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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
バトルフェスティバル編
48/90

043

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください


 「お帰りなさい。パシリ君」


 「在駆ありく先輩の嫌味はいつでも輝いてるぜ…」


 わざわざ一人食堂を出て廊下で待っていた在駆が、ギルドに入ってきた晶哉しょうやに嫌味たっぷりに言葉をかける。しげる戦火せんかが出かけている以上、晶哉しかキセトを探しにいけないということで、言われたとおりパシリをやらされたわけだ。

 といってもキセトが志佳しかと共にいるとは誰も思っていなかった。さらには気を失っているとも、だ。そのことを考えると、晶哉が一番素早い対処をしただろう。志佳のことも知っていて、さらに即決で志佳よりキセトを優先させるのだから。

 晶哉は予想外の出来事に、とりあえず志佳をキセトの上から蹴飛ばし、急いで帰路についた。

 そのはずなのに、気を失っているキセトを見た在駆の反応が薄いことに疑問を感じる。仮にも黒獅子くろじしだった男が簡単に気を失っている姿は、不知火しらぬいに属していた在駆には、十分動揺を与えてもおかしくないはずなのに。


 「食堂に布団が用意されてますから副隊長はそこに。晶哉君は隊長が王様みたいな態度で待っていますからしばらく質問されてくださいね」


 「ここに毒病を治療できる奴がいるのか?在駆先輩が治療でもするのか?早く病院なり連れて行くべきだろう。羅沙らすなだろうが戸籍を持つ奴を邪険にはできないはずだ」


 「治療?馬鹿げたことを言いますね。それができなければ今貴方が背負っているような副隊長はいませんよ。死人のようにベッドの上に横たわる副隊長としか再会できなかったでしょうね。あといい加減に『先輩』はやめてください。そちらのほうが年上ですし、ぼくも晶哉君ももうシャドウ隊員ではないのですから。先輩も後輩もこのギルドにはありません」


 「慣れたからそのままで呼ばせてもらうぜ。何も在駆先輩のこと尊敬してそう呼んでるわけでもないんだからな」


 話したまま、晶哉は背負っているキセトを落とさないように、器用に扉を開けて食堂の中に入る。

 まず一番に見えたのは、椅子に足を組んで座りながら肘掛の先を指で叩く連夜れんや。なるほど、確かに王のようにも見える。

 王のようなのそばに臣下のように寄り添う静葉しずは松本まつもと姉妹。連夜は帰ってきた晶哉を見ずに何かの書類を眺めていて、代わりだというように静葉と松本姉妹が晶哉を睨んでいた。


 「布団敷いてあるって聞いたんだが、どこだよ」


 「そっち。英霊えいれいの畳スペースの上。れんがいろいろ準備してるからキセトおろしてからこい。オレの質問タイムだ」


 「……おれはおれの有利になることしか言わないからな」


 「聞き出すからお前の気持ちとかはどうでもいいわ、オレ」


 最後まで晶哉を見ずに連夜は書類を見て、ニヤリと笑った。その笑みに晶哉は気味の悪い何かを感じつつ、指示された場所にキセトを丁重に下ろす。蓮がキセトを受け取ったのを確認し、晶哉は連夜の前に戻る。

 改めて連夜と向き合うと、言葉にできない気味の悪さ、恐怖、そして人間外を目の前にしている不思議さが伝わってくる。仲間、もしくは部下、自分の利益になる者以外に向ける連夜の感情は、凡人にはつらいものが混じっている。


 「まず最初の確認。お前は篠塚しのづか晶哉。キセトが奴隷だったころ、同じ管理場にいた羅沙奴隷。出身は不知火。セキケとやらの長男。んで、キセト・在駆と同時期に不知火側シャドウ隊にいた、と」


 「間違いはない」


 連夜の視線は相変わらずある資料を見ている。その資料こそ志佳からもらったものなのだが、晶哉の過去の核心に触れるようなことは書いていないらしい。それか連夜が核心らしきものには興味がなく、無視しただけか。

