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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
バトルフェスティバル編
24/90

020

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください


 キセトが仕事を終わらせてギルドに帰ると、土曜講座も終わらせたしげると、朝からおとなしくしていた英霊えいれいが食堂で永遠としりとりを続けていた。

 そこに割り込む気にもなれず、とりあえず仕事の結果を報告するために連夜れんやの姿を探すが、食堂に連夜の姿が無い。隊長としての仕事も殆どサボっている連夜が、キセトの帰る時間になっても帰っていないというのは珍しいことである。


 「れん、連夜を見なかったか?」


 ゲームに没頭している蓮はキセトに話しかけられても顔を上げず、えいっ、などの声を交えながら答えた。


 「見てませんよ。今日は会ってもいません。そういえばアークさんも今日は見てないです。連夜さんもアークさんも、もう門閉まっちゃうのに遅いですね」


 「連夜には伝言を頼まれたというのに」


 「ふえ?キセトさんを通じて連夜さんに伝言なんて珍しい人ですね。どう考えても友好関係は連夜さんのほうが広いのに」


 ゲーム機から顔を上げるほどの驚きだったらしい。その対応がキセトにはショックだったが、それはそれで事実である。

 キセトは酒が飲めず、臭いだけでも顔が真っ赤になるほどなのだ。そのせいで酒が関わる打ち上げなどに一切参加できず、逆に酒に強い連夜がキセトの分も積極的に酒の席には参加してきた。よって、夏樹なつき冷夏れいか東雲しののめ親子以外、キセトがこの帝都で話せる相手というのは殆どいない。例外として亜里沙ありさとナイトギルドぐらいなのである。


 「相手は誰ですか?あっ、左半分だけだってのにファンクラブが作られるほどのルックスをお持ちのキセトさんなら知らない人にも伝言頼まれたりするんですかね?でもキセトさんに話しかけるなんてすごい勇気です。すっごく 根暗 なのにぃー」


 「…」


 「でも連夜さんに直接話しかけるほうが怖いですかねー?粗相したらすっごく怖い目つきでにらまれそうです。実際穴が開くぐらいに」


 「そうか」


 「まぁ言葉が返ってくるだけ連夜さんのほうがましですかね?」


 「…」


 「ヒーちゃん…、そろそろキー君かわいそうだからやめるのだよ」


 「面白いんですけどねぇー」


 無表情・無愛想で有名なキセトだが、ナイトギルド隊員ほど近くにいればそうでもない。ほんのわずかな差だが声のトーンが変化したり、笑おうと努力しているのが伺えたりする。

 今もなんともないように返事はしていたが、ナイトギルド隊員たちにはなんとなく落ち込んでいるように見えるのだ。


 「確かにキー様で遊ぶのは楽しいのですよ!」


 「純粋でかわいいですわ」


 「ぞくぞくしますよね」


 すでに、瑠莉花るりか戦火せんか・蓮の言葉からは尊敬の意が感じられない。珍しく瑠砺花るれかから同情の意味で背中を軽く叩かれ、黙って聞いていた静葉しずはがドンマイ、と声をかける。


 「こんなときにキセトもヤケ酒でも飲めばいいのに。楽しいわよー」


 「あいにく酒は飲めない。知ってるだろう」


 「うん。隣で飲んでるだけで寝ちゃうぐらいだもんね」


 「もうそれって何かの病気なのだよ、きっと」


 「連夜が帰ってきたら俺の部屋に来るようにいってくれ。少し休む」


 「「はーい」」


 気の抜けきった返事を聞いて、キセトはそそくさと自室へ逃げてしまった。

 暇になった女性陣が先ほどからしりとりを続けている茂と英霊のほうを見つめる。


 「りんぐ」


 「寓居」


 「きょっ…、きょうかしょ!」


 「所為」


 「いねむり」


 「利益」


 「き、きぃ…、き…………」


 「首の長い黄色の動物なんてどうです?」


 「きのくにせんっ!!ってあっ…」


 「斜め上をいきますね…」


 六歳児と十八歳の学生が本気でしりとりをしていたらしい。なぜ古代の電車の路線を英霊が知っているかは分からないが、女性陣そろって見つめるだけで癒される二人である。


 「きのくにせんってなんですか?英霊君」


 「パパがねー、昔はこんなのあったんだよーって見せてくれたの」


 いつも英霊が占領しているスペースから英霊が絵本のような物を持ってくる。そこには茂たちには見慣れない鉄らしきもので出来ている箱が描かれていた。


 「へぇ…優しいお父さんなんですね」


 「うんっ!いつも学校に一緒にきてくれるしね、休みの日でも一緒にあそんでくれるしね、仕事の日も夜には絶対帰ってきて一緒にあそんでくれるの!」


 「本当に優しいですね。キセトさんみたいです」


 「?。パパはキセトさんだよ?」


 「え」


 「パパって呼んでもいいって言ってくれたのっ!」


 キラキラと目を輝かせながら語る英霊の前に、茂は若干引いていた。いくら相手が子どもだからと言って、父になる気もない子を相手にパパと呼ばせていいものだろうか。

 女性陣も、一瞬でかなりぴりぴりした空気を纏っていた。茂と違い、女性陣が揃って考えていたのはいかに自分を英霊に「ママ」と呼ばせるかであったが。特にキセトに対して恋愛感情はないが、なんだか呼ばれたい。そんな気持ちでなんとか対人恐怖症の英霊に近づくかを考えていた。


