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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
バトルフェスティバル編
29/90

025

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください


 キセトが突然暴れだすことも翌朝にはなくなった。れんの判断で昼前から人工呼吸器をはずした。

 それでも二時間ほど暴れないか、様子を見ていた蓮と連夜れんやだが、結局キセトはピクリとも動かなかったため、二人とも食事を取るために一旦食堂へ降りることにしたのだ。


 「あー疲れたー」


 「わー。首痣残ってるわよー?」


 「なっ、ちょっ!襟で隠れるよな!隠れないとかマジふざけるなよ!」


 「高襟の上着なんだから隠れるわよ。でも痣だけじゃなくて傷も出来てるし、チラッと見えただけでも結構気になるけどね」


 「うー…、あんまりキセトの件は外部に漏らしたくねーから傷も目立たないほうがいいんだけどな。信じられなくね?あいつ気ー失って暴れてるくせに魔法まで使ってくるんだぜ?部屋壊れなかったのは奇跡だな」


 ガーゼでは隠し切れないほど大きい痣や、静葉しずはに指摘された傷を手鏡で確認しながら連夜がぼやく。

 キセトが魔法を使って部屋が無事だということは連夜も魔法で対処して相殺させたということだろう。どうやらそのせいで自分の傷を治すほど魔力が残っていないらしい。


 「こんな原始的な手当て受けたの久しぶりだぜ。いっつも自分で治すか他人の治療魔法受けてたからな。蓮も蓮で、あの医療道具のせいで魔力空っぽだし…」


 古代と違い、魔法という制限はあるが便利なものを使える中で、消毒液などを一応置いているのは病院ぐらいのものだ。一ギルドの身で消毒液やガーゼが置いてあるのは珍しいことである。魔法なら跡形もなく治る傷が、原始的な治療ではくっきりと痕が残る。ガーゼ一枚をめくってしまえばそこに傷は残っているのだ。

 魔法になれたこの時代の人間たちにとって、それは想像しただけ顔をしかめてしまうような痛々しさ、脆さ、儚さを含んでいる。


 「でもこうやって傷が残ってるあたりを見ると殺せそうなのになぁー」


 連夜の傷を見つめていた静葉が小さく呟いた。その言葉に連夜は不満そうに応える。


 「なに物騒なこと呟いてるんだよ。オレもキセトも心臓貫いても死なないことぐらい、実行したお前が一番知ってるだろ」


 「分かってるけどー。やっぱり普通に傷負ったりしてるとこ見るとね。いつも無傷、絶対無敵!ぐらい言ってくれたら殺しても死なないって思えるけど…。はっきり言ってそうでもないじゃない?」


 「それはキセトが相手だからだ。あの力馬鹿、喉握りつぶされるかと思ったぜ」


 一見冗談のように聞こえるが、首に残る手形の痣が現実味を帯びさせていた。上着さえ着れば横からなどなら見えないが、前からなら少しだけ見えるだろうその痣は、見てるだけで痛々しい。

 その痛々しさに静葉が黙ってしまったが、入れ替わり立ち代り瑠砺花るれかが連夜に纏わり付く。

 連夜が怪我をしている事自体が珍しいので静葉以外にも連夜の周りには自然に人が集まるのだ。料理を作っている戦火せんかとそれを手伝っているしげる、そしていまだ帰っていないアーク以外がいるといってもいい。


