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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第14章 神へと至る者
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約束

本日は多数更新します。同時更新1本目です。

「ん……ちょっと違和感があるな」


 ラウラは一糸纏わぬ姿でベッドから起き上がる。隣には同じく一糸纏わぬ姿の楓が穏やかな寝息を立てていた。

 その姿はもう人間と言うには無理がある姿だ。背中の翼は小さく折り畳まれているが、その臀部、尾?骨の辺りから伸びた尻尾がしなやかに動いている。

 ベッドから降りたラウラは自分の下腹部にある違和感に表情を変える。といっても、悪い方向ではない。何故ならその違和感は楓とユーリエがくれた『証』なのだ。はっきりとわかるように刻まれた『証』にラウラの心に力が満ちてくる。


 水がめから水を一掬いし、その喉を潤す。周囲は既に夜を通り越して朝になってしまったようだ。思いのほか自身が疲弊していたことに少々驚きながらも、流石は二人がかりだな、と昨夜のことを思い出し顔を赤らめる。


「ん……あれ?ラウラちゃん?」


 楓が目を覚ましたらしく、隣で寝ていた者が消えたことに不安げな声を出した。


「先に目が覚めたんでな。ほら、水だ」

「えへへへ……ありがと」


 渡されたカップを大事そうに受け取り、喉を潤す楓。ラウラはベッドに腰掛ける。


「まさか『尻尾』にあんな機能があるとは思わなかった」

「うん、ユーリエさんも必死に隠してたみたい。嫌われると思ったんだと思うよ」


 楓が自分の尻尾をやさしく撫でる。

 どうやら悪魔族の『尻尾』には生殖器としての機能もあったらしい。尤も、ラウラにとってはそのようなことは些細なことだったが。


「便利……というわけでも無いんだろ?」

「一度雄の機能を使うと、数十年は子供を産めないみたい。でも私はラウラちゃんだけだから安心して」


 抱きついてくる楓の頭を優しく撫でながら、ラウラはこれからのことを思案する。

 この結界をオリジナルは突破することができなかった。だからといってここが絶対安全というわけでもない。

 オリジナルの精神干渉を防げるだけで、魔物達の総攻撃を喰らえばどうなるかは分からない。何より、ラウラには大きな問題があった。


 ラウラの魔力が全量回復していないのだ。

 通常ならば『森』から供給され続ける魔力が遮断されている。そして現在、結界の維持に魔力を消費し続けている。このままいけば、いずれ魔力が枯渇して結界が解除されてしまう。そうなったらもう何も出来ることはない。


 勝機を見出すのなら、まだ魔力が温存された状態でオリジナルの元に辿り着き、雌雄を決するのみだ。

 そして、有利になるであろう情報もある。

 他のラウラの話によれば、オリジナルは器としてラウラを欲しがっているらしい。となれば、あまり損傷させるような攻撃は控えるだろう。

 そして、『必ず接触してくる』という情報。器を無傷で手に入れるために精神干渉してくるということだ。自分の得意な領域に引きずり込む、それがオリジナルの手段だろう。


「……それならまだ反撃のチャンスはあるな」


 ラウラは今の自分が打てる最高の破壊力を持つ一手を使うつもりだ。それは自身にも甚大な被害がある諸刃の剣。だがオリジナル相手には出し惜しみして敗北などという無様な結果になるわけにはいかない。負ければ全てを失うからこそ、全ての手段を講じて勝たねばならない。


「今の魔力は総量の半分ほどか……それでどこまでいけるか、だな」

「私も行くよ」


 楓のいきなりの発言に驚きを隠せないラウラ。楓にはどこかに避難しておいてほしいと考えていたので、出鼻を挫かれてしまった。

 どうだと言わんばかりに胸を張って鼻息を荒くする楓。その強調された大きくてかつ形のいい胸につい目が行き、一瞬かなりの自己嫌悪に陥りそうになったラウラだが、即座に意識を切り替える。


「駄目だ、今の楓はユーリエの力を受け継いだといっても、戦力として考えるにはまだまだ未熟だ」

「ううん、私は一緒にいたいだけ。だってラウラちゃんが負けたらそれで終りでしょ?それならどこにいたって意味ないよ。それに、ラウラちゃんをずっと騙してたような人を信用なんてできないよ」


 ラウラは絶句した。楓に自分の考えの先を行かれたからだ。

 楓については、最悪の場合、その身の安全を引き換えにして相手の軍門に下ることも考えていたからだ。

 だが、言われてみれば、元々オリジナルは約束など守るつもりはなかったのだ。そんな相手に交渉などしたところで、ラウラがいなくなった後にどういう行動に出るのかも想像がつく。


