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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
化物と心と命編
86/90

081

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください


 以上の点をご理解の上、お読みください


 フィーバーギルド本部の中庭。各ギルドの隊長と副隊長が集められ、立食パーティのようなものが開かれている。舞台も準備されていて、こんな時でなければ仮装大好きのフィーバーギルドの隊員たちが劇でもしてくれる場所だ。

 今はその舞台には代表ギルドの隊長五人と副隊長四人が立っていた。キセト以外は代表ギルドの隊長と副隊長が集まっていることになる。

 各ギルドの隊長へ知らせるにしても、この九名の意見が揃っていなければ混乱を生むだけ。他の者が立食パーティを楽しんでいる間に方針を決める会議を行っていた、のだが。そのうちの一人、連夜れんやは前提から覆るようなことを主張するためにここにきた。


 「なんだとっ!? ナイトギルドは参戦しないというのか」


 元々連夜とは不仲であったサンクチュアリギルドの隊長が叫ぶ。その声には批難の色しかない。連夜は、その声に連夜らしくもない真面目な声で返す。


 「おう。ここに来てから聞いたけどよ、魔物の相手に手こずってギルドに協力しろってことなんだろ。魔物なんてどいつもこいつも人間の戦争なんかに関わってくるはずないんだよ」


 「不知火しらぬい人が強制的に参加させているそうだぞ」


 「そんなこと強制されるぐらい弱い魔物しかいないんだろ。ギルド隊員駆り出したさなくたって十分なはずだ。落ち着いて対処すれば十分な戦力は羅沙らすなにあるんだっての。圧倒的に指揮者が足りないだけだろ」


 「第一番隊隊長が呼び戻されたらしいからな。そのあたりは夏樹なつきのほうが詳しいだろ」


 連夜を無視して話を進めようとするサンクチュアリの隊長が、連夜を除いた代表ギルドの隊長・副隊長たちに声をかける。

 連夜が帰ろうとするとなぜか後ろ襟を掴まれたが。


 「主な戦場は三つ。どうギルド分けるんだ?」


 「三つ全てに魔物がいるわけではないらしい。主戦場となっているケインの港町から帝都への道。鉄道に沿って戦場が前後しているらしいから、鉄道を進んでいく部隊が一つ。そしてもう一つはケインの港街から西へ進んでいる魔物部隊がいるそうだ。そちらに直行する部隊が一つ。その二つに分けようと思っている」


 「西に最短距離へ行くなら森を通過しないとな。森はまた別の魔物の領域だ。聖域専門のサンクチュアリの奴らを入れるべきだろ」


 「おれたちは機動力がないんだ。研究だって近くの南の森で全部済むからな。遠くに行く必要なんてなかったもんだからよ。だから俺らを含めても機動力の落ちない奴ら入れてくれよ」


 「なー、オレは帰してくれねーのかよ」


 黙って聞いていた連夜だが、掴まれた理由すら話される様子はなく、思わず口を挟む。サンクチュアリの隊長はにやりと笑ってちょっと残れ、というばかりだ。


 「戦争に参加しないとしてもだ。お前は魔物に関して詳しいだろ。会議ぐらい参加していけよ、我がままなナイトギルド隊長さんよ」


 「魔物と聖域はお前らの研究対象だろー。なんとかしろよーって、あ、これ食っていい?」


 近くにある皿を空っぽにした連夜が遠くのテーブルを指して言っている。サンクチュアリの隊長は連夜と共に舞台を降りて、連夜が歩く先についてくた。食事を言い訳に各隊長たちから逃げたい連夜の心を読んだのかもしれない。


 「食え食え。そして北の森の魔物の特徴とか分布とか吐け」


 「んー。でも人間に操られて戦場駆り出されるやつらなんて人間で何とかできる魔物だってことだろ。オレがよく見たのは獣っぽいやつらばっかりだったけどなー。天使とか悪魔とか術士レベルになると人間に服従するはずねーし」


