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この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます
これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます
ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります
「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません
なお、著作権は放棄しておりません
無断転載・無断引用等はやめてください
以上の点をご理解の上、お読みください
瑠莉花がキセトに殺される数時間前の話。峰本連夜が発見されるまでの短い時間。松本瑠莉花が羅沙の石家と接触したときのことだ。
「ナイトギルドの奴が手伝うなんて信用できない」
鹿島千陽の当然の台詞に瑠莉花は薄っぺらい笑みのまま無言で返すのみだ。
それを一番冷めた目で見ているのは晶哉だった。
「お前、峰本連夜と焔火キセトを裏切れるのかよ」
「えー、逆に聞きますけど~、ショー様。レー様は死んでないのですよ? ショー様こそ手加減したしたわけじゃないのです?」
「手加減はしていない。峰本連夜はこれから死ぬ。傷だけで死ぬような脆い奴ではないことぐらいわかっている。大切なのはこのナイフでつけた傷からは魔力が漏れ出るということだ。賢者の一族は体内魔力がゼロになると死ぬ。人間としての生命力が低くそれを魔力で補っているからだ。だからこのまま魔力を漏れさせ続ければいずれは死ぬ」
死ぬ死ぬと簡単に晶哉は繰り返した。それは昌平や鹿島に対しての説明なのか瑠莉花に対しての説明なのかすらわからない。
ただ、昌平と鹿島、瑠莉花に共通することは、晶哉がキセトを守ろうとしていることを知っていることだ。キセトではなく連夜を対象にしたことにその私情が混じっていないとは、どうしても思えない。
「いずれ、なんて! あははは、いずれ! いずれなんて信じてるのです? ばっかみたいなのですよ! そのいずれって、人は皆いずれ死ぬって言ってるのと同じなのです。あなたたちにレー様は殺せない。弱りに弱ったキー様ならそれでも死んだのかもしれないのですけどね」
「現状のまま放っておけば死ぬ。俺たち石家の治療がなければそれは絶対だ。それにキセトや峰本連夜のレベルの奴らが弱ろうが、おれたちにはどうも出来ないのに変わりない」
「そんなに曖昧な絶対、初めて聞いたのです。それにそれはレー様はあなたたちに殺されたことにならない。『殺す』っていうのはそんなことじゃないのです。……私が殺してあげるのですよ」
瑠莉花自体に興味がないようにしていた晶哉が焦りを見せた。
石家の中で済ませたいのか、瑠莉花が言おうとしたことを悟っていたのか。
「お前が峰本をか」
「まっさかー。私石家じゃないのですし、石家の甘さの後処理なんてしないのですよ。私は新品を貰うのです」
「まさか……、お前、キセトをっ」
「私は私の理由でキー様よりレー様が大事。それだけなのですもん。レー様はあんなことで死なない。あなたたちが余計なことしなければ絶対に死なないのです。あなたたちがこれ以上何かしないように、情けないあなたたちに代わって私がキー様を殺すのです。たったそれだけ」
「石家以外に賢者の一族殺しはさせない!!」
キセトを殺すという言葉に逆行する晶哉は、キセトの昔の友人としては正しい姿かもしれない。だが、石家という家に属するせいで友人を殺さなければならなかった昌平や、そんな昌平の一人の友として痛みを共有している鹿島の前では正しい姿ではない。
瑠莉花はそれすらも計算していたのか、二人の冷たい視線を喰らっていることに気づいていない晶哉を最初と同じ笑みで見つめていた。予想通り過ぎるな、と。
「晶哉様、いいではないですか。やるって言ってるんですから。やらせましょう。どっちも死んだとして、それは主様の指示通りですし」
「石家の仕事だ!」
「………」
瑠莉花はわかっていた。目のまで起こる出来事も。
「晶哉様、あなたは石家として動けないようだ」
「!? なにをっ」
瑠莉花は、昌平や鹿島が石家というもののためになにを失ったのかは知らない。が、連夜を襲った時点で晶哉のキセトよりの思考が反映されていることは知っていた。それを心地よく思わないものがいることも。
自分がその不満を刺激すれば、晶哉の動きは封じることが出来る。それも瑠莉花の手を使わずとも。
「私は、私の個人的な欲望のために動くことを隠さないのです。私はレー様を殺されるぐらいならキー様を殺す。私のために。それを利用すればいいのですよ。私は私のために石家の力が欲しいのですから!」
「黙れ!」
「いや、黙らなくていい。我々は賢者の一族のお守じゃない。主様のためなら同じ石家でも黙らせて、主様のお言葉を守る」
