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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
化物と心と命編
81/90

076

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください


 以上の点をご理解の上、お読みください


 「軍部はどうですか、驟雨しゅうう


 羅沙らすな明日あすは、滅多に城では姿を見なくなった弟と城内の廊下ですれ違い、思わず声をかけた。声をかけずとも最悪の一言だとわかっているのだが、姉弟愛というものだ。

 弟、羅沙驟雨の返事も予想通り悪い報告からだった。


 「圧倒的に人手が足りない! ケインの港街が落ちた」


 「羅沙の北の門がですか。港として使えるのは帝都に付属する軍専門の港だけになりますね」


 「北の港は全部使えない。取られたって考えるべきだと思う、姉様。南の森を通過すれば古い港があるはずだけど……、何年も使われてない港だから整備からかな」


 そもそも南の森を抜けた先にある港を放棄したのは、南の森にいる魔物のせいである。整備するための道具を守りながら南の森を通過する余裕は、今の羅沙軍にはない。そもそも、整備している間に帝都が攻められ落とされる。時間にも余裕などないのだ。


 「そんな時間はありません。不知火しらぬい軍は魔物を従えているのでしょう? 魔物は正式な羅沙軍よりギルド隊員のほうが経験があるはずです。戦場に第二番隊も導入すれば……」


 この戦場を耐えられるのでは、と明日は思うのだけれど。


 「相手はドラゴンだっているんだ! 南の森にいる人型の魔物退治とはわけが違う!」


 「そうですね……。ごめんなさい、驟雨」


 それは対魔物の戦闘も、対人間の戦闘も、戦争という世界を変える出来事も知らない明日の意見。驟雨も机上論を学んだだけなので、素直に謝る姉に強く出れず、すぐに怒鳴ったことを謝罪した。


 「うっ、こっちこそ、悪かったよ。姉様も大変なんだろ? 国民の危機感のなさは相変わらずっぽいし」


 「……『羅沙が不知火に負けるはずがない』。皆さんそう思っているようで、誰も戦争に協力的ではありません。それだというのに、大臣たちは戦争をやめる気もないようですね。それを東雲しののめ隊長が抑えてくださってる現在ですらこの状況です。ケインの港町に住んでいた民の受け入れ案も、大臣たちに却下されてしまいました。私は無力なのですね」


 「そうだ、ケインの港町の民のほとんどは不知火が捕虜化したって連絡があった。待遇はいいらしい。生活は殆ど変わらないってさ。ただ、不知火人が堂々と町にいる以外は。理不尽な略奪もないらしい。そりゃ、ちょっとは不知火側への補助を義務化されたみたいだけど。んで、逃げ出した人口の一割だけ受け入れができればいいから、第三層で足りるだろうって、東雲さんが。だから姉様がそこまで落ち込まなくても、さ?」


 「民が苦しんでいないのなら少しは安心ですね。もちろん、羅沙としては取り戻さなければなりません。第三層でよろしいのであれば、競技場を開放しましょう。あそこなら雨風もしのげるでしょう」


 「そうだな。じゃ布団とかの準備の協力を哀歌茂あいかもに頼んでみる。ほら、俺はしげると仲いいじゃん。そこから……」


 「いいえ、驟雨。皇帝として組長である葉脈ようみゃく様に連絡しておきます。我々は正義です。ですから、少しでも後ろめたいことはあってはなりません。あなたたちの友情を癒着などと呼ばれては、どちらも辛くなるでしょう?」


 「お、おう」


 「私には友人がいませんから、驟雨だけでも今のご友人を大切にしてください。ね?」


 「姉様。……そうだよ、大切な友人だ。でも、この戦争で友人を失くす人が何人できるんだろう。その人たちにはその危険性を冒せって言う俺が、俺の友達はなくしたくないなんて言えない。綺麗な役は姉様がしてくれよ。俺は汚くても、少しでも早く民たちを安心させられるようにしたい。正式な依頼を準備して発行できるまで時間がいくらかかる? 俺なら、電話一本なんだから」


 「………」


 「じゃ、することたくさんあるから。姉様は体を大事にしてくれよ」


 驟雨の優しい気遣いの言葉で二人は別れを告げて、それぞれの仕事に戻る。

 今の二人の一言には数百数千という民の命がかかっているのだから、こうやって気軽に話せる姉弟がいてよかったと思う。二人とも初めての皇帝としての責任の重さに戸惑いを感じていた。


