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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第4章 教国の暗躍
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サラ=トーラス=ルーセント

今回はサラ視点です

 私は勇者が嫌いだ。勇者は私の一族から繁栄を奪った。私から自由を奪った。



 私は南方の大陸、ザクレール大陸の国、聖ルーセント教国の巫女として生を受けた。

私の名はサラ=トーラス=ルーセント。我が国の教祖、聖ルーセントを支えたという

「聖女様」の出現を予言し、二人を見守ったと言われる巫女トーラスの血を受け継ぐ「正統血統の巫女」だ。



 でも、今の私の地位は巫女の序列4位。上位3位は全て勇者の一族だ。私に巫女としての決定権限なんて存在しない。正統血統なんて意味が無くなってる。



 私の国が誕生したのは今から1000年前、世界規模の戦争が起こったとき、聖ルーセント様がザクレール大陸の混乱を、自らの教義を説いて収めたことが切欠だった。

その時、天より降臨された聖女様と、聖女様の降臨を予言した巫女と国を作ったのが始まりだ。聖ルーセント様は教皇様となり国を治めた。聖女様は国内を巡り、民衆に救いを与えた後、天に帰った。巫女トーラスは数々の予言をし、国を危機から守った。それが私の国。



 でも、300年くらい前から変わり始めた。代を重ねると共に教皇様が形骸化し、巫女がこの国の政治に関わるようになり始めた頃だ。



 勇者が私の国に来た。



 勇者は「自分は巫女だ」と言い、数々の予言をしたという。これから起こる事件、失くしたものの所在、疫病の予防。他にもたくさんあったらしい。その的中率はほぼ完壁だった。


 私の一族はそういった予言はできなかった。私の一族は「託宣」を主としていたから、予言は不得手だった。それでも、トーラスの血を受け継ぎ、ルーセントの名を名乗ることが許されたという事実が何とか私の一族を支えていた。



 その後、また勇者がやってきた。以前来た勇者の一族が呼んだという。それも2人。

その勇者も巫女として予言をして、その悉くが的中した。当然、民衆は勇者の巫女を持て囃す。それは当然だろう、いつ来るかわからない「託宣」のみの巫女と、様々な予言を当てる巫女、どちらが支持を得るかは火を見るより明らかだから…。



 私の一族は糾弾された。無能な巫女と罵られた。中には傷つけられ、命を落とした者もいたらしい。そんな時、勇者の巫女はこう言った。


「それでは有能な者上位5名を選出しましょう。上位の者は指示を出し、下位の者はそれを支える。そうやって助け合っていけばいいのです。無益な争いで命を散らすなど、聖ルーセントは望んでおりません」


 民衆はその慈悲深い言葉に心酔した。私の一族は、それを受け入れた。一族の者が命を失うことを嫌ったためだ。



 そうして階位が決められた。勇者の巫女が上位3位を独占し、私の一族はその次、4位になった。そして、私の一族はルーセントの名とトーラスの名を捨てさせられた・・・・・・・


 理由は簡単で、4位の者が上位をさし置いて名乗るなど許されないということだ。

私の一族はただの巫女になり下がった。



 私は巫女4位の母から生まれた。母は託宣すら受けたことが無かったという、ごく普通の女性だった。父親とともに、上位の巫女の命令を受けて世界中を駆け回っていた。だから、私は両親の顔をおぼろげにしか覚えてない。



 そんな私の為に両親が付けてくれたのがマークとスージーだった。二人は私に色々なことを教えてくれた。魔法のこと、世界のこと、とにかくたくさん。二人はまるで私の両親みたいだった。



 だからかもしれない。私が5歳の時、両親が任務途中で死んだと聞かされた時、ほとんど悲しいという感情が出てこなかった。二人は私を抱き締めて泣いてくれたけど、私にとってはもう、マークとスージーのほうが家族として強く認識してたんだろう。二人は、頑張ってルーセントの名とトーラスの名を取り戻そうって言ってくれた。


 正直なところ、私にとってはもうその名はあまり重要じゃなかった。でも、二人が喜んでくれるなら頑張ってみようと思った。そして母の後を継いだ時、こう言われた。


「あなたの資質は巫女として相応しくありません。ですが、我々の術式を体に埋め込めば、相応しい力を得ることができます」


 確かに当時の私の力は並以下だった。でも、どうしても二人の期待に応えたかった。

だから……


「わかりました。おねがいします」


何の躊躇いもなく、それを受け入れた。



 全身に処理された術式は私に驚くべき力をくれた。体術ではマーク達と互角に渡り合え、今まで使えなかった魔法も使えるようになった。それに、守護獣がついた。ロウガっていう白い狼。ふわふわの毛並がすごく気持ちよくて、いつも一緒に寝てた。楽しかった。でも、術式がくれたのはいいことだけじゃなかったんだ。



