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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第13章 終焉の地
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終りの始まり②

ほんのり微エロ?

 少女は対峙していた。

 その相手は男のようだったが、その姿は明らかに常人の域を逸脱していた。


 その男の背には…純白の翼があった。


『神の戯れの邪魔をするな』


 男が何の感情も表さずに、無機質で抑揚のない声でそう言った。


(戯れ? 何のことだ?)


 意味の分からない発言に思考が混乱してしまう。

 しかし、そんなことはお構いなしに少女と男の会話は続く。


「戯れだと! 私のあの苦しみも! 両親の死も! 全部そうなのか!」

『そうだとしても、貴様には何も出来ない。貴様等は神の戯れの駒として存在していればいい』

「ふ、ふざけるなああっ!」


 少女は激昂する。

 と同時に、少女の周りに漆黒と呼ぶに相応しい色の炎が生まれ、男を跡形もなく燃やし尽くす。

 

「そうか…今までのことは全て…遊びだってことか…」


 少女はその瞳に宿る復讐の炎をさらに大きくする。


(戯れ…遊び…)


 

 と、場面は切り替わる。 

 少女は一人の女性と対峙していた。

 そこにいるのは絶世の…というよりもこの世のものとは思えない美貌を持った女性だ。

 その作り物のような美貌には、歪な笑みが張り付いている。


『どこまでも私に抗うか…小賢しい』

「お前さえいなければ…こんな苦しみなど無かったんだ!」

『ふん、自然に湧く虫共をどうしようと私の勝手であろう?』

「それもここで終わらせてやる!」

『私が手を下すまでもない。この者が相手をしよう』


 女性が軽くその右手を振ると、その隣に剣を持った少年が現れる。

 少年は清々しい笑みを浮かべながら少女に切りかかる。


(そいつはやばい! 避けろ!)


 そんな叫びも虚しく、少女の身体は6つに分断されてしまう。

 少年がそのうちの左手に当たる部分を掴むと、そこから光が飛び出して閃光を放った。

 周囲を閃光が満たした後、ようやく周囲に色が戻る。

 そこには分断されたはずの少女の身体はどこにもなかった。


『逃げられたか…だが、これで奴も終りだろう』

「ああ、だけどお前もな」


 少年はその剣を女性に向けた。

 片手には少女の左手を持ちながら。


(何だ? 仲間割れか?)


 そんなことを考えた時、再び場面は切り替わった。


 これまでとは違い、まるで現代日本のような場所だった。

 

「ええ、はい、その件は引き続き私が担当しますので…」


 キャリアウーマンのようなスーツ姿の女性が携帯電話のようなもので誰かと話をしていた。


「このプロジェクトもうまくいきそうよ。頑張りどころね」

「はい! 頑張りましょう!」


 後輩と思われる女性と笑顔で話す女性。

 だが、そこに不審な男が現れる。

 その手には大振りの刃物。


(おい! 逃げろ!)


 しかし、やはりその声は届かない。

 まるでスローモーション映像を見ているようだった。

 女性の首筋に刃が迫る。

 触れた瞬間、まるで焼けたナイフでバターの塊を切るかの如く、何の抵抗もなしにその胴と頭を分断する。


 転がった頭部はその瞳に抜けるような青空を映していた。

 

(そう…ついに私の番が来たんだ…)

(私の番? 何だそれは?)


 最後のは女性の心の声だろうか、だが、その内容が理解できない。

 そして世界は暗転した。










 ラウラはやけに重たい瞼を何とか開ける。

 全身脂汗まみれでべたつく身体を何とか動かして起き上がる。

 辺りはまだ暗く、夜明けまではかなりあるようだ。


「水浴びでもするか…」


 纏わりつく寝間着を指で摘まみながらそんな独り言を呟く。

 

「これじゃ二度寝は無理だろうし…」


 敷布も上掛けも大量の寝汗が染み込んでいるようで、冷たく濡れた手触りが気持ち悪い。

 仕方なく濡れた上掛けを部屋の隅に追いやり、敷布を外して着替えと一緒に抱えながら浴場へと向かう。

 

 幸いにも浴場に向かうまで、誰にも出会うことはなかった。

 今のラウラの姿を見れば、その異様さにひと悶着あっただろう。

 全身汗まみれで、まるで通り雨にでも遭遇したような姿だ。

 脱衣所で濡れた寝間着と敷布を洗濯カゴに放り込むと、そのまま浴場に入る。


「流石に水風呂は嫌だな…少し温めるか」


 今は誰も使っていない時間のため、浴槽は空だ。

 水を発生させる魔法陣を描きこんだ石板に魔力を通すと、浴槽にみるみるうちに水が溜まっていく。

 十分な量溜まったのを確認すると、徐に掌を浴槽に向ける。


「………このくらいかな」


 向けられた掌から、ピンポン玉くらいの大きさの炎の玉が放たれる。

 それは浴槽の水に着弾し、周囲の水を沸騰させながら消えていく。


「…よし、いい湯加減だ」


 ラウラは独り、広い浴槽にその身を沈めた。






「ふぅ、やはり湯浴みをすると気分がすっきりするな…」


 さらさらの湯で顔を洗いながら、ついついそんな言葉が零れる。

 

「本当はマナー違反だろうけど…独りだからいいか」


 今のラウラはその長い金髪をアップにしていない。

 湯の中に髪を浸けてしまっている。

 他に誰も入っていないし、後で残り湯は全て処分するつもりだからだ。

 細かい配慮が面倒臭かったということもあった。

 あのよくわからない夢の余韻を一刻も早く払拭したかったということもあった。

 