 だが隣にいた静葉は違うようだった。書類を覗き込むようなまねはしなかったものの、田畑たばた沙良さらをそそのかした張本人を前にして、一言も聞き漏らさないように集中して連夜と晶哉のやり取りを聞いていた。


 「まぁお前のことはコレぐらいでいいや。静葉、ミラージュの件は後でお前が聞け。オレが聞きたいことはな、キセトのことだ」


 連夜に言われて、静葉は無言で食堂を出て行った。晶哉がギルドに入ること自体を反対したいほど、静葉は晶哉を毛嫌いしているようだった。

 ただ連夜の命令だから従っているだけに過ぎないだろう。これが他人の言葉なら無視してでも晶哉に詰め寄っていたはずだ。


 「キセト本人から聞けよ。一生目覚めないわけでもないんだぞ」


 「オレはキセトがいくらはいそうですって言おうがどうでもいい。アイツはさらりと嘘をつくし、もし本当だとしても、キセト一人の確認だとキセトの勘違いだってこともある」


 「………。それで、キセトの何が聞きたいんだ?」


 ここでやっと連夜が視線を晶哉に向けた。少々疑うような色がその視線に混じっている。

 疑われても当然である立場だと思う晶哉は堂々とその視線を受け入れたが、連夜は何か違うことを悩んでいるようだった。だが瑠砺花るれかに促されて連夜は最初から考えていた疑問を並べる。


 「焔火ほむらびキセトの父親は確かに羅沙明津あくつか、母親は確かに不知火しずくなのか、弟がいるというのは本当なのか、毒病にかかった原因は、キセトの自己犠牲の考え方が生まれたのがいつなのか。アークから聞くにはお前はストーカー的な感じなんだろ?これぐらいは知ってるだろ?」


 ストーカーではない、と前置きを置いてから、晶哉は嘘が混じらないように質問に答えた。


 「両親の件は本当だ。確かに羅沙明津と不知火雫の血を引いている。弟の名前は不知火イカイ。四歳年下で弟のほうは母親似で外見は似ていない。毒病を発病したのは右腕への毒素の大量注入によって。自己犠牲の件は奴隷時代にはすでにあったな」


 「ふーん。一応全部本当の事言ってたのかー」


 連夜が納得し、晶哉もそれだけか、と少々気が抜ける思いで近くの椅子に座る。

 落ち着いた空気になろうとした瞬間、いやいや、と瑠砺花が沈黙を破った。


 「ちょ、ちょっとっ!不知火雫はスルーなのだよ!?」


 「んー?あれ、教えてなかったか?」


 「教えてもらってないのだよっ!て、てか何で皆そんな無反応なのだよ?あの不知火雫なのだよ?あ、のっ!」


 瑠砺花が周りに同意を求めるがほとんどが首をかしげるだけで、望むような返事は返ってこない。瑠莉花るりかは苦笑で姉を見つめ、食堂に遅れて入ってきた在駆は瑠莉花と同じ苦笑を浮かべていた。

 どうやらこの場で、不知火雫の正確な人物像を知る者は少ないらしい。


 「おまえ、馬鹿だろ」


 「そんなことないのだよーー!」


 「帝国の教科書に不知火雫の名が載るわけないだろうが。知ってるっていうならお前が教えてやれよ」


 学校というものに行ったことがない瑠砺花なので、教科書に載ってるかどうかは知らないが、一般常識として自分が知っていることをあげる。


 「不知火雫。羅沙明津と同い年で、不知火本家の生まれ。第一子として不知火を継ぐはずが羅沙明津が行方不明になった同年に跡継ぎの権利を放棄っ!四年後、羅沙明津が行方不明になったことと不知火雫の奇行には関係があるとして、羅沙軍は停戦条約を破棄して不知火本土に侵略っ!それが奪還戦争と呼ばれるようになった!」


 「同じく行く不明であった明日羅あすらはるあおいにいるとされ、羅沙・明日羅連合軍が北の森に侵略、が正しいんだけどな。羅沙明津は結局羅沙には帰ってこなかったが、明日羅春は葵より無事帰還、ってのも足りない」


 晶哉が訂正を入れて周りも納得したように頷いた。そしてキセトの両親を並べ、全員が瑠砺花の騒いだ意味を理解する。


 「明日羅・葵のこともなのだけど、キー君が明津様と雫様の息子だというのなら、不知火が栄えるか羅沙が栄えるかの選択がキー君に任されてるも同然だっていってるのだよ!