いくら晶哉が強くとも、その強さは常識内のもの。昌平と鹿島の二人を晶哉一人では勝ち目はないだろう。特に、同じ石家というだけで手を緩めてしまう甘さを持つ晶哉には。
あっという間に昌平に押さえつけられた晶哉は、親の仇を見るかのように瑠莉花を睨みつける。瑠莉花は自らの冷め切った心を自覚しながらもその視線には応えない。
「私が焔火キセトを殺すのですよ。だから、石家の術を下さい。……レー様を守るためになら、私の命も捧げられる」
近くにあるシーツなどで縛られていく晶哉を見て、瑠莉花は敵になってしまったんだと実感した。晶哉と、ではなく、キセトと。晶哉がキセトの味方。晶哉が縛られていくのを黙ってみている。
敵対していないはずの連夜の傷を治せる人物でもある晶哉が縛られている現状を、ここまで落ち着いてみている自分にも違和感を覚えたが。
「晶哉様はこっちで拘束することになる。我々は晶哉様を主様の邪魔に成ると判断した。だから開放は出来ない。したとしても峰本連夜と焔火キセトに関するお言葉には一切関わらせない。だから、お前に術をやったとしてもお前一人でやらなければならなくなるぞ?」
「それでいいのですよ」
「確か弓使いだったよな? バトルフェスティバルの時は弓だった。自分の使い慣れた武器でいいから、弓だせ。それとも銃にするか? 銃にするほうが楽だろ」
「私が弓を使うのは、簡単に人を殺さないためなのですもん。弓って結構難しいのですよ。銃だって簡単じゃないのでしょうけれど、やっぱり威力があるイメージなのですし。でも、今回は殺さないといけない。なら、銃より、弓より、ナイフがいい」
この手で殺そう。これは裏切りだから、それぐらいの罪は背負おう。
瑠莉花の決意に、篠塚昌平と鹿島千陽は術を施したナイフを与えることにした。なぜ、彼女が石家を知っていたのかすら聞くこともなく。
BNSH075
瑠莉花がどうやって石家の術を施されたナイフを手に入れたのか。そのところです。さりげなく晶哉君が捕えられてしまいましたね。
まぁ本編にはあまり触れないでおきましょう。
では何を書くか。石家が賢者の一族の治療を担っているというあたりを書きたいと思います。
まず賢者の一族を普通の医者が治療できない理由ですが、魔力の質の違いです。一般人の魔力と賢者の一族の魔力は根本からして違うものとされています。だから賢者の一族は普通の魔法が使えないとされています。魔法はあくまで一般人のいう魔力で構成される方法ですので、賢者の一族が持つ魔力では発動しないんです。
ではなぜ違うのかですが。賢者の一族の力はそもそも神様の力とされています。大昔、四人の賢者が神と呼ばれる存在に打ち勝ったことから、神の支配下を抜け出しさらには神の力を奪い取ったということなんですが、これは本編にのるのでしょうかね。神の力だーと突然言っていたりはしたはずですが、説明はなされていないはずです。今後、詳しい説明がされることもありません。(予定)
四人の賢者が神の力を奪い、それを人に複製したものが魔力です。ですが、複製する段階で劣化してしまい、使用できる事柄が限られるものになりました。そこで、昔の人々は少しでも賢者の力に追いつくために魔法を作りました。劣化した魔力でも万事のことを可能にする方法として、です。
そのうち賢者の一族がもつ本来の力よりも一般人が持つ魔力による魔法のほうが便利になってしまったのでしょう。
ですが、賢者の一族に受け継がれる「存在力」を操る力と「再生能力」だけは一般人にはどうしても真似はできないものです。羅沙が存在力を奪う力、明日羅が存在力を与える力、不知火と葵が再生能力を受け継いでいます。
なぜ治療できないか、の話に戻りますが。
賢者の一族の力と魔力は似て非なるものです。生命力や魔力を扱う一般の医者にとって賢者の一族の力は次が予測できないものとなります。魔力を制御する方法では制御できないのです。治療中に突然弱まることがあれば、皇族を助けられないなどということになるかもしれません。
そこで専門家として石家が存在します。石家は賢者の一族の力のベクトルを制御することができますので、それを治療のために使わせることも可能になります。そこから賢者の一族の治療は石家。そうされるようになりました。
治すこともできれば殺すこともできる。石家は賢者の一族にとって無視できない存在なのですが。羅沙では石家はあまり強い立場にはいませんね。石家である鹿島が哀歌茂の分家に入ったときですら石家の単語を誰も口にしませんでしたからね。情報屋といわれるフィーバーギルドの幹部である鹿島は、自分の情報を制御していたのかもしれません。
羅沙城へ行けば石家が数人控えているかもしれませんが、今は全員引いてきているのでしょう。明日や驟雨に怪我があったらどうするつもりなんでしょうかね。石家は世界のためなら羅沙という国なんて捨てる覚悟なのでしょうか。




