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Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
殺人鬼ミラージュ01
21/90

017

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください


 ナイトギルドからミラージュを逃したとの報告はそのその日のうちに、最高指揮官でもある東雲しののめ高貴こうきに伝わった。

 キセトから報告を受けた連夜れんやはそうかと言っただけだった。

 連夜から報告を受けた夏樹なつきは絶句した。

 夏樹から報告を受けた東雲江里子えりこは夏樹を追い返した。

 江里子から報告を受けた東雲高貴はやはりかと納得気に頷いた。


 「お父さんはどうしてあんなに素直に受け入れたの?」


 「逃すだろうと思っていたからだ」


 「なぜ?」


 「二度目のミラージュが生まれた時点で、彼らは失敗してるからだよ。ミラージュの種をつぶす。それが条件だった」


 「何の条件よ?わけわかんない」


 ミラージュの種となりうるものをすべてつぶす。それは連夜から静葉に与えられた条件でもあり、先代の皇帝、羅沙らすなえるが連夜に出した条件でもあった。

 殺人鬼ミラージュ。その主犯格である静葉をギルドに入れる条件。その罪をもみ消す条件。

 だがそんなことを江里子に教えるわけにはいかない。このことは一応極秘扱いなのだから。


 「あれ?電話なってるよ、お父さん」


 「あぁ、焔火ほむらび君だね」


 「出たら?どんな言い訳するのやら」


 「お前に言われずとも出るよ」


 携帯を持って別の部屋に移動する。念のために江里子がついてきていないことを確認してから、携帯の呼び出しに応じた。


 「もしもし」


 『焔火です。今回の件ですが、主犯である田畑たばた沙良さらを生かす考えはありますか?』

 

 突然の質問に、やはり今回の失敗がただの失敗ではないと悟った。キセトか連夜、もしくはその両方になんらかしらの考えがあったのだろう。


 「国にはない。羅沙は問答無用でつぶすつもりらしいね」


 『わかりました。どうにもならないのですね。田畑沙良を売りましょう』


 「売る?」


 淡々と、その声が告げる内容はやはり突然だ。

 焔火キセトの声は抑揚がない。本人にも万年無表情などという不本意なあだ名がある。声もそれは例外ではなく、電話を通してしまえば本当に機械を相手にしているかのようだ。


 『居場所を特定しました。ナイトギルドで動くことになれば、静葉しずはが関わります。ですから、軍に動いていただきたい。ギルドの功績を他の軍の派閥に移動させる手間を省きましょうよ、東雲さん。こちらは静葉にこれ以上の重荷を背負わせずに済みます。そちらはややこしくてせこいまね、しなくていいんですよ。この話に乗ってくださいますか?』


 時津ときつ静葉はその重荷を自ら背負いたいのではないだろうか。その過去を背負って成長しようとしているのだろうが、キセトにそんなこと分かるはずない。

 キセトは重荷は行動を鈍らせるもので、行動を鈍らせるものは嫌だと、そんな安直な考えなのだろう。複雑な静葉の心内など、欠片も理解できていないに違いない。


 「…もし、田畑沙良が生きる道があればどうなっていたんだい?」


 『そうですね。ただ味方の手で死ぬだけです』


 「味方?」


 『十八歳の少年がいます。その少年が田畑を殺すことになるでしょう。俺の知り合いが、そうなるような術を二人に与えてしまったのです』


 めずらしくキセトが「しまった」など、自らの考えが反映された言葉選びをしている。東雲には分からないが、その知り合いとやらはキセトにとって特別な何かにあたるのかもしれなかった。


 『詳しい話はできません。追い詰めれば、仲間内で勝手に終わるでしょう。もし、羅沙に田畑を生かすつもりがあったのなら、保護するつもりでした。政府や軍の方法では殺してしまうだけです。面倒なことをしてでも生かすつもりでした。少しでも生かすつもりがあるのでしたら』


 軍が生かすと一言言えば、ギルドで面倒事をすべて引き受けるつもりだった、ということだろうか。どこまで自己犠牲のやり方を通すつもりなのか。

 これが連夜なら、軍だろうと政府だろうとやりたいことは自分でやれと怒鳴りそうである。


 「軍の扱いでは、生かすつもりでも結果的には殺してしまう、と?」


 『はい。ですが、どうせ殺すのでしたらどちらでも構いませんよね。一度、終わらせてください』


 一度。すでに二度目があること前提の言葉。

 東雲には全く想像できない未来が想像できているのだろう。聞き出したいところだが、たとえ聞いたとしても分からない。東雲はして欲しいといわれたことをしようとだけ思う。余計に首を突っ込んで、知らない間に首を絞められているなんてことになるのはごめんだ。


 「情報をもらおうか」


 『第三層です。田畑沙良とギィーリという少年だけですので、貧困層に混じっているかと思われます。城から南西方面を中心に探せば一日で見つかるでしょう』


 「了解した。情報の出所は?」


 『…裏路地に住む友人です』


 「友人?君に峰本みねもと君以外の友人がいるのかい?」


 『今は友人とは言えないかもしれません。東雲さんの仰るとおり、俺の友人は連夜だけですから。言い換えれば、昔の友人です』


 「よくわからないが、信用していいんだね」


 『えぇ』


 「わかった、ありがとう。ナイトギルドの失敗はこちらからも上手くフォローしておく」


 『お願いします』


 あっさりと電話が切れる。せっかく妻が用意してくれた夕飯をゆっくりたべることはできなさそうだ。


 「すまない、仕事だ」


 「あら、行ってらっしゃい」


 「えっ?焔火君からの電話で仕事?私は!?」


 「江里子は食べていなさい。ギルドは関係ない」


 「そうなの?」


 せっかく着替えたというのに。

 先ほど脱いだばかりの軍服の上着を取って、私服の上に羽織る。情報は時間が命、というが。だからと言って、せっかくの夕飯を食べれないのはとても残念だった。



 


 

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