  明津様も雫様もキー君が第一子のはずなのだし…。頭領も皇帝も第一子が付くからこそ栄えるって言われるのだよ?『賢者の血』の力は第一子に色濃く継がれるって言われるのだし。羅沙なんて第一子の伝統が崩れたとか最近の話題なのだし・・・」


 「そんなことはキセトも分かってるっての。分かった上でコイツは羅沙のギルドに、羅沙軍に所属して皇帝に忠誠を誓ってる。そもそも王様って柄でもねーし」


 眠るキセトに視線を送りながら連夜が呟く。

 顔の左半分が髪の間から見えるが、やはり知ってから見ると羅沙明津にしか見えない。あれで水色の瞳なのだから、今まで公にならなかったほうがおかしい。

 連夜は羅沙明津がどうだったかは知らないが、キセトが皇帝になるなどちゃんちゃらおかしいと思う。


 「レー君は呑気に考えすぎなのだよっ!明津様の子だって分かればキー君の乗せた神輿担ごうとする人が何人いると思ってるのだよ!?羅沙第一主義の人たちが不知火との混血を許すと思うのだよ!?第一子だけど不知火の血が流れてるなんて、それだけでキー君は非難の的になるに違いないのだよっ!ねぇ、本当に分かって言ってるのだよぉぉぉぉ!」


 「あーあー、うるせぇ。お前にわかんのか?わかんねーだろうな。国なんていう世界の四分の一に当たるもの背負わさる皇帝の地位や頭領の仕事の重さ。んでそれ二つ分を選択肢に用意されるつらさ。選ばないほうが滅びる?滅ぼすわけにいかねーだろ。敵国とか言いつつ、お互いの国の貿易は繁栄に欠かせない。一国が滅びれば、それは世界の滅びだぞ」


 「簡単に言えば、選んだ時点で全部滅ぶってことだ。そう思うと選ばずあいまいにし続けるほうが、現状では一番いいんだろうな」


 「だ、だってっ…。だって…」


 選ばずに、さらには事実を公にもせずに、ただ黒い髪で母のことも主張しながら、この帝都ラガジで白い目に耐えていくのが一番いいのだろうか。

 不知火雫と羅沙明津は互いを愛しているのではないのだろうか。なら、互いを愛するように子供のことは愛していないのか。子供には、生まれたその時からつらい人生を定めておきながら、両親はのほほんと行方不明という逃げ道に走ったのか。

 瑠砺花には、キセトがただただかわいそうにしか思えなかった。親から押し付けられたようなものなのに、一人でそのつらさに耐えなければならない。しかも、一人で耐え続けることが一番いいなど言われているのだから。


 「じゃいつもの瑠砺花スマイルでキセトに言ってみろよ。滅ばないようにステキな選択してくださいとか、他の国が滅んでもいいから私たちは楽しく過ごそうねとか」


 「そんなこと言わないのだよ!私は…、私はキー君がずっとそのことについて悩んでるならつらいだろうって。皆で一緒に悩むぐらいできるんじゃないのだよ?」


 「それのスペシャリストは在駆先輩だぜ。間違ってもおれや峰本みねもと連夜じゃない。おれはキセトに同情はできない。家とか血筋には縛られておくのが楽なんだ。峰本連夜は……、自分で言うか?」


 「オレか?オレはそれなら滅ぼしとけって思うからな。世界が滅びようがオレが生き延びられるならそれでいいさ。世界なんて狂った人間と一緒に滅んだほうがいいさ」


 「だとよ」


 「………」


 「今日はもう全員休め。蓮もキセト置いたままでいいから休めよ。決勝前夜にナイトギルド隊員には話をする。それまでは何も話さない。今分かったことだって外に広めるな。あぁアーク、キセトを部屋に運んどいてやってくれ」


