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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第13章 終焉の地
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決戦の刻②

やや短めです。

「ぐうぅぅっ!」



 不意を突かれたラウラは不可視の衝撃をまともに喰らってしまった。

 吹き飛ばされて背後の結界壁に背中から叩き付けられる。

 何かの魔法を放たれたものだということは理解できた。

 大したダメージは残っていないのだが、そんなことよりも、全く魔法の兆候が見えなったことが精神的ダメージを与えた。



「まさか………無詠唱だと?」

『無詠唱がお前達だけなんて思うなよ? 使い方さえ間違わなければ、この程度のことは問題なく使えるんだよ』



 無詠唱自体はそう難しい方法ではない。

 地道な修練が必要になるが、その方法をマスターすること自体は誰でも出来る。

 ただ、その修練が時間がかかるだけだが、目の前の存在がそんな地道な行為を進んでやるとは考えられなかった。

 


「…使い方…だと? …そうか、その剣か…」

『流石に聡いな、そうだよ、この剣は魔道具マジックアイテムだからな』



 桐原は自信たっぷりに言うと、その剣の刃の部分にたくさんの魔法陣が浮かび上がった。

 そこには火・水・風・土に光と闇の属性の魔法陣があった。

 


 先ほど、桐原が放ったのは、ただの風魔法だった。

 本来ならば、風を変化させて様々な効果を発生させるのが魔法なのだが、桐原はただ風の塊を放っただけだ。

 魔法陣に大量の魔力をつぎ込んだだけ。

 そんな単純な行為にすら気付けなかった。

 


「…全く、馬鹿馬鹿しいな…」



 ラウラは歯噛みする。

 自分は誘いこまれたのだ。

 避けられるぎりぎりの速度で攻撃を繰り出し、僅かに回避できるルートを匂わせてからのカウンターの一撃。

 言い訳のしようがない一撃だった。



『どうだ? 俺の強さが分かったか?』

「それのどこが強いんだ? 剣が凄いだけだろ?」 



 ラウラは口の中に鉄の味を僅かに感じながらも、目の前の敵の馬鹿馬鹿しいまでの理不尽さに折れることなくさらに煽りを入れる。

 魔剣頼みとはいえ、あれ程の魔力を即座に流せるのは流石と言えよう。

 だが、まだ負けが決まったわけではない。

 ほんの数手、先に進まれただけのこと。

 


(やはり……形振り構ってなどいられない………か。となれば、次の段階に進むべきだろうな)



 ラウラは戦いの組み立てを確認しつつ、次の手段を講じるべく動き出した。

 即座に距離をとり、自身の周囲に術式を構築する。



(頼むから、何とか持ち堪えてくれよ…)



 祈りにも似た希望を抱きながら、魔力を集中させる。

 ラウラを中心に魔力が高まり始めると、桐原も動きを見せた。

 


『させるかよ!』



 剣から放たれたのは巨大な炎。

 大きさもさることながら、中心の温度はかなりの高温であることを容易に把握できるほどに高密度の炎だった。

 しかも、その発生の早さは異常なほどだった。

 強引に魔剣に膨大な魔力を流し込んでの攻撃。

 それは逸れる気配を微塵も見せずにラウラへと向かう。



『お前はどういうわけか、火系統の魔法をほとんど使ったことがない。いや、使えないといったほうが正しいのか?』



 桐原の余裕に満ちた笑みがラウラを卑下する。

 だが、ラウラは全く表情を変えない。



『森に生きるエルフが森を焼く火を使えないのは当然だろう? その炎は水魔法程度じゃ防げないぞ?』



 炎がラウラを直撃するルートを辿っていることを確信したのか、桐原の笑みはさらに深まる。

 だが…



 炎がラウラを飲み込もうとした直前、ラウラがその右手を流れるような動きで右方向に払う。

 すると、それに合わせたように、炎はラウラの右側を掠めるように軌道をずらして通り抜ける。

 通り抜けた炎は背後の結界壁にぶつかり、耳障りな音をたてて結界を軋ませた。

 炎が消えた後には、傷一つ無い結界があった。



(良かった、何とか大丈夫だな………安心しろ、後で魔力をたらふく食わせてやる)



 ラウラは不敵な微笑みを桐原に向ける。

 桐原は何が起こったのかをいまいち理解できていないようだ。



『おい、一体何をしたんだ! どうして俺の炎が当たらないんだ!』

「どうしてそんなことをお前に教えてやらなきゃいけないんだ? そのくらい自分で考えろ。私よりも遥かに昔にこっちに来たんだろ?」

『うるせぇ! そんなこと知らなくても俺は強いんだよ!』

「ま、お前は努力とかいう類の言葉が壊滅的に似合わないような奴だから仕方ない。いつまでも貰った力に胡坐をかいていると、足元を掬われるぞ?」



 ラウラが何をしたのかを桐原は全く理解できていなかった。

 


 桐原が放った炎は、当たらなかったのではなかった。

 ラウラの使った魔法に当たり、その方向を変えられたのだ。

 尤も、ラウラが使ったのは魔法と言うには程遠いほどに初歩的な魔力操作だった。

 魔力の塊を作り出し、炎が当たると同時に包み込むように展開し、横方向に投げ捨てた。

 


