【旧】元クラスメートが異世界でハーレム勇者になっているようなんだが。
5/12に加筆、修正をしました。
「あ」
「あ」
転生した世界で、クラスメートがハーレムを作ってるようなのだが、どう反応したらいいだろうか。
* * *
私は所謂転生者だ。
前世でちょっと早目に死んでしまった私は、神様の粋な計らいで、前世でいうファンタジーな世界に転生してしまった。しかも、前世の記憶アリ。
今ではなんてバカなことをしてしまったんだ、と反省している。ちゃんと物心ついてるのに、体は動かしにくいし、言葉も上手く話せない。他人(親だが)にオムツかえられたりしたときにはもう…!記憶を抹消してしまいたい。切実に。
なんだってこんなことになったというと、神様とのやりとりとかは全部夢だと思ってたからだ。私は元々体が弱く、死ぬときも眠りにつくように死んでしまったのだ。
寝たきりが多かった私は読書が好きで、ファンタジーも大好きだった。その頃転生ものを読んだのもあり、
うわー、転生の夢みるとかちょっと痛いわー。まぁ、夢だし、いっか☆
みたいな感じに気楽に構えてたのだ。現実(?)だと分かってたら前世の記憶なんて道連れにしなかった。
そんなこんなで、頑張った私は、周りからちょっと頭のいい子、大人びた子、という認識程度まで抑え、科学ではなく魔法が主流の世界でスクスクと成長した。
ファンタジー世界を希望しただけあり、魔法に憧れてた私は治癒の魔法を扱う治療師となった。前世の経験が全く関係しないとはいわない。だが、攻撃系の魔法とかはとんと駄目で、治癒に偏りまくってたのが一番の理由だ。
そんな私は気付いたらそこそこ有名な治療師になってました。
「ナツキー、手紙だよー」
「はーい」
馴染み郵便配達の子の声に答える。
因みにナツキは私の名前だ。
手紙ら王都からのようだ。嫌な予感しかしない。
手紙にはこう書いてあった。
『第2等治療師・ナツキ殿
貴殿を勇者パーティーの治療師に任命する。』
他にもごちゃごちゃ書いてあるが、結局言いたいことはこれだ。
私は思わず手で顔を覆う。
「うっわー。だから昇格したくなかったのにー。」
この世界では、誰でも魔力を持っている。しかし、その魔力の量や魔法を操るセンスは人によって違い、特別力を持つ者は国の試験を受け、力に応じて称号をもらうのだ。称号によって扱いが違い、称号が上な程特権があったり、国からの依頼があったりするのだ。
私は他が全く駄目な分、治癒の力が高いらしく、第2等治療師の称号を持つ。第1等治療師が一番上の称号なのだが、それは王族、貴族付き治療師にしか与えられないので、民間では一番上ともいえる。また、第2等治療師も貴族付きが多い。私は誰にもつかず、一人で気ままにやってるので使い勝手がいいのだろう。小娘一人の力なんてそんなもんだ。
わざわざ田舎にご苦労なこった。
(第一級医療書の誘惑のせいだ…)
昇格するのは乗り気ではなかったが、貴重な資料読みたさでつい。
私が遠い目をしてるうちに、郵便配達をしていた少年が勝手に手紙を覗きこむ。
うおー、とか言葉を漏らした少年は満面の笑みで村の広場の方へ走っていった。言いふらしにいくのだろう。どうせこの狭い村ではすぐ広まることなので、放置する。但し、少年の顔はバッチリ覚えた。覚えたぞ、少年。
あぁ、私も野次馬側で気楽に騒ぎたかったな…
「初めてまして。
このパーティーに派遣された治療師です。
セナと呼んで下さい。
不束者ですがよろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げる。
あー、こういう動作をする当たりが、やっぱり私日本人だなー、と現実逃避してみる。
一応国の方に抗議してみたが、一刀両断。とりつく島もなかった。
いいけどねー。別にー。最初から分かってたしー。つか、途中参加ってどういうことだよ。前任者どうした!出てこいや!