 (茂に連絡……。あとは東雲さんの退隊の延期、戦場へ向かう隊、残る隊、大量の武器の仕入れ……も哀歌茂か。で、そのお金を貴族からの援助呼びかけで集めないと。どこまで集まるか)


 廊下を小走りで駆け抜けながら驟雨は携帯を開く。プライベート用の携帯に登録してある数少ない名前の一番上の名前を選択して、何度かコールを聞いた。

 コールを遮って電話にでた茂は、どうしたの、と暗い声だった。戦争の不利さからか、今ナイトギルドに起きているという事態からか、それを思いやってやる余裕が今の驟雨にはない。


 「……あ、茂? ごめん、頼みたいものがある…って、病院?」


 「――あ、峰本みねもと連夜れんやか。体調どうなの?」


 「――悪くないのか、それはよかった」


 「――そうだな、哀歌茂への依頼の話。控えるべきなんだろうけど、急いでる」


 「――ケインの港町の人口の一割、千人ぐらいが寝泊りできる生活品。あとは武器」


 「――人数分は無理? あぁ、すぐには無理、ね。何人分ならすぐ準備できそう?」


 「――それだけでも頼む。武器のほうは?」


 「――港が取られたのがきついか。明日羅あすらにいる哀歌茂分家が武器専門? なんとかできないのか? 帝都の軍港を開放できるって言ったら?」


 「――……明日羅の意見は『戦争中の国と関わりたくない』ってことなのかよ。何のための同盟だ!?」


 「――ごめん、茂に怒鳴るつもりはなかった」


 「――できるかぎりで。おう、頼む」


 「――バーカ。俺が無茶するかよ。じゃぁな」


 電話を切って軍本部へ入ろうと扉に手をかけて、扉に自分より一回り大きな影が落ちていることに気づく。驟雨が振り返ると、東雲高貴こうきが大量の書類を持って扉が開くのを待っていた。

 本来なら皇帝である驟雨が扉開け係などするはずもないのだが、引退するはずだった東雲を引き止めたのは驟雨だ。自分では力不足で戦場の指揮などできるはずがないから、と。その罪悪感のため驟雨は扉を黙って開けてやった。

 一礼した東雲が通ったのを確認して、自分も中に入って扉を閉める。先に行ったのかと思いきや、東雲は驟雨を待っていた。


 「すいません。先ほどは哀歌茂のお坊ちゃまとお電話でしたか? ギルドも戦争に参加となれば、最後の会話になるかもしれませんね」


 「なんだよ、脅すなよ!」


 「事実ですよ。羅沙が行った最後の戦争は二十年前ですから。陛下がお生まれになる前の話ですし実感はないかもしれませんが、私はそこで戦い、部下で失い、師匠を失い、友人を失いました。戦場では『明日』は自分たちで勝ち取るものです」


 ギルドも戦場へ借り出されることはもう目に見えていて、茂がナイトギルドに属していることなどわかっていること。戦闘に関して初心者である茂が前線に借り出されるとは思わないが、戦場に出る以上は死ぬ可能性がある。

 東雲の言うとおり、茂と驟雨の最後の会話になるかもしれない。茂が戦場で「明日」を勝ち取れなければそうなるのだ。


 「……確かに、俺は戦争なんて見たこともないし、指示なんて出来るとは思ってないけど。でも、友人のために戦い、家族のために戦い、恋人のために戦って死んでいく人々を背負う。『国のために戦え』なんて言えない。大切な人のために戦う人々の命を、背負う」


 ここで友人を失おうとも、それは国民のほとんどが覚悟すること。

 自分だけ特別だと驟雨は思っていない。ただ人々が死ねばそれは命令した立場である驟雨が背負うべきものだろうと思う。

 そんな驟雨を見て、東雲はそうですね、としばらく黙り込んだ。そして、少しずれた話をするかもしれません、と前置きしてまた話し出す。


 「二十年前の戦争を『奪還戦争』と呼ぶ理由をご存知でしょうか?」


 「確か、不知火に奪われた土地や民を取り戻すためって」


 「土地も民も、何百年と奪いあってきて今さら取り戻すもありません。もともとどちらの土地のものだったのかも明確ではないのですからね。あの戦争は、不知火にいるとされた明津あくつ様を取り戻す戦争です。貴族や皇族の教科書は流石に載りませんか? 軍人の座学の教科書には堂々と書かれていることですが」


