再会、そして…
昨日はシステムトラブルで投稿できなかったですね
「何故そんなことを私に聞くんだ?」
「あ、あなたはさっき44人って言いました。でも…私ともう一人以外は、43人しかいないって言うんです。足りない一人のことを…わからないんです。あの時までは一緒だったのに…」
「あの時? どういうことだ?」
「ここに来る前に、真っ白な部屋にいたんです。そこで力を貰ってからここに来たんですけど…」
言い澱む楓。申し訳なさそうに言葉を続けようとした楓をラウラが遮る。
「まあ何があったのかなんて私にはどうでもいい。問題はお前の探してる男だが、そいつかどうかは知らんが、一人の少年を拾ったのは確かだ。『森』の魔物のエサになりかけてたところを助けた。今は私の屋敷で小間使いしながら療養してるよ」
「本当ですか?」
「ああ、ここに来たのも、占術で視たのと、そいつが勇者について話してくれたことの確認だな」
「確認だと!?」
空気を全く読まずに割り込む佐々木。
「何だよ、お前は。私はこの娘と話をしてるんだ、邪魔をするな…それとも死ぬか?」
「ひぃぃ」
ラウラにとっては200年ぶりの楓との会話だ。立場や姿、会話の内容はとてもじゃないが心から懐かしめるものではない。だが、それでも嬉しかった。愉しかった。それを無粋にも割り込んでくるなど許しがたい。なのでちょっとだけガチの殺気を込めて睨むと、あっけなく佐々木は腰を抜かした。
(何なんだよ、こいつは………あれ?)
「あのー、すみません…?」
「ああ、すまん。どうした?」
「その男の子の名前は何て言うんですか?」
「知らん」
「知らんってどういうことですか?」
「言葉通りだよ。アイツは自分の名前すら話そうとしないからな」
「何でですか?」
「それこそ私が知る訳ないだろう? 本人が話したくないものを無理矢理聞くほど野暮じゃない」
その言葉に少し考え込むと、楓は意を決したように言う。
「私を連れて行ってください!」
「駄目だ」
無碍も無く断られる。しかし楓は食い下がる。
「どうしてですか?」
「私の住む『森』は非常に危険な場所だ。お前など一瞬で魔物のエサだ。せめて自分の身を護れるくらいでなければ立ち入ることは許さん」
「…わかりました」
強く言われて楓は憮然とした表情で下がっていく。それを見届けると、ラウラは笑顔で言い放つ。
「まあ勇者のことはお前らに任せるよ。どの道、世界の火種になることは間違いないんだからな。ただ、その力を『森』に向けたら…お前らに滅び以外の結末は無いと思えよ」
そして彼女の姿は忽然とその場から消えた――――
――――はずだった。ラウラは転移で楓達の部屋に来ていた。
「200年ぶりに会えた…でも、少し痩せてたな…無理もないか…私が死んだ可能性をずっと引き摺っているんだろうからな。私もすぐに正体を明かしたかったが、今の状況は不確定要素が多すぎて危険だ。それに、色々と確かめないといけないことが出来てしまった」
鞄から1枚の紙を取り出すと、そこに手を翳して魔法陣を転写する。さらにそこにペンでメッセージを書き込む。紙が飛ばないように重しを置いて頷く。
「楓だけだと怪しいが、前島先生ならメッセージに気付いてくれるだろう。出来れば二人が『森』に来るまでに食生活をもっとよくしないとな」
人の気配を感じたので即座に転移する。最後にこう言い残して――――
――――「頑張れよ、絶対助けるからな」
ラウラが去った後、謁見の間はしばらく騒然としていた。無理も無い、皇城の最奥で謁見の間にまで侵入を許してしまったのだ。それもたった一人の少女に。楓以外の召喚者が皆呆然としている中、前島だけが逸早く我に返った。
「あの少女はいったい…」
「あれはこの世界の悪夢です…」
ぽつりと呟いた言葉に返したのは皇女ミレーネだった。
「悪夢…ですか?」
「ええ、この国から海を隔てた大陸のうち、人間が少数しか住んでいない大陸があります。そこは魔大陸と呼ばれ、人間以外の種族が多数棲息しています。その大陸のほとんどを占める大森林こそ『デュメリリーの森』、先ほどのエルフ『ラウラ=デュメリリー』が支配している魔境なのです。その魔境は非常に強力な魔物が闊歩し、並大抵の力では太刀打ちできないといいます。その支配者といえばどれほどのものかお分かりいただけるかと…。
『無法の賢者』『暴虐の賢者』『森の死神』、他にも数え切れない二つ名があります。そういう意味で考えると悪夢のほうがまだ優しいですね。悪夢は目が覚めれば終わるんですから…」
ミレーネは悲壮感あふれた笑みを浮かべて皇帝と共に退室していった。前島は楓を促して部屋へと戻った。佐々木が手も足も出なかったことを無様に言い訳し始めたが、それが聞くに堪えないものだったからだ。部屋に入ると、楓に向かって注意した。
「あまり無茶はしないでね。あの女の子、とんでもなく凄い子らしいし…って何かしら?」
