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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第13章 終焉の地
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終りの始まり③

「ねえお母さん、またあのお話して?」

「またなの? 本当にあの・・お話が好きなのね?」

「早く早く!」

「はいはい、わかったから。…昔々あるところに………」








「…そして悪い神様はハイエルフさん・・・・・・・がやっつけてしまいました。そしてエルフの民はずっとずっと幸せに暮らしましたとさ…おしまい」

「ハイエルフさんってすごいね! 神様をやっつけちゃうなんて! 私も大きくなったらハイエルフさんになる! おとうさんとおかあさんを護るんだ!」

「ありがとう、お前は優しい子だね。でも、それならいつも良い子にしてなきゃいけないね?」

「うん! 私、良い子になる!」


 親子の楽しげな声がゆっくりとフェイドアウトしていく。

 その微笑ましい光景も徐々に闇につつまれていく。










 少女は一人、闇の中にいた。

 膝を抱えて座り込んで、俯いている。

 その心の中にあるのは、在りし日の幸せな情景。

 少女をとり巻くのは、あまりにもかけ離れた現実。

 

「もう…嫌だよ…おとうさん…おかあさん…」


 誰に向けるでもない言葉。

 そんな少女を嘲笑うかのように、声が響き渡る。


『もういい加減に諦めなさい。あなたは私、私はあなた。これはあなたが望んだことなのだから』

「こんなの嫌! もう何もしたくない!」

『残念だけど、あなたを助ける者はもういない。もうすぐ全て手に入る。もうすぐ全て終わりにできる』


 響く声に反応することもなく、少女は俯いたままだ。

 

『あとは彼女がアイツを倒せば全てが終わる。何もかもが終わるのよ』


 少女を包み込む闇がより一層濃さを増す。

 闇が少女を覆い隠していく中、少女は力なく呟く。


「…お願い、助けて…ハイエルフさん・・・・・・・…』
















 ラウラの屋敷はどことなく緊張感に包まれていた。

 黒幕の桐原を魔大陸で迎え撃つとラウラが決めてから、皆最後の戦いになるであろうことを肌で感じ取っていたからだ。

 

 ラウラもどことなくピリピリしており、魔大陸の魔物達はラウラの気配を感じ取ると、そそくさと塒に戻って行った。

 恐らくはラウラと互角か、もしくはそれ以上とも思える敵がここにやってくるといううのだから無理もない。

 もしその戦いの場に遭遇してしまったら、自分達などひとたまりもないということを理解しているのだろう。


 そしてその状況は、古代竜達の住処でもある山々でも見られていた。

 だが、今この時点においては、違う意味での緊張感に包まれていた。







「お前達には屋敷を守ってもらいたい」


 ふらりと現れたラウラが蒼玉竜サファイアに頭を下げたのだ。


「あの場所には動物達や弱い魔物達を避難させる。お前達の力で結界を維持してほしい。私にはそんな余裕は無くなるだろうからな」

『…本気で言っているのか?』

「こんなこと冗談で言えるほど酔狂ではないと自負しているが? それに、お前達にとっても悪い話ではないだろう?」


 

 にやけ顔のラウラに露骨に雰囲気を悪くする蒼玉竜。

 事実、悪い話ではなかった。


 彼らの住処は、ラウラが最終決戦の地に選んだ場所からほど近い所にあった。

 もし戦いになれば、確実に影響の出る場所である。

 成竜であれば自身の身を守ることは出来るが、問題は幼竜達だ。

 その個体が減少の傾向がある古代竜としては、幼竜の命は最優先で護るべき存在だ。


 

 そんな子供達を、ラウラとユーリエが作った結界の中に入れて自分達が外を守る。

 これほどまでに安全な避難場所は世界中どこを探しても見つからないだろう。


 

『確かに…こちらとしても子供達・・・を護る場所があるのは心強いが…。だが、何故我等がそのようなことを…』

「…無理強いはしない。だが、お前達も奴等にはいい思い出は無いんだろう?」

『それは…』



 ラウラの言葉に蒼玉竜は黙り込む。

 彼らとしても、桐原の一味には少なからず恨みがあった。

 桐原が過去に差し向けた召喚魔法により、何人もの地球人がアステールに召喚された。

 そんな彼らは、この世界をゲームのように楽しんだ。



 折しも魔物を狩るゲームが流行していた頃の少年少女だったため、その力を以って強力な魔物を狩っていたのだ。

 そして、狩られた魔物は彼らの装備品へと姿を変えた。



 その中には、古代竜の幼生体も含まれていた。

 彼らはその力を使って竜達を狩っていったのだ。

 もちろん一方的に狩られる竜達では無かったが、それでも被害はかなりのものだった。

 その怒りは竜達の心の奥底に常に燻っている。



『本当に…我等が仔らも…護ってもらえるのか?』

「ああ、この森に棲む存在を守る義務があるからな」



 薄い胸を張って答えるラウラに、若干意味ありげな視線を投げかける蒼玉竜。

 強大な力の象徴でもある彼らが誰かの庇護下に入るというのは、彼らのプライドが許さないのだろう。

 だが、プライドを優先して子孫が途絶えることだけは絶対にしてはならない。

 そのため、まさに断腸の思いで庇護下に入ったのだ。

 


