ラミアの村
ちょっと短め
自分の畑に感激しまくりのメアリを一旦屋敷に残し、ラウラとサラ(仮)は再び森を歩いていた。竜たちの棲家に挨拶に行くつもりだったのだが、『子供が泣く』とか『老体の竜が危険』とか色々と理由をつけられて断られてしまった。
「アンタ、嫌われてるんじゃないの?」
「それは否定しないよ。『森』に居る奴が皆私に好意的だなんて、気持ち悪いだろう。むしろ私に対抗するくらいの気概の奴が出てきてくれれば嬉しい」
「寝首かかれてもいいの?」
「やれるものならな」
そんな話をしながら『森』を歩く。勿論、時折転移も使っている。サラ(仮)に転移の感覚に慣れてもらう為でもある。すると、前方に集落が見えてきた。そこにはたくさんのラミアが暮らしていた。
「よう、長老いるか?」
まるで馴染みの居酒屋に寄るような気楽さで長老の自宅に入る。すると、ラミアの長老が畏まりながら挨拶してきた。
「これはラウラ様、どのような御用件で?」
「ココの状態を見せにきた。体は問題ないが精神が伴ってない。今は代わりの魂を入れている。魂からの呼び掛けに応えてくれればいいんだが」
「すみません、ありがとうございます」
深々と頭を下げるラミアの長老。すると、サラがあることに気付く。
「ここって、女性しかいないの?」
「ラミアは女性種しか生まれない。いくら男性と交わってもだ。ラミアの因子が強いせいだろうな」
「じゃあ、どうやって子供を?」
「行きずりの相手ってのが多いな。あとはカーナの娼館で働いてるのもいるな。別にそういうのを否定するつもりは無いぞ。彼女達はそこで子供が出来ても自分達で育てるし、それで相手を強請ったりもしない」
「いまいち納得できないけど…わかったわ」
「あの…よろしいでしょうか?」
ラミアの長老がおずおずと話に割り込んでくる。
「実はココのことなんですが…育てる者がいないのです」
「あー、そういう問題があったか…」
「どういうこと? ここで育てられないってこと?」
「はい…非常に心苦しいのですが…」
「先立つものが無いってことだろ? 少しは改善したかと思ったんだがな…」
「すみません…習性みたいなものですから…」
「習性ってどういうことなの?」
意味がわからないといった感じで聞いてくるサラ(仮)。
「あのな、ここのラミアはどういうわけか、男に貢ぐ性格が多いんだよ。せっかく娼館とかで稼いでも、その客に貢いでしまうからな。だからこの村では個人が食いつないでいくのがやっとなんだよ」
「貢ぎ癖があるって…それじゃ行きずりの相手ってのは?」
「大体は迷い込んだ冒険者だが、そいつらにも貢ぐから冒険者が居付いて困るんだよ。しかもここのラミアは異様なほどに惚れっぽいから余計に困る」
ラウラは窓から外を見ると、忌々しげに怒鳴る。
「そこのお前! こんな昼からだらだらしてるんじゃない! 冒険者なら冒険しろよ! こんなところで何の冒険するんだよ! 何を見つけるんだよ! 女体の神秘とかぬかしたらただじゃおかないからな!」
「あの…すみません…あれは私が…」
「いくら貢ぐのが習性だからってあれは無いだろう! ギルドランクEってほぼ初心者じゃないか! せめてもうちょっと有能なのにしろよ!」
「そんな! 彼には私がいないと駄目なんです!」
「ヒモを養う薄幸のOLみたいなこというなよ!」
「そんな…それほどでも…」
「褒めてねーよ!」
「はあ…すみません…」
申し訳なさそうにぽりぽりと頭を掻く長老。そんな長老も見た目は20代後半の妙齢な美人だ。彼女もお腹が大きい。無計画もいいところだ。
「それじゃ、うちで面倒見ればいいじゃない」
いい案を思いついたという感じで言うサラ(仮)にラウラの叱責が飛ぶ。
「お前、勝手にそんなこと言うな。屋敷のまわりがどれほど危険かわかってるのか? お前だって独りで歩くことも出来ないくせに」
「なら私が強くなればいいんでしょ? どんな修行にも耐えてみせるわ! それにこの子はもう家族がいないんでしょ? 身体を借りてる御礼じゃないけど、それくらいはしないと…」
ラウラは暫し考え込む。実はココを引き取ることについては考えてはいたのだが、あまり力の無い者を屋敷に入れると、屋敷から一歩も出せない状態になってしまう。常にラウラやシャーリーが同行できるわけでもない。
メアリのように古代竜のような上位存在に、方向は違えど力を認められた者は攻撃されることは無い上に、メアリはラウラがスカウトしてきた存在だ。そんな者を害すれば、その後に自分を待ちうける結末がどんなものになるかなど、この森に棲む者であれば馬鹿でも解ることだ。そんなことも解らない馬鹿ならばとっくに淘汰されている。
だが、サラ(仮)が本体に戻り、森でもそれなりに動ける程になれば、ココの護衛として付けることも出来る。場合によってはココも一緒に鍛えてやればいい。
「わかったよ。お前達には何か魔法具を作って渡す。流石に強くなるまでずっと屋敷の中ってわけにもいかんだろう」
溜息まじりにぼやくラウラ。「また実験室に籠るか」などと呟いている。
「ありがとう、ラウラ。ココは私に任せて。きっと呼び覚ましてみせるから」
その晴々とした表情に、やや苛つくラウラ。
「それから、ココに貢ぎ癖がついたらお前の責任だからな。あんな風にならないように教育しろよ」
「まだ初潮もない私にそんな事わからないわよ」
「こんな時だけ子供に戻るな!」
(うふふふ…)
「あれ? 今、もしかして…」
サラ(仮)が自分の中にあるもうひとつの感情に気付く。
「そうか…やっぱり楽しいことのほうがいいものね。私もよく判らないから、一緒に見つけていこう?」
サラ(仮)は今まで感じたことのない高揚感に戸惑いながらも、決意を新たにした。
あと数話で動き出すかも…
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