その頃の召喚者達 その1
召喚者の方のお話
ティングレイの首都モトロから、ポルカと逆方向に5日ほど馬車で進んだところにあるセミオン平原の真ん中に、43人の男女が倒れていた。彼らこそ、地球から召喚された召喚者だ。召喚された衝撃によるものか、皆失神しているようだ。そこに近づく集団。
綺麗に磨き上げられた騎士甲冑は華美だが決して派手ではない、洗練された美しさがある。その一団を先導するのは一人の少女。年のころは14・5くらいだろうか、長い金髪は金糸を束ねたかのような輝きを見せている。その美貌は高貴な風格を漂わせ、質素な衣服を身につけてはいるが、清廉な印象を与えている。
彼女は召喚者達に近づくと、徐に詠唱を始める。やがて詠唱が終わると、彼女を中心に光のドームが広がっていく。召喚者達が光のドームに収まったところで光は消滅した。やがて一人、また一人と目を覚ましていく召喚者。
「皆様、お怪我はございませんか?」
いきなり問いかけられて戸惑う一同。
「いきなりで失礼いたしました。私はティングレイ帝国の第三皇女、ミレーネ=ロザーネ=ティングレイと申します。私があなた方の召喚を行いました。勇者様方、どうかこの国をお救いください!」
いきなり跪き、祈りを捧げるかのように話すミレーネ。そんな彼女に応える男がいた。
「皇女殿下、そのようなことをなさらないでください。私は佐々木一樹…いえ、こちらで言うところのカズキ=ササキと申します。この者達を率いております。我々に出来ることであればなんなりとおっしゃって下さい」
「まあ、ありがとうございます!」
他の召喚者達も佐々木と同様のことを言っている。そんな行動を少し離れた場所から見ている二人の女性がいた。西川楓と前島悠子だ。
「まあ、一応は担任だから、率いているってのも強ち間違いではないんだけどね…」
「……………」
前島は冷ややかな目で佐々木の行動を見ている。楓はずっと呆けている。すると、佐々木が空気を読まない発言をする。
「皇女殿下、彼女はユウコ=マエジマ。我々の心の支えになってくれた者です。おそらくこちらで言う治癒士といったところです」
「まあ! マエジマ様。是非ともそのお力で我が国をお救いくださいませ」
「はあ、善処します…」
テレビで見た政治家のような返答をしつつ、厄介事に巻き込まれていくのを予感する。ふと楓を見ると、まだ呆けている。というよりも、心が現実を受け入れていないようだ。先ほどから瞳の焦点は合っておらず、一言も言葉を発していない。
すると、ミレーネがメロン程の大きさの水晶のような玉を持ってきた。
「皆様にはこれでステータスの確認をしていただきます。この玉に手を翳していただければあなた方の能力値がわかります」
「本当ですか? では私から…」
いきなり佐々木が玉に手を翳す。すると、皇女の目が驚きに見開かれる。
「な、なんというステータス…それにスキルが5つとは…流石、勇者様を率いるお方ですね」
「さあ、他のみんなも計ってみなさい。自分の力を確かめるんだ!」
次々にステータスを計る召喚者達。次々に歓声やどよめきが起きる。そして最後に楓と前島の番になり、楓・前島の順に手を翳すと、ミレーネの表情が曇る。
「た、確かにステータスは高めですが、他の方々と比べると…」
どうやら楓と前島のステータスは周りよりも低いらしい。ミレーネは明らかな落胆の表情をしている。
「皇女殿下、彼女達も我々の仲間なのです。いくら能力が低いとはいえ、何も出来ないということは無いはずです」
「た、確かにそうですね。申し訳ありませんでした、ササキ様。それでは皆様はこれから首都モトロに向かっていただきます。馬車を用意いたしましたので、皆様、お乗りください」
「それでは43名、首都に向かいます」
「!!!」
佐々木の復唱に楓が反応した。
「嘘、嘘、足りない…一人足りない…私達…44人いたよ…てつくん…てつくんどこ?…ねえみんな、てつくん探して? きっとどこかにいるから…てつくん…てつくん…」
「何を言ってるんだ、西川! 我々は43人しかいないだろう?」
「そうだよ、てつくんって誰だよ?」
(嘘? 何で東山君のことを覚えてないの? このクラスの生徒なら東山君と西川さんの関係は周知の事実のはず…もしかして…)
「え? 嘘? 何でてつくんを覚えてないの? 何で? 覚えて…消えちゃった? てつくん消えちゃったの? ねえ、てつくん、てつくん、返事して、返事、……………ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!」
突然取り乱す楓。佐々木やミレーネも呆然としている。前島は即座に楓を抱きしめる。
「西川さん! 落ち着いて! 話を聞いて!」
「てつくん! てつくんどこ! てつくんがきえちゃった!」
「西川さん! 東山君は消えてないわ!」
「…本当? 嘘じゃない?」
「ええ、あの時聞いたこと覚えてる? 東山君はすぐには消えないって、私達が覚えてる限りは消えてないって」
「うん…覚えてる…」
「ならまだ大丈夫よ。他の人がどうかはわからないけど、私達はちゃんと彼のことを覚えてる。もし彼が本当に消えちゃったなら、私達も忘れてるはずよ。それに彼のことだから、きっと何とかしてあなたに逢いにくるわよ」
「うん…そうだね…よかった…」
途端に気を失う楓。おずおずと話しかけてくるミレーネ。
「あの…そちらの方は大丈夫なのでしょうか?」
「はい、精神的に大きなショックを受けていますので、しばらくは静養させるべきだと思います」
「何があったのですか?」
「他の人達が忘れているのかどうかはわかりませんが…本当は44人いたんです…」
「前島先生! 何を言ってるんですか! 私達は43人ですよ!」
「佐々木は黙ってなさい! …実は召喚の際に行方がわからなくなった者がいまして…その人は彼女の恋人だったんです…」
「まあ…それで…」
「私は彼女のこともよく知っていますので、私が彼女に付き添います」
「そうですね…それではお任せいたします。馬車に毛布を敷きますので、そこに横になっていてもらえれば…ですが、皇城での謁見には何とか復調させていただきませんと…」
「…善処します…」
こうして、召喚者43名は首都モトロへと移動を開始した。
(何かがおかしいわ。私達以外全員が東山君を覚えていないなんてそんな偶然あるのかしら? 本当に嫌な予感しかしないわね…東山君もこんな気持ち悪い予感を感じてたのかしら…まずは私がしっかりしないと駄目ね。何が起こるか分からない以上、常に判断ミスしないようにしておかないと)
前島は寝息を立てている楓を優しく撫でながら、決意を新たにした。
召喚者オンリーの話はあまり盛り上がりませんね。
なのですぐにもう1話投稿します。
でもこの続きですが…
読んでいただいた方、誠にありがとうございます。