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この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます
これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます
ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります
「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません
なお、著作権は放棄しておりません
無断転載・無断引用等はやめてください
以上の点をご理解の上、お読みください
『さーーー!始まりました!記念すべき第一回バトルフェスティバル!!参加者総勢二百人、百チームとなっております!この中で数多くの優勝品と皇帝陛下への謁見の権利を得る光栄なチームはどこになるのでしょうかぁ!』
待機室までに響く司会の声と観客の歓声。
待機室は二つ用意されていて、チームの二人それぞれが別の待機室へと案内された。その時点ですでに第一試合が始まっているという案内人の謎の言葉に、参加者たちもかなり気がたっている。誰もがそれぞれの武器の手入れをしつつも隣、前、後ろの人物を観察している状態だ。
その中で何の武器も持たず、さらに動きにくいスーツ―しかも黒色の―を着ているキセトは多くの視線を集めていた。同じ部屋にいた瑠莉花が近づきにくいと思ったほどである。実際同じ部屋にいたはずの茂は話しかけてこなかった。
「き、キー様?せめてジャージとかないのです~?」
「ない。連夜に借りても良かったんだが、そこまでする必要も無いだろう」
「ぶ、武器もないのですぅ?」
「途中で誰かから奪えばいいだろう。わざわざ使い慣らしたものを持ち込む気はない。それに俺が戦うことにはならないよう、連夜には言っておいたからな」
「そうなのですかぁ…」
武器を持っていないスーツ姿のキセトは例外として、もちろん瑠莉花も普段は持ち歩かない武器を準備してきている。瑠莉花は背中に隠せる大きさではない弓を持っていた。ただの弓だが、瑠莉花独特の魔法によって威力は拳銃にも劣らない。それなら拳銃を使えばいいとキセトがアドバイスしたこともあったが、瑠莉花は特に鍛えているわけでもないので銃の反動を考えると弓のほうがいいらしい。
服装はいつも通りだがキセトよりは準備しているといっていいはずだ。
『皆さんお待たせしました!これより第一回戦の説明を行います!第一回戦は参加者全員によるバトルロワイヤル!魔空間にそれぞれ別の場所から入ったパートナーを探しつつ、ライバルと戦うのです!脱落者百名の時点でブザーがなります!ブザーが鳴った時点でパートナーと一緒に行動していない人も脱落となりますのでご注意を!
脱落の条件は三つ!自らの辞退意思を表明すること。これは皆さんにお配りした右手につけていただいているリングをはずすことによって証明されます!二つ目は誰かにそのリングをはずされた、もしくは破壊された場合。三つ目は魔空間に備えられた罠にかかってしまった場合です。罠による接触をリングが認めた場合、即失格となります!』
「これだとチームの一人でも倒せばそのチームは終了ってわけか。簡単に降参なんてしたら仲間割れのもとだな」
「そんなのも許せない人たちを仲間なんていわないのですぅ。こんな大会で命まで懸ける必要がある大馬鹿者はキー様たちぐらいなのですよ」
「大馬鹿者か」
「大馬鹿者なのです」
キセトが淡く笑う。その瞬間瑠莉花がキセトの頬を思いっきり引っ張った。
「ふぇっ!?何するんだ!」
「い、今…、笑えてたのですよ?すっごく優しい笑みだったのですよ?ホンモノのキーせまっ!じゃなくてキー様!?キーたんまた笑ってェェェ!!!」
「おい!頬を引っ張るな!あとキャラ壊れてるぞ」
「おっとと…、と、とりあえず今みたいに笑うととってもチャーミーなのですよ。もう一回みたいのですぅー」
「……また今度な」
「あっ、挑戦したけど失敗した!今失敗したのです?」
「うるさい!一回戦に集中しろ!」
「あーごまかしたー!」
耳を塞ぎたいのをぐっと堪え、控え室を出ようと立ち上がる。五分で帰ってこないと不戦勝ですよと注意を受けて廊下に出た。