 「あのなー。お前ら群がるな!蟻か!?蟻なのかっ!?」


 「ボロボロレー君にもはぐぅー!」


 「うぉおい!久しぶりにくっついて来たな、お前」


 「久しぶりなのだよー。だから暫くハグしてるのだよーだ」


 後ろから覆いかぶさるように抱き着いてきた瑠砺花も連夜は基本無視だ。瑠砺花がくっついてきたら自動的に瑠莉花るりかも付いてくるのだが、それも無視。


 「おい、勝手に服の中に手を入れるな、ドアホ」


 「レー君本当にボロボロなのだよー?傷だらけ」


 「分かってるつーの。いいかげんにしろー、セクハラで訴えるぞ」


 「むぅ、それは困るのだよ。仕方が無いから手は引っ込めるぅーのだよぉ」


 すっと手だけ引かれたが相変わらず連夜にくっついたままである。連夜も触られなければいいのかそこまで追求しなかった。

 そうやって連夜と他のギルド隊員が戯れていると、英霊えいれいが無言で連夜に近づき、服の裾を軽く引っ張った。


 「どうした?」


 「ぱ…、キセトさんは?」


 「キセトはそのうち起きるだろ」


 「根拠はあるのだよー?」


 「かーんー」


 「勘?連夜の勘ってあたりそうだけど…」


 「オレの勘なめるなよ。百発七十四中だぞ」


 「うわっ、微妙!」


 百発百中という四文字熟語をいじったのだろうが、数値的に普通より少し高いだけだ。全員が連夜に非難の視線を集中させ、さすがの連夜も少々気まずそうに視線に答える。


 「前にキセトに百発百中って言ったら訂正されたんだよ。四文字熟語覚えたんだぜーって絡んだらすごく冷静に、な」


 「その歳で百発百中覚えたって自慢されてもね…」


 「だからって計算までしなくてもいいだろ?しかも最初はししゃごにゅーしてない数字言うんだぜ。えぇっと…忘れたけど七十三.…忘れた」


 「うわー、キー様らしいのですぅ…」


 全員の中で連夜の細かい間違いを正すキセトの姿が思い出される。それぞれギルドに入って一番多く見てきたキセトの姿なので鮮明に脳内の浮かべることができた。

 キセトの姿を思い浮かべたからか、自分の席で食事を食べていた蓮が急いで食事を食べ終わり立ち上がる。


 「あっ、私キセトさんの部屋に戻りますね、食べ終わりましたし。まだ安心できないですから…」


 そそくさと食堂を出て行こうとする蓮を静葉が呼び止める。丸一日以上キセトの姿を見ていない静葉たちにしてみれば、落ち着いたのなら会いたいのだ。


 「私も行っていい?なんかキセトに会いたくなっちゃった」


 蓮が立ったのに続いて静葉が席を立つ。蓮は迷ったように連夜にチラチラと視線を送っていたが、小さな声で静葉に許可を与えた。キセトに会う許可をもらった静葉は本当に嬉しいのか純粋な笑みを浮かべる。

 その笑みを見て連夜が少し眉間にしわを寄せたが、それを見たものは食堂にいなかった。



 蓮と静葉がキセトの部屋に入ると、すでにキセトが上半身を起こし目覚めていた。寝起きが悪い人のように跳ねた髪も気にせず宙を見つめている。蓮と静葉が言葉を失って立ち呆け状態になっているのを見つけて、やっとキセトの視線の焦点が何もない宙ではなく物体に定まった。


 「なにか用事があるのか?そんなところで突っ立ってるな。用なら入れ。ないなら食堂なり私室になりに行――


 「キセトぉぉぉぉーーー!!」


 「キセトさぁぁぁーーーー」


 「うがっ!」


 突然二人分の体当たりを受けて、さすがのキセトもうめき声を上げてベッドに沈む。初めは戸惑っていたが二人の様子を見て、自分のどういう姿をさらしたのか徐々に思い出してきた。

 暫く心配してもらった幸せと目覚めただけで喜んでもらえる幸せをかみ締めていたキセトだったが、さすがに離れる気配が微塵もない二人にそっと話しかけた。


 「その…、そんなに今回は危なかったか?」


 「このまま死んじゃうかと思いました!」


 「っていうか死んじゃったんだと思ってたぁ!!」


 「す、素直だな…。お前ら」


 まだすがり付こうとする蓮と静葉を引き剥がし、なんとかベッドを出る。少しでも楽な服装をと考えてくれたのか、キセトが着ていたのは連夜のジャージの上下だった。キセト自身はジャージなど持っていないのだ。

 二人に連夜を呼ぶように伝言をまかせ、二人がいないうちに着替える。いつも通りの黒スーツの上下をきっちり着て、呼んだ連夜が来るのを溜まった仕事の書類を消費しながら待つ。


 「呼ばれて来てみてじゃじゃじゃじゃーん」


 「うるさい」


 「一蹴かよ!折角テンションの低いだろうキセト君のテンションを上げるためにネタ考えてみたのによー」


 「余計なお世話だ。それより相談があるんだが…」


 「あっ、キセトの相談の前にオレの決定事項からな。今度のバトルフェスティバルにオレとお前でエントリーしたから」


 「はぁ!?」


 連夜が言い放ったことはキセトが相談しようとしていたことの間逆を突いていた。

 いつ倒れてもおかしくない状態で目立ちたくないので、ギルド内の仕事や雑用に回りたいと言おうと考えていたのだ。だが連夜は逆に目立とうとしてるようにしか思えない案を言い放つ。


 「参加してどうしたい?お前なりの考えがあっての参加だろう?」


 「商品つーか勝者の権限としてさ、『皇帝との謁見』があるんだけどよ?それって勝者と皇帝だけじゃなくて、むしろ競技場で皇帝に対して発言権利が与えられる、って感じらしい。もちろん観客とか参加者が全員聞いてる中で。そんな状態はオレたちが希望してた通りだろ?一斉に多くの人の前で、しかもそれなりに権利のある人の前で事実を公に出来る状態。だからこの祭りでオレは、オレたちの両親の名を明かそうと思う」


