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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第5章 森の日常?
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日々の鍛錬

 ラウラの屋敷から少し『森』を奥に進むと、巨大な木がそびえる場所がある。大樹の数は12本、円を描くように並んでいる。描かれた円の中心に佇む一人のエルフの少女。


 辺りはまだ暗く、夜明けまでは暫し間がある。夜の住人達は塒へと戻り始める頃だ。

そんな中、濃緑のローブを纏った少女は瞳を閉じて自身の魔力を高める。


 濃密な魔力が漂うこの『森』において、この場所の魔力はさらに高い。だがそれすらも霞むほどの魔力の高まりが生じる。少女を中心に、その魔力はさらなる上昇を見せる。その高まりは明らかに異常、常人ならば此処まで高めることすら不可能、『森』の上位の魔物ですら到底及ぶことは出来ないだろう。


 その魔力はやがて足元から土に浸透していく。土を媒介として巨木の根へと伝わり、巨木は魔力を吸い上げる。己の内に満ちてゆく力に打ち震えるが如く、その葉を、その木立を揺らす。

 木々のざわめきに促されるように、少女はさらに魔力を流す。その光景はまるで、空腹の為に必死に鳴く雛鳥に食事を与える親鳥のようでもあった。暫くそれを続けると、少女は満足した表情で魔力の供給を止める。その顔には珠のような汗が光る。


 少女は徐にその身に纏ったローブを脱ぐ。その下から現れたのは、その細い身体にフィットするような、鮮やかな黄色の着衣。身体のサイドに黒のライン。あの有名なトラックスーツだ。と同時に、少女の前に現れる光の塊。その塊は徐々に大きくなり、何かを象る。


 そこに現れたのは光を纏ったドラゴン。少女に向けて、眼光鋭く威圧を放つ。


 互いが動くのはほぼ同時。ドラゴンはその巨木のような尾を横薙ぎに振る。少女はその尾を身体を沈めてかわすと、驚異的な鋭さの踏み込みでドラゴンに肉迫する。まずは一打、右の掌打を膝に打ち込む。その衝撃はドラゴンの硬い鱗を浸透し、関節内部を破壊する。苦痛に喘ぐもその巨体を支えることが出来ず、体勢を崩すが、ドラゴンも反撃する。


 体内の竜気をその喉に集中させる。殺息ブレスの予兆で、既にその口元からは強烈なエネルギーの迸りが見て取れる。少女は口元にうっすらと笑みを見せると、ドラゴン目がけてダッシュする。しかし、体勢が崩れたとはいえ、ドラゴンの頭部はまだかなり高い位置にある。それを理解しているのか、ドラゴンは接近してくる少女には構わずに殺息の溜め・・に入る。


 少女はドラゴンに向けて跳躍する。だが低い。頭部には到底届かない。それを見て己の勝利を確信したかのような目をするドラゴン。そして少女は着地する。先ほど砕いた膝に・・・・・・・


 さらなる激痛に苦悶の表情を見せるドラゴン。しかし少女は止まらない。着地した膝を足場にして再び跳躍する。目標は、殺息の溜めを行っているその喉。最もエネルギーの集まるその箇所を寸分違わずに蹴り上げる。喉を潰されたため、叫ぶことすら許されずに暴れるドラゴン。その時既に少女はその頭部に乗っていた。


 後頭部に位置取り、息を整える。


「はっ!」


 裂帛の気合と共に放たれる掌打はその衝撃を余すところなくドラゴンの頭蓋を貫通する。衝撃はその脳をこれでもかと蹂躙する。目、鼻、耳、口の至る所から鮮血を噴出し、その目からは生命の輝きが急速に消え、ついにはその巨体は地に伏した。少女は軽やかに着地すると、額の汗を拭う。ドラゴンは光の塊に戻り、周囲の巨木に吸い込まれるように消えていった。少女はそれを見届けると、満足した表情でそこから立ち去った。



 巨木から少し離れた場所にある泉で、その少女は水浴びをしていた。まだ成長途中のような未成熟な身体を朝陽に晒し、かいた汗を流していく。その心地よさに顔を綻ばせている。