行くあてもなく廊下を歩いていると向かい側から見慣れた人物が部下らしき人と歩いてくるのが確認できた。部下の前で声をあまり親しいと思われても相手に迷惑だろうので、キセトは軽く頭を下げる程度ですれ違う。が、すれ違ってから相手がキセトが誰か理解したのか戻ってきてまでキセトに声をかけてきた。
「焔火君」
「お久しぶりです、東雲さん」
「参加するんだね」
「えぇ。実は連夜が動き出そうと言い出しましたから。ですが何か企んでいるかと聞かれるとさすがに少し寂しいですよ」
動き出すという単語に東雲高貴の部下が敏感に反応したので、キセトが言葉を付け加える。だが付け加えられた寂しいという言葉に東雲は不思議そうに尋ねた。
「『寂しい』なんて焔火君は変わったね」
「…そうでしょうか。昔からの知り合いにいは変わっていないと言われたのですが」
そうだ。確かに篠塚晶哉はキセトのことを変わっていないと言った。あれからそう時間がたったわけでもない。四年以上会っていない相手に変わっていないと言われ、一ヶ月に数回会う相手には変わったと言われるとは矛盾しているではないか。
「根本は変わっていないね。人と話しているのに相手の目を見ないあたりなんて全く変わっていないよ」
「すみません…」
「いや、ぼくは気にしない。不快に思う人がいるのも事実だけれど。それで君が変わったと思うところだけど、感じるようになったんだと思うよ。変わらないのは自己犠牲精神だ。変わったのは寂しい・嬉しいなどの感情を持つようになったところだよ」
「自己犠牲のつもりはありません。ただ羅沙にいるのに黒髪を貫くのがいけないだけです。黒髪でいるのは俺のわがままなのに不快に思われていることに文句なんて言えないでしょう。嫌なら髪を染めればいいのですから」
「…………。そろそろ時間だよ。戻ったほうがいい」
「そうですね。では失礼します」
深々とお辞儀をしてから東雲たちと再びすれ違って待機室へ戻ろうとしたキセトだが、東雲が片手でそれを制した。戻れといわれた身としてキセトも困惑の表情を東雲に向ける。
「『動き出した』のは君たちだけだね?」
「俺の知る限りは俺たちだけです。いえ、連夜だけと言ってもいいでしょう」
「そうか、引き止めて悪かった」
「いえ、では本当にこれで失礼します」
キセトがもう一度礼をして今度は本当に待機室へ戻る。その背中を部下と揃って東雲たちが見送る。すぐ近くの待機室にキセトが入ったのを見届けた瞬間、部下が緊張が解けたように息を大きく吐いた。
「東雲隊長はさすがッスね…。おれ、あの黒髪見てたら呼吸もできないッスよ」
「彼はいい子だよ?見た目で判断しないほうがいい」
「いい子? 北の森の民がですか? 先代が認める特例だから帝都に住めるだけで、あの黒髪と銀髪って本当に北の森の民なんッスよね?北 の森なんて悪魔ばっかりだと教えられたんッス」
「言ってるといいよ。未来で腰が抜けるほど驚くのは君だけじゃないだろうから」
「えっ、どういうことッスか?」
「さぁ、ぼくたちも見回りへ戻ろう」
部下の追及を誤魔化して東雲が先に進みだす。
必要もない見回りに第一番隊隊長である東雲自身が乗り気だったことが不思議だった部下は、話題を変えることにした。
「隊長自ら見回りをしてるのってまさかあの黒髪に会うためだったんッスか?」
「それもあるね」
「えっ、えぇぇぇぇ!!」
「うるさいよ。ほら、早くくるんだ」
キセトにした質問の答えを頭の中で繰り返す。決してキセトたち以外は動いていない。動いていても彼らが意識するところではない。それを聞いて安心している自分がいることに東雲は気づいていない。
思えばこの質問を繰り出したのは東雲高貴の勘だったのだ。この大会で多くの人物が自分の人生を賭けようとしていると。
『では一回戦スタートぉぉぉ!!』
司会者の合図と共に魔空間に参加者が送り込まれる。
頭上を見上げると四方向に向かって設置されている大画面と、辺りに浮く木の実のようなカメラ。魔法に依存する傾向がある現代では物珍しいほど機械に頼った設備だ。
頭上の大画面に地図が表示させる。どうやら魔空間は二個あり、パートナーはそれぞれ別の魔空間に飛ばされているらしい。二個の魔空間を繋ぐゲートを探すことが前半の目的となりそうだ。
「周りに人はいないようだな」
そう呟くキセトの周りにはすでに三人ほど地面に転がっていた。
参加者の中ではたった二人しかいない非戦闘員のキセトを初めから狙っていたのだ。そして始まってすぐ近くに出た三人は相談することもなく一番にキセトを狙ってきた。キセトはそれを受け流すように裁いておいたら、なぜか三人とも転がっているのだ。
