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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
バトルフェスティバル編
37/90

033

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください


 「帰りたーい。帰りたーい」


 「まぁまぁ、これも付き合いのうちだ」


 「うわー静葉しずはたんからメールだぁ!『寿司なくなったよぉ』だってよぉ!オレの寿司がぁ!大体付き合いとかキセトでいいだろぉ!オレも帰りたーい、帰りたーい、あったかホームが待っているっ」


 「音痴が歌うな。耳障りだろう?」


 「ひでぇ!冷夏れいか嬢がひどすぎてショック受けた!寝てくる!」


 「まーてまて。帰ろうとするな。お前のために準備された高級品たちをおいて帰るな。寿司ぐらいあるだろう」


 管理塔の大会議場に広げられた食べ物という食べ物。確かに端のほうに寿司もあるが、連夜れんやとしてはこの会場の空気自体が嫌なので、食べ物がどうこうという問題ではない。隣に夏樹なつきがいなければ、会場自体寄らずにナイトギルド本部に帰ったに違いない。

 そもそも連夜は愛想を振りまくだけのような付き合いは苦手なのだ。ご飯を用意されて、用意されたご飯を食べたら言うこと聞けなんていわれても、なんでだよ、と思ってしまうのである。

 結局目の前にあるおいしそうなものも一切口に出来ず、いらいらしていた。


 「帰りたい。冷夏嬢つないでおいてくれよ。おとなしくしろとかいうなら無理だから。帰らせろよ、腹減ったんだよ」


 「ここで食べればいいだろう。何度も言うがこれはお前のために準備されたものだ。お前が食べないで誰が食べるんだ?」


 「ギルドの寿司ももうねーし!あぁうぅー、腹減ったぁ!ただで食わせろぉ!後ろでこうしてくださいああしてくださいとかなしで!そんな面倒事はキセト担当だっつーにぃ!!オレは飯食って自由に行動して気ままに過ごす担当!」


 「なんだその担当は…」


 喚く連夜の近くには夏樹以外近寄ろうともしなかったのだが、途中で大会議場に入ってきた影は一直線に連夜の元へやってきた。


 「暴れているようだね」


 「なっ、し、東雲しののめ隊長っ!?」


 「あーしのののののー」


 「バカ連夜!相手を誰だと思っているんだ!東雲高貴こうき殿だぞ!」


 「しのののめ?しののめ?しのめ?」


 「しののめ、だよ。それは冗談だろう?相変わらずだね」


 「…まっ、東雲さんに注意されたとしてもオレは変わらないけど、それでいいなら話ぐらい聞くけど。あんたは馬鹿馬鹿しい話をしにきたわけじゃないんだろ?」


 第一番隊隊長に対しても傲慢な態度を崩さない連夜に、夏樹は関わらないほうが良いと判断して黙り込む。東雲もそれを感じ取って夏樹と反対側の連夜の隣り合う席に腰を下ろした。


 「フードの二人組みのペアを見ただろうか」


 「あー、いたな。確かにいた。オレは直接見てはいねーけど。たしかしげるが結構会話してたらしいぜ?あんまりゆっくり話してねーから詳細は聞けてねーけどな」


 「あの二人組のうち、どちらかが黒髪だという通報があってね。参加者で直接彼らを見ただろう人たちに話を聞いているんだよ」


 「ふーん。でも黒髪でもいいじゃねーか。大会の規定って『病を患っていない、または日常生活に害がでるほどの傷を負っていない人間』だろ?北の森の民が参加不可なんてどこにもない」


 「そう思うのは一部だよ。それに羅沙らすなではあおい人はともかく、不知火しらぬい人は『人外の悪魔』『北の森の悪魔』だからね。人間という定義に当てはめられるか怪しいところだ」


 「あーさいですか。案外あんたのことなんだから、その黒髪が誰か、黒髪ではないほうは誰か、知ってるんだろ?ただあんたの立場上、捜査なんてしてるだけで、個人としてはとっくに知っている、とオレは見た」