「わかった、確かに楓の言う通りかもしれん。それならば側にいてもらったほうがまだ戦える」

「大丈夫だよ、いつも私のことを助けてくれたんだから……」


 不意に楓がラウラの小さな身体を抱き締める。その柔肌を通して、小さく震えているのを感じたラウラは、楓に無理をさせているのだと理解した。だが……


「ラウラちゃん……あの……その……」


 顔を上げてみれば、楓が顔を赤らめてもじもじしている。その様子から、何となくだが楓が何を考えているのか解ってしまった。


「……これから戦いに行くんだぞ?全部終わったらちゃんと相手する」

「……本当だよ?約束だからね?」


 約束という言葉がラウラの心に力を与える。何が何でも勝たねばならないのは当然だが、自己犠牲という選択肢がかなり小さくなった。


 ベッドから降りて服を着始めるラウラ。それをしばらく眺めていた楓だったが、やがて自分も服を着始めた。

 そしてこれからの戦略を練り始めた。



オリジナルあいつはまだ実体を持っていない。だから他の者を操ることでしか物理攻撃を出せない。だが、精神攻撃は違う。恐らく『森』の魔力を媒体にして入り込んでくるんだろう。この小屋は『森』の魔力とは切り離しているから手出しできない」

「ここから出たら入りこまれちゃうってこと?」

「そうだ、だがそこにしかチャンスはない。魔物共を嗾けられて疲弊するより、一時的に受け入れてあいつの元に行くのがいいと思う」


 ラウラは鞄の中を覗きこみ、何かを探しているようだった。すると突然その手を止め、楓の傍にやってくるとその細い首を楓の目の前に晒した。何事かと不思議な顔を見せる楓に、ラウラは照れ臭そうに話す。


「私の血を飲んでくれ、そうすれば繋がりが切れることはない」

「……いいの?」

「ああ、お前だからだ。他の奴には一滴たりともくれてやるものか」

「……それじゃ、いくよ」


 楓の唇がラウラの首筋に触れる。やがて鋭い牙がほんの僅かに皮膚を傷つけると、小さな痛みにラウラが顔を顰める。

 楓はその傷口から滲み出る血液を恍惚の表情で舐め取る。と同時に、ラウラの心の中にはっきりとした何かが生まれたのを感じた。


「……もういいだろ」

「あん……もっと欲しかったのに……」


 恍惚に蕩ける妖艶な表情を浮かべながら、唇に付着した血液を舌で舐めとる楓。平静を装いながらその光景を見るラウラは、一瞬だが身の危険を感じてしまった。


「……これから、あいつの対策を教える。だから、どんなことがあっても取り乱すな。私の存在が消えない限り、お前との繋がりはずっと残る」


 ラウラは自分の立てた作戦を話す。最初は明るかった楓の顔が見る見るうちに曇る。それほどまでにラウラの立てた作戦は危険極まりないものだった。


「駄目だよ!危険すぎるよ!」

「だが生半可な方法ではあいつのところまで届かない。それに、今回の作戦はあいつを倒すだけが目的じゃない」

「……それってどういうこと?」


 予想外の言葉に首をかしげる楓。ラウラの表情からはその真意は読み取れない。


「私を待っている者がいる。その者に会いに行くのが本当の目的だ」

「それって……浮気?」

「ち、違う!そういうんじゃなくて!そいつに会うことが勝利につながるんだよ!」

「……それならいいけど」


 ジト目の楓から視線を逸らしながら、既に尻に敷かれつつあることを認識したラウラ。気をとりなおして作戦実行のための下準備にとりかかる。


「結界を出たらすぐに接触してくるはずだ。あいつとて疲弊して傷ついた器を欲しがるとは思えない」

「でも、殺して蘇生させるってことは?」

「それも考えたが、あいつもそこまで待てないだろう。蘇生は出来ても身体の完全な修復は時間がかかる。もうお預けを我慢できなくなってきてるんだと思う」


 そうでなければこんな強引な方法は取らないぞ、と自信たっぷりに話すラウラ。楓もその意見には同意した。


 目の前に無傷で手に入る可能性のある器があるのに、何故態々傷つけるようなことをしなければならないのかと考えるのが普通だ。とすれば、やはり接触してきた時に敵陣に飛びこむほうが容易に思えた。


「後は……私の精神と身体がどこまで耐えきれるか、だ」

「……私としてはかなり複雑なんだけど」


 ラウラの作戦を聞かされた楓が不満だと言わんばかりに頬を膨らませる。だが、ラウラにとって考え得る最強にして最凶の作戦であるのは間違いないので、強く反発することができなかった。


「手順は話した通りだ。あとは……決戦前の腹ごしらえだ」

「そうだ、食べさせてあげるね」


 にっこりと微笑みながら、テーブルに置いてあったスプーンとフォークを手に取る楓。それを見てやや引き攣った表情を浮かべながらも、丁寧に遠慮したのだった。


同時にもう1本更新しています。ご注意ください。

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