二人は机の上に置かれたものに目を向ける。そこには1枚の紙と――――
――――サンドイッチがあった。
二人は目を見張る。アステールにはサンドイッチという料理が存在しない。パンで何かを挟んで食べるという概念が無い。つまり、このサンドイッチは地球から召喚された者が作ったということだ。そして、二人の表情が歓喜にあふれる。それはサンドイッチが置いてあった1枚の紙。そこにはこう書いてあった。日本語で。
前島先生、楓、心配かけてごめん。俺はあの後、声の主と取引をした。今はアステールにいる。おそらく会ったと思うけど、エルフのラウラさんに助けられて、そこで生活してる。
今はまだ動けないけど、近いうちに必ずそこから連れ出すから待っててほしい。それまで頑張ってほしい。取引の内容は今は言えないし、会ったら凄く驚くかもしれない。もしかしたら拒絶されるかもしれない。もし拒絶されても、無事だけは直接伝えにいくよ。出来れば全部受け止めてほしいけど、それは二人が決めることだから。このことは絶対に誰にも言わないで欲しい。あと、このサンドイッチはお願いして持っていってもらったものだから、遠慮なく食べてほしい。それじゃまた。
追伸 この紙を鶴に折るといいことがあるかもってラウラさんが言ってた。
震える手で手紙を読む前島。楓は机のサンドイッチに手を伸ばす。何の変哲もないタマゴサンドを掴むと、一口齧り涙を零す。
「これ…てつくんのマヨネーズの味だ…てつくんのサンドイッチだ!」
「本当? 間違いないの?」
「うん! てつくんはいつもマヨネーズは自作してた。私は昔からよく食べてたから覚えてる。それにこっちにはマヨネーズなんて無い!」
「そう…良かった…本当に…」
「てつくん…美味しいよ…良かったよ…ぐすっ」
泣きながらサンドイッチを食べる二人。すると、楓があることに気付く。
「この追伸の『鶴』って…もしかして!」
「どうしたの、紙にメッセージなんか…って成る程、そういうことね!」
メッセージを手紙に書き込み、その紙で鶴を折る。するとその鶴は光に包まれ、白い小鳥になった。小鳥は小さな窓から外へと飛び立っていった。
「あのラウラさんて人はすごい賢者さんっていってたから、もしかしたらあの紙でメッセージを送れってことかな、と思ったんだけど、当りみたい」
「皆は怖い人って言ってたけど、此処まで来てくれてたのね」
「…先生、あのメッセージ…本気だよね?」
「勿論本気よ。彼はおそらくかなり厳しいことをさせられてるんじゃないかと思うの。それこそ私達が嫌悪するようなことをね。でも、私達に会うためにそれを受け入れているのなら…私達だけでも彼を受け入れてあげないとね」
「先生…なんかお母さんみたいだよ…」
「酷い! まだ20代独身なのよ。せめてお姉ちゃんくらいにして」
「……それじゃあさ、本当のお姉ちゃんになって………家族がいなかったら…私、耐えられないかもしれないから…」
「…そうね、私も一人じゃ辛いと思ってたから…それじゃ、今から楓って呼ぶわよ」
「じゃあ私は…悠子お姉ちゃんでいい?」
「いいわよ…楓。でも、東山君は困らないかしら、私達が姉妹になって」
「大丈夫だよ。そのときは私が奥さんで、悠子お姉ちゃんはお義姉さんになるんだから」
「あら、そううまくいくかしらね…」
「あー! ひっどーい!」
いつの間にか笑い声が出始めた部屋の小窓を後にして、白い小鳥は飛んでゆく。城の外、濃緑のローブを纏った少女の下へ。少女の手のひらに乗った小鳥は1羽の折鶴に戻った。折鶴を開き、そこに託された内容を読むと、その大きな瞳から大粒の涙を零す。そこには、
――――何があっても、私達はあなたの全てを受け入れます――――
ただそれだけ書いてあった。
「…ありがとう、楓、先生…」
小さく呟き、涙を拭って城を後にする。一番不安だったのは今の自分を受け入れてくれるかどうかだった。だから確かめたかった。
これから自分は同郷の、同じ召喚者という境遇の人間に、「お仕置き」という名目で「処罰」を科さねばならないのだ。それに…自分の手は既に血で汚れている。だからこそ、本当に覚悟を決める何かが欲しかった。
二人の決意は、大量の涙でにじんだその文字と、涙でしわくちゃになったその紙が教えてくれた。それならば……………
ラウラは機嫌よくスージーの店に戻ってきた。しかし、その表情を険しくさせる。まだ店まではかなり離れている。なのに漂ってくるこの匂い…。ラウラは即座に走り出した。走ってきた勢いそのままに店の扉を開け放つ。そこには―――――
―――――血の海に沈む、マークとスージーがいた。
ちょっと違った、趣味全開の作品を投稿しました。
ハイエルフさんとは全く違うものになります。
よろしければ一読してください。
読んでいただいた方、誠にありがとうございます。