 その様子を木陰から窺う存在があった。それは先ほどの戦いからずっと少女に付きまとっていた。付かず離れずの距離を保ちながら、まるで観察するかのような行動だった。


「はあはあ…最高です…」


 そんな呟きを漏らしながら、視線は常に少女の裸体に照準を合わせている。時折その目線は舐めるように少女の全身を移動している。荒い息を吐きながら、その身を捩りつつ視線を送るその姿は、真っ当な精神の持ち主ならばこう思うだろう。


……変態だ、と。


 やがて少女が水浴びを終えると、その変態は何食わぬ顔で少女の前に現れた。徐に懐から何かを取り出して少女に渡した。


「バスタオルと替えの下着です。ラウラ様」

「…ずっと覗いてただろう? 気付かないと思ってたのか? シャーリー」

「な、なな、何を仰ってるんですか? 私はそんなことしていませんよ? もう少し胸があれば尚可! とか、揉んだら大きくなるかも! とか、全然思ってませんよ? ていうかその胸を揉むのは私です。誰かが揉もうとするならその者は我が最大の敵となるでしょう!」

「格好いい台詞で締めてるけど、私の胸は私のものだ。何でお前に揉まれなきゃいけないんだよ。この変態め!」


 苦々しい表情を浮かべながら、下着を受け取るラウラ。それを広げて思わず膝をつく。


「何だよ、この下着は! ほとんど紐じゃないか! しかも紫って! お前は私をどの方向に進ませるつもりなんだ! 下着は自分で持ってきてるからそれを履く!」


 丸めて投げ返すラウラ。木陰に置いてあった、自身の着替えを身に付け始める。


「ああ~! そんな色気の欠片もない下着を! これでは私の『美少女エロエルフ計画』、通称『エロフ計画』が!」

「そんな計画、企画段階で没にしとけ!」


 がっくりと肩を落とすシャーリーを放置して、ラウラは屋敷に戻る。書斎に戻り、ローブを衣類掛けに掛けると、漸く通常営業のシャーリーが戻ってきた。サラ(仮)も一緒だ。


「随分と朝早くから出掛けてたわね」


 サラ(仮)もラウラの外出には気付いてたようだ。


「ちょっとばかり、朝の修練をな」

「とんでもない量の魔力があったけど、もしかしてあんたが?」

「ああ、精霊樹達に魔力を供給して、空になりかけたところで精霊樹の創った魔力体のドラゴンと素手で戦った」

「ちょ、何よそれ、精霊樹?」

「ああ、この屋敷より奥にいったところに12本生えてる」

「12本に魔力供給ってあんた…それに魔力切れの状態でドラゴンを素手で…規格外すぎるでしょ! それに魔力切れからどうやって復活したのよ?」

「いつの間にか戻ってた」

「そんなことあるわけないでしょう! 出来るとしてもアンタだけよ!」

「そうか? 昔からやってるから気にしたことは無いな」

「しかも精霊樹が12本もあるなんて…1本あればその周辺は庇護の下、護られるって聞いたことはあるけど…」

「そうですよ、この大陸は12本の精霊樹の庇護があるからこそ安泰なんです。その精霊樹に力を与えるラウラ様こそがこの大陸の絶対君主なのです!」


 そういって胸を張るシャーリー。ほとんど起伏の見当たらない胸を。


「そういえばシャーリーさんは何を?」

「私は目の保養に」


 サラ(仮)は若干引いている。しかも目つきが変わっている。それはまるで汚物を見るような目だ。何故なら、シャーリーが手にしているのは先ほどの『紫の紐下着』だったからだ。こんなものを持つ者の「目の保養」がどういう内容のものか、何となく判ってしまった。


「頼むから、ココにはこういうことを覚えさせないでくれよ?」

「私の心配もしてよ!」


 ラウラは確かに危険だが、此処には違う意味でかなり危険な存在がいることを漸く理解したサラ(仮)は、その危険の矛先が自分に向かないように、毎日欠かさずに朝の勤行を行うようにした。しかし、その一生懸命な姿がシャーリーの琴線に触れてしまうことになるとは、誰も思っていなかった。






「しかし、あのラミアの娘はなかなかですね。あの蛇の体がラウラ様に絡む…何というご褒美でしょうか…」


 妄想に悶えるシャーリーを止められる者はいなかった。気持ち悪くて近寄れなかったため、皆が完全放置していただけだった。ただ流れ落ちる鼻血が、真紅の池を作っていた。













読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

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