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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
バトルフェスティバル編
22/90

018 -バトルフェスティバル編-

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください


 ミラージュの件以来終始不機嫌の静葉しずはは、珍しく一人で帝都を歩いていた。

 静葉の友人は多い。同じギルドの瑠砺花るれか戦火せんかたちはもちろん、ギルドの外にも多くの友人が居る。それは静葉の明るく気さくな性格が効したものだ。よって、睨んだだけで子ども泣かすような形相で帝都を歩く静葉に話しかけるような人物は居なかった。


 「…あぁもー。イライラする」


 アークに言ったにも関わらず起きたときには全部片付いていたことも。そうなるだろうと心の隅で予測しながらも意識を保つことが出来なかった自分も。納得できる理由を説明してもらいながら納得できないことも。

 結果だけは聞いた。公開されていない情報まで、東雲しののめ高貴こうきを通じて教えてもらった。それでも納得できるはずが無い。

 あの後、沙良さらとギィーリとか言う少年は第三層へ逃げたらしい。軍がその情報をどこからか掴み、捕らえた。

 その後がよく分からないのだ。ありのまま伝わっているらしいが、沙良は突然死んだらしい。ギィーリがどうのこうのと説明が入ったが、状況的にギィーリと沙良は隔離されていたはずで関われないはずだったらしい。ただ、見張りも大量にいた牢で、あまりにも突然に死んだ。

 そして沙良の死骸は消えうせ、そこから二人の少年が生まれたらしい。

 なんだそれ。何が起こったということなんだ。沙良に、静葉の愛しい娘で妹でもあるあの少女に、何があったというのだろう。

 結局、ギィーリもその騒ぎに乗じて逃げ、沙良の死骸から生まれた二人の少年も逃げたと教えられた。


 「はぁ…」


 わけが分からない。


 「失礼。そこの貴女」


 「私ですか?なんです?」


 静葉に突然声をかけてきた女性。地図片手に周りをキョロキョロと見渡している。分かりやすい迷子である。声をかけてきたということは道案内でも頼むつもりなのだろう。


 「どこに行かれるんですか?帝都は複雑ですからね」


 「あら話が早くて助かるわ。ギルド街に行きたいの。門のところで知り合いと待ち合わせしていてね」


 自分の髪を上げる動作や首を少し傾ける角度などがいちいち綺麗だなと、静葉の第一印象としては「女性」らしい女性だと思った。自分のように、毎日筋トレということは決して無いだろうとも。


 「ギルド街は反対側。銀座街を真っ直ぐ通り抜けて行ったほうが早いと思うわ」


 「ありがとう。優しいのね」


 「えっと…、当然だし」


 「でも助かったわ。ありがとう。そうそう、ぜひコレ参加して。優勝者の景品に私の店の無料券があるのよ」


 女性が鞄かたら取り出したチラシのようなものを静葉に渡し、そのまま駆け足でギルド街のほうへ走り去って行った。

 チラシには大きくバトルフェスティバルと書かれている。商品の中には様々な店の無料券も書かれていた。このたくさんの店の名前の中に今の女性が経営する店もあるのだろう。

 チラシにはトーナメントが行われること、二人一組であること、そして優勝者には商品だけでなく皇帝陛下に謁見する権利が与えられることが書かれていた。


 「興味ないわ…って言いたいところだけど、皇帝に謁見ね」


 憂さ晴らしにもいいかもしれない。皇帝に謁見して、時津の街のことを突きつけてやれば、少しでも沙良の気は晴れるのではないだろうか。


 「でも二人一組か。バトルフェスティバルって言うぐらいなんだし戦闘なんだろうな。瑠砺花…、いやアークのほうが強いか。でもしげる君の訓練として茂君でもいいな。まっ私もギルドに帰って相談でもしてみよっと。もしかしたら連夜れんやかキセトが気まぐれで出るって言うかもしれないし」