 民はそう言う理由で不知火という国の悪魔を蹂躙することは正しいことだと思っているし、それが正しいと教えられている。貴族や皇族がそのように誘導だれていないだけ、この国が腐りきっていないということなのか、もしくは……。

 もしくは、誘導せずともよいほど貴族も皇族も腐りきっていると判断されているのか。わざわざ言わなくとも不知火という民を同じ人間として考えるものなどいない、と。


 「は、初めて知った……」


 どうやら、東雲のすぐ隣にいるこの若い皇族は腐ってはいないようだ。

 純粋に友人に貴族と哀歌茂しかいなかったから知らなかっただけなのだろう。彼は不知火人を差別していない。

 皮肉なのだろう。差別を植えつけてきた上部の人間に囲まれて育っている彼らは差別を知らない。彼らが思う民は順調に差別を植えつけられていくというのに。


 「民は皆、知っています。不知火にいるとした理由もその当時、不知火しずくが次期頭領の座から降りたためですよ。その奇行には原因があるはずだ、と。その理由に明津様を思いついたのはおかしいと思いますが、不知火を攻撃する理由が欲しかっただけでしょうね。羅沙では、不知火人は悪魔とも呼ばれていますし」


 「………」


 「すいません。城にたちいる者として慎むべきでした。不知火人は不知火人です。悪魔でも化物でもありません。人間です。私たちと同じ、この戦争で命を落とすかもしれないというのに、それでも戦う人間です」


 「…思ったんだけど、なんで不知火人は戦える? なんで明津様襲ってまで戦争を望むんだよ。戦わなければ人は死なないのに! 二十年も平和だったんだ! もうこのまま平和でもよかったじゃないか」


 驟雨が言う平和は自分本位なものであるとわかっているのだろうか。不知火人たちが平和だと思っていないと、この若い皇帝は知っているのだろうか。


 「今の羅沙領土に奴隷、もしくは捕虜として不知火人が何人居ると思いますか?」


 「え? あー、奴隷には黒髪がいるって聞いたことあるから、百人ぐらい?」


 「確かにされているだけでも一万を超えます。未確認の不知火人を含めば二万に届くかもしれませんね。二十年前の奪還戦争で不知火人は人口の半分を失ったと聞きます。停戦条約を結んでいたはずの羅沙から突然の攻撃に殆ど対処できなかったからです。羅沙を信頼し、他国を信頼して最低限の戦力しか育てていませんでした。半分が死んだわけではなく、少なくない人数が捕虜や奴隷として羅沙や明日羅に捕らえられたそうです。……知っていましたか?」


 無言で首を横にブンブン振る驟雨の表情は固い。自国のしたことを知らなかった罪悪感なら、東雲は少し嬉しい。


 「私は羅沙人ですし、不知火という国が敵国であることも分かっています。ですが、不知火人の友人もいます。おそらく、今度の戦争で会うことになるでしょう。戦うことになるでしょう。それでも友人です。羅沙人としてあるまじきことですが、少し不知火に肩入れした言い方をしたかもしれません。その友人が羅沙に肩入れした話をしていたように」


 「羅沙に肩入れ? そんなことする不知火人がいるのかよ」


 「味方になるわけではありませんが、敬意を持っているものです。敬意を持ちつつ、自国のために敵対する。それが軍人ですよ。憎しみだけでは戦い続けることはできません」


 ただ、現状の羅沙軍を見ると東たちは敬意を捨てるだろう。

 強く、さらには自国の誇りを守れる戦士であれるように鍛え続けている不知火軍人と、強国という驕りから訓練もまともにしていない者が多い羅沙軍人。

比べればすぐにわかる差だ。現在、紙一重で羅沙帝都ラガジの防衛に成功しているのは数の差のおかげ。いくら羅沙の軍人が昔に比べて減ったといえ、人口が桁からして違う不知火と比べれば随分多い。

 だが、数だけに頼る形の羅沙軍人に、自国すら守れない羅沙軍人に、誇り高い不知火人たちが敬意を持っているわけがない。


 「敵に敬意を持っていました。その敬意以上の何かを母国に感じていたのです。だから戦える。誇りを持って戦うから残酷な戦場でもかろうじて人であれる……」


 「今は違うって顔だぞ」


 「羅沙軍人のうち、何人が誇りを持っているでしょうか。私は私の立場を捨てて進言しましょう。この戦争は勝てません。どうか、一人でも民が助かる道を選んでください。それが早い段階での降伏であっても、私はいたし方がないと思います」