「…ん? 何だろう?」


 寝静まっている屋敷の中を、浴場に向かって移動してくる気配があった。

 だが、ラウラはその気配が見知った者の物であることが解っていたので、特に警戒することはなかった。

 その気配は脱衣所を抜けて浴場の入口で止まったまま、暫く動かなかった。


「…そんなところに突っ立ってないで入ったらどうだ、良い湯だぞ、ユーリエ?」

「……………」


 ラウラはその気配に声をかけた。

 返事はなかったが、小さく聞こえる衣擦れの音からすると入ってくるのだろう。

 

「失礼します…」


 小さく断りを入れて浴場に入ってきたのは…ラウラの把握した通り、ユーリエだった。


「そんな無粋なものを着て風呂が楽しめるか?」


 ラウラはユーリエの格好を見て眉をひそめる。

 ユーリエはその暴力的なまでに煽情的な肉体を湯浴み着に包んでいた。

 だが、今のラウラは全裸だった。

 基本的にラウラが入浴する際は独りなので、湯浴み着を着ることはない。

 実を言うと、楓とすらも一緒に入ったことはなかった。

 つまり、誰かと一緒に入浴というのは、実は初めてだったのだ。


「しかし…私の身体は…」

「それならせめて布を巻いてこい。私が馬鹿みたいじゃないか」


 ラウラが浴槽から不機嫌そうな表情を見せている。

 ユーリエは覚悟を決めて湯浴み着を脱ぎ棄てると、浴槽に入ってきた。


「…相変わらず羨ましい身体をしているな」

「…そ、そんなことは…ありません…」


 雪のように白い柔肌が湯によってほんのり桜色に上気している。

 ラウラは自分の身体とあまりにも差がある部分を舐めるように眺めるが、とある箇所で止まる。

 それを察知したユーリエが、一瞬だけその身体を強張らせる。


「…それがお前の『種族特性』なんだな?」

「はい…ですが、純血を残すことは不可能になりました。もう悪魔族は私唯一人ですから」


 ラウラと向かい合うように入っているユーリエはその顔を俯かせる。

 

「本当は、こんな場所に一緒にいていい存在ではないんです! こうしている間にも私は…」

「…それならそれで構わないが?」

「…え?」


 ラウラは全く意に介さない様子で答えた。

 思わず聞き返してしまうユーリエ。


「別にそれがお前を否定する要因にはならない。それも含めてお前なんだからな」

「…ありがとうございます」

「ほら、もっと近くに寄れ。そのあたりはまだ冷たいからな」


 ラウラは自分の隣に引き寄せる。

 ユーリエは屈託のないラウラの笑顔に、色々と緊張が解れていくのを感じていた。


「はあ…ラウラ様には敵いませんね」


 2人は肩を並べて風呂を味わった。









「またあの・・夢ですか?」

「ああ、今回は変な女が殺されていた場面があった。私に全く面識のない女だったが」


 夢の話を聞かされたユーリエの表情は優れない。

 おそらくこの夢は何かの警鐘だろうと考えていたからだ。

 であれば、一体何を警告しているのだろうか。


「そうだ、先日相談した作戦なんだが、お前の見立てはどうだ? 私としては上手くいくと思うんだが」

「はい、あとは如何にして相手を弱らせるかということと、最後の一手のタイミングだけです」

「あいつの相手は私が全力でする」

「ですが…本当に『あの場所』でいいんでしょうか?」

「危ぶむ気持ちは解らないでもない。だが、私の全力を出せる場所というものが他に見当たらないんだよ。他には影響しないようにするから安心しろ」


 ラウラは最後の相手との戦いの準備を進めている。

 だが、夢を見始めたのもほぼ同時期だ。

 それほどまでに最後の相手が強いということなのだろうか。

 勿論、これまでこの世界を裏から操作してきた相手だから、弱いということはありえない。

 そのための警鐘ということであればいい。

 もし、それとは別の意図が存在しているとしたら…



(もしもの時は…全てを賭けてお護りいたします)


 上機嫌で鼻歌を歌うラウラを見ながら、ユーリエは決意を新たにした。









 そして夜が明ける。


「ずるいですよ! どうしてラウラちゃんと一緒にお風呂入ってるんですか!」

「…そのうえ湯浴み着を着ない状態でなど…なんてうらやま…いえ、けしからんことですか!」

「ずるいです、お姉さま! せめて一緒に入れないのならその残り湯を持ち帰って…」



 結局ラウラとユーリエは夜明けまで入浴していた。

 その後脱衣所から揃って出てくるところを運悪くシャーリーに見つかってしまったのだ。

 そしてその話は楓に、さらには遊びに来ていた一之瀬の耳にも入った。

 そして今、ラウラの書斎にあるソファに並んで座らされた2人に対しての追求が始まっていた。


「別に風呂くらいいいだろ? それから一之瀬、残り湯の持ち帰りは許さん」

「風呂くらい? 私だってまだ一緒に入ってないのに!」

「私と一緒の時には結界すら張られたんですが…」

「お持ち帰りが駄目なんですか? ならせめて一口…」


 若干一名、欲望が違う方向に向かっているのがいる。

 だが、他もおおよそ似たようなものだった。

 ラウラは苦笑いしながらもそれに応対している。

 ユーリエはそんなラウラの隣で微笑んでいた。


(こんな光景をいつまでも見ていたかったですね…)


 そんなユーリエの呟きに気付く者は誰もいなかった。

 

相変わらず不定期ですが、できるだけ週イチペースでいきたいと思っております。


読んでいただいてありがとうございます。


新しい連載やってます。

ワケあり女子高生の異世界トリップものです。


http://ncode.syosetu.com/n8972cm/


よろしければ暇つぶしにどうぞ。

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