 一人と一頭の間に、若干気まずい空気が流れる。

 ちなみに現在、蒼玉竜は竜形態だ。

 まさか自分の塒でまで人化する必要などないので、当然といえば当然なのだが…。

 


「それは私からもお願いします」



 凛とした女性の声が重くなった空気を吹き飛ばした。

 そしておずおずと入ってくる一人の人族の女性の姿。



「是非とも…私達を守っていただけないでしょうか?」



 入ってきたのは前島だった。

 ラウラが竜達に守護を依頼しにいくと聞き、強引についてきたのだった。



「私達も微力ながら、貴方達の御子息を護ります。だから…」

『…もういい、皆まで言うな』



 前島の言葉を途中で遮るように、蒼玉竜は言葉を重ねた。



『貴様等に護ってもらうほどに我等の仔は弱くない。…だが、護ってもらうことは吝かではない』

「それは…ありがとうございます!」

「上手く話が収まったようだな」



 前島は自分の提案が受け入れられたことに安堵していたためか、何の違和感も感じていなかったが、ラウラは蒼玉竜の微妙な心境の変化に気付いていた。


 

(…ふーん、面白そうなことになってきたな)



 ラウラの何かを含んだような視線に気付いた蒼玉竜は、内心を見透かされたことに気付いて慌てて話を変えようとした。



『そ、それにしても…勝算はあるのか? 相手はこの世界を牛耳ろうとしている存在なのだろう?』

「無かったら戦おうなどと思わない。その為の戦略も立てた」

『それが「あの場所」を戦場に選んだ理由か?』

「ああ、私が全力を出せる場所だからな」



 ラウラの全力という言葉を聞き、身震いしている自分に気付く蒼玉竜。

 間違いなく全てを左右する戦いになるであろうことを予感できたからだ。

 そして、もしラウラが敗北すれば、自分達に未来がないことも理解できてしまった。

 かつて自分達を狩っていた者達の頂点に立つ者が自分達に慈悲を与えることなど想像もできない。



「心配するな、どんなことがあってもお前達のことは護る」



 気付けば、そう言葉をかけるラウラの視線は真剣そのものだ。


 

 かつては自らラウラに挑んだこともある。

 だからこそ、お互いの心の底にあるものは自然と理解できるようになっていた。

 どれだけラウラが自分達に高圧的に接していても、その心の奥底では自分達のことを案じてくれていることは理解している。


 

 故に、態々言葉に出してまで強調するということが、その覚悟の程を窺えた。


 

『まさか…そんなことを…』

「ああ、最後の手段だがな。だが、そこまで引き摺るつもりはない。早々に仕留めてやる」



 戦いが長引けば長引くほど、周囲に与える影響は大きくなる。

 いくら結界で守っているとはいえ、総力戦の終盤ともなれば、結界に回せるほどの力が残っているとは考えにくい。

 ならば、余力のあるうちに速攻で倒してしまえばいい。

 そのための布石も打ってある。

 身近な者にはその内容は知らせていたが、ほとんどはその作戦に反対した。

 ただ、唯一ユーリエだけは賛成してくれた。



 結局、この『森』においての最高戦力はラウラだ。

 ならばラウラを主軸とした戦略になるのは致し方ないことであり、誰もが認めざるを得なかった。



「心配するな、ちゃんと隠し玉も用意してある」

『隠し玉? それはいったい?』

「今教えたら隠し玉にならないだろ? それは見てのお楽しみといったところだ」



 悪戯っぽく笑うラウラ。

 そこにはこれから戦いに臨む者の顔は無かった。

 まるで自分達の勝利を信じて疑わない者の顔だった。

 何故ここまできて、そんな余裕のある顔が出来るのか蒼玉竜は理解できなかった。

 その怪訝な表情に気付いたラウラがにやにやしながら小声で囁いた。



「ここで負けたら、お前と先生のこの先が楽しめないだろう?」

『な! ななな何を言って…』

「誤魔化したって無駄だぞ? そのくらい一目でわかる。…まあ先生も色々あったから、お前なら支えてやれるんじゃないかと思ってる」



 常人には聞き取れないほどの小声で何やら囁きあう一人と一頭を見ながら、前島は不思議そうな顔をしていた。

 




4月までは更新が遅れるかもしれません。

仕事が忙しくなっているので…


読んでいただいてありがとうございます。

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