ふて腐れつつ、旅途中の勇者たちと合流した。
勇者たちの旅が終わったら、村に帰る気満々なので、一応偽名で通せるよう、国にお願いした。
これくらいのわがままいいですよねー。ケッ
顔を上げた私を勇者パーティーの皆様、特に女性陣がまじまじと見てきた。特に顔。
うわー、なんか美形ばっかり。美形しかいない。何、勇者パーティーの基準、顔?あ、私が入らされた時点で違いますよね。はい。
見終わった後、パッと顔を明るくした皆様(特に女性陣)は、自己紹介をし始めた。
まずは、第4王女のマリー様。儚い系の女性だ。ちょっと私もうっとりしてしまった。これが本物の姫さまの威力か…!
次に貴族のティノ。俺様だ。見下されてる感がひしひしと感じる。お貴族様め。こんな奴、呼び捨てで充分だ。但し、私の中限定。しがない市民は権力に弱いのだ。
色っぽい姐さんのクレアさん。元盗賊だそうだ。採用していいのか、国よ。まぁ、足は洗ったそうだが。
柔和な雰囲気なミナハさん。きっと彼はブレイン的存在なのだろう。いや、別に他の人がバカそうなわけではない。そんなこと思ってない。
獣族のニーナ。ロリだ。何あの耳としっぽ。触ってみたい…!
他にも非戦闘要員の侍女のサリーとユリとサラ。世話係だ。宿で待ってたりするらしい。王女さまやらお貴族様は大変ですねー
結構大所帯。そして、女性が多い。私の前の治療師も女性だったらしい。
「ところで、勇者様はどちらですか?」
一番に紹介されるであろう勇者様はここにはいないようだ。
「何、アンタ。カズキに色目つかうつもり?」
盗ぞ…元盗賊のクレアさんが睨んでくる。美人の睨みは迫力がある。そしてなんて理不尽。
「え、いやいや。というか、カズキ、さん?はどなたなんですか?」
「驚いたー。キミ、勇者の名前も知らないのー?」
しっぽを揺らしながらニーナが驚いたような声をあげる。ちょっとわざとっぽいですよ。あ、あと、クスクス笑わないで下さい、侍女×3さん。確かに田舎者ですが。ティノはちょっとどっか行け。
見かねたのか、ミナハさんが苦笑して説明してくれる。
「カズキは勇者の名前ですよ。
知ってるかもしれないですが、取り敢えず説明させてもらいますね。
勇者は異世界の方です。最近活動が活発になってきた魔物たち、ゆくゆくは魔族、魔王を倒すためにこの世界に召喚されました。」
ご丁寧な説明ありがとうございます。ミナハさんが頼りですよ。
「知りませんでした。いや…聞いたことあるかも?」
私ってどうでもいいことすぐ忘れるからなー。
異世界からってどんだけファンタジー。しかし、召喚された人可哀想だな。可哀想なんてもんじゃないな。私だったらキレる。お前らの世界のことなんて知るか!ってね。
引き受けた勇者は相当お人好しだ。
「悪い!寝坊しちゃって!」
私の後ろの方から声が聞こえた。
「噂をすれば、ですよ。あちらが勇者です。」
私が振り向く前に、女性陣がわっと湧き、そちらへ駆け寄る。
「心配しましたわ、カズキ様。お体の調子は如何ですか?」
「もぉ、何やってんだよー、カズキー」
「カズキくん、遅いよー。」
『おはようございます、カズキ様!』
ワントーン上がった可愛らしい声もここまで集まるとちょっとうるさい。
ティノの眉間のシワ(姫さまの方をみてるみたいだ)やミナハさんの苦笑から、これはいつも通りの光景だと窺える。
私が勇者様の方を振り返ると…
「あ」
「あ」
知った顔がありました。
「うっそ!瀬名!?
え!?なんでここにいんの!?」
「え、え。いや、こっちの台詞なんだけど。」
いや、ちょっと待て。他人の空似だろ。なんでここにいんだよ。世界すら違うぞ。あ、だから異世界者。成る程。
「え?知り合いだったんですか?