 「キセトさんがパパですか。じゃぁママは誰なんですか?」


 女性陣が気にしていたことをさらっと口にする茂だが、女性陣の内心に気づいていたわけではない。


 「パパがね、ママはもういるからって。ぼくが大人になってもまだパパのことパパだって思えるならちゃんと家族になろうって!」


 「そうなんですか?養子にするってことですかね」


 「わかんない」


 英霊のはじけるばかりの笑顔の後ろでは女性陣が揃って残念がっていた。蓮にいたってはゲーム機を放り投げている。

 そしてすぐに女性陣の考え方は「もういるママ」についてになっていた。外部の女性ならなんとなくだが許せる気がしない。だからといってナイトギルドの女性なら気まずい。そしてそんな内心を知らず、茂がまたざっくりと英霊に質問する。


 「ママはどんな人なんですか?聞いていません?」


 「えっと髪が長い人?」


 この時点で短髪である静葉と蓮が床に直接体育座りをしだすなど、英霊と茂の後ろでとんでもないことが始まろうとしていたのだが、英霊と茂はそんなことに気づいていない。


 「あっ、それでねっ!お酒に強いんだってっ!」


 その言葉を聞いたとたん静葉が勢いよく立ち上がり、逆にまだお酒が飲めない戦火と瑠莉花が床に撃沈した。


 「それで………んっと…んっと…」


 「それだけならそれだけでいいんですよ?」


 「これはね、ぼくが見ただけなんだけど。パパ、ママのこと話すときね?すっごく笑ってるの。ちょっと恥ずかしそうなんだけど、それでもすっごく楽しそうなの。それでね、最後には絶対『とっても好きな人なんだよ。そばにいれないだけで苦しくなるぐらい』って」


 「そうなんですか…、そんなキセトさん想像できませんね」


 この言葉により女性陣全員はどこか諦めたように各々の日常的な行動に戻った。

 蓮は投げ出したゲーム機を拾いゲームの続きを。静葉はバトルフェスティバルのチラシを持って松本姉妹と雑談を。戦火は食事を作るためキッチンへ向かう。

 全員キセトが自分に対してそんな言葉を発するとは思えない。


 「あーあ、ドキドキ損なのだよー」


 「キセトのこと?でも本気で自分だとは思わないでしょ?そりゃ期待はするけど…」


 「そんなのは彼氏がいるやつの台詞なのだよ。あっそういえばアー君は?」


 「さぁ?珍しく外ではあったけどなぁ…。まだ帰ってないの?」


 「あは、てきとうなのですぅー」


 「てきとうって、あのさー?私はアークが好きなわけでも嫌いなわけでもなくて、仲間だから一緒に行動してるのよ?別行動の日だってあるし、その日はお互い何してるかなんてしらないわよ」


 付き合っているカップルと思えない、いやここまでくれば付き合っているという自覚は一切無いのだろう。御節介程度にとどめておこうと思っていた瑠砺花も、興味本位程度の瑠莉花も、彼氏側のアークを思うと同情のため息が漏れる。


 「ねー、シーちゃん?そんな態度ばっかりだと浮気されて、挙句の果てには…」


 「は、果てにはなによ?」


 「ぽいっ!!――なのですよ」


 「ぽい?」


 「捨てられる、ってことなのだよ。今日だってアー君帰り遅いのだし…、本格的にコレの予感っ!?」


 瑠砺花がピッと小指を立て静葉に見せ付ける。さすがにその意味が分からないほど静葉も純情ではなかった。


 「ないでしょ。アークにかぎってそんな…」


 「んー?無いなんて言い切れないのが恋愛なのだよ。このお祭りも、たまにはシーちゃんから誘ったらどうなのだよ?」


 今静葉としては瑠砺花を誘おうとしていたのに、瑠砺花に言外に断られ言葉を詰まらせる。実は向こうから誘ってこなかったことにイライラしているなどと言ったらあと一週間はからかわれそうだ。


