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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
化物と心と命編
88/90

083

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください


 以上の点をご理解の上、お読みください


 ――二年後。S.C.4726


 連夜れんやは食堂の隅にある畳のスペースに寝転がっていた。二年前までここを占領していたのは英霊えいれいだが、彼はキセトの私室に入り浸るようになり、もう殆どこのスペースを使うことはない。


 「おい、起きろ」


 「………」


 薄目を開けて確認できるのはキセトの顔。すぐに目を閉じて寝返りをうつ。


 「おいっ! 準備しろ!」


 「あーーー!! その顔その声でくんなって言っただろ!! 四十六のおっさんが!」


 キセトの顔には間違いないのだが、目の前にいるのは明津あくつだ。全く同じような顔をしているため、二年たった今でも明津がナイトギルドを訪れると一悶着が起きる。


 「四十六のおっさんは孫迎えに来たんだよ。龍道りゅうとはまだか? 墓参り行くんだろーが」


 「学校だよ。英霊と一緒に帰ってくるだろ。英霊も連れて行ってやってくれ」


 「はいはい。さて、それまで俺はここで時間つぶししますか」


 停戦後、数ヶ月してから目を覚ました明津は、全てを聞いた後、帝都に残ることを決めた。キセトが残していった孫のことを心配してのことらしい。実の息子の選択について彼は何も言わず、孫にも真実を伝えなかった。知るべき時に知るだろう、と言って。

 亜里沙の件についても明津が一人で後処理を受け持ったので、連夜たちはどうなったのか全く知らない。ただ、明津が龍道を心配しているというのは本当のようだったので龍道のことはナイトギルドと焔火ほむらび夫妻で世話をしている状態だった。


 「たっだいまー!! あ、おっちゃん来てるー」


 当の本人は明津を祖父と認識しておらず、構ってくれる父親そっくりのおっちゃん扱いらしいが。


 「りゅーと! 準備してきなよ。待たせちゃだめだよ」


 「あれ? えーれーは?」


 「僕は朝に済ませてあるもの!」


 「わっごめん! 急いで準備してくる!!」


 二年で起きた大きな変化といえば、龍道がナイトギルドに仮入隊し、英霊と友人になったこと。戦火せんかしげるが二十歳となりナイトギルドを去って実家へ帰ったことぐらいだった。


 「じゃじゃーん。着替えたよ!! れん姉ちゃんがちょっと待ってって。蓮姉ちゃんも行くって! すげーぼろぼろのジャージ着てたから時間かかるんじゃない?」


 龍道の報告に続いて階段を駆け下りる足音が響いた。汗だくの蓮が食堂の扉をけり開ける。


 「十八の娘が扉蹴ってんじゃねーよ!」


 「ジャージ姿とか聞こえましたので! 龍道君そんなこと言わなくていいの! もう準備すんだから!」


 それなりの余所行きの姿で現れた蓮に一同がくすくすと笑う。慌てて着たのだろう、ボタンを掛け間違っている。

 わけがわからないという顔の蓮は、明津に服を指差されて慌てて直していた。


 「よし、んじゃ行きますか。しずくが先にいって待ってるからとっとと行くぞー」


 明津の掛け声でぞろぞろとギルドから龍道たちが出て行く。

 停戦記念日はキセトの命日として皆で扱っている。不知火でキセトの死刑がいつ行われたのか、本当に行われたのかもわからないまま、空っぽの墓だけつくって命日ということにしていた。

 だが誰も生きているとは言い出さない。この世界を支配するような莫大な力が消えたこと、誰もが肌で感じていた。それが誰とは言い出せぬまま、暗黙の了解のようになってしまったが。


 「はー、毎年恒例になるのか、これ」


 一人になった連夜は再び畳に横になる。濡れタオルを目の上においてその冷たさを快感に眠りに落ちた。


 去年、停戦から一年たったこの日。連夜の意思に関係なく涙があふれ出てきたのだ。朝から夜まで、ずっと。本当に連夜の意志に関係なくただ流れる涙のせいで、目が痛くなったり目元が腫れたり、連夜にとって散々の一日となった。

 そして今年も同じことが起き、朝になると涙があふれ出てくる。まるで二年前のこの日に、このギルドで一人泣いていなかった分を取り戻そうとしているように。

 プライドの高い連夜は涙が止まらないままの外出を嫌がり、墓参りにも行かなかった。ギルドでこうやって寝たまま過ごすようになったのだ。


 そんな理由で食堂で眠る連夜の隣に空色の大人が一人と、空色の子供が一人。寄り添うように立っている。

 大人が連夜を指差して笑う。子供は連夜の頬に手を伸ばし、その涙を拭ってやった。暫くそうしていた子供は、大人に肩を叩かれて立ち上がった。連夜にバイバイと手振ってその場から消えた。それこそ霧のように。

 それを最後まで見ていた大人は、連夜の髪をなでる。とてもいとおしそうに。


 「連夜君。君の自由が永遠であることを祈るよ。それは僕の自由だよね? バイバイ。安心して、君の友人は連れて行かないよ。きっとまた会えるから」


 そう言った空色の大人も、子供と同じようにそこから消えた。

 また一人残った連夜の頬はもう、ぬれてはいなかったという。


 


083且つBlack Night have Silver Hope 第一話 本編終了となります。

あとエピローグがございます。

本当なら082で本編終了で、この話をエピローグにしようかと思ったのですが、プロローグで書いたことと何の関係も無いエピローグもどうだろう、と思って本編に入れました。

第一話のプロローグは、二話とも関わってくるものなので、エピローグ書きやすかったです。

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