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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第3章 風雲! ティングレイ皇城!
24/124

嵐の前のハイエルフさん

本日3本目です

 ついに勇者様が首都モトロに到着した。メインストリートには一目みようとする群衆が人垣を作っており、それを警備する軍人達がさらに人垣を作るという、普段なら見られない光景が見られた。その弊害か、ほとんどの店に客が入らず、諦めた店主も店を閉めて野次馬に加わるという状態になっていた。


 その影響はラウラ達にも及んでいた。宿の主人が勇者様を見に行くために、一時的にではあるが宿を閉めるということになり、ラウラ達宿泊客が締め出されてしまった。しかも朝食前にだ。


「何で私が締め出されなきゃいけないんだ! しかもまだ朝飯食べてないんだぞ!」


 怒気を微塵も隠さずにぶちまけるラウラを他の者達は震えながら見ていた。その面子はメアリ、マーク、スージー、サラの4人だ。実はラウラは毎日スージーの店に茶を飲みにきており、皆から呆れられていた。


「何であんなことがあったのに、そんなに堂々とお茶飲みに来てるの?」

「私はここの茶が飲みたいんだ。茶を飲みたい客には茶を出すのが喫茶店だろう?」

「いや、それはそうだけどさ…」


 イヤミを言うサラに対しても、どこ吹く風といわんばかりに持論を展開して黙らせてしまった。

 サラ達はあの人垣の中に入るのが躊躇われたので、見物に参加せずに店を開けていたのだが、それを見つけたラウラが入ってきた。しかも、かなり激怒していた。ラウラの怒りをまともに見たことがない皆はその怒気と威圧に震え上がってしまった。ロウガなど最早召喚に応じる気配すらない。


「というわけでだ、何か作ってくれ! 大至急だ!」

「あの…悪いんだけど…食材仕入れてないからお茶以外出せないのよ…」

「…何だと?」


 さらに威力の上がった威圧を受けて、思わず腰が抜けそうになるスージー。メアリは最近慣れてきたせいか、何とか耐えている。マークとサラもスージーと同様だった。


「だって、みんな閉店状態で仕入れなんか出来ないのよ! 仕方ないでしょ!」

「…むう…」


 半ばキレ気味に言い返すスージーに、流石に状況は理解しているラウラは黙り込む。


「…わかった。自分で作るから厨房貸せ」

「それくらいならいいけど…食材は?」

「こんなこともあろうかと、ある程度は持ってきてる」

「…あれが『ある程度』ですか…」


 持参した食材の量を知っているメアリは理解に苦しんでいた。


「ところで、何作るつもりですか?」

「ああ、喫茶店と言えば『ピザトースト』だろう?」

「「「「 ? 」」」」


 ラウラ以外の4人に疑問符が浮かぶ。そんなのお構いなしと言わんばかりに鞄から食材を出して並べていく。

「作っておいたパンとチーズ、玉ねぎにピーマン、それから…サラミのかわりにベーコンと…あとはコレが一番大事。トマトソース!」


 最後に取り出した真っ赤な瓶詰めに4人の目が釘付けになる。アステールの調味料にこんな原色のものは存在しない。トマトはあるが、それをソースにしようとは誰も考えないからだ。

 実はこのトマトソース、修行時代にケチャップ好きの兄、吟がリクエストしてきたものだったりする。徹は兄がバイトの時は二人分の料理を作ってたので、料理がとても得意だった。勿論ケチャップも再現済みだ。ちなみに吟は魂の状態だったので、わざわざシャーリーに身体を貸してもらって食べていた。