 私の体は成長しなくなった。



 以前、ラウラに言われたとき、咄嗟に10歳って言っちゃったけど、ホントは15歳だったんだ。私は10年間、5歳児の姿から全く成長しなかったんだ。



 まわりの年の近い子たちは恋人が出来て、中には結婚して子供を産んだ子もいた。でも、私には初潮すら来なかった。私はどうなってしまうのか、そんな不安を振り払うように任務に没頭した。



 そのほとんどは汚れ仕事だった。上位3位の巫女達を探ろうとする者を消す仕事。献金を出し渋る有力者の家族を攫い、脅迫して財産を奪う仕事。人望高い人物を洗脳して教団の信者に仕立て上げる仕事。私と同じくらいの子供を殺したこともあった。どれも嫌だったけど、我慢すればチャンスはあるって信じてた。



 そして…チャンスは来た。いきなりだった。不意に頭の中に声が響く。今まで経験したことのない感覚。―――「託宣」だ――― 直感でそう感じた。しかし、内容は信じられないものだった。


『勇者に会いに行け。そこで道は開かれる』


 何で勇者なのか! 私に何をさせたいのか! 勇者が私から、私の一族からどれほど奪っていったのかを判っているのか! ふざけるな! そんな思いだった。しかし、その「託宣」は当然上位の巫女にもあったようだ。しかも私より詳しい内容で。当然、私は呼び出された。


「10日後、ティングレイにて勇者召喚が行われます。その中に『聖女様』がいらっしゃるとの託宣です。あなたには『聖女様』を我が国に連れてきていただきます」


 嫌な内容だった。聖女様はいいとして、何で勇者なのか。何でそんなことをしなければならないのか。第一、私が単独でどうこう出来るレベルの話じゃない。断ろうとした私をさらなる言葉が止める。


「ラウラ=デュメリリーが聖女様を狙っています。排除してください」


 正気か? そんな感想が真っ先に浮かんだ。ラウラといえば悪名高き魔大陸の『無法の賢者』だ。そんなものを軽々と排除なんて、お前が行けよって思えてくる。でも、それだけでは終わらなかった。


「守護獣を数体貸します。それで任務にあたってください」


 意外だった。まさかそこまでしてくれるとは。ロウガだけではちょっと心許なかったが、他にも守護獣を貸してくれるなら何とかできるかもしれない。それに………


ラウラを倒して、その戦力を手に入れれば………


もし、倒せなくても、弱みを握って脅せば協力するかもしれない。上位巫女を排除できるかもしれない。そう考えて……任務を受けた。



 まさかいきなり出会うと思わなかった。スージーは先にティングレイで拠点を作ってもらい、マークは乗合馬車の護衛として同行した。偶々出会った若い夫婦に暗示をかけて両親だと思いこませた。そこにまさかラウラ本人がいるとは思わなかった。何してんの、こいつ?



 気付かれたかと思ってマークに伝えると、マークが様子をみてくれた。どうやらこちらに気付いた様子が無いみたいなので、この場はやり過ごすことになった。料理を差し入れしてくれたのは吃驚したよ。でも、すごく美味しかった。あんなにに美味しい料理、初めて食べたよ。



 次に会ったのはモトロの拠点だった。私の考えをマークが察して、連れてきてくれた。でも、ほんとにこいつがあの・・ラウラなの? そんなに力があるようには見えないし、お付きの魔族なんか全然大したことない。


 そんなことを考えてると、マークとスージーが青ざめてた。でも、ここまで来てもう後には引き返せない。調子のいいことを言って二人を安心させたけど、本当は怖い。凄く怖い。あの二人の素性を一目で看破できる奴なんてそうそういないよ?