実際は無意識のうちに裁くと同時に軽く急所に手刀を叩き込んだからなのだが、キセトは自分のことながら気づいていない。大体本人には相手を傷つける気は全く無い。
「始まって五分もしないうちにリタイアさせても目立つだろうな。リングは残しておくとして、ゲート探しか」
頭上の画面を見上げ、紹介されている五つのゲートを見る。もちろん場所などは明かされないが背景などで大体の場所はつかめる。キセトが送り出された草原エリアから見える森林の中にも一つあるようだが。
「連夜がリタイアするとは思えないよな。あいつをこっちで待つのもありか」
下手にゲートを探して人と遭遇するのも厄介だ。それにすれ違いになるともっと厄介である。キセトは三人を移動させて自分は最初の場所に居座ることにした。
一方連夜は控え室に居たときからとりあえず周りを挑発していた。どうせなら一回戦でできるだけ人数を減らしておきたいのである。バトルロワイヤル形式というのは目立たずに動けるからだ。
「あーあ、オレやになっちまうぜ。全員が全員、ここにいる奴等一人残らず、というか参加してなくても参加してても、馬鹿みたいによわっちぃ奴ばっかりじゃねーか。外見もなんか軟弱そうなの多いしもうオレが優勝でいいだろこれ」
外見に関しては連夜より屈強そうな者のほうが多い。さすがに女性やキセトほどではないが連夜も戦闘種に混じれば十分線が細いほうだ。筋肉の塊というような体をしているファイターなどと比べれば誰もが貧相だと思うだろう。実際に細身の筋肉質というのには限界がある。
そんな外見が貧相で、非戦闘種登録されている連夜にここまで馬鹿にされて、いちいち逆ギレなどはしないにしても参加者たちは心地いい気分ではなかった。
「レー君、それわざとなのだよ?」
「んー?わざとってか事実だろ。軟弱軟弱。もう触ったら死ぬんじゃねーの?そっとガラスみたいに扱ったほうがいいんじゃねーの?いや、マジで。こんな大会出て大丈夫か?っていう奴ばっかりじゃねーか」
「つまりわざとなのだよ」
「まぁそうだな。わざとだよ」
「ばっかみたいなのだよー。自分から敵作ったりして。大馬鹿ー」
「どうせ馬鹿だよーだ。って大がつくのか。そういえば前に冷夏嬢にも大馬鹿って言われた気がする…。ただの馬鹿じゃなくて大馬鹿か」
「認めたのだよ。大バーカ」
「うっせー」
瑠莉花とキセトと同じような会話をしてお互い話題が尽きる。他人を考えない連夜はともかく、おしゃべり好きな瑠砺花としてはこの沈黙がかなりきつい。必死に話題を探そうとして結局何も思いつかず黙り込むしかなかった。
暫く黙っていても連夜は何も話し出さず、ろくな話題も無い瑠砺花も黙り、なんとなく部屋全体が静かになったと思ったとき、下品な声と連夜にも聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お嬢ちゃんの髪ってそれホンモノ?お嬢ちゃんのホンモノの貴族なのかい?」
「そうですが、あなたにそんなことを聞かれる必要がございませんわ。貴族でしたらここに居てはいけないといいますの?」
「そんなことないよー。むしろ大会なんてやめておじさんとお茶でもしない?下町ならではのいい店知ってるよー」
「ありえません」
会話全部が聞こえてくる。むしろ何もアクシデントが無かった待機室の中で、全員がこの会話に耳を傾けていることだろう。瑠砺花はあからさまに不快な顔をしあと少しで始まるというのに待機室を出て行く。連夜は瑠砺花を追いかけるでもなく戦火を助けるでもなくじっと会話を聞いていた。
「そうですね、この大会で優勝なさったら一緒にお茶へ行きましょう。もちろん私一人では行きませんけれど。きっと無理でしょうから、約束できますわ」
「へぇー貴族の方がそんな事言っていいのかなー?」
「自信がありますの。あなたは絶対に優勝なんてできません」
戦火がにっこり笑い手を相手の顔に添える。傍目からも相手の鼓動音が聞こえてきそうなほど相手が真っ赤になったが、それを確認できたのは一瞬だった。
戦火が、貴族特有の炎系上級魔法を手のひらの中で発動させていたからである。相手の顔は半分ほど火に包まれたがすぐに消える。明らかに戦火の調節であり手加減だ。
「貴族が戦えないのではございませんわ。弱いものが戦えないのです、あなたのように」
「ひ、ひぃぃ!」
「貴族という地位名一つで侮らないでください。私は負けるつもりは在りません。貴族として生まれた者として、誇り高く、美麗に、鮮やかに、勝利してみせましょう」
