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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
日々というもの
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001 

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください


 書類をまとめているうちにどんどん眠気が襲ってきたのは覚えている。だがそのあとのことを覚えていない。

 もちろん自分で自分に毛布をかけた覚えなどない。目の前で熟睡している友がかけてくれたのかと期待した。だが、その友が書いている書類も記憶にあるところから対して進んではいなかった。

 彼でもないのなら、おそらくギルドの仲間がかけてくれたのだろう。

 そう結論付けて、掛けられた毛布を畳む。起こされないとは、気を遣わせてしまったのだろうか。


 「なかなか面倒だよなぁ…。いろんなことがあると」


 俺が考え事をしているうちに、友も目覚めていたらしい。

 友の名は峰本みねもと連夜れんや。大きな欠伸一つ残して、掛けられた毛布も気にせず立ち上がった。仕事をする気はないのか、机の上の書類に見向きもしない。


 「いろんなことって…。これから起こることのほうが大変だろう。このギルドも大きくなっていくだろうし、もっと多くの人と交流を持つことにもなる」


 「そうか?今も面倒は面倒。未来でも面倒は面倒。変わんねーことだろ?」


 「そんなの言い出すときりがないぞ」


 そうだな、と小さく呟くと連夜はそのままキッチンへと向かった。水でも飲んで落ち着くのかと思えば、酒を取り出して瓶ごとラッパ飲みしている。

 飲み終えてから先ほどよりはすっきりした顔立ちで席に戻ってくる。


 「やっぱり徹夜するなら酒ぐらい飲まねーとな」


 「お前に書類を真剣に書きあげる気持ちはないのか」


 「あるけどよー…。あるんだけどな?明日の…いや、今日の朝という提出期限を守るつもりはない。それだけだ」


 不敵に笑うな、腹が立つ。

 という言葉だけは飲み込んでおいた。酒が入ったせいだと思っておこう。

 それにしても提出期限を破るとまた怒られるのだろう。 しかも怒られるのはこのギルドの隊長である連夜ではなく、副隊長である俺だという理不尽さだ。誰もが連夜に対して怒ったとしても無意味だと諦めている。

 唯我独尊。連夜を表すのにこれ以上の言葉はないだろう。


 「手伝うから間に合わせよう。そう言って二人で徹夜のはずだったのだが…」


 今からでも間に合わないことはないが、徹夜は確実だろう。

 明日は連夜はあいさつ回りという仕事がある。徹夜明けで挨拶のために走り回るのは面倒だと、連夜なら言いかねない。そのことを考えると、あまり連夜に徹夜はさせたくなかったのだが、この際仕方がないだろう。

 俺のそんな心配をよそに目の前で連夜は笑う。


 「はは。徹夜どころか毛布までかぶせてもらって熟睡じゃねぇか」


 「今からでも書きあげよう。まだ朝までには時間がある」


 少し頭痛がする。本当に連夜と俺が同い年か疑いたくなるほど、この男は能天気だ。

 俺が大げさに頭を抑え痛がる振りをしたので、連夜が仕方がないとばかりににやりと笑って俺を見てきた。


 「お前は休め。オレ様はさっきの酒の分ぐれー頑張ってから休むから。大丈夫期限には間に合わせる。体調悪い奴は無理するんじゃねーよ」


 「それは――


 「『それは前提だ』だろ?」

 

 目の前で連夜の口角が上がるのが見えた。

 言おうとしていたことを当てられ、言葉もない俺はため息を漏らすしかない。


 「……わかった、俺は言葉に甘えさせてもらうがお前はしっかりするんだぞ。少し休んだらまた手伝いに来るからな。無茶するより休んだ方が効率がいい」


 「分かってる分かってる」


 本当に分かっているのかと聞きたくなる返事だ。

 だが追求したとしても意味はないだろうので俺は食堂を出た。

 二階の自分の部屋に続く階段を数段上ったところで今度は立ちくらみが起きる。 立ちくらみと同時に発生した痛みに、おもわず頭を抑えた。

 どうせ立ちくらみや頭痛の原因は寝不足や精神的疲労だろう。 このギルドには俺を悩ますことが趣味だといわんばかりの奴等が数名いる。隊長である連夜がその筆頭だというから問題だ。

 絶対にそいつ等のせいだと確信しながら、たどり着いた自室のベッドに倒れこんだ。



 まだ何か言いたそうな顔をしていたが、あいつは素直に食堂を出て行った。

 その背中を見送って一人苦笑する。目がしっかり働けと語っているのだ。そんな奴と一緒に書類作業なんてしていたら精神をすり減らしてしまう。つらい仕事であるからこそ気楽にしたいものだ。


