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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
バトルフェスティバル編
57/90

052

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください

 決勝が真剣勝負ということは互いに分かっている。親子の再会も、衝撃の事実の公開も、すべては終わった後だ。

 一度だけキセトは明津あくつしずくを見た。

 他人がいうほど明津に似ているとも思わなかったし、かと言って雫に似ているとも思わなかった。目の前にしても親だという実感もない。ただ、やはり意識していることだけは否定のしようがない。一つでも自分と似ている特徴がないか、じっくりと見つめていたいとも思った。


 「………」


 「武器構えろよ。もうすぐ始まるぜ」


 連夜れんやが武器を渡してくる。明津に何かあっては困るのか、大会側で魔力要素のないものを準備したらしい。もちろん、武器の持ち込みも可なのだ。ただ二人は決勝までに武器らしいものを使っていなかったので、へんなものを持ち込まれる前に、と準備されたらしい。


 「刀か」


 「運営側で準備したものだから脆いけどな。丁度いい手加減だろ」


 「そうだな」


 キセトはいつもより一層口数が少なくなっている。視線はただひたすら親を追うのみ。

 親を信じない連夜には分からない感情が、今キセトを占領しているに違いない。そう思うと連夜もただ黙るだけである。

 連夜からすれば、キセトという人間の脆さだ。人間の心は分かっても、人間の脆さを好きにはなれない。

 無意識に人間を嫌う連夜だが、それは脆さを嫌うことから始まっている。自分のそばにいるだけで脆い存在は傷つくから。勝手に傷ついて連夜のせいにするから。だから連夜は苦手なのだ。苦手で、嫌いになって、遠ざけるようになった。

 一緒にいて相手が傷つかないのなら、ありがとうと言ってくれるのなら、連夜ほど面倒見のいい人間も居ないほどである。いままで唯一の例外だった連夜の妹は、そうやって連夜に守られ続けてきた。そしてこれからはナイトギルド隊員たちも、連夜の過保護すぎる思いに包まれることになるのだろう。


 『それではぁぁぁぁぁ!決勝戦を始めます!!』


 司会が声を荒げて叫んでいるが、当の参加者四人はあくまで冷静。

 明津と雫はキセトと連夜の力をある意味知っている。二人と対峙したことはないものの、キセトの力は自分たちのもので、連夜の力は友人二名の力だ。その厄介さも理解しているつもりである。

 特に皇族の魔力と再生能力については警戒していた。

 明らかに明津と雫が不利なのだ。確かに総合的に考えれば、明津と雫側にも皇族の魔力と再生能力がある。だが、それはあくまで個人の能力であって、それぞれがそれぞれの能力を持っているだけだ。両方持っているわけではない。

 雫は魔法が使えないし、明津は斬られれば斬られたまま。どちらの能力も持った人間が二人組んでいるキセトと連夜のペアとは絶対の差がある。


 「さてと。とりあえず勝つか」


 こんな軽口も、ただ事実を言っているだけなのだ。この二人が組んで負けるなどありえない。

 連夜の軽口を聞いて観客たちが喚いたが、いざ戦闘が始まると全員が魅入って黙りだした。こればかりは明津だからでなはく、連夜とキセトだからだ。不知火と葵の兵の手すら止めてしまう、素人も玄人も平等に魅入る戦いこそ、二人が参加する戦いである。

 目を覆いたくなるような眩い光。キセトが出した【レイ】による閃光が宙で砕け、神秘性を高めている。

 視線をひきつけ放さない黒い影。連夜が出した【シャドウ】による影が地面をはいずりながらばらつき、これも神秘性を高めている。

 見ているものからすればただただ美しい光景。


 が、それを対処しなければならない明津と雫にとっては別だ。

 宙に舞う光全てを把握しなければならない。時に光と光は繋がって明津たちの動きを制限する。

 地面に這う影全てを見なければならない。時に影は独りでに明津たち自身にも這い登ろうとしている。

 片方だけでも十分に恐ろしいというのに、光はキセトが、影は連夜が、それぞれ全てを把握し、そして光と影は当然とばかりに関連した動きをする。操作する人物が別なのだから別に動くはずが、光が明津たちを縛り、影が明津たちを捕らえようとうのめく。


 「ちっ…。影だけでも消す!」


 明津が目を閉じて集中力を高めだした。皇族の魔力で影、いや【シャドウ】という魔法の存在ごと吸収するつもりだ。

 雫はそれを理解し、明津の邪魔をされないように光と影を明津の周りから撃退させ続ける。光も影も自分を身代わりにして。再生能力があるからこその方法である。


 「よっし!雫引け!いける!」


 明津の声と共に雫が明津の元へ飛ぶ。

 地面より数センチ上に魔方陣が広がり、それが砕けると同時に地面の影も全て消えた。なんとか成功したらしい。


 「お、さっすがー」


 連夜の呑気な声。そして影を消されても輝く宙の光。

 ここで言っておくが、【シャドウ】を破ったことはミスとしか言いようがない。なぜなら、峰本みねもと連夜という化物がせっかく魔法に集中していたというのに、その魔法を破ることで自由にしてしまったのだから。


