034
この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます
これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます
ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります
「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません
なお、著作権は放棄しておりません
無断転載・無断引用等はやめてください
以上の点をご理解の上、お読みください
第二回戦はトーナメント式。AパートとBパートに別れ、ナイトギルドの三組は連夜・キセト以外がAパートということになった。
第二回戦というより最終トーナメントというべきだろう。予想外の出来事により、参加者が初戦で激減し、二回戦に最終トーナメントを持ってくる形となったらしい。
ナイトギルド三組のうち一番早く試合に当たったのは松本姉妹だった。相手は初戦のとき、戦火を追い詰めた男たちのようで、兄の前川前陽、弟の後陽というらしい。
初戦は出来るだけ戦闘を避けていたので、殆どのものが松本姉妹の戦闘を初めて見る。反対に前川たちの戦闘は戦火たちにも聞いていたし、映像としても見ることができた。卑劣だが確実な方法。そのあたりが逆に瑠砺花たちには好意を与えていたのだが。
「何をしても勝とう。とか思ってる人達に限って自分達は正当法でしか使われることはないとか思ってるのだよ。だから、私たちは好意を持って狡くあしらう。おっけーなのだよ?リーちゃん」
「了解なのですぅー、ルー姉」
第二回戦の事前に公開されたルールは二つ。
一つ目は敗北条件。リタイア条件は腕輪を破壊される、または自分ではずすこと。チームの二人がリタイアすると負け。一人でも残ればいいということ。
二つ目はフィールド。初戦の魔空間を片方だけ使うということらしい。つまり二つあった魔空間で、同時に二試合行われることになる。
初戦の要素も残っておりチームは早く合流すればするほど戦いも楽になる。初戦よりは出される場所も考慮されるらしい。松本姉妹の戦闘スタイルとして一刻も早い合流を目指したいところだ。
「じゃ、リーちゃん。合流はリーちゃんに任せるのだよ」
「任せてくださいなのですよぉ!」
最後に一言かけて、試合開始の合図と共にそれぞれ別の場所に転送される。瑠砺花が転送された場所はちょうど前川の死角になっている場所だったらしく、近い場所に出たにもかかわらず、相手は気づいていないようだ。
「さてとっ!『合流していない松本姉妹なんて軽いもんだぜ』なーんて思ってるのだよ?」
相手が油断してるのなら思いっきりその隙をつけばいい。送られた直後だから油断していました、なんて素人のいいわけだ。それこそ茂のような。
突然、前川の後ろから現れた瑠砺花は、前川が対処するまえに話せるだけ話す。どこまで聞こえていたかはわからないけれど。
「さてはて。一対一?それはいいのだよ。きっと私がボッロボロに負けてリーちゃんも負ける?そんなことにはならないのだよーん。ふふっ、舐めてる君に氷漬けのプ・レ・ゼ・ン・ト」
虚をついて、即座に得意の氷魔法相手の動きを封じる。氷が完全に実体化し、前川の動きを封じたのを確かめてから、瑠砺花はゆっくりと氷の中を眺められる位置へ移動した。
中の男はわけもわからないまま凍りついている。
「さーて。私はこのあとどうするべきなのだよっん?」
氷は溶けるものだ。瑠砺花の魔力では、いくら魔力の結晶で補強したとしても永遠に溶けない氷は作れない。
今の氷も、出たところにすぐ前川がいたから即興で省略形コードで作ったもので、恐らく試合が終わるまでには溶ける。
「んー。リングも一緒に凍らせちゃったのだよ。氷を解いたら一対一じゃ負けちゃうのだしぃー」
冷静にみなくても実力差なんてハッキリしている。松本姉妹は二人揃ったからこそ発揮される連携プレイが強いと自覚していた。だからこそ一対一など冗談でもしてはいけない。
「だからこそ一対一に持っていくのだけれどー」
自分の考えに自分で訂正を入れて、瑠砺花は氷を軽く叩く。驚愕の表情のまま固まっている前川を見て馬鹿にした笑みを浮かべた。近くに出たとしてもこちらから接近して攻撃して来るなど考えてもいなかったのだろう。相手の虚を突くことは、戦いにおいても心理戦においても心地いいものだと、再確認する。
そんなことで思わず笑ってしまうほど喜ぶのだから狂っていると言われるのだが、本人にその自覚はない。
「んー、合流は簡単というか、ちゃーんと対策しているのだけどぉー。合流しても負けるかもの相手なのだしぃー」
戦いの途中ということを思い出し、笑顔を消してあたりを見渡す。特に仲間も敵も氷漬けの彼以外、気配すらない。
冷静に考えて。二対二で、連携プレイを最大に活かせるエリアで、今までで一番の連携プレイができたとして、それでも勝てない可能性が高い。
戦火たちから聞いただけでは物足りないと感じた松本姉妹は、前川たちについて調べた。ギルドには所属していないので軍の規律にも縛られず、且、哀歌茂商業にツテがあるらしく高性能の武器を持っている。武器の特性に合わせた戦闘スタイルを確立し、腕の立つ賞金稼ぎとしてその世界では有名だとか。それも今回のバトルフェスティバルには兄弟で参加しているらしい。
