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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
化物と心と命編
73/90

068


 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません


 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください


 以上の点をご理解の上、お読みください


「キセト」


 結局、静葉しずはの答えはこれしかなかった。静葉の性格上、疑いを持ったままギルドに留まることはできない。ナイトギルドは連夜れんやとキセトを慕う人物が集まる場所だ。疑いを持ったままではここにはいれない。そう思った。だから、この選択しかない。

 声をかけられたキセトはいつもと変わらない無表情(戸惑いの色が混じっていたのかもしれないが、今の静葉にはわからなかった)で静葉の次の言葉を待っている。


 「これ。今までお世話になりました」


 手渡した退職届。丁重なお辞儀。それが静葉の答えだ。

 キセトは無言で退職届を受け取った。静葉のナイトギルドとしての今までがこれで無に帰ったと思うと、静葉の目頭も熱くなる。だが、そんな顔は晒したくないのでずっと頭を下げ続けた。

 そんな静葉に追い討ちをかけるかのように、キセトの言葉は色が無い。静葉が始めて出会ったころのようだ。いや、キセトが変わったのではなく、静葉の感じる心が変わっただけか。静葉は信頼できていたはずのキセトを今は信頼できない。わかると思っていたキセトが分からない。だから、こうなってしまった。


 「さようなら」


 たった五つのキセトが発した音で、静葉の心が砕けたように感じた。心が、というよりキセトへの今までの思いが。修復不可能なまでに粉々に。

 静葉は振り返った。すでに表に父を待たせている。ただキセトとけりがつけたくて、静葉だけまだギルド内にいたのだ。でもこれで別れ。キセトの言うとおりさようならというものだ。もう時津ときつ静葉はナイトギルドの歴史に刻まれることの無い名前になった。



 ナイトギルド隊員ナンバー四番、ナイトギルドの初めての前衛、ナイトギルド初期を支えた戦闘種、時津静葉。彼女はキセトへの不信感から、ナイトギルドを去る。


 『さようなら』。その通りだ。静葉はこの長い物語から名を消した。キセトと連夜の物語から。

 キセトが用いた「さようなら」にどんな意味が込められていたかは、静葉も誰も知らないままで。



 明日羅に向かう船の中で、静葉は空を見ていた。空は気味が悪いほど青い。そういえば羅沙の色はこの空の色という。見ていて気味が悪いこの色が。

 決してキセトが気味が悪いわけではない。静葉は知っている。静葉の稽古の相手をしてくれていたキセトや、敵対していたはずの殺人鬼ミラージュに手を差し伸べてくれたキセトも。どちらかというと連夜のほうが非道だと思った過去もある。

 キセトは人間だ。松本まつもと姉妹はキセトを化物だと言ったけれど、静葉はキセトを人間としか思えない。おそらく強い力を持ってしまっただけの、ただの人間。


 「ねぇ、お父様。私、強くなりました」


 「ん?知っているぞ?かなり強くなったのだろう。誇らしいことだ」


 「キセトは、この喜びを知らないんですね。力を自分の努力で手に入れていくという喜びを。自分を磨くという幸せを知らないんですね」


 元々持っていた。力も、その力を使う術も。全てを持っていて、完全な形で生まれてきた。生まれてからのほうが毒病になったり欠けていった人生。

 そんな人生、何も楽しくないんだろうな、と静葉は一人、空を見て思うのだ。



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