「ラウラお姉ちゃんのサンドイッチだっけ? 美味しかったもんね。あの時の魚料理も手際よかったし」

「あのくらい誰でもできるだろう…そういえばあの時の両親ってどうしたんだ?」

「ああ、あの二人は一般人だよ。偽装のために暗示をかけて娘って認識してもらったんだ」

「道理で…あの二人は普通だったからな」

「何よ、私が普通じゃないみたいじゃない」

「お前…それ、本気で言ってるのか…?」

「…どうせ私は普通じゃないですよー。このまま一生独り身でー、頑なに処女を守り通して皺皺のお婆ちゃんになるんですよー」


 黄昏るサラを生温い目で見ながら、料理を続ける。とは言っても基本は下拵えだけ。ピーマンと玉ねぎを薄くスライスすればあとは乗せて焼くだけだ。


「パンにソース塗って…チーズ乗せて…あとは具材…っと、これでよし!」

「もう出来たの? ただ乗っけただけじゃない」

「あとはオーブンで焼くんだよ」

「オーブン? 何それ?」

「まあ、魔法具のひとつだな。まあ見てろ」


 胡散臭そうに見ているサラ。気にせずに鞄から石板を5枚取り出す。それを箱型に組み上げてから、中にパンを入れて魔力を通す。石板に描かれた魔法陣が発熱を始めるが、炎が出るほどではない。

唯一開いている箇所から、チーズが焼ける良い香りがしてくる。


「よし! これで完成だ! スージー、茶はさっぱり目のものがいいな」

「はいはい、わかったわよ。…えっと、お茶は奢るから…食べさせてくれない?」

「ああ、今切り分けるから待ってろ。全員の分はあるから心配するな」


 包丁で食べやすい大きさに切る。溶けたチーズが糸を引く。


「さあ、食べようか。…うん、なかなかだな。メアリの小麦粉でパン作ったらもっと美味いぞ」

「「「「 美味しい! 」」」」

「何だよこれ、こんな美味いの食ったことねえぞ」

「うん、このソース美味しいね」

「まさかチーズをこんな風に使うなんて…」

「流石はラウラ様です」


 皆の絶賛にもラウラは完全には納得していない。実はサラミがまだ再現できていないのだ。香辛料が代用できないものが多く、断念していた。


「まだまだ完全には程遠いけどな。ただ、パンにチーズ乗せて焼くってのは知られてると思ったんだがな」

「チーズ自体がそこそこ高価だからよ。モトロココじゃ貴族しか買えないわ」

「やっぱりモトロの食材事情は悪いんだな」

「でも、チーズ乗せて焼くだけならうちでもできるかも。あとはあの魔法具かしらね」

「あんなもん、ただの石板に火属性の魔法陣描いただけだろう? 出力調整をさせるのがちょっと難しいかもしれんが」

「どれどれ…って何よこの制御術式の数! 火力の制御に…燃焼温度って何? 後は…輻射熱? 何なの? よく判らない言葉ばかり。こんなの魔道学院の教授でもお手上げよ」


 石板の魔法陣を読み解こうとしたサラが途中で断念する。


「そんな大したことしてるつもりはないぞ。材料もただの石だし」

「そういう問題じゃない! …はあ、やっぱりあんたはラウラなのね…『無法の賢者』は伊達じゃないのね…」

「どういう意味だ?」

「あのね、あんたの持ってきたオーブンだっけ? あの石板1枚に描かれている魔法陣を解析すればどれほど魔法技術が発達すると思う? それだけじゃないわ、今まで誰も知らなかった概念も組み込まれてる。それこそ国家の超重要機密レベルの話よ。絶対に秘匿しなければならないものを、ただパンを焼くだけの道具って…」

「パンだけじゃないぞ。肉も魚も焼けるぞ。普通に直火で焼いたものとは全然違う味になる」

「だ・か・ら! そういう考え方が技術の無駄遣いなの! そのへんのこと、理解してるの?」

「ああ、パンを香ばしくトーストするのは大事だからな。美味いものをより美味くは鉄則だ!」

「はあ………駄目だわ、こんなのにちょっとでも勝てるとか思ってた自分が馬鹿みたいよ。こんな歩く非常識みたいなのにどうやって勝てるのよ。どうせあんたの事だから、あの石板も『あげちゃってもいいかな』くらいにしか考えてないんじゃないの?」

「おお、よく判ったな。読心術か?」

「そんな訳ないでしょ! 喫茶店でこんな馬鹿みたいにレベルの高い魔法具を平然と使うくらいだからそう思っただけよ。…ってねえ、この石板、ヒビが入ってるけど大丈夫なの? もう使えないんじゃないの? どうしよう…なんてことしちゃったのかしら…」

「ああ、心配するな。それは使い捨てだから、一度しか使えない。大丈夫、まだまだたくさんある」

「#%$&#&”!」


 そういって鞄から大量の石板を出すラウラを見て、サラは誰にもわからない言葉を発して失神した。

読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

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