 「一人ごと言ってるのって滅茶苦茶爺さんみたいじゃねぇか。まぁさすがに二十四年間で慣れたけど。今は話相手いるのに一人ってめっちゃくちゃさみしいなー、おい」


 もちろん返事をする奴なんかいない。

 隊員たちも起きてはいるだろうが自室から出てこない。それにこんな時間に起きていたら説教行きの年齢の者もいる。それにいまさらオレの独り言に返事を返してくれるやつもいないだろう。

 このギルドに集まった者たちは個性が強すぎる。入ったときは普通だったという奴も入ってから急激に変わったこともあった。この面倒な作業を生み出した今回の入隊者はどうなるのか、地味に楽しみでもある。

 ギルドを経営する隊長としてはオレは若いほうだ。若い、というか最年少。

 ギルドというのは四・五十になった者たちが入隊する物であって、二十四・五のオレが隊長を務めるというのは他にないはずである。

 ギルドという物はこの羅沙らすな帝国の軍隊だが、あくまで営業目的。民営のもの。だが帝国が命令するし、帝国の配下にあるそれぞれバラバラな部隊。正式名称、羅沙大栄帝国軍第二番隊私的軍個々隊代表軍という仰々しい名前もある。

 結果からいうと「ギルドが失敗したらギルドのせい。ギルドが成功したら帝国の功績」ということだ。

 一応帝国につられる個々隊のリーダーということで特権は下手な小隊長ぐらいはある、ことになっている。だが実際はギルドの数が多すぎて小隊長ぐらいの権限などあるはずもない。隊長一人ひとりがそんな権限を持っていたらこの帝国はさらに荒れているはずだ。

 もっと簡単に言うと権限はない。だが小隊ぐらいの堅苦しい書類はたくさんあるということになる。


 「あぁ、面倒だなー」


 呟かないとやりきれないぐらい面倒だ。色々面倒だが、この書類を書き終えない限り、面倒な物に手を掛ける事すらできない。

 かなり大雑把にまとめた書類を適当に読みやすい文章に変えながら電子魔術、ライグスという新技術のものに打ち込んでいく。 たしか古代のパソコンというものと魔術を組み合わせてできた物らしい。宙に浮く画面に触る感覚は中々慣れることができない。

 今回の入隊者は哀歌茂あいかもしげるという子どもだ。 先日色々あって仲間になった十八の少年である。オレと六歳の年齢差。小学校にすれば一年生と六年生。学生的な感覚でいくと中学一年生と高校三年生だ。

 この差は簡単に埋められないだろうな。


 「じぇねれーしょんぎゃっぷぅーってか…」


 一人でボケると空気全体が重くなるというのは本当だったのか。誰かこの空気から助けてくれ。

 助けなど来るはずないので一人で何とか立ち直り、書類と向き合う。すでに茂自身に記入してもらった書類に隊長のサインだけ書き込むだけでいい。

 面倒な作業は実際のところ、オレの友人でありこのギルドの副隊長である焔火ほむらびキセトが、終わらせてくれていた。だが、面倒な書類など次々に出てくる。キセトを休ませなければよかったと後悔しながら次の書類をめくる。


 「うげぇ」


 ちらっと見えただけでも思わず悲鳴を上げたくなる。大体オレは一センチ四方より小さい文字は目がしょぼしょぼして読めない。てか読みたくない。

 茂本人の履歴書、隊長の許可証までは理解できる。

 だが入隊理由てなんだ。意味不明だ。これが一番面倒。

 茂自信に書かせる分と別に、「なぜ入隊を許可したのか」という隊長が書くべき書類らしいが、そんなもの必要ないと思う。

 ナイトギルドでは、隊長であるオレと副隊長であるキセトに差はない。権限も二つに割っている状態だし、仕事はキセトがすべて請け負っている。

 だいたい茂に入隊許可を出したのはキセトだ。つまりオレはこの書類を書けない。一つかけない書類があると全部やる気を失う。


 「あーあーあー」


 少しの出来心だ。机の上にある書類を床にぶちまけながら机に突っ伏す。

 あ、気持ちいい。このまま寝たい。いや、寝るべきだ。無茶はすべきではない。寝てしまえばいいか。

 どうせキセトが降りてくればオレが起きる頃には仕上がった原稿が目の前にあるだけだ。


 うん。それでいい。寝よう。



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