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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第14章 神へと至る者
122/124

ハイエルフさん

22時更新の2本目です。

23時にもう2本更新します。

「……きて……きてよ……起きてよ!」

「ん……ああ、おはよう、楓」

「ラウラちゃん!良かったぁ!」


 ラウラが目を覚ますと、その顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにした楓が飛び付いてきた。まだ完全に覚醒していないラウラを強く抱き締める。


「か、楓、苦しいよ」

「すごく心配だったんだよ?あの後いきなり倒れて、そのまま目を覚まさなかったんだから」

「周囲の状況はどうだった?」


 楓の無事な姿に胸を撫でおろすが、念のために色々と確認しておきたかった。


「あのね、すごく穏やかな感じ」

「ん、ああ、精霊樹も解放されたのか」


 ラウラは自分の身体の状態を改めて確認してみる。魔力は今まで以上に漲っており、身体の何処にも異常は感じられない。


 それ以上に劇的に変化したことがあった。


「これは……精霊の声か?」


 周囲から聞こえる楽しそうな声。しかしその声は楓には聞こえていないようで、不思議そうにラウラを見つめている。


「何してるの?」

「楓にはこの声が聞こえないのか?」

「……どうしよう、まだあの人が中にいるんだ……」


 楓から魔力の高まりを感じ、焦って説明するラウラ。


「ち、違う!多分これは精霊の声だ。エルフにしか聞こえないんだ」

「……本当?嘘じゃないよね?」

「嘘なものか!私は帰ってくるって約束しただろう?」

「えへへへ……本当はわかってたけど」


 ラウラを解放し、その隣に座り込む楓。ラウラはあの後のことを楓に話した。実験台にされて壊れてしまった本物のラウラのこと、そこから生み出されたのがオリジナルであること、そして……その力を受け継ぎ、本物のラウラはオリジナルと共に天に召されたことを。


「そう、あの人も被害者だったのかもしれないね。望んでない力をどんどん弄られて、ずっと一人で苦しんでたんだとしたら……すごく悲しいよ。もしラウラちゃんがそんな風になったら……」

「その時は楓が傍にいてくれるんだろう?」


 一瞬きょとんとした楓だったが、すぐさま破顔するとラウラに抱きつき、声も憚らず泣きだした。

 子供のように泣いている楓の頭を優しく撫でながら、眠っていた間に見た夢を思い出す。


(まぁすぐにどうなることでもないか)


 ラウラの夢の内容……それはこの世界の今後に関わることだった。

だが、ラウラは大したことだと思っていない。


(まさか『神』になれとは……)


 本来この世界に存在していた『神』の怠慢が招いたこれまでの事態は、その『神』の上役達にとっても看過できることではなかった。

 まさか『神』が戯れで別世界の人間を拉致し、さらにはその人間に取り込まれたという失態。それは『神』という存在を穢すには十分すぎる大問題だった。

 

 しかし、その関係者であるラウラがその元凶を消滅させたうえ、力を受け継いでいる。となれば、必然的に白羽の矢がラウラに立つのは必然と言えよう。


 ラウラは三つの条件をつけた。


 一つ目は、危険なレベルと判断するまでは介入しないこと。基本的に『神』が頻繁に介入することを良しと思っていないからだ。


 二つ目は、特例を除いて『召喚』の禁止。もしもの場合、ラウラの判断で是非の決定ができること。もう二度と自分達のような者を生み出さないためのものだ。


 三つ目は、とりあえず保留。今後何かあった時の為に条件を取っておこうというもの。これには『神々』もかなり渋ったが、ラウラは本来ならば被害者であり、その被害者が事態を収束させる義理などない。そこに負い目があるため、認めざるを得なかったのだ。


(でもしばらくはのんびりしたいし……シャーリーにでも任せるか)


 ラウラは漠然と今後のことを考える。しかしすぐにその考えを止めて我に返った。


「そういえば……操られていた連中、どうなったかな?」

「……そんなのどうでもいいよ、とりあえず……おかえりなさい」

「ああ、ただいま」


 二人はお互いの存在を確かめるがごとく、強く抱き締めあった。もう二度と離さない、そんな想いがはっきりとわかるような抱擁は陽が落ちても続いていた。










「まだ違和感が……それに腰が……」


 朝靄の立ち込める中、ラウラは起き上がる。そこには一切の衣服を纏っていなかった。

 結局あの後、楓に押し切られる形で再び愛し合ってしまったのだ。そんなことをしている場合ではないのだが、全て終わったという安心感がそうさせてしまったのだろう。


「まさかあんなに受けに回ることになるとは……」


 ラウラは隣で満足げな顔で寝息を立てている楓を見て呟く。

 あれは初めて見る野獣だった。万全の状態のラウラが手も足も出ずに蹂躙されたのだから、どれほどの野獣だったかは常人では想像することすらできないだろう。


 そのままの姿でいるわけにはいかないので、いつもの濃緑のローブを纏い精霊樹の囲む中心に歩み寄る。中心に立つと、今までは感じることができなかった様々な力の流れが感じ取れるようになっていた。


