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インコとパパさん

作者: 水芭蕉猫

 そこで起こった物事が本当に起こった出来事なのか、はたまた私の頭の中で起こった妄想でしかないのかは判別がつかないが、それでも私が思った事は本当のことであるから、例えそれが虚構であったとしてもノォトに書きつけることくらいは許されるだろう。

 同じ室内には私を含め男が四人が居た。

 そのうち、この部屋でも一番若い男はいつでも陽気にしゃべっていて、聞く人など誰も居ないのにまるで誰かと会話をしているふうに空中を見てしゃべるのだ。

 時に相槌を打ったり、一人で勝手に怒ったり反論したりしているのを見ていると、おそらく彼にしか見えない誰かなのだろう。

 まるで籠の中の鳥が意味も解らぬままにしゃべっているようであるから、彼は誰が付けるともなくインコと呼ばれていた。

 他に居るメンバーは五月蠅くしゃべるインコを咎めるでもなく、まるで鳥が勝手にしゃべるのを放っておくようにそれぞれが勝手に生活していたのだが、時にはインコも見えない誰か以外の話し相手が欲しくなるらしい。

「パパさんパパさん、ねぇ聞いてよ。今日は銀河系の向こう側で星が居つつも生まれたらしいよ」

 子供みたいな声で、まだ二十を過ぎたあたりの体格の良いインコが、ベッドで寝そべっていた五十も過ぎているであろう痩せぎすの男に飛び乗った。

 彼よりも重たいであろうインコが圧し掛かったせいかは知らないが、パパさんはまるでカエルが踏みつぶされたかのような声を出し、迷惑そうな表情を浮かべてのっそりと顔を上げた。

「なんだインコ。邪魔をするな。今、私は息子の居場所を探しているのだから」

 インコの頭を押しのけて、パパさんは再び寝そべって目をつむった。

 いつからこの部屋に居るのか解らぬパパさんは、昔から居なくなった息子を今でも探しているらしい。何でも、パパさんが若いころにこさえた借金が原因で奥さんが出て行って、いっしょに息子も連れて行かれてしまったのだそうな。

 こうして聞くと少し可哀想な気もするが、実はその息子という存在も怪しいもので、詳しく話を突き詰めていくと借金の部分がアルコール中毒だったり会社の倒産であったり、息子というのもいっしょに電車に乗っているときに誘拐されてしまったとか、息子を実家に連れて帰った奥さんが養子に出してしまったとか、兎に角聞くたびにコロコロと変わるのだ。しかし、息子を愛する気持ちは本物のようで、彼は死ぬ前に一度でいいから息子に会いたいと思ってこうして部屋から脳内電波を宇宙に向かって飛ばしている。

 同じ部屋に居る自称・神様を媒介にして、宇宙に電波を放つことで、遥か彼方の真空に飛んでいる衛星がいつか息子を探し当てて電波を返送してくれることを信じていた。

「えぇ、あんな胡散臭い奴のこと、まだ信じているの? バカだなぁパパさんは。息子さんなんてとっくの昔にどっかに行っちゃってるってまだ解らないの? そんなら俺と話してた方がまだマシだよ。皆、俺のことアホだと思ってるらしいけど、そんなことは無いよ。確かに、時々やってくる透明な人とは話してるかもしれないけれど、それだって透明だから皆見えないだけで、俺にはちゃんとわかっているんだから。だから、俺のこと独り言しかしゃべらない変なヤツだと思ってるかもしれないけれど相手が居るんだから俺は変な奴ではないんだよ。パパさんも居るか居ないか解らない息子なんか探さないで俺と喋ってた方がまだ建設的だってば」

 どこで切って良いのか解らないインコの喋り声はやたらと大きく、耳元で金切声をあげられたパパさんは流石に参ったのか再びもっそりと起き上がってインコに向き直った。

「息子はどこかに必ずいます。神様がおっしゃっているのですから、間違いがありません」

 穏やかな、諭すような声で言った後、すぐにパパさんはまた寝そべってしまった。インコはまだ途方もないことをだらだらと喋っていたが、反応の無いパパさんにそのうち飽きてしまって、また空を見ながら透明人間と話しだしてしまった。

 その日、私が見た光景はここまでだが、翌日の昼間になるとインコは何故かパパさんの腕の中で眠っていた。

「いや、そんなに息子さんが見つからなくて寂しいなら、俺が息子さんの代わりになってあげようか? って言っただけだよ。ほら、パパさんの息子さんってちょうど俺と同い年みたいだしね。俺を息子だと思っていれば俺も話し相手に苦労しなくて済むし、パパさんも丁度変わりが見つかって一石二鳥だよなぁと思ったんだよ。なんだよ良いだろ一緒に同じベッドを使った方がわざわざデカい声を出さなくても済むから浸かれなくて良いんだよ」

 それ以降もだらだらと喋り続けるインコを無視して、パパさんにそれで良いのかと尋ねてみると、彼は穏やかな顔でうなずいた。

「まぁ、息子の代わりだと思えば気も紛れるしね。私も長く息子を探していて、少し疲れてしまったようだ」

 こうしてこの二人は見るたびに一緒にべたべたべたべたと引っ付き続けている。

 偶に思い出したように透明人間と喋ったり息子を探すために空に電波を送ったりしているが、概ね関係は良好なようだった。

 持ちつ持たれつの関係は、例えそれが健全であろうが無かろうが、本人たちが幸せならばそれはそれで良いのだろう。

お読みいただきありがとうございます。

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