あ、セナさん、勝手に引き返さないで。」
なんとか落ち着いた私達(何故か女性陣も騒ぎだした。ミナハさん、すみません)は、宿の食堂に移動した。2人で話せるようお願いしたため、他のメンバー達は遠くからこちらを見てる。女性陣の視線が突き刺さって痛い。
「突然騒いで悪いな。あなたが、俺の世界のクラスメートに似てて…」
そう、実は、私の顔は前世と全く同じなのだ。DNAはどうした。そういうわけで、私はこの平凡な顔と前世も今世も一緒に頑張ってきたのだ。前世の記憶よりもっと良い顔が欲しかった…!
“セナ”という偽名は前世の名字からとった。あと、これまた不思議なことに下の名前も前世と同じだ。前世では“夏月”。両親曰く、なんか神がおりてきたらしい。「この子の名前はナツキだ!」と。うん、多分それ、本当に神様おりきてる。
「あー……多分、それ私です。
これから話すことは秘密にしといてもらえますか?」
それから私はカズキ――結城和樹に、私が転生者であることなどを話した。このことを話すのは初めてだ。いくらファンタジーな世界とはいえ、前世の記憶があるなんて頭が可笑しい子と思われるだろうと思い今まで誰にも話したことがなかった。それでなくても、何処かの研究者たちに目をつけられても困る。因みに、私だったら目をつける。確実に。
結城くんも最初は戸惑ってたようだが、案外すんなり受け止めてくれた。流石異世界トリップしただけある。
彼の話と私を合わせるに、どうやら彼がトリップした日に私は死んだようだ。生まれて十数年この世界にいる私に対して、彼はトリップしてたった1年。時間軸はどうなっているのかかなり気になるが追及しないでおこう。
なお、私が死んだことを彼には伝えていない。
いくらあまり顔を合わせなかったクラスメートとはいえ、聞いていい気分はしないだろう。
「瀬名の名前が“セナ”っていうのは偶然なの?」
落ち着いた結城くんは私に尋ねる。
突然のトリップで右も左もわからない中、(元)同じ世界の人間がいて嬉しいのだろう。彼の顔には隠しきれない笑みが浮かんでいる。
「ううん。諸事情につき、偽名です。」
「じゃあ、本名はなんていうの?
向こうでは、名前……夏月、だったよね?」
正直驚いた。
前に言ったように、私は元の世界では体が弱く、学校にもあまり行けなかった。彼と顔を合わせたのも片手に足りる程しかない。その場の流れのようなものでメールのやり取りをしたこともあるが、下の名前を覚えられていたとは…。
うーん。ある意味私、目立ってたのかな?あまり学校行かないから。
私なんか、クラスメートの大半は下の名前どころか名字さえあやしい。
(こういう気遣いがモテる秘訣なのか…)
結城くんはなかなかモテる。
元の世界でもこの世界でも(さっきの女性陣を見る限り)。顔は特別美形なわけではないが、優しいのだ。雰囲気も気さくで話しかけやすい。なのでミーハーではなく、本気の子が多い、らしい。(友人情報)
「うん。よく私の名前覚えてたね。
こっちでも名前はナツキだよ。不思議なことにね。
一応隠してるからこのまま、セナと呼んでくれると助かるな」
名前を覚えてもらえてた嬉しさも少し混ぜながら、笑みを浮かべる。どうやら私も元の世界の人、結城くんと会えて舞い上がってるようだ。
その後が大変だった。
(わたくし[うち、あたし、私たち]の)カズキと何話してたんだ、と鋭い視線で問われたり。
前言撤回。モテるなんてもんじゃない。オンナの嫉妬、こわい。
以前、勇者様に助けられたことがあって、とか言って適当に誤魔化した。だって、この様子じゃあ何言っても通じない。オンナの嫉妬、こわい。
結城くんは強かった。
とてつもなく、強かった。所謂チートだ。