 「別にいいのよ。アークにはアークがしたいことがあるんだから。そういうことまで拘束しないパターンなの、私たちは」


 「『私たち』って言うほどアー様の事分かってるのですか~?怪しいのですよぉ~」


 「わ、分かってるわよ」


 「えー怪しいのだよー。ねー、リーちゃーん?」


 「怪しいのですぅ~。ねー、ルー姉ー?」


 「うぐぐぐ…」


 この姉妹ほどこういう時に敵に回して厄介な相手はいないと思う。静葉が変なうなり声を上げだし、松本姉妹は姉妹でニヤニヤとそれを眺めている。

 だが戦火が料理の完成を告げると一瞬で席を離れ、食事の席へと移動してしまった。取り残された静葉も慌てていつもの席に移動する。


 「オムライスかぁ」


 「お嫌いですか?」


 「えっ?あっそうじゃないのよ?戦火ちゃん料理も上手いし好き嫌いとかはないんだけど…」


 「ではなぜ残念そうなのですか?わたくしとしては知っておきたいのですが理由をお聞かせ願えませんか?」


 「えっとね…、さっきまで話してたせいかもしれないけどさ?アーク料理下手なくせにオムライスだけは上手だったなーって思って」


 「そうでしたか。そういえばアークさん遅いですわね。もう門も閉まっているはずなのですよ」


 時計はすでに門の閉門時間を大幅に過ぎている。瑠砺花にも戦火にも言われ、さすがにアークがなぜ遅いのか静葉も気になってきてしまった。

 オムライスを急いでさらえ携帯を開いてアークに電話をかける。締め出されていれば大声で笑ってやろうと思いながら相手が電話を取るのを待つ。


 「…」


 『はい。炎楼えんろうです』


 「あっ、アーク?門閉まってるわよ?どこにいるのよ」


 『時津ときつさん?電話番号変えましたか?登録されてないのですが』


 「そう簡単に番号変えるわけ無いでしょ。登録ミスじゃない?」


 『そうですね。あぁ今の居場所でしたか?今は一度実家に帰っています。ちゃんと隊長の許可ももらいましたよ?』


 「えっ?実家?」


 『はい。つまり不知火しらぬいです。出来れば電話も控えてください。羅沙らすな帰りというだけで裏切り者として抹殺されてもおかしく在りませんので。もし内通していると勘違いされるとぼくは死刑台に真っ直ぐ向かうことになります』


 「ちょ、ちょっと!?」


 『すいません、切りますね』


 「えっねぇアークったら!」


 叫ぶのも虚しく途中で電話を切られた音がした。

 それにしても里帰りなど、アークが帝都に三年住んで初めてのことである。連夜の許可はもらったといってたがその連夜もまだ帰っていないので詳細は分からない。


 「むぅ、なんなのよ…まったく」


 「…人数が少ない。寂しい」


 「え、英霊君っ!?今日は隣なのね…」


 「はい、えんろーさんがいないからここに座りなさいと、るりかさんがいいました」


 「そ、そう。人数少ないし固まって食べるのはいいかもね」


 元々席順が決まっていて、静葉の隣は蓮とアークが常に座っていた。ギルドに入った順で連夜、キセト、蓮、静葉、アーク、戦火が机の右側に、瑠砺花、瑠莉花、英霊、茂が左側に座るのが常となっていた。

 だがキセトは隊員たちを食事を滅多に取らず、今日は連夜とアークがいないので結果三人も抜けていることになる。それも右側だけに。


 「はぁー、先に食べちゃうと暇だなー」


 「えんろーさんはどこに行ってたんですか?」


 子どもらしくご飯粒を口周りに付けて、純粋に不思議そうに尋ねてくる。ご飯粒を取ってやろうと手を伸ばすと、明らかにおびえられたので、言葉で教えておいた。英霊は、静葉であろうと連夜であろうと、キセト以外の人間に気を許していないらしい。最近は茂とも仲良くしてるらしいが。


 「ん?あーお家に帰ってるんだってさ」


 「お家に帰ってないですよ。えんろーさん、帰ってないです」


 一瞬英霊の言っていることが分からず静葉の動きが止まる。だがよく考えてみると英霊にとってはこのナイトギルド本部が実家で帰るべき場所だったとすぐに分かった。


 「アークはね、ここ以外にも帰る場所があるのよ。今はそっちに帰ってるの」


 「家が二つあるんですか?」


 「そう。それで暫く帰ってないお家のほうに帰っただけ。またすぐこっちに来るわ」


 「んー…よくわからないです」


 「帰ってくるってことよ。心配しないでいいってわけ」


 「そうですか。ならいいんです!」


 顔を輝かせ心配ごとはなくなったとばかりに英霊は食事を再開させた。それを静葉も笑顔で見守る。

 アークが何をしようとしているのか、なぜ何も言わないのかをここで考えても無意味だろう。だから静葉は何も言わずただ待つことに決めたのだ。




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