少し調べただけでそこまで出てきた。その時点でまともに戦っては勝てないと姉妹そろって悟ったのだ。
「さて、リーちゃん。いるのだよ?」
先ほどまで気配もしなかった妹を呼んでみる。
返事など期待していなかったのだが、姉に呼ばれれば必ず答えるのが瑠莉花という妹だ。
「もっちろん!ルー姉。そっこーでルー姉のところのきたのですよぉ!」
ないはずの返事がしっかりと返ってきた。
瑠莉花がにっこり笑う。答えるように瑠砺花もにっこり笑った。
「ふふっ、さすがリーちゃん。私を探し出すことにおいて、リーちゃんほどすばらしい人はいないのだよ」
「だってルー姉が中心なのですよ?私としては世界の中心に向かって歩けばいいだけなのですから!」
初戦のときにも同じようなことを聞いたが、瑠砺花には理解できないことだ。
ただ妹が自分を必要としているということだけが伝わってくる。それで十分だと言ってきたのは自分自身なのだと言い聞かせることで、追求したい気持ちを抑えていた。
「リングはまた後で、なのだよ。もう一人はどこにいるのだよ?」
「知らないのですぅ~。まっ、このあたりで負けちゃうほうが妥当なのですよ。どうするのです?」
「違和感がないようにするべきなのだよ。何せ私たちはレー君と違って注目なんてされるわけにはいかないのだから」
「それは確かになのですぅ!目立ってしまったらどうしましょうなのですっ!」
「こっちがお兄ちゃんなのだよ?じゃ、弟君を探すのだよ!見つけ出して、痛いことされる前にちゃっちゃと負けるのだよ!」
「おー!なのですぅ~」
不誠実な目標を立てたところで、松本姉妹がそろって再びにっこり笑う。
こんな本気な人しかいない場所に松本姉妹の不誠実さは不釣合いだ。それを自覚している姉妹は優勝する気などさらさらない。それより自分たちが痛手を負う前にさっさと負けて目立たず過ごそうと思っているだけだ。それが、松本姉妹にとっての「勝利」の他ならないのである。
「戦闘になると面倒なのだよ」
「でもここでリタイア宣言もおかしいのですぅ。ただでさえ『ナイトギルド』って言うだけで疑われるのですよ?」
瑠莉花が言うとおりでもある、と瑠砺花も黙って頷く。
連夜の暴走とも言うべき暴挙のせいで、ナイトギルドというただでさえ悪目立ちするギルドは、注意を通り越して警戒されているのだ。そのナイトギルドの隊員である二人が理由もなしに突然リタイアすれば、何かあると疑う人物だって出てくるだろう、という二人の予測。
「うぅーむ。ちょっとだけ本気で戦ってみるのだよ? それで悟ったように見せてリタイア。それでどうなのだよ?」
「ルー姉に被害がなければ私はいいのですよぉ。どうせ、優勝はレー様とキー様がもらっていくのですから。あぁ、そういえばなのですけれど、私たちが前川たん様たちに負けると、次に当たるのは戦火様とシゲシゲ様たちなのですよ。勝てると思うのです?」
「戦火ちゃんたちに当たる前にあのフード組に当たるのだよ。それを忘れちゃだめなのだよ。私はあのフード組、何かあるきがしてならないのだよ。シゲシゲたんに話を聞こうとは思ってたのだけど、結局聞けずじまいなのだし。わからないものは警戒しておいても損はないのだよ」
バトルフェスティバルでは当たらないかもしれないが、人生ではどうだろう。
常に瑠砺花の考えはそこにいく。せっかくここで、敵対する前に存在を知れたのだから、人生のどこかで会ったときに虚をつけるレベルまで警戒しておいても損はない。
キセトや連夜というように、必ず敵対するとは限らないらしいが。
「…まっ、私たちとは当たらないのですけれどねぇ!そもそも戦火様たちはともかく、そのフード組が勝ち上がってくるのかもわかりませんのですしぃ」
「まっ、そうなのだけれどねっ!当たらないけど警戒するのだよ!それに私の直感が言っているのだから!」
「直感、なのですか?」
「そうなのだよ。『あいつら、嫌い』っていう直感。レー君の勘より確かな直感!そもそもここで負けようってのも、私にしてみればあのフード組と当たりたくないからなのだよ。嫌な予感がするというよりも、誰かの秘密を話してしまいそうだと思うのだよ。私たちに被害が出るのではなく、誰かに被害を出してしまう。そう思ったからなのだよ?」
なるほど、と表では納得したように見せておいて、瑠莉花は内心では首をかしげていた。自分も含め、松本姉妹と括られて呼ばれるようになってからは、他人に被害を出しても仕方がないじゃないか、という我侭を通してきたはずなのに。
いまさら姉が変わってしまったのか。なら姉が変わったというのに変わっていない自分は取り残されたのではないか。姉は、私を、取り残そうとしているのではないのか…。
「ルー姉…?」
「ん?どうしたのだよ?」
「…。別にぃーっ!なのですぅ。なんでもないのですよぉ」
「そうなのだよ?じゃ、手っ取り早く今回はリタイアに向けて、ゴー!!」
「オォッー!」
仲の良い姉妹二人は元気よくこぶしを突き上げたから、軽快な足取りで走り出した。
この戦いの結末など知らず。