純真無垢の笑みと特異の光沢を放つ戦火の武器である槍が、連夜側の待機室にいた全員の目に焼きついた事だろう。間違っても貴族=軟弱という世間の常識を鵜呑みにするような馬鹿は消えたはずだ。
『では一回戦スタートぉぉぉ!!』
空気が凍り付いている中、司会の合図と共に控え室ではない光景の中に送り込まれた。連夜の周りには五人。思ったよりも多い。魔空間自体が連夜の思っていたより小さいのかもしれない。
「はっ、非戦闘種がいるぜ。さっきは調子乗ってたけどいざ戦いの場になったら怖くて逃げ出すんじゃねーの?」
「言えてるぜっ!ほらほら、逃げないのかボーヤ」
「…」
周りの声を無視して頭上の画面を見る。五つのゲートが順に映し出されて、連夜が出た廃墟エリアの中にも一つゲートが映し出されている。
「近いみたいだな。よし、うざいのはここで片付ける。挑発は十分してやっただろ。かかってこいよ、弱虫野郎ども」
「コイツ…、怪我してもしらねーぜ!!」
「調子にのんじゃねーよっ!!」
それなりの決め台詞、と言うより思いっきりかませ犬の台詞を言っているのに気づいていないのか?と思いつつ、やはりここは決めるべきだろうなんていうテキトウな考えにより、連夜は襲ってきた二人を一瞬で地面に沈める。
残りの三人がいきなり地面に消え去った二人の影を探して辺りを見渡すのを見て、連夜は呆れのため息を漏らさずには居られなかった。幸い、カメラは連夜に注目しておらず頭上の画面に現在の様子が映る事はない。
「オレ、戦わないけど強いからさ?関わってくんな。目の前に現れたら削除するのみだからな。忠告したぞ、オレはちゃんと忠告した。まったく、優しくなったもんだぜ。敵に忠告なんてしてよ。忠告無視したら殺すから。今だってオレ的には一生懸命手加減してるんだからな?コレ以上力抜けないってぐらい抜いてある。命が惜しいなら棄権でもなんなりしとけ。オレは、皇帝陛下に申し上げることがありすぎて困ってるぐらいなんだ。ちょこっとぐらいこの大会に勝手言わないと抱え込みすぎて暴れちまうぜ」
「ば、ばけもの…」
「そ、そうだ!北の森の化物めっ!」
「『化物』なんて言われなれてんだよ!いまさらそんな言葉でなんか感じろってのか!マジでいまさら過ぎてまたかぐらいしか感じねーよ!もっと語彙増やしてからこいやぁ!」
連夜はただの脅しのつもりで近く似合った瓦礫を動こうとしない三人に向かって蹴る。もちろん力加減はして。
「ひぃぃ!!」
だが運悪く一人の胴体に直撃してしまった。さすがに連夜も失敗したと思いつつそれは表に出さない。
「オレに近寄るんじゃねーよ!軟弱どもがっ!!」
地面に沈めた二人は無理だろうが、瓦礫が直撃した人物を含め無傷の三人が連夜の視界から消えたのを確認し、改めて連夜がゲートを探すためにのんびりと歩き出す。廃墟エリア自体がそう大きくないためか、少々大きめの屋敷跡のようなところですぐにゲートは見つかった。
「ちゃっちぃゲートだな。こんなんで本当に魔空間つなげられんのか?行き来してるだけで途切れたりしないだろうな。いや、それが狙いか?ゲートを通る人数も制限するつもりなのか?」
とりあえず連夜が通っている間に途切れると面倒だと考え、魔法で補強を入れてからゲートを通る。
もう一つの魔空間に出た瞬間、頭上の画面に連夜の顔が大きく写っているのが目に入った。そして共に司会の声が響き渡る。
『なんとーー!早速ゲート通過者が出てまいりました!ナイトギルド隊長峰本連夜ー!この大会でたった二人だけの非戦闘種の一人、峰本連夜がゲート通過ーー!パートナーは同じく非戦闘種、ナイトギルド副隊長焔火キセトだーー!』
小さく連夜が一番だったのか、と呟く。頭上の画面を見ると同じように画面を見上げるキセトの姿が映っていた。
相変わらず無気力でカメラを見上げる視線には何の感情も篭っていない。おそらく、最初の三人以外にも何度も襲われているのだろうが服に目立った乱れや汚れは無い。他人を傷つけたくないと願うキセトのことだろうから、避けるだけと心のうちでは呟きつつも無意識のうちに手が出ているに違いない。そんなこと連夜の知るところではないのだが。
「んー…。どうすっかなー?ちょっとぐらい暴れてもいいかなー。どうせもう目立っちまったし。なぁー?軟弱人間ども?」
ゲートを潜ってきた連夜に対して待っていたのは奇襲を狙っていた複数人の人影だった。何個かのチームで協力体制になっているのかもしれない。カメラも連夜に注目しているところだが、ここで暴れておいたほうが後々は楽かもしれないと、連夜はそんなことを考え始めていた。