数が多い時は他のメンバーも戦闘に参加するが、基本1人で片付けてしまう。他のメンバーがいたら色々気を使って、ある意味面倒らしい。
私?私は勿論、敵が現れた瞬間、安全な場所に避難する。いやだって、私治癒魔法以外、ダメダメなんだもん。誰かさんみたいに近くにいたら、守る対象が増えてしまって、邪魔だもん。
あ、姫さま危ない。侍女さん、もっと下がろうぜ。
そんな遠くにいたら結城くんに声が届かないだろって?え、なんかすみません。
結城くんがチラチラこちらを見る。ほら、やっぱり邪魔になってるじゃないですか。え?わたくしのことを気にして下さってる?…素敵ですね(頭が)
ちょっと。敵が目の前にいるのに身内で争わないで下さいよ。もうみんなのことを気にしているってことでいいじゃないですか。……あぁ、すみません。私以外の皆さんを、ですよ。
私は治療師として来ただけで、子守りしに来た訳じゃないはずなのに……
「結城くん。肩、見せて。」
戦いを終えた結城くんに声をかける。
「え。
いや、大丈夫です。全然元気です。」
結城くんは肩を庇って後ろに下がる。
さっきの戦いで、姫さまたちの方へ行こうとする魔物がいたのを切ったとき、無理な体勢をとっていた。その時にでも痛めたのだろう。
助けられた姫さまたちは気づきもしないで、結城くんに駆け寄って、褒め称えていた。
「大丈夫でもいいから見せなさい」
「いや、ほっとけば勝手に治るから大丈夫だよ」
そうなのだ。このチート野郎はある程度の傷ならほっといても治るのだ。何処までもチート。
「そんなこと知ってるよ。けど、私も仕事しなきゃいけないんだから協力して。
なに?力づくで脱がされたいの?」
こう言えば、結城くんは大体折れてくれる。
彼は慌てて服を脱いだ。
戦ってるだけあって、結城くんの体はしっかり筋肉がついている。しかし、つきすぎず、マッチョではなく細マッチョだ。
彼の肩にそっと手を当て、魔力を流しこむ。
「……瀬名さ。なんで、呼び方一定じゃないの?」
私は、他の人がいる前では“勇者様”、二人のときは“結城くん”と呼んでいる。
「だって、ハーレ…皆の前で“結城くん”って呼ぶと良い顔されないんだもん。」
最初、女性陣の前で“結城くん”と呼ぶと、睨まれた。なんでアンタだけ別の呼び方してんだ、と。ハーレム要員の方々から見ると私だけ特別な呼び方をしてるようにみえるらしい。結城くんは“カズキ”と名乗っていて、名字は言ってないらしい。元々、この世界では名字という観念はないのだ。
「そうなのか?じゃあ……他の奴らみたいに、“カズキ”って、呼べば、いいのに」
結城くんがつまりながら言う。
成る程。その発想はなかった。
「んー。けど、“勇者様”でこと足りるからいいや。」
「……そう、か」
日本人の心を持つ私としては、同級生(?)を名前呼びするのはなかなかハードルが高いのだ。
この話は終わったと思っていたら、彼が突然顔をあげ、此方を見てきた。
「けど、やっぱり俺は、……」
「カズキ様!どうかされたのですか!?」
彼が言い終わらないうちに、姫さまがやってきた。
「ケガをされたのですか!?大丈夫ですか?」
姫さまは無意味に結城くんの手を握る。上目遣いもバッチリだ。
「……はぁ。
いや、大丈夫だよ。ちょっと肩をひねっちゃっただけ。」
小さくため息をついた結城くんは、笑顔で姫さまに言葉をかけた。
「……勇者様。さっきは何と言ったんですか?」
私が声をかけると、姫さまは邪魔するなとばかりに此方を睨む。勿論、結城くんにバレないように。
「あー、いや。いいや
治療、ありがとう」
「セナさんも大変ですね」
結城くんが姫さまに引っ張られていったあと、後ろから声をかけられる。ミナハさんだ。
「……具体的にどこあたりのことですか?」
ニヤニヤした私は尋ねる。ミナハさんとは苦労仲間だ。