 「わかりました」


 在駆が素直に従い、キセトを背負って一番に食堂を出て行く。それにしたがって連夜と晶哉以外の隊員は食堂から素直に出て行った。

 晶哉は素直に自分の部屋というものがまだないため残っただけだったが、同じく残った連夜の表情を見て、意図的に残された二人だということを悟った。


 「なんかまだ聞きたいことでもあるのか?」


 「『セキケより友を』『家とか血筋には縛られておくのが楽』『キセトに同情できない』じゃ、お前はなんでキセトのそばにいるんだよ」


 「石家より友をって言ってるだろ。縛られておくほうが楽だが、おれは楽な道よりも、家よりも、友を選ぶ。同情してないと守りたいって思っちゃいけないってか?コレは同情じゃない。負い目だ」


 「負い目なー。負い目。キセトは言うんだろうな。負い目を感じる必要はないとかよ。誰がどんなふうにあいつに対して引け目や負い目を感じても、あいつは当然だとか言いながらそれを否定する。負い目とか、あいつは背負うもので背負わせるものじゃないとか思ってる」


 「そういうところはあいつも堅物だし他人に譲歩しない。だがおれも譲歩なんてしない。負い目は負い目だ。あいつが否定してもおれは否定しない」


 「アークがスペシャリストって言ったな。訂正させてもらおう。キセトの馬鹿野郎に対するスペシャリストはお前だ。なるほどなるほど。確かにお前の言ったとおり、あいつが否定しようとこっちが否定しなければいいってわけか。なるほど以外の言葉はねーぜ」


 何度もなるほどと繰り返す連夜だが、晶哉からすればそんなこともわからないのか、というレベルの話だ。なにも連夜がおかしいとか晶哉が石家だからというわけではなく、明らかに連夜の思考が年齢に適したところに達していない。

 それも連夜の生い立ちや育ってきた環境を知れば納得できることなのだが、残念ながらこのギルドに連夜の生い立ち・育った環境を詳しく知る者はいない。ただただ、連夜が馬鹿だと認識されていくのみである。


 「そんなことよりおれはどこに行けばいいんだ?今まで通り一人暮らしを満喫しとけばいいのか?」


 「それも悪くはねーだろうけど、このギルドに住んでもいい。お前がいるとキセトが本当に扱いやすい。もしキセトを探しに行ったのがオレならこんなふうに素直に帰ってこなかっただろうな。おまえがキセトに負い目を感じているように、キセトもお前に負い目を感じてるのかもしれねーや」


 「…それは正解だ。あいつは感じなくてもいい負い目を人間という人間に対して持ってる。『生きていてごめんなさい』『死ねなくてごめんなさい』『こんな気味悪い存在を受け入れてくれてありがとう』『共にいようとしてくれてありがとう』色々あるけど、一応あいつからしたら全部負い目だよ」


 「ふーん、あいつ、一々そんなこと感じて生きてるのかよ。疲れるやつだな」


 簡単に連夜は流したが、このことも晶哉からすれば知らないなんておかしいレベルだ。万人が知っているとまでは言わないものの、キセトの友だと名乗る連夜は知っていて当然のことだろうと思っていた。


 「ここは思った以上にキセトに厳しい場所だったのかもな。おれの行動は遅かったのか」


 晶哉のつぶやきは当然連夜にも聞こえたが、連夜はあえて何も答えなかった。

 連夜自身もここがキセトにやさしい場所だというつもりはさらさらないのである。


 こうして篠塚晶哉がナイトギルドへ入隊した日、また「羅沙帝都の黒髪」の噂は増えた。実は羅沙の生まれで長身の兄がいる。その兄は裏路地の住人らしい。いやいや、そんなことは嘘っぱちで、裏路地の人間と喧嘩になり、同情した長身の男がギルドまで運んだだけだとか。


 「羅沙帝都の黒髪」の噂を耳にしたケインの港町にいた黒髪が、小さく「兄さん」と呟いたことは、キセトの耳に届くはずもなかったのだが。




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