「これが精霊魔法……精霊の力を感じ、己の力と同化させる魔法。エルフでも高位の者にしか使えない魔法……」


 精霊達がラウラにその力を預けることの意味、それは完全に今のラウラが認められたということだろう。この力の正統な持ち主から受け継いだことの証なのだ。


「あんたはもう……到達していたんだな。望んでいなかった高みに」


 流れ込んでくる力に圧倒されるラウラ。これほどまでの力とは想像していなかった。かつての自分を遥かに凌駕する力を持っていた少女が何故あんな状態になっていたのか、おおよその理由を理解した。


 それは孤独。仲間から引き離され、家族を失い、唯の実験体として扱われることで崩壊した精神。それを引き起こした者への妄執のみが暴走するのも至極当然だ。だがそれももう起こらない。起こるはずがない。


「私は孤独じゃない、支えあう相手がいる。だから安心してくれ。それに……」


 ラウラはこれまでのことを思い出す。召喚されて兄である吟と再会したこと、その時に既に吟は『ハイエルフ』を名乗っていた。だが、この世界には『ハイエルフ』という種族は存在していない。御伽話の中だけの存在だった。


 何故そうなったのか、今となっては憶測の域を出ないが、あの少女の妄執が生み出したのがオリジナルであり、オリジナルが吟の身体を用意したのであれば、その根底に少女の思念が影響していてもおかしくない。少女が助けを求め続けた御伽話の主人公は…… 


「私はハイエルフさん・・・・・・・だからな……」







「おはよう、ハイエルフさん・・・・・・・

「なんだ、起きてたのか」


 戻ってきたラウラを迎えたのは、にやけている楓だった。どうやら先ほどの呟きを効かれていたようだ。


「ラウラちゃんのことならすぐにわかるよ。だってもう繋がってるんだから」

「それならもう少し手加減してくれても良かったんじゃないのか?」

「だ、だって……ラウラちゃんが可愛すぎて……つい……」


 ラウラのジト目に、楓は視線を逸らしながらしどろもどろになりながら答える。いくら楓相手だとしても、あのまま蹂躙されるだけでは気が収まらないラウラのささやかな反撃だった。だが、蹂躙されるのも実はそんなに嫌ではなかったのはまだ秘密にしておこうと心に決めたラウラだった。









 精霊樹から小屋に戻ったラウラ達は、しばらくの間はそこで暮らしていた。

 何をしていたのかは……まぁ大方の想像はつくとは思うが、安心感が二人の心の箍を外してしまった結果だった。

 

「いつまでもここにいる訳にはいかないか……」

「えー、いいんじゃないの?このままでも」


 ラウラはベッドの脇に置かれたカゴに入れられた梨のような果物を一つ手に取ると、風の精霊魔法で皮を剥いてカットすると、まだまどろんでいる楓の口に押し込む。


「お腹すいてないんだけど……あ、美味し」

「そう言っても、屋敷がほったらかしというのは拙いだろ。確かにここは快適だが」


 この小屋は『森』の奥地、精霊樹を始めとした『森』の植物はもちろん、数多の精霊が存在する『森』の影響を深く受けている。精霊達から活力を貰っているラウラにとっては、常時回復し続けているようなものだ。快適なのも当然だろう。

 そしてそれは、ラウラと『血の契約』により絆を結んだ楓にも言えることだ。ラウラとの絆を通して流れ込む活力に、空腹感すら感じないようになっていた。


「それに楓だって置いてきた連中のことは気になるだろう?」

「確かに気になるけど、みんなどう接していいのかわからないんじゃないかな?操られてた時の記憶は残ってるから……」

「そのことはもういい。一番大事な時に居てくれたんだから」

「ラウラちゃん……」


 抱きついてくる楓を受け止めながら、その綺麗な白髪を撫でる。姿形は変われども、お互いの想いは変わっていないことを再認識しながらも、ラウラは敢えてある言葉を口にした。


「楓……そろそろ服を着よう」


 その言葉により、とりあえず二人の蜜月は終りを迎えた。


23時に2本更新します。

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