、魔王に迫害された者は彼女に感謝した。涙ながらに礼を言い、彼女を賞賛した。



 だが、彼女はここでひとつミスを犯した。



 魔王城に攻め込んだ彼女の格好は、尻尾を隠すための緩めの漆黒のローブ、翼を隠すための漆黒のマント、角を隠すための大きな漆黒の魔女帽子。そう、魔女だ。人々は魔女である彼女を称え、新たな魔王と呼び始める。


 彼女は自分が悪魔族であることを言い出せなかった。もしそれを打ち明けていたらどうなっただろうか。彼女の迫害された記憶はその予想を悉く悪い方向に修正していく。そして打ち明けられないまま時は過ぎる。最早、魔女装束を人前で脱ぐことは許されなくなった。そして、人々は彼女のことをこう呼ぶようになった。「魔女魔王マオラム」と…。






 今、魔王城の応接間にて、ユーリエ=マオラムは震えていた。しかしそれは恐怖ではない。その瞳は尊敬を超えて恋する乙女のそれに近くなっている。顔は紅潮し、その心臓は早鐘のように鳴っている。何度となく頬を抓って夢かどうかを確認するが、しっかりと痛みがある。抓りすぎて若干頬が腫れていたりもする。何故、彼女がそんな状態に陥っているのか?


 それは、応接間のテーブルを挟んだ向かい側にいる人物が原因だった。



 そこには、微笑みながらお茶を味わうハイエルフ、ラウラ=デュメリリーが座っていたからだ。

また新しい住人が…

もうそろそろ、下衆い奴を出したいですね

読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

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