結城くんを取り巻くハーレムの内部争い(笑)に、姫さまが好きなティノの結城くんへのやっかみ。この勇者パーティーは団結しているとは言い難い。それでも問題なく進めているのは、結城くんの圧倒的力のおかげに他ならない。あとミナハさんのフォロー。
「勿論、あなたが思い浮かべてる通りですよ。
あなたは勇者に信頼されてるようですから、他の方にとって面白くないのでしょうね。」
ミナハさんは苦笑とともに言う。
「信頼……ですか。そんなことないと思うんですが…まぁ、治療師は信頼がないとやっていけませんから!」
信頼、か。もし、あったとしても、それは、
「元々知り合いだったから、ですか?」
「そうかも、ですね。っていうか、私の心読まないで下さいよ。ほんと、ミナハさんは何でもお見通しですね」
努めて明るく言う私に、笑みを浮かべていたミナハさんは顔を引き締める。
「そんなことないですよ。
だって私はあなた方がどんな知り合い…どんな仲だったのか知りませんから」
「……。仲なんて大層なものじゃないですよ。知り合いに毛がついたくらいですよー」
「だとしても、やっぱり気になってしまうものなんですよね、私は。…ナツキのことですから」
それから旅は順調に進み、遂に魔王を倒した。
魔王の城では、姫さまがさらわれたり、二手に別れるとき、クレアとニーナがどちらが結城くんの方になるかけんかして(実力行使にまでもちこんだ)無駄なケガが増えたりしたが、まぁ、終わり良ければ全て良し。遠距離で治癒したり、魔力なくなるまで力使ったりして(魔力切れはヤバい。死ぬかと思った)なかなか大変だったが、死者も後遺症が残るようなケガをした者も出ず、治療師としての任務を立派に果たした。
絶対給金がっぽりたかってやる…!
只今、結城くんの取り合いの真っ只中です。
「カズキ様
わたくしとずっと一緒にいませんか?」
「何言ってんのよ!カズキはあたしと一緒になるの!」
「おばさん達は黙ってよ!カズキはボクのだよ!ねえ、そうでしょ、カズキ!?」
「オマエら邪魔だぞ!カズキはオレとあついあ…友情で結ばれてんだよ!」
ギャーギャーとうるさいことこの上ない。なんか1人違うのが混じってる気がするが、私は突っ込まない。突っ込まない。姫さまはどうしたんだよ。
こら、結城くんの腕、あんまり引っ張るなよ。一応病み上がりなんだから。
結城くんも何か言ってるが、他がうるさくて全く聞こえない。
「お前らうるさい!!」
『!?』
…驚いた。あの結城くんが、口調荒立てるよ。
そりゃそうか。むしろ、今までよく我慢してたものだ。
そして彼はきっとこう言うのだろう。
「俺は元の世界に帰るよ」
さっきまであんなにうるさかったはずなのに、彼の言葉でいっきに静まりかえる。
女性陣(1人除く)は勿論、はやしたてたり、こちらを見てた野次馬たちも同様に目を見開く。王や重役の人間は慌て始めた。
「ちょっと待ってくれ!」
重役の1人が叫ぶ。
そりゃそうだ。彼は勇者。魔王を倒した後でも、利用価値は沢山ある。
例えば、他国への牽制や見栄。勇者を味方にすれば、国民を誘導しやすくもなるだろう。勇者の力は絶大だ。その力があれば――人間兵器にもなりうる。
「これからのキミの待遇は一生保証しよう。賞金だってやる。
キミがいなくなったらきっと国民は悲しむだろう。
それに、―――キミにはこの世界に愛してる人がいるんじゃないかい?」
息を飲んだのは誰だっただろう。姫さま?ハーレムの皆さま?野次馬たち?もしくは、――
「そうですね。確かにこの世界に好きな女性は、います。」
結城くんは苦く微笑む。こんな彼の切ない顔は初めてみた。誰が彼にこんな顔をさせることが出来るのだろう。
「けど、やっぱり俺にとってこの世界はいつまでも“異世界”なんです。」
「だが!だがな!