 「だが城にはドラゴンが現れたんだろ。戦場にもドラゴンが現れたところがあるってきいたぞ」


 「それって不知火あずまじゃね? キセトの前の黒獅子くろじしで、今の不知火トップだとよ。そこまで上りつめたやつならドラゴンでも服従させてるかもな」


 「高い評価してくれてるじゃねーか、銀狼ぎんろう


 「敵を高い評価してもおれたちは何も嬉しくないんだよ……ん?」


 今、変な声が混じらなかったか。そういえばどこかで聞いたことのある声のような気もする。


 「こんなとこでなにしてんだよ、お前」


 「銀狼、お前には報告しといてやろうと思ってな。ギルドが戦場に出る必要はなくなったぜ。停戦条約だ。お前の友人の働きでな」


 連夜を銀狼と呼ぶ男は黒髪だった。キセトではない黒髪。しずくでもない黒髪。サンクチュアリの隊長が後ろに跳ねる。反射的に距離を取る。

 だが連夜は動かない。知り合いに出会ったように会話をそのまま続ける。


 「やっぱキセトがなんとかするんじゃねーか。で、あいつはなにをしたんだよ」


 「羅沙を去る。んで、不知火人として不知火に戻る。以上」


 「……馬鹿のオレにはなんでそれが停戦に繋がるかわかんねーな。どっちにしろ、あいつが自己犠牲野郎だってにことにかわりねーのか」


 連夜だけが飄々と東と会話しているが、他はそんなところではない。そもそも焔火ほむらびキセト以外の黒髪を彼らは見たことがないのだ。焔火雫ですら、羅沙の民はフードを取った姿を見なかった。

 突然目の前に現れた黒髪の初老の男に逃げ惑うもの、恐怖で動けないもの、警戒しつつも敵対しようとするもの。様々である。東は、黒髪は、敵だ。当然の対処だろうに。


 「羅沙からすれば皇位継承権を持つやつを引き渡す。停戦程度それで十分だろ。あとケインの港町も貰うぜ。ご馳走様」


 「それが目的かよ、不知火は。キセトの回収か」


 戦争の勝利への報酬と大げさに呼ぶには、釣り合わない条件ではないのだろうか。その程度のことは連夜ですらわかった。

 なぜ不知火が「キセト」にそこまでこだわる理由があるのかわからない。不知火頭領にはイカイが選ばれているし、キセトは進んで不知火と敵対するような者でもない。戦争を引き起こしてまで回収する存在だろうか。


 「好きに想像してくれ」


 東は堂々と立食パーティーに参加して食事をとっている。帯刀さえしていなければ交渉にきたと言われても信じそうだ。それぐらい、東は当然のようにそこにいた。敵だということすら分かっていないかのように。

 ここで初めて東を見た夏樹たちからすれば「彼は温厚な性格で、虫も殺したことない人だ」と言われても信じそうである。連夜の言うとおり不知火のトップなら虫どころか戦場で人を殺しているはずなのだが。


 「顔、見せていいのかよ。ここには優秀な情報屋だっているぞ」


 「高貴こうきも前線から引くんだろ。おれも歳だからな、そろそろ引きどころだ。顔晒すのだって抵抗はないさ」


 「こう……って東雲しののめ隊長のことか」


 「ん? あぁ、名前には馴染みないか? 東雲高貴のことだよ。不知火人は全員の姓名が不知火だからな。下の名で呼ぶ癖なんだわ。不知火人なのにそうじゃない奴はよほど気をつけてるやつだろ」


 不知火人の口から羅沙軍第一番隊隊長の名が親しげに出てくるとはどういうことなのだろうか。

 そんな嫌疑を向けられることも楽しみであるかのように東は笑っている。全体を見渡して、余裕の態度のまま食事を続けている。自分より弱い者たちに対する強者の余裕。

 奇しくもその態度はどこか連夜に似ていた。弱者に囲まれた強者と言う共通点。


 「きにくわねーな」


 連夜は勘でその空気を感じ取った。自分の目の前に、「強者」として存在している東が直感的に気に入らなかった。

 絶対の強者は自分である。それが連夜の信条で、その信条を崩していいのはキセトと、えるだけなのだから。

 静かに、だが確かに、連夜が集中力を上げる。連夜の周りの魔力濃度があがった。夏樹の制止も聞かず、連夜は東に歩み寄る。


 「おいおい、やめとけよ。病み上がりなんだろ?」


 「病み上がりでも誰かに負けるようにはできてねーよ」


 「戦争は終わったんだぜ、若造」


 「戦争? そんなものは関係ねーな。オレより弱い奴がオレの前でいきがってるのがきにくわねーだけさ」


 連夜の魔力は目視できるほどに濃度を増していて、東も刀に手をかけている。まさに一発触発の雰囲気だ。

 東が持っていた皿を連夜に投げつけた。それを合図に連夜が地面を蹴る。連夜に当たるはずの皿は、連夜が纏う高濃度の魔力の前では塵となって消えた。東の体だろうが結果は一緒だろう。