 それから毎日のようにあいつは来た。ただお茶を飲んで世間話して帰っていくけど、私達には一向に絡んでこない。もしかしたら、私なんかが相手に出来ないくらい強いのかもしれない。



 ついにラウラが勇者に会いにいくらしい。何か因縁があるみたいなんだけど、そこまで教えてもらえなかった。まあ、そこまでの関係じゃないから。


 ただ、メアリを頼むって言って皇城に向かっていった。私はメアリのことも誤解してた。彼女は魔族でも農作業を生業にしてるそうだ。それを見込まれて魔大陸に行くんだって。そこまで必要とされるなんて羨ましいな。だってあのラウラだよ? そんな奴直々のスカウトなんてもう一生安泰じゃない。実際彼女の作った小麦はすっごく美味しかった。



 任務中なんだけど、すごく楽しい雰囲気。本国に居た頃はいつもびくびくしてた。何かミスがあれば粛清される、そんな恐怖がいつもつきまとっていた。こんなに楽しい時間があるなんて、思ってもいなかった。…でも、それも長く続かなかった。



 ふと、思っちゃったんだ。ラウラってすごいなって。メアリは貴族から狙われて、いつも怯えて暮らしてたって言うけど、今の彼女の表情からはそんなのは微塵も感じられない。だとすれば、ラウラが彼女のこの表情を、笑顔を取り戻したんだ。


 それってすごいことだと思うんだ。ルーセントの教義に「苦しむ民衆の幸せを祈る」ってあるけど、実際は誰もそんなことしてない。みんな自分のことばかり。でも、ラウラは言ってたって、メアリが攫われたらどこまでも探しに行くって。そりゃ美味しい小麦があるからかもしれないけど、それでも、そんな風に言ってくれる人がいるだけでも羨ましい。



 だから、思っちゃったんだ。もう敵わないって。それが連中の待ってた合言葉キーワードだってことも知らずに。



 私の意識は急に遠くなって、代わりに変な奴が私の心に入ってきた。こいつ知ってる。私に術式を埋め込んだ男だ。その男は私を使ってメアリを殴った。まだ死んではいない。でも…背筋が凍るようなことを言った。


「―――――不要な目撃者を始末するだけだ」


 何言ってるの? そんなことを考える間もなく、私の宝剣をスージーの胸に突き立てる。


(やめて! それを使ったら―――)


 私の叫びは届かず、スージーは胸に大穴をあけて崩れ落ちた。今度はマークを狙ってる。


(やめて! 二人は私の――――)


 やっぱり私の叫びは届かない。マークも徐々に弱ってきてる。男はマークが間もなく死ぬって確信したんだろう、多分店の外で待ってた男が、飛竜を呼び出してから私を縛り、メアリと一緒に飛竜に乗せた。そこで私の意識は途絶えた。



 次に私の意識が戻ったのは、はるか空高く、飛竜の背中の上だった。そして…私はラウラと相対してた。ラウラは私をじっと見てた。いつもの笑顔じゃない、こちらに問いかけるような目だった。



 私はもうどうでもよかった。家族同然のマークとスージーを、私はこの手で殺した。もうこれで頼れる人はいない。独りぼっちになっちゃった。だから、もういいの。もう諦めた。


 だから…声は出ないけど、必死にラウラの目を見つめて言ったんだよ。



『お願い、殺して』って。



 操られてる私はラウラに剣を突き出すけど、簡単に剣を掴まれた。そして…彼女は私の願いを聞き入れてくれた。想いが届いたんだ。



「お前の望み通り…殺してやるよ」



 ラウラは微笑みながら、右手を私の胸に突き立てた。悪魔のような奴だったけど、最後に願いを聞いてくれるなんて、ちょっと見なおしたよ。



 そこで、私の全てが終わった。








 はずだった。




 目が覚めると、暗い部屋の中、私は石のベッドに寝かされていた。そして…側には微笑みを浮かべたラウラがいた。私の目はラウラにくぎ付けになった。いや、正確にはラウラの後ろにあるモノに。


 そこには大きなクリスタルがあり、すごく見慣れたものがその中にいた。それは…私自身。じゃあ今の私は誰? 体を見下ろすと、そこには女の子の体。いままでの私より少し成長してる。そして腰から下…私は言葉を失った。



 本来、2本の足があるところから伸びているのは1本の足、いや、1本の胴体だ。それも蛇の。



 私は目が覚めたらラミアになっていた。


 

 そんな私を見て、微笑みながらあいつは言ったんだ。





「おはよう、サラ。気分はどう?」





 気分? そんなの決まってる、最悪だ。


 

 やっぱりこいつは悪魔だ。間違いない。

読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

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