この世界とキミの元いた世界の時間の流れは違う!あの世界の時間はこの世界の5倍の速さなんだ!向こうはもう10年たってるんだぞ!?それでも帰るというのか!?」
結城くんが目を見開く。彼の瞳が揺れるのをどこか冷静にみてる自分がいた。
そして。
それと同時に理性を飛ばした自分もいた。
「ふざけんな!
何言ってるの!?
なんでそんな大事なこと、どうして今更言うの!?こっちの勝手な理由で押し付けておいて!」
さっきまで隅の方でフードを深くかぶっておとなしくしていた私は前に進んで言い放った。ついでに国からの治療師としての証のネックレスも投げつけた。何故か結城くんが慌てたようにこちらに来る。一番怒らなきゃいけない本人に宥められるなんて…私もなかなか勝手だ。
「お前、こんなことをしてもいいと思ってるのか!称号を剥奪するぞ!」
そんなもの、いくらでもくれてやる。
要は、だ。
最初に、なんなら帰すからと彼を適当に誤魔化し、協力させる。旅をしてるうちに、誰かとくっつけ、この世界に居座らせる。そう考えたら、無駄に綺麗な女性ばかりのパーティーでも納得がいく。普通、危険なパーティーに姫さまなんて、参加させない。お世辞にもあまり強いとは言えない面子だったしね。愛してる云々も誰か1人くらい作っただろうとでも思っての発言だったのだろう。
あぁ、なんて身勝手な国だろう。私はこんな国に住んでいたのか。
「あなたは勿論、知ってたんでしょうね…」
私は振り向き、さっきまで隣にいたミナハさんをみる。
彼は苦笑し、答えた。
「まぁ、ね。
卑怯なのは分かってるよ。けど、やはり私が一番に優先しなければいけないのは、国ですから。」
前までは、ね。と彼はため息をはきながら、溢す。
「……ごめん、結城くん。私ばっかり騒いで。」
「いや、いいよ。
実は俺…知ってたんだ。確信はなかったんだけど。だから思ったよりは、落ち着いてるよ」
結城くんは私を宥めるように笑う。
あぁ、本当に私は、結城くんの笑みに弱い。
「あのさ、瀬名。
今の瀬名に聞くのも可笑しいんだけど…
向こうでも会えるよな?仲良くしてもいいよな?俺さ、向こうに瀬名がいるなら頑張れる気がするんだ。」
彼のはにかんだ笑顔が眩しい。自分の目頭が熱をもっていくのがわかる。
「…ごめんね
向こうに私は、もう、いないや。
結城くんが此方にきた日に、私も、向こうからいなくなってるんだ」
私は結城くんの顔が見れなくて、俯く。その拍子に水滴が落ちた。
「それは………」
「勇者さん」
後ろから声が聞こえる。ミナハさんだ。私の肩に手が置かれる。
「勇者さんはどうぞ、こちらの世界のことなど気にせず、帰って下さい。本当に申し訳ないことをしました。そこのバカ……あなたに録な説明も出来ない奴らは、私が制裁しとくのでどうぞご勘弁下さい。
こちらのことは私に任せて下さい。……ナツキのことも」
私が顔を上げる前に、ドンと地面が揺れた。
音の方を見ると、結城くんが剣を床にぶっさしたようだ。剣ぶっさしただけで、この衝撃……
「お前はお呼びじゃないんだよ。
取り敢えず、その手、退けろ。」
結城くんはミナハさんを睨み付ける。
そして、くるりと振り向くと王たちに向かって言った。
「あなた方のおっしゃる通り、俺はこちらに残りましょう。その代わり、あなた方が俺に命令する権利はありません。行動を制限する権利もありません。一応、俺はこの国の元勇者、という立場にいましょう。あなた方にも同意すれば協力します。但し、今後のあなた方次第ですがね?」
おい、誰だよ。このえらそ……しっかりした人間は。
私の知ってる結城くんはいつの間にかハーレム作っちゃってる、優しさと優柔不断さを合わせもってるちょっとおしい人だったはずなんだけど…。(旅の間に大分認識が固まってきた)