 「……それは勘というやつかな?」


 「まーなー」


 「そうか。君の勘はよく当たると聞いていたけれど、本当のようだね」


 東雲から見ると、連夜の奥に夏樹の驚きの表情が見える。連夜は自分の前にあるご馳走をまっすぐに見つめていて、こちらを見る気など一切なさそうだったが。

 東雲は連夜の肩を軽くたたき会場の外を指差す。連夜もこの愛想を尽くすだけの場に飽き飽きしていたので素直に応じた。


 「で、わざわざ廊下まで出て何話すんだ?」


 「明津あくつ様がえる様が亡くなったことを知った。あと焔火ほむらび君の居場所もわかっているようだったよ」


 「お口が軽いこって…」


 東雲高貴らしくない口の軽さだ。その口の軽さと目の前にあったご馳走が連夜の中で重なる。言葉もないというのに何か意味するという、連夜からしたら面倒すぎることだ。

 連夜が嫌な顔をしたせいか、東雲高貴は苦笑しながら簡単に目的を明かした。


 「尋ねたいことがあってね。人に尋ねるのならこちらの情報は素直に打ち明ける。セオリーではないけれど、君と話すに当たって、一番君にあった方法だと私は思っているよ。君から何か聞きだすのならこの方法がいい。それ君は私と違って他人に何もかも話すことなんてないだろう?意外に口は固いじゃないか」


 「意外には必要ないだろ。まっ、聞きたいことがあるなら聞きたいことがあるって言ってくれればいいんだ。気分で答えてやるよ」


 「それより私が言いたかったことは通じているかな?」


 「…。明津ってやつはこの帝都にいて、あんたに会いにきた。んで、鐫様がどうこうってのは城に来たってことか?んん?それは行きすぎか?まっいいけど。んでキセトの居場所なんて最近でわかりやすいのはバトルフェスティバルだろ?話の流れ的にフード野郎が明津、と。あとついでに黒髪は奥さんか?いやぁ~、年寄りががんばるねぇ」


 「話が早くて助かるよ。一つ尋ねるよ?いいかい?」


 「まぁどうせキセト関係だろ?どうぞどうぞ」


 「焔火君は明津様に会う気はあるのかな?」


 「気はあるだろ。あいつからしたら生まれて二十四年、会いたくても会えなかった両親なんだし。ただ機会ってのは大切にしてるみたいだな。突然ギルドにきてハイコンニチハってわけにはいかないってわけだ」


 「…」


 明津に何か頼まれたのか東雲が意味ありげに黙り込む。連夜は明津という人物を知らないのであまり強く言えないが、羅沙皇族という称号にいい印象がないのは確かなのだ。

 友人が不愉快に思うことを今、目の前にいる神様の騎士は考えているのではないか、と考え念を押しておくことにした。


 「言っとくけど、オレはキセトか明津かって言われたらキセトなんだ。あんたはその選択肢なら明津だろ?その差は絶対だし埋まらない。オレが友達なのはキセトで、あんたが忠誠を誓ったのは明津。その差だけはわかっといてくれよ」


 「そうだね。その差だけは埋まらないよ。そして埋まってしまったとしても、不愉快なことだ」


 「難しいことはわかんねーけどな。じゃ、そんなわけで帰るわ。あの会場帰るつもりなんてねーし?」


 「焔火君にもよろしくね」


 「へいへーい」


 連夜がそそくさと逃げていくのを見届けて、東雲も会場へ戻るような気にはならず壁にゆっくりともたれかかって一息ついた。

 二十四年も過ぎて再び忠誠を誓った彼に会えるとは思っていなかった。そしてそれだけではなく、彼は面倒事まで一緒に持ってくるのだから困ったものだと思う。


 「いや、違うか。二十四年前に片付けるべきだった面倒事を、あの人は一人で抱えてくれていただけか」


 二十四年前、すでに明津が愛したあの女性は子供を身ごもっていたのだから、今でも昔でも、この問題が存在していたことは変わりない。

 ただ、今と昔が違うことはその子供が成長し、自らの考えを持って行動しているということだ。そして自分と似たような環境のお友達まで連れて、その強靭な強さというものを発揮しようとしている。


 「そうか、もう明津様も四十四か。焔火君が二十代なのだからそれも当然か…。ずいぶん時間が経ったな」


 いくら時間が経とうと、この羅沙という国の国民が羅沙明津というただの人を神様扱いしていることに変わりはないのだ。そしてそんな神様が国民の心に存在する限り、一部の人間が抱え込む問題は解決されない。

 変えることを諦めて国を去った神と、変えるために苦行しかまっていないこの国へやってきた神の子と。

 過ぎた時間がこの問題にどのような変化をもたらしたのか、東雲というたった一人の人間にはわかるはずもないことだった。



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