 「おい弱者!」


 「化物と比べるなよな……」


 東に逃げる様子は見られない。だが猪突猛進しか考えていない馬鹿な連夜がそれを疑問に思うわけがない。足元に広がっている物影についても同様だ。

 誰かが上だと叫んだ。だが連夜はその声に従わない。東の余裕の態度の理由を、連夜は見上げない。


 「若造。嫌いじゃないぞ。そういう一直線の馬鹿は。お前がキセトみたいに知識を持ってたらと思うとゾッとするな。知識なしでキセトと同等なら、知識さえ持てばキセト以上なんだろ。あおいの"愚か者"さんよ。残念だな」


 「……懐かしい呼び名出してくれるじゃねーか」


 連夜と東が当たる瞬間。東は一歩下がった。人一人分の空間だけ逃げた。連夜が一歩踏み出せば無意味に終わる距離。

 その間を埋めたのは黒い物体。黒く、黒く黒い。上から落ちてきたその黒は長いコートを風になびかせて、且つ落ちてきた余韻で髪が上を向いている。

 それが何かなど、連夜の魔力を正面から受けてもなんともないことが証明していた。真正面から連夜の攻撃を受け、そして尚且つ反撃してくるような物は。


 「キセトっ! てめぇ、悪い冗談はよせよ。そいつ守るって事は不知火につくってことだぞ?」


 「………」


 黒く黒い影は、黒獅子のロングコートを着ている。連夜が羅沙での服(赤の上着に緑のV字ネック)を着ているのに対し、それだけ過去を生きるかのように黒獅子時代のキセトそのものだった。

 ……それに表情というものがないことも含めて。


 「とっ!ととっ!?」


 「連夜、こっちだ!」


 「引くぞ」


 「………」


 黒く黒い影が手を払うだけで会場が破壊される。紙一重で避けた連夜はギリギリで間合いから逃げ出したが、第二波が連夜のいた場所を抉った。

 夏樹が連夜を後ろから引っ張り、さらに後方へ逃げる。黒く黒い影の波動のような攻撃から逃げられる距離ではないが、気休め程度でも下がったほうがいいと思ったのだろう。

 黒く黒い影と東は連夜たちを追わなかった。東が呼んだドラゴンに乗って撤退していく。

 空にあがっていく影を連夜は悔しそうに見つめた。本当に心底悔しそうに。


 「連夜でもそんな顔するんだな」


 「しようとしてできねーことは悔しいだろ」


 何をしたかったんだとは夏樹も聞きはしない。連夜はただ自分の友人を取り戻したかっただけだ。友人や仲間や部下を大切にする連夜のこと、キセトを連れ戻せなかったこの瞬間を悔いているのだろう。あの連夜が力不足だと悔やんでいるのかもしれない。


 「……さて、おれたちはどうすればいいのかね」


 「喜べばいいだろ。停戦だ」


 連夜の声がそっけないのは自分の悔しさに負けているからか。それとも友人を引き換えにした停戦が気に食わないのか。


 「喜んでろ。オレもナイトギルドのやつらに知らせてくるから」


 「お前は喜ぶのか、連夜!」


 「……鐫様が愛したこの国が無事であることは喜んでるよ」


 喜んでいるなど嘘だ。なんだその声は。


 「会場の片付けよろしく。一応冷夏れいか嬢たちは正式発表待って行動してくれよ」


 そう言って連夜が会場を後にしようとして何か紙を踏みつけた。折りたたまれた紙を開いて中に書かれた機械が書いたように美しい文字がある。


 ――龍道りゅうとを頼む――


 「おいおい、嫁さんのほうはいいのかよ」


 そうやって笑いながら、馬鹿にしながら、何気なしに紙を裏返した。そこにも同じような美しい文字を見つけ、そちらの文には思わず連夜も足を止めてしまった。


 ――友人へ。確認などしないお前はこちらは見ずに捨てたかもしれない。

   それでも伝えておきたかった。

   ありがとう。俺の友人になってくれて。

   亜里沙ありさがいてくれた次に、お前がいてくれたことが嬉しかった。

   幸せだった。言葉だけで悪いが感謝している。

   ありがとう――


 気づきにくいように反面だけに書かれた文字列。この面が裏になって地面に落ちることもキセトなら計算していたかもしれない。この紙を連夜が踏んで、連夜が開くことすらも。

 それでも連夜がこちらの面に気づくかどうかは賭けだったようだが。


 「……不知火、か。距離にするなら遠くねーのにな」


 連夜が見上げた空は黒く変わろうとしていた。


081 です

  んー。急展開過ぎたかなーと今更ながら思っています。

  戦争についてはもっと書きたかったんですけど、それじゃなくても長いですからねー。

  大幅カットするとやっぱり急展開に感じます。

 もっと驟雨や明日、明日羅や葵も絡ませる予定だったんですが、予定は未定☆ですね、本当に。

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