「あ。あと、瀬名のことどうこうしたら、一瞬で見捨てるから。俺、隣国に結構興味があるんだけどなー」
うわー。黒い。笑みが黒い。
「いや、大丈夫だから。
私、もうこの国にいるつもり、ないし。
元々、外国には行ってみたいと思ってたんだ。わ、私の腕ならどこでだって食っていけるし。」
私が慌てていい募ると結城くんは不満そうな顔をする。
それより、
「結城くん、本当に残るつもりなの?」
「勿論。二言はないよ。
向こうに瀬名がいると思ったから、帰ろうかなって思ってたけど、いないならいいや。
10年もたったら、ある意味あの世界も異世界だよ。それに……同級生だった奴らはとっくに大人なのに、俺だけ高校生のままなんだよ?俺……異端者みたいなもんだよな。確かに、会いたいけど…もう会えないのは瀬名も一緒じゃないか」
自嘲気味に答える。
「……っ
けど……」
「…ごめん、瀬名。
ちょっと一旦お開きにしていい?」
そう結城くんが言った瞬間、雑音が耳に入ってくる。
まさかこの人、防音の膜を張ってたのか?詠唱なしとかどこまでチート…。私も魔法を使っていると気づかないなんて、どこまでいっぱいいっぱいだったんだ……恥ずかしい。
もしかして、ハーレム要因たちが途中で空気化してたのも、それだったりして……。いや、まさか、あの結城くんが、ねぇ
それから私は別室へ案内させられた。
旅も終わったばかりだったから、開き直ってゆっくりさせてもらった。あぁ、あのハーレムがないだけで、こんなに心癒されるとは…
その後、5日間、私は城にいた。誰も彼も忙しそうで行動がなかなか起こせなかったのだ。
この5日間、私のもとに訪れたのはミナハさんだけ。他愛のない話をしたりして過ごした。ミナハさんにも騙されたと言えば騙されたのだが、何故かこの人のことを受け入れてしまうのだ。苦労仲間ゆえだろうか。まぁ、ミナハさんの苦労はハーレムだけではなかっただようが。
そういえば、私を呼ぶように手配したのはミナハさんだそうだ。女性で高位の治療師を先のために探してたらしい。丁度いいし、力を見ておこうと思ってたそうだ。試されていたことにはちょっとイラッときたので、一睨みしておいた。
私が、外国に行くのを知っている彼は、
「戸籍は置いていってくれると有難いです。
いつでも帰って来て下さいね。就職先も準備してますよ。
待ってますから」
といい、私の髪にキス落とし、帰っていった。
あの人のことは結局、よくわからない。
6日目。
城が落ち着くのを待ってたら、春が終わってしまう。私は勝手に出ていくことにした。ミナハさんの許可ももらったことだし。
結局、結城くんとは会わなかった。
(あれだけ、期待させるようなこと、言っておいて)
いろいろ言い訳も考えてみたが、この私が5日間も待っていたということは、期待していたのだろう。結城くんの気持ちに。
自分の気持ちをさらけ出してないくせに、よくいうものだ。行動で示してた?気づいたらハーレムが出来てるような人間だ。あれで気づかなくても可笑しくない。
姫さまにでも落ちたのだろうか。
そうだとしたら、やはり私のとこにも報告がくるだろう。アレがそういう意味でないなら、友人として、という意味なら意気揚々と報告するのだろう。
(そんなもの、待っていられない)
門を通り抜けようとすると声をかけられた。
「安い用心棒がいるんだけど、旅のお供にどう?
勇者経験もあるし、腕は保証するよ」
「……腕もなにも、あなたに勝てる人なんているの?」
あぁ、やっぱり私は、この笑みに弱い。
ミナハさんは次期大臣あたりの人です。
勇者は、あの5日間、契約書作ったり、サインさせたり色々奔走してました。ミナハが訪れたことは知りません。