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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第3章 風雲! ティングレイ皇城!
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その頃の召喚者達 その2

本日2話目


佐々木が…

 モトロへの旅路は、決して順調というわけでは無かった。馬車の車列めがけて魔物が襲ってくることが数回あった。2メートルほどの黒い狼の魔物だった。


黒狼ダークウルフだ! 守護陣形をとれ!」


 馬車の盾になるように並ぶ騎士達。召喚者達は馬車の窓から外を見ている。その表情には怯えがはっきりと見てとれる。次々と屠られてゆく魔物。あたりには魔物の撒き散らした血の匂いが漂い、嘔吐する者もいた。


「勇者様はずいぶんとひ弱でいらっしゃる。この程度で音をあげていては新兵にも劣りますぞ」


 皇女の付き添いの初老の執事が不快を露わに吐き捨てる。それを聞いた前島先生が反論する。


「私達は魔物のいない世界から来ました。血の匂いなど日常には無いんです。そんな人間に何を期待してるんですか?」

「勇者様には我が国を守る為に戦って貰わねばならないのです。そのような弱音を吐かれては困ります」

「我が国を…って戦争ですか? 彼らに人を殺させるんですか? そんなことは教育者として容認できません! 人を殺す為の戦力が欲しいなら殺人鬼でも召喚すればいいじゃないですか! 私達の世界にもごくまれに、殺人に享楽を見出す人間がいますから!」


 捲し立てる前島先生。だがそれはむなしくも遮られる。…佐々木に。


「前島先生、そんなことを言ってはいけませんよ。彼らは我々を保護してくれた恩人じゃないですか。そういうことでしか恩を返せないのであれば、仕方ないじゃありませんか」

「…佐々木先生は人を殺すことに抵抗は無いんですか?」

「………今はそんなことを言っている場合じゃないでしょう?」


 一瞬の間をおいて答えをはぐらかした佐々木に若干の違和感を感じながらも、今この場で論じても意味がないと理解した前島は再び楓の傍に寄り添った。


 モトロへの旅路も後1日となった夜に事件は起こった。野営中に盗賊が襲ってきたのだが、通常ならば盗賊如き騎士達の相手には不十分だった。

 しかし、今回は移動の規模が大きかったため、複数の盗賊団が協力して襲いかかってきたのだった。獲物はティングレイ皇族、そこから手に入るアガリは全員で分配してもかなりの額になることから利害関係が一致したのだろう。


 騎士達が手一杯な状態で、馬車が無防備な状態に晒された。当然そこを狙う盗賊。

召喚者達は悲鳴を上げて逃げようとする中、何かが盗賊達の間を駆け抜けた。

 皆、何が起こったか理解できなかった。否、ただ一人、前島は理解していた。

その何かとは佐々木だった。佐々木は騎士の一人から護身用にと剣を借りていた。その剣を振るったのだと。

 だが、前島にも理解できないものがあった。それは速さだ。佐々木が盗賊達に攻撃を仕掛けた動きが速すぎて・・・・見えていなかったのだ。

 次々に首を落とされて絶命していく盗賊達。ほんの数瞬でその惨劇は終わった。そこには返り血を月明かりに映えさせた佐々木が一人立っていた。その顔に笑みを浮かべて…。

 召喚者達が涙ながらに佐々木を讃える中、前島だけは自分の脳裏に浮かんだ考えに戦慄していた。確定ではない。あくまでも予想でしかない。それでも…どうしても払拭できなかった。


(佐々木一樹は………かつて殺人の経験がある…)


 それは彼女の記憶の中でも、絶対に触れたくない部分。自分の親友の命を戯れに奪った享楽殺人者の狂った意志を宿した目。その目を先ほどの佐々木の目に見てしまったから…。


「みんなを守るためにはこうするしか無かったんだ。…こんな私を軽蔑するかい?」

「そんなことないよ! 先生は俺達を守ってくれたんだ!」

「そうよ! 今度は私達が戦うわ!」


 寂しそうな面持ちで問いかける佐々木。それを受け入れる召喚者達。


「それでは首都に着いたら、早速訓練しましょう。皆さんのお力なら、すぐに一流の戦士になれます!」


 佐々木の尋常ではない戦闘力を見て顔を紅潮させた皇女が言うと、召喚者達から歓声があがる。そんな様子を前島は苦々しい表情で見つめていた。


「東山君、状況はあなたの予想通りになりそうよ。まるで台本シナリオでもあるみたいにね」


 自分の無力さを噛み締めているのか、その拳は固く握られている。自分の学校の生徒達が戦争の道具にされることが嬉しい訳がない。


「あなたがここに居たら、どんな結果になったのかしらね」


 そんな呟きは周りの歓声にかき消される。


 一同は興奮冷めやらぬまま、一夜を明かした。佐々木は騎士達からも称賛され、早速騎士に剣術を指南される召喚者もいた。そして夜明けとともにモトロに向けて出発した。


 モトロまでは特に何も起こらずに移動できた。その間、楓は一度も目を覚まさなかった。他の召喚者達は、自分達も佐々木のようになれるのではという期待感に瞳を輝かせていた。前島は心に宿った不安がどんどん大きくなっていくのを感じた。


 そして召喚者達は首都モトロに入った。間違いなく波乱が待ちうけているであろう皇城に向けて、馬車は進んでいく…。

次話からラウラさん再登場です。


読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

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