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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
バトルフェスティバル編
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 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください


 男女に分けた検査は午前一杯で、午後は自由とされたのだが、検査結果を報告する間は検査を受けたものたちはギルドから出ないように命じられたので、殆どがギルドで暇な時間を過ごすこととなった。

 暇人たちに絡まれないように、自由に動ける戦火せんかしげるは買い物に出かけることにした。が、どうしてもその外見上、目立つ。特に第一層ではなく、第二層では。何しろ周りには紺色の髪の人間しか居ないのだから、全体的に緑の茂と、全体的に赤の戦火は、本当にどうしようもなく、視線を集めてしまう。


 「あーあ、せっかくデートみたいだって思ってたのに」


 「どうかしましたか?茂」


 「で、デートみた――


 「ふざけるなぁぁぁぁ!」


 「うわっ!?」「きゃっ」


 並んで歩く茂と戦火の間に割り込む影。しかもかなり大声で喚きながら。

 コレが茂と戦火以外のナイトギルド隊員なら割り込んだ時点で武器を抜いていただろう。だが、元々驚きだけで終わる二人は、その影が誰かを理解して驚かされた不愉快さも一瞬で消えた。


 「しげる!」


 「滋ぅぅ!!」


 「おひさー。で、茂君。何がデートみたいだって?誰の女捕まえてデートだって?えぇ!?」


 「みたいだって言っただけでデートじゃないしいいだろ。ただの買出しだよ。荷物持ち。それとも戦火一人に重いもの持たせてギルドでふんぞり返ってればよかったのかよ?」


 「それはだめだ。そうか、荷物持ちか。なんだ、そうかそうか。別に一緒に出かけるのも良いけどそれをデートと呼ぶのは許さん」


 そんなことを言いながら、ちゃっかりと茂と戦火の間を場所取る男は、茂と戦火の幼馴染であり、戦火の婚約者であり、茂の大親友でもある滋改め、羅沙らすな驟雨しゅううだ。

 さすがにお忍びで第二層まで下りてきているときは変装魔法を使用しているらしく、羅沙驟雨の外見ではない。それでも二人が、本人であると気づいたのはその発言がいつも通り過ぎるからだ。


 「相変わらずなんだね。元気そうでよかったよ、とは行かないか。でも一時のことを思えば少しは落ち着いた?第二層にまで降りてきてるんだから」


 羅沙皇族である驟雨は、特別層にある羅沙城に居るべき人物だ。それでも抜け出してきて、一層には止まらず二層にまで下りてきているのだから、そんなことができる余裕はあるのだろう。

 そう考えた茂の発言だったが、驟雨は顔をしかめて答えた。そうじゃない、と。


 「んー。何にもわかんねー。姉様まで父様と同じ笑い方するようになったんだよなー。『お前にはわかんねーよ』って感じの笑い方。父様のときと同じさ。何も知らないまま、いろんなことが起こって姉様も死ぬのさ。そして順を追って俺が皇帝になって、また何も分からないまま振り回されて死ぬんだよ。姉様早く子供生めばいいのに。なら俺は皇帝なんかならなくて済むんだ」


 驟雨の深刻な声色に思わず二人揃って言葉を失う。

 二人が幼い頃から知る驟雨は、ムードメーカーで、冗談を言って周りを明るくする人間だ。そのせいか、皇族にも関わらず茂や戦火と帝都の外で駆け回った過去を持つ。貴族ですら大切に育てられていくというのに、この三人は揃って日が落ちるまで泥だらけになって遊んでいた友達である。


 「だ、大丈夫でしょう、滋。滋はまた十九じゃないですか。皇位はまだ…」


 やっと戦火が搾り出した言葉に、驟雨はわかってるんだろ、と反論を唱える。それもまた、やけに真剣な声色で。


 「でも来年は二十歳だ。今年が終わったら、俺はいつでも皇位を押し付けられる可能性があるんだぜ?元々父様があんなに早く殺されなかったら俺が成人するまで待って、俺が継ぐ予定だったんだし。『第一子の伝統が守れないならせめて男を』だってよ、笑えるぜ。誰が皇帝になっても従う気なんてないくせにな。大臣も国民も、みーんな明津あくつ様にしか従うつもりなんてさらさらないのさ。だれが皇帝でもいいんだよ。みんな違わないんだから」


 「そう腐るなよ、滋。隣には戦火がいて、下からはぼくが支える。約束じゃないか」


 幼い頃の約束まで持ち出されると、驟雨もさすがに笑顔を見せた。だが、すぐに考えが不安な方向へ行くのか、下を向いて小さな声で言葉を返す。


 「…そう、なんだよ。そうなんだ。俺にはまだその約束がある。支えがある。でも姉様は違うんだぜ?城に閉じ込められて作法とか教えられてたせいで、俺みたいに友達も心の中さらけ出せる場所もない。東雲しののめ高貴こうきだって結局明津様の騎士だし、東雲高貴から姉様の騎士になろうって言ったこともない。あくまで補佐官なんだ。姉様が心配だよ、俺は」


 「滋…。そうですわ、滋が支えになってあげてください。お義姉様も弟である滋になら心の内をお話しできるはずですもの」


 俺が…、と呟いていた驟雨だが、茂と戦火の心配そうな視線にやっと気づき、顔に笑みを張り付かせて、わざと大きな声を出す。そして茂も驟雨の気遣いに気づいたので、今はその気遣いに乗っておくことにしておいた。


 「うわー!戦火いい子すぐるっ!ぺろぺろしたいっ!」


 「滋。抑えて。真剣に抑えて。それ結構大声で言うとヤバイから」


 「さすが俺の嫁!まじ戦火かわいいっ、ハァハァ」


 「滋っ!往来の場所では自重しろって!」


 「てへぺろ!あぁもぉまじ俺の嫁ぇぇぇぇ!」


 「戦火!滋殴って!もうそれしか収める方法がないっ!」


 「では」


 「「武器はしまって!」あげてぇ!」


 仲良く声をそろえて突っ込み、お互い顔を見合わせ笑う。ここまでがこの三人の「いつも」である。

 が、今回はそれ以上の話ができるようすではなかった。三人の笑いが落ち着いた辺りで、後ろから東雲高貴の咳払いが聞こえたからである。三人とも東雲の姿を認めたところで動きを止める。驟雨に限ってはあちゃーと呟いたぐらいだ。


 「驟雨様。城では騒ぎになっていますよ。早くお戻りください」


 「な、なんでばれたんだ!変装してるってのに!」


 「闘技のお嬢さんと哀歌茂の坊ちゃんと楽しくお話なさる姿を見れば、事情を知るものなら誰だってわかります。まさかと思ってナイトギルドを尋ねようとしていたところなのですよ?ご自分の立場を自覚なさってください」


 東雲に見つかった時点で驟雨も粘るつもりはないのか、落胆した様子はみせたものの、抵抗するような素振りは見せなかった。くるりと二人を振り返り、今日は帰る、と淡々と言い放つ。


 「はぁ…。茂、戦火、またな。俺は帰るわ。あんまり心配させちゃ姉様に悪いし」


 「今度は呼んでくれたらぼくたちが城へ行くよ。と言っても登城許可を持ってるのは戦火だけだけど」


 「茂と戦火なら俺が許す!じゃ、また今度な」


 「ではまたお会いしましょう、驟雨様」


 「おうっ」


 驟雨が振る手に茂は手を振り返し、戦火は深々と頭をさげ、それぞれ別れを告げた。

 どこに居ても傍観者に回ることしかできない東雲が、今回ばかりは温かな笑みを浮かべていたことが、この三人の未来が明るくなる証拠なのかもしれない。




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