 「さて。オレは肉弾戦してくるわー。邪魔にならない程度でよろしく」


 「邪魔?適切な動きをさせるだけだ。お前があわせろ」


 「お互いに最高にさせればいいということか。そういうことか」


 「知らん」


 はは、といった連夜の乾いた笑い。その声がキセトの耳に届く前に連夜は動いていた。

 そもそも魔法より刀と刀のぶつかり合い、剣と剣のぶつかり合いを連夜は好む。魔法が破られた、など丁度いいタイミングだ。


 「つぅ…っ!ガキの癖に小生意気な刀の使い方するわね!力技で振り下ろしてるだけじゃない!」


 「まぇね。オレ、馬鹿者だからさ。力ずくばっかりだし。力で振りぬけば無敵の剣。受け止められる奴すら稀なんだぜ?たぶん、あんたが避けた判断も正しいんだろうなぁ」


 話しながらも刀が何度も振られるが、当たらない。力任せに振る刀に当たってやるほど雫は甘くはないし、また一撃でも当たってしまえば真っ二つに切られるか骨を砕かれるかだ。

 連夜ではなくともそのような相手は今までにも相手にしたことがある。打ち破ったことがある。

 ならなぜ連夜を特別に警戒しているのはなぜなのか。やはり親の血なのか。連夜に、連夜の父親でもあり、雫の親友でもあったあおい覇葉はばの恐ろしさを重ねているのだろうか。

 連夜の剣は覇葉の繊細な剣とは全く違う。力任せのただ振りぬくだけの剣。力に任せて、本能に任せて。それなのに、重ねているとでもいうのだろうか。


 「…あんた、オレじゃねーや。オレじゃない剣見てるわ。戦うにも値しねーな」


 その言葉を最後に雫の意識は切れた。

 正確には連夜に蹴られ意識を吹っ飛ばされたのだ。剣ばかり追っていた雫に、無理な体勢からの蹴りに反応することはできなかった。確実に筋の一本や二本を犠牲にしていなければできない動きだ。連夜も雫と同じく、再生能力に頼った戦い方をするらしい。


 「さーて。胴にキレーに入ったからしばらくは大丈夫だろ。あとはおっさんをいたぶりつぶすかね」


 雫が吹っ飛んだ先にはキセトが立っていたので、キセトが雫を受け止める。連夜はあえてそれを狙っていたのだろう。やはり、連夜はどこか優しい。

 キセトは雫の右腕から丁重にリングをはずした。これで戦闘に再参加することは不可能だ。キセトが輪をかけて丁重に雫を地面に寝かせる。腹部の怪我は再生能力によって殆ど癒えようとしていた。治療を施す必要はなさそうだった。


 「この光っ!?うざっ!うざい!」


 「オレが相手するまでもないじゃん…。キセトの魔法に遊ばれてやんの」


 明津のほうも決して放置というわけではなく、雫の介抱の片手間に魔法で相手をしている。連夜が雫の伸ばした以上、キセトは自分が明津を相手取るつもりだった。

 だがキセト自身の中に疑問が残ったままの決意。


 (俺に、明津様を攻撃できるのか)


 キセトは人が好きだ。だが、好きだからこそ人に対してなにもできない。接触が傷つけることと同義だった。キセトが人を傷つけたくない、大切にしたいと思えば思うほど孤立していった人生だった。

 なら、愛されたいと願う相手と戦うことは、今までの生き方を否定していることにならないのだろうか。いくら愛してもらっていたといえど、これからもそうだとなぜいいきれるのか。明津という人は、キセトの父親は、傷つけられても息子を愛せる人なのか。


 「さっきあの二つ繋がってたのに次はこっちの三つと連携!?いた!痛い!」


 「おー、ダンス下手だねー」


 「ダンスと言えるか!!後、俺のダンスは白鳥の舞と言われていてだな!」


 「あの股間にアヒルの頭付いてるやつ?あー似合う似合う」


 「違うわぁぁぁぁぁ!!」


 そんなキセトの不安をよそに、馬鹿二人で楽しそうに話してる。こんな時だけ、キセトは連夜の口の軽さが羨ましい。そうなりたいとは思わないのだが。


 「連夜」


 「おっ、来た来た。悪いな、大分笑ったわ。このおっさんおもしれー」


 マイクをつけているというのに、連夜はすぐに明津を馬鹿にする。キセトが来たのを確認すると、連夜は後ろに下がった。すれ違い様に、後よろしく、なんて言って自分は傍観を決め込むらしい。

 キセトが光たちに指示を出すかのように指で光を指した。主に明津の動きを制限していた光ばかりが指差され、そして逆らうこともなく宙に消えていく。

 連夜は真正面から雫を負かした。ならキセトもそれに従うべきだろう。明津の動きを制限した光を消すことで、キセトは真剣勝負を挑んだのだ。

 そしてそれを明津も理解する。羅沙らすなに住む異形の黒髪が、羅沙の神に真正面から勝負を挑んだのだと、誰もが生唾を飲み込んだ。心のどこかでこんな光景を誰もが待っていたのだろう。そしてその多くが望む次の光景は、神の輝かしい勝利。