 「それはこのギルドを破滅に追いやるって分かってるのか?ここにいるやつらが、ここを必要としなくなるまで待とう。そういう約束だっただろう」


 「まったく驚かないあたりお前らしいけど、決定事項だからな」


 キセトと連夜の間に帝都に来たときからあった約束と、ナイトギルド隊員が増えて出来た約束の二つがある。連夜が果たそうとしているのは前者で、キセトが主張しようとしているのが後者の約束だ。

 だがこういう場合、連夜は自分の決意を曲げない。キセトが折れるしかない。それはキセトも連夜も分かっている。連夜はキセトが折れることを前提として話しているのだ。


 「俺が納得できる理由を話せ」


 「お前のことだろうから他のギルド隊員のことは言い出すと思ってたぜ。オレだってそのつもりだった。けどよ?茂が入って八人。八人もの人間の問題解決してからオレらの事やる時間がお前にあるか?はっきり言って今回お前の死を感じたのは蓮たちだけじゃないんだぞ。

  あいつらはオレらの部下だけど、オレらの仲間じゃない。お前は怒るだろうがオレにとってあいつらは自分のことより優先させるような奴らじゃない。お前が死んでからオレ一人だけ問題を解決できるような力があるとは、この問題に関してだけは思わない。お前が生きている間にオレはオレらのことを終わらせたい。

  そこにわいて出てきたかのような絶好のチャンス。逃す手はないだろ」


 自分より優先させるような存在は連夜には無い。

 それは連夜自身が友達と認めているキセトもそうであり、近くにおいているナイトギルド隊員に対してもそうである。知っていたことだがこうやって改めて聞くと、コレ以上ひどいことはないと思うほど非情な考え方だ。


 「………。せめて――


 「せめて誰誰だけでも、は八人の部下の中から特別扱いするやつを生むだけだ。却下」


 「そうじゃない。せめてギルド隊員には事実を話してからにしないか?こんな俺たちの部下でいてくれる八人だ。他の人たちよりは俺たちと関係が深いのは当然だろう?」


 「仲間」や「友達」と言うことはキセトにもできない。

 やはり根本が違う。理解できないことが多い。そして理解できないだけでなく、接し方までわからない。

 キセトや連夜たちの「常識」の中では静葉や蓮たちというのは脆すぎる存在で、「普通」に接すれば意図しないところで傷つけ、最悪の場合殺してしまう。

 だが、それでもそばにいるという点に関してはナイトギルド隊員はキセトと連夜の特別と言えるはずなのだ。


 「…それぐらいならいいんじゃねーか?ただし決勝まで残ってからな。あいつ等が言いふらすとは思えねーけどどこに耳があるかわからん。外に漏れるのは避けたい」


 連夜にしては冷静な判断がキセトには慎重すぎるようにも見える。言い換えれば他人を一切信じない連夜の性格も、こういうところで見えてくるのだ。

 おちゃらけているように見えて他人と一線置いているということは、一線置かれているほうからすれば自分だけが疎外されているようにも感じることがある。はっきり言えば誤解されやすい性格なのだ。


 「わかったよ。俺はお前の友達で、似た者同士だからな。今回はそれで納得する。だがバトルフェスティバル中も俺は他人を一切傷つけない。たとえ勝負だとしてもだ。俺はいるだけ、実質はお前一人で勝ちあがれ」


 「もっちろん。病人に無茶させる気はねーよ。お前はそもそも嫌いだもんな、相手に怪我させるってか、戦うって事自体が」


 「…わかってるならいい」


 行きすぎた自分の力を自覚しているから他人と接することに対する恐怖がある。キセトはそれを軽度の対人恐怖症ということにして周りにはあまり詳しく説明していない。そもそも実力を隠しているのに上手く説明できるはずがない。

 連夜も実力を隠しているし、キセトと対等ほどの力は持っているのだが、連夜に関しては自己主義であり他人が傷つこうが無視できる性格なので、本人の中ではあまり大きな問題ではないのだ。


 「決勝は一ヵ月後か。のんびり一ヶ月休めよ?一ヵ月後からは休む暇も無く質問責めに遇うんだからな。まっルールによっては休めないかもしれないが。よわっちぃ奴らが開く大会ぐらい、オレ一人で勝てるって」


 「そうだな、頼んだぞ」


 連夜に傷つけられる人ができるだけ少ないことを祈るぐらいしか、キセトにはできなかった。


 他人との関わりに消極的なキセトを積極的な連夜が引っ張りまわす。友情が成り立つのが不思議な関係。キセトが嫌になってもおかしくはないし、連夜がいつ飽きてもおかしくはない。それでも友としている。

 周りからすれば成り立つことがおかしい友情だけが、キセトと連夜を人間と繋げてくれるのだ。

 君はよく嫌にならないな、と呆れられることで。

 どうしてそんなにもわがままなんだ、と叱られることで。

 危うい人間との関係を築く、化物二人の行き方。


 今回も、ただの二人の行き方なのだ。

 何人の人間が、たった二人の行き方に巻き込まれるのか。





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