 もし連夜かキセトが参加したらどちらかが静葉と一緒に出てくれるだろうか。

 キセトの場合、参加すると言っても自分だけで何とかしそうである。パートナーをナイトギルドから選ばないかもしれない。連夜の場合は本当に気まぐれでしか参加しそうにないので相手も適当に選びそうだ。


 「やっぱり手堅くアークあたりかな。あっ商品に異世界の扉の無料券もあるじゃない…。あそこ高いのに。んー…、あそこのお酒が飲めるのなら本気で優勝狙うのもあるわねー」


 イライラしていたことも忘れて商品の欄に並んでいる店名を見ていく。酒好きの静葉としては胸躍る店の名前もたくさんあった。


 「あの…何を一人でぶつぶつ呟いているんですか?」


 「ひゃっ!?あ、アーク!びっくりさせないでよね…」


 「すいません。外で時津さんのお姿を見かけるのは珍しくてつい声をかけてしまいました。これからお出かけですか?」


 「んー、べっつにぃー?用も無いから帰ろうと思ってたのよ」


 そうですかと冷めた返事を返すアークの視線が、静葉が持っているチラシで止まる。その視線に気づいて静葉はアークにチラシを渡した。


 「さっきもらったのよ。バトルフェスティバルですって」


 「なるほど。最近貧困地域でなにやら大きな建物を作っていたのはコレのためでしたか。大きなお祭りを開いて経済対策ですかね?拱手傍観よりはいいでしょうけれど…、どれほどの効果が期待できるんでしょう?羅沙らすなで開く以上参加者は明日羅あすら人か羅沙人でしょうし…」


 「あれじゃない?ミラージュが明日羅人だったってとこから同盟破棄が噂されたでしょ?だからそんな事無いってうアピールとか」


 「あぁ…そちらですか。両帝国保持同盟は明日羅が下手側だと思われがちですが、同盟が破棄されれば羅沙だって痛手を負いますしね。友好の印というわけですか。さすが羅沙と明日羅は一視同仁だと謳うだけはありますね」


 アークがチラシの細部まで読み進めている間、静葉はもやもやした気分でアークを眺めていた。商品などに対する感想をアークが述べても生返事を返すだけである。


 「どうかしましたか?…もしかしてミラージュの件、ここではっきりさせたいのですか?」


 アークもミラージュの件では静葉の言葉を無視した形になったことを気にしていたからこその発言だったが、静葉は静かに首を振った。


 「ミラージュの件はもういいわよ。たしかにイラついてるけどキセトやアークの言い分だって分かるわ。なんか、そうじゃなくて…。い、いつもなら『一緒に出ませんか?』とか言ってくるのに、今回は何も言わないのね。出るつもりないの?それとも相手が決まってるとか?」


 「つまりぼくと一緒に出たいんですか?」


 「調子にのらないで。相手が決まってるならそれでいいし、出ないつもりなら瑠砺花を誘うわ」


 「…?それって、ぼくが出ると言ったら一緒に出てくれたということですね?」


 「仲間としてならありってだけよ」


 「それでも嬉しいですよ。もちろん恋人としてならもっと嬉しいです。ですが残念なことに今回の件、ぼくは関わりたくありません。先ほども言ったとおり、このバトルフェスティバルの会場は貧困地域に無理矢理作られた物です。そこに住んでいた人にとっては恨む対象ですからね。愛すべき自分の暮らしていた土地を奪われた恨みは時津さんもよくわかるでしょう?そういうことに関わりたくないんですよ」


 「ふぅん。まっ、いいわ。じゃ瑠砺花と出るもの。土地を奪われた人は残念だけど私には関係ないでしょう?羅沙が明日羅の中の時津の街が燃え尽きようが関係ないと言ったように」


 「そうですか。あまり無茶しないでくださいね。遠くから見守ってます」


 「むしろどっか行っちゃえば?」


 静葉の言葉を無視して軽い別れを告げ、アークはギルド街とは反対の方向へ去って行った。

 その背中を見つめて静葉は先ほどより胸の中のもやもやが大きくなっていることに気づく。まるで自分がアークに恋をしているようで不愉快だった。



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