 そればかりは現実にはならないのだが。


 キセトは大会管理者側が用意した刀を地面に投げ捨てた。キセトが空いた指で扉のようなものを描く。指が描く筋を一泊遅れて光が追い、出来上がった扉はキセトの指弾かれて空を割って開いた。

 キセトが奥まで腕を突っ込み取り出した刀。コレを見れば分かるものには分かってしまう刀。黒獅子くろじし時代からの愛刀。絶刀『夜』。黒獅子の名刺代わりとなるはずの、黒獅子だけが所有を許される刀。

 光を反射させる黒い刀身。黒いスーツと一体化するように黒々しい柄。その場全員の視線を釘付けにして話さない美しいモノ。


 「連夜。合図を」


 「ん?んー…、じゃお前が出した光をオレが一つずつ消していくから、全部消えたらとかは?」


 「それでいいですか?」


 「ああ」


 「頼む」


 双方が一個ずつ消えていく光を感じる。連夜の演出なのかキセトの意志なのか、消える光はわざわざ明津とキセトの間に飛んできた。

 そして最後の光が、消えた――


 動いたのは明津だけ。キセトは明津の突きや斬撃を捌くだけ。だがそれでも、たったそれだけだというのに、二人の間にある実力差は明らかだった。

 キセトは明津の剣を、全て片腕で、素手で、捌いているのだ。絶刀を持った手はまだ、だらりと脱力した自然体のままである。

 ひたすら攻撃を続けながら、明津は自分が観察されていることに気づいていた。自分ももし余裕があるのならそうするだろう。まじまじと顔を見て、一つ一つ、伝えたい言葉を口にするかもしれない。戦いの最中であることさえ取り除けば、待ちに待った再会なのだから、もっとゆったりと話したいものである。

 だが明津にその余裕はないし、その余裕を持つキセトはただ沈黙するだけだ。


 キセトは目の前にいる父親を測りかねていた。

 ここでキセトが勝ったとしよう。もしその勝利の代償に明津が怪我をしたら。自分はこの人を純粋に慕えるだろうか。罪悪感を持って接してしまうのではないだろうか。そして明津自身も、心のどこかでキセトを疑ったまま、時間を埋めるだけの表面的な関係になってしまうのではないだろうか。

 明津を無傷で勝たせるのならば、リングを破壊するしかない。できないこともないが、リングだけを狙って壊せるという実力差をここで公にして、それは辱めたことにはならないのだろうか。親のプライドも守れない息子をこの人は愛し続けてくれるのか。


 結局、迷いや不安があるまま、キセトは剣を捌き続けることしかできない。


 「どうした?攻撃してこないのか」


 「……いえ、しますよ」


 「そりゃそうだろうな。そうでないとその綺麗な刀は装飾品になっちまう」


 傷つけるよりも無傷のほうが良いだろうとキセトは思う。相手が無傷のままキセトが勝つために狙うところはリングだけだ。

 キセトが明津の突きを待つ。羅沙王道剣術の型を体に染み込ませている明津の突きは基礎に忠実であり、崩し方も基礎レベルの簡単なものなのだ。言ってしまえば本番を知らない剣である。

 明津の突き。それに初めてキセトの絶刀が動く。今まで捌くに徹底していた左手に刀を握り、明津と全く同じ動きで突きを放った。ただし、明津のような基礎に従った突きではない。柄尻ギリギリを指だけで持っている。力など入るはずもない、ただリーチが長いだけの突き。


 「馬鹿にしているのか!」


 剣と刀がぶつかる。しっかり持っている明津のほうが競り勝つ――はずだった。

 宙を舞う剣。地面に落ちる刀。お互い素手となった手で、明津は空を掴み、キセトは明津のリングはしっかりと握った。そのまま指先に力をいれ、リングを破壊する。


 「勝負あり、ですね」


 自分が地面に捨てた愛刀を拾いつつ、キセトは呟く。

 キセトの突きは明津の付きを模倣したものだったはずだった。全く同じ型で持ち方だけが違うものだったはずだった。

 キセトは途中で型を捨てたのだ。僅かにリーチはキセトのほうが長い。明津の剣がキセトに届く前に、キセトが剣の根元を下から叩き、剣を弾いたのである。それはもはや、突きとは言えない。

 明津の視線が柄の握り方から刀自身に移動したことを感じ、キセトは躊躇なく愛刀を地面へ捨てた。明津の視線も刀を追って地面へ落ちる。無防備にキセトのほうへ差し出された右腕を忘れて。

 後は簡単なことだ。わざわざリングをつけた右腕が差し出されているのだから、手を伸ばしてリングに触れればいい。キセトなら触れるだけでもリングを破壊できる。


 結果。決勝はあっけないほど簡単に終わった。





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