 ラウラの不安の一つは、結界壁が桐原の力に耐え切ることができるかだった。

 先ほど使った魔力塊も、正面から力勝負をすれば押し負けていただろう。

 だからこそ、ラウラは方向を変える瞬間だけ魔力を強化していた。

 もし結界壁があの攻撃で破られてしまっていれば、全ての攻撃を完全に・・・無効化しなければならない。

 そうなれば、確実にラウラのほうが先に消耗し尽してしまう。



 だが、ラウラの不安を良い方向で裏切ってくれた。

 元々全ての攻撃をそのまま逸らすとは考えていない。

 捌ききれない攻撃の一部を耐えてもらうつもりだった。

 今の攻撃に耐え切れたのであれば、威力をある程度殺せば問題なく耐え切るだろう。

 


『くっ、一度くらい逸らした程度でいい気になるなよ? 当たるまでぶつけてやる!』

「いいだろう、やってみろ」



 桐原の剣に魔力が注ぎ込まれる。

 先ほど魔力が高まった場所とは違い、複数の場所から大きな反応が見られた。

 同時に発生する多数の炎。

 先ほどと同程度の威力なのだろう。

 それを見るラウラだが、その表情には一片の陰りもない。

 自身の周囲に何かの魔法を展開している。

 


『こいつで燃え尽きろ!』



 一斉に炎が放たれる。

 全てがラウラに向かってくるが、ラウラに一切の回避行動は見られない。

 


 と、ラウラの周囲に多数の魔力光が輝きはじめる。

 その光はより一層輝きを増すと、まるで意思を持ったかのように炎に向かってゆく。



『馬鹿か? その程度の魔法は焼き尽くしてやるよ!』

「そいつはどうかな?」



 ラウラの魔法により生み出された光が炎に飛び込む。

 次の瞬間、炎がより大きくなった。

 魔力を燃やし尽くされたのか、大きく燃え盛る炎。

 だが、次の瞬間、桐原の笑みは崩された。







 ラウラに襲い掛かった炎の全てが爆散した。







『馬鹿な! お前程度の魔力、燃え尽きているはずだ!』

「…お前はいちいち癇に障る奴だな。少しくらい自分で考えようという殊勝な心がけはないのか?」



ラウラは早々に力勝負を諦めていた。

 桐原が数を撃ち出してくることはおおよそ見当がついていたので、対処をすることができた。

 ラウラが行った対処とは、桐原の魔法を内側から破砕する方法だった。

 それを実践するために、精密な魔力の組み上げを行った。



 ラウラがイメージのベースにしたのは『花火』だ。

 中央に炸薬代わりに『爆発エクスプロージョン』の魔法を組み込み、それを覆うように小さな『爆発』の魔法を組み込む。

 組み上がった魔法に、さらに魔力でコーティングをする。

 外側の魔力は遠隔操作を可能な制御を組み込んでおく。



 桐原の魔法めがけて飛ばされたそれは、桐原の目論見通りに、外側が炎によって侵食される。

 全てのコーティングが無くなった瞬間、中央の魔法が炸裂し、小型の爆発を外側に撒き散らす。

 ただ魔力を注ぎ込んだだけの桐原の魔法は、内側からの計算された爆発によって爆散させられた。



 自分の攻撃を無力化されたことによる怒りなのか、その顔を歪めながら怒鳴り散らす桐原に、鬱陶しそうな表情を露わにして吐き捨てるラウラ。

 その言葉の一端からでも、目の前の存在が恵まれた環境にいた者だと十二分に理解できた。

 自分の望むものは全て手に入り、害する者は消し去ることの出来る権力もある。

 歪んだ精神さえ、周囲が肯定してくれる。

 まさに不自由など全く無い環境。 

 何故そんな人間に、力を与えるという愚行をとったのか、その当時の『神』には恨み言しか出てこない。

 尤も、その『神』も既に桐原に喰われているのだが。



『ふざけんじゃねぇよ! 教えろよこの野郎!』

「随分と口調が砕けてきたな? 子供みたいだぞ?」

『うるせぇ!』



 桐原が距離を取り、右手を大剣の柄から離す。

 その右手に魔力が集まり、掌よりもやや大きいくらいの塊になる。

 やがてそれは輪郭を露わにする。

 桐原はそれをラウラに向けると、歪な笑みを浮かべる。

 その笑みに嫌なものを感じ取ったラウラは、それを本能的な警鐘だと判断して即座に移動する。

 その距離こそほんの僅かだが、それがラウラの命を繋ぎとめた。

 その左頬には、一筋の赤い線が刻まれていた。

 赤い線からは少しずつではあるが、出血があった。

 即ち、桐原の攻撃によってつけられたものだ。

 ラウラは桐原の右手にあるものを凝視する。



「なるほど………そう来たか………」





 

 桐原の右手に握られていたもの………





 それは一丁の拳銃だった。 

桐原の攻撃手段がやや単純なのは理由があります。


読んでいただいてありがとうございます。

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