 「……覚えとく」


 「はい」


 驟雨は聡明だ。戦争を経験したことない身でありながら、民を生かすために走り回っている。

 だから成功するというわけではないにしろ、時間と経験さえあれば驟雨は優秀な支配者となれるだろう。


 「そんな時間もないのか」


 名ばかりの強国、羅沙。明津が帰ってきたために景気だけはよくなった。経済的に強くなろうと、力で攻められれば落ちる国。

 不知火ではどう見ているのか。それが東雲の疑問なのだ。



 BNSH076です


 突然時間が進んでます。意図的です。

 宣戦布告から羅沙が押されるまでの展開が抜けています。一瞬でこの状況になったんでしょうね、きっと。

 戦力の数で言うと不知火<羅沙ですが、戦力で言うと不知火>羅沙です。

 羅沙は経済的に安定しようとした国で、不知火は軍事力的に安定しようとした国なんです。羅沙は進んだ武器や不知火人が使えない魔法で押せば勝てそうなのですが、この戦争を仕組んだ側である不知火も馬鹿ではありません。

 兵器や魔法がない代わりに、魔物を従えるという手段をとりました。飛行機対ドラゴンだとどっちが勝つのでしょう。この世界に飛行機はないので見れませんが。


 さて今回のあとがきは古代の技術について。

 古代というと、私たちが住むこの地球の技術だと思っていただいて構いません。携帯電話、パソコン、電車などが今のBNSH世界にも残されています。電気で動かしていた部分がわけわからん状態なので魔力で動かす構造にしています。ごく一部ですが電気で動いているものもあります。

 でも飛行機はないといいました。車はあります。技術の問題ではなく、空という領域問題です。羅沙では空というものは皇族の象徴です。民間人を乗せたものが自由に空を飛ぶのは不敬にあたると考えられます。

 では羅沙以外では飛行機はあるのか、ですが。ないです。

 まず不知火や葵では古代技術を掘り起こす魔力自体がなく、古代技術の研究はされていません。空を飛ぶなんて、それこそドラゴンでも乗ればいいわけです。

 明日羅では古代技術も研究されていますし、実現させる技術もあります。ですが羅沙が作っていない以上、同盟国として作るわけにはいかないのです。一国だけ空を飛ぶ機械を発明すればそれが戦争のきっかけになるかもしれませんし、間違って羅沙が領域だと主張する範囲を飛行すれば、同盟にも関わってきますしね。

 それだと不知火と葵がドラゴンでも何でも空を飛ぶのは駄目なんじゃないか、と思われるかもしれませんが。ドラゴンでも乗れば言いと先ほどは言いました。ですが、魔物を従えるということはそう簡単ではありません。本編では東がドラゴンで羅沙城につっこんできましたけど、あれだけで十分戦争の元ですよね。

 古代技術の発展はこの世界ではあまり重要視されてません。電車とか携帯とかパソコンとか、完全に魔法化したもののほうが便利ですし。ただ使えるみたいだし使っとけば魔力消費しなくても移動できるし通信できるじゃん?程度でしょう。おそらくいつぞやの皇帝が民の支持を取り戻すために政策でも立てたんじゃないですかね。

 明日羅では研究が盛んに行われていますが、武器などに応用させるためです。銃とかも明日羅発祥の武器です。羅沙との同盟維持のために研究しているんでしょう。だから羅沙との戦争の火種になりかねない飛行機なんてイラネーレベルなんでしょう。あれば役に立つのにね。


 ついでレベルですが、飛行機など空を飛ぶということを嫌悪するこの世界では、地図が発達していません。不知火と葵が北の森と総称されるのもこれが原因の一つでしょう。当事国でなければ国境なんて把握していないのですよ。羅沙は大陸と近辺の島、明日羅は羅沙と北の森と独立領以外のすべて(すべてとは言っても羅沙大陸の半分ほどの大きさの大陸とこまごまとした島国)です。おそらく中間ほどの距離にある島は独立領扱いで、互いに支援しているものと思われます。

 でも詳しい地図がないので、あの方角にあれぐらい進んだら独立領とか、海に立ちいる者ぐらいしかわかってないんじゃないですかね。こわー。


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