表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Black Night have Silver Hope   作者: 空愚木 慶應
殺人鬼ミラージュ01
18/90

014

 この小説には、連載を通して性的表現(同性愛含む)・グロ表現・鬱展開・キャラクターの死等を含みます

 これらの表現・展開を含んだ記事には、頭に注意書きを載せます


 ですが、その記事を飛ばされた場合、その内容についての上記の表現を避けたまとめなどは用意いたしませんので、ストーリーが分からなくなる場合があります

 「続きが読みたい!」とのせっかくの声を頂きましても、どうしようもございません

 

 なお、著作権は放棄しておりません

 無断転載・無断引用等はやめてください

 

 以上の点をご理解の上、お読みください

 アークと別れた空間から戦闘音が聞こえなくなった後もキセトは廊下を進み続けていた。前を歩いていく足音はもう聞こえない。そのかわり後ろから走って追い掛けてくる三人分の足音が、キセトの耳には響いていた。


 「キーくーーんっ!!」


 「痛い」


 「追いつきましたね」


 追いつくと同時に瑠砺花るれかがキセトに飛びつき、静葉しずはも便乗して飛び掛かり、それを見てアークが僅かに嫉妬心を燃やす。どう考えても敵地とは思えない図だ。

 キセトが注意したいことは視線で理解したのか、瑠砺花にしては早々に諦めてキセトから離れた。静葉もそれに習って離れる。


 「楽しいのか?はしゃいでいるな」


 「んー、そうかもなのだよ?一言では言えないのだけど」


 「敵地だということを覚えていればいい」


 瑠砺花とキセトが短い会話をしている間に、アークがそっと静葉の後ろから抱き着こうとして裏拳を喰らっていたのだが、静葉を含めそれに触れる者はいなかった。アークだけが少しの間体育座りで落ち込んでいたがそれも誰も触れない。


 「キセト、瑠砺花が言ってたけどこっちって何にもないんでしょ?なんでこっちに進んだの?」


 「地図を思い出せ。同じ作りが続く建物で、上の階にも下の階にも空間があったがこの階だけはなかった。初めは作りの関係で部屋が出来なかったのかと思ったが、それならなぜ廊下がある?」


 「ちょ、ちょっと待って。地図が思い出せないんだけど」


 「そうか。話を続けるが、この階の空間だけ地図から消されたと考えるか、もともと廊下もなかった地図に廊下だけ付け加えたか、だ。部屋を地図に記入しない理由は当時の使用者に聞くしかない。今なら使用者は誰だ?」


 「ミラージュ、いえ、田畑たばた沙良さらですね」


 単純に考えればそうなる、とそれ以上の質問があると思っていないのか、それだけ言ってキセトは再び廊下を進み出した。

 だがそれだけではなぜこの廊下を優先させて進む理由が静葉達にはわからない。


 「ねぇ、それだけで進んだの?地図の話だけが理由?私は瑠砺花とかキセトみたいに記憶力良くないからわかんないけど、ただの行き止まりかもしれないんでしょ?」


 「時津さん、ぼくは入ってないんですか?」


 「あぁそうね、アークも覚えてるわね」


 「……、はい」


 静葉の態度的にアークのことは素で忘れていたのだろう。それを悟ってアークもまた少し傷ついているようだ。


 「シーちゃん、キー君の決定なのだよ?きっと理由がなくとも何かに繋がるのだよ。ねっ?キー君!」


 「それもそうね!」


 「それで納得できるんですね」


 「過大評価」


 女性陣のキセトへの信頼を表わしたところで四人の視界に扉が見えた。


 「人の気配がするわ」


 「二人ですかね?」


 「私には気配とかサッパリなのだよー」


 「動くつもりはないらしいな」


 扉を前にして四人の動きが止まる。これ程会話したあとで向こうが気づいてないとは考えにくい。扉の前で待ち構えるなどしているだろう。狭い扉を四人という数で通るのは不利である。


 「一人、だな」


 確かめるようにキセトが呟く。

 一人だけ先行し、二対一で戦ってくる。もちろん素早く順に四人とも入ることも出来るのだが、敵の攻撃を受ける盾役をするのは結局一番前の一人である。なら、今回のメンバーだと単身で乗り込んだほうが得意なもののほうが多い。


 「特攻は私無理なのだよ。魔法は対処が遅れるのだもん」


 「ぼくか静葉さんかですね。まさか非戦闘員の副隊長には無理ですし」


 「私が行くわ。…行きたいの」


 地図の違和感や廊下の存在意義など静葉にはわからない。

 だがこの先に沙良がいるのなら、自分にしか適当な人間はいないと考えただけだ。


 「ケリをつけてこいって連夜には言われたわ。私にしか出来ないことだと思うの。沙良と同じ過去を持つからこそだってね!実力だって殺人鬼が務まるぐらいはあるわ」


 「どちらでもいい。相手が交渉の意を示して来たら俺を呼べ」


 「わかったわ」


 キセトの了解さえ取ることが出来ればそれでいい。まだアークが納得していなさそうな顔をしていたが、静葉はアークに笑いかけるだけだった。


 「じゃ、いってきます」


 「いってらっしゃい、なのだよー」


 静葉の心境としては複雑だ。今別れをつげた三人も大切な人で、これから戦う相手も大切な人。

 扉に手をかけ、気を高める。中にいるのは大切でも敵だ。どんな実力者でも敵の前に出るときに油断していては話にならないのだから。集中し、扉を開けた。


 「おらぁぁっ!」


 「ととっ!?」


 「ちっ」


 部屋に入って一撃目をぎりぎりでかわす。無傷ではないが、待ち構えられていた一撃目をまともに喰らわなかっただけ上出来というところだろう。

 そして相手にとっては不出来だ。炎を纏った剣を構えるギィーリと、その後ろで詠唱を続ける沙良。おそらく剣の炎は沙良の魔法によって纏われたものなのだろう。二人とも熱がるようすはない。

 だがそれも二人にとってはというだけで、静葉にとっては熱い。先ほどの一撃であっても、剣は完璧に避けたが炎の分の火傷を負った。


 「沙良だけだとは思ってなかったけど、カワイイ男の子ね」


 「ちっ。いちいちわざとらしーんだよっ!ずっと無視しやがってっ!」


 「名をギィーリといいますわ、お姉様」


 お互い睨みあいながら相手の隙をうかがう。静葉はまだ自分の武器すら抜いていない。炎の剣を構えるギィーリと術を完成させ、あとは機会をうかがっているだけの沙良に対して両手を構える、体術の構えを取っていた。

 圧倒的に静葉が不利に見えるこの状況で、静葉は笑っていた。いつものような楽しそうな笑みではなく、獲物を見つけた強者の笑みだ。これからの狩りを楽しみにしている残酷な笑み。


 「気味わりぃっ!どうせあんたはおれのことなんて覚えてないんだよ!」


 「えぇ、覚えてない。誰だっけ?きっと時津ときつを名乗る誰かでしょうね。私、街の人はみんな家族なんて言ってたけど、本当の家族だけは大嫌いだったから。弟?義理の弟あたりかしら?ごめんなさい、全く覚えてないわ」


 「なっ!お、おれだっておまえなんか大嫌いだっ!時津様のくせに街を裏切ったんだからなっ!」


 「私が時津家で名前を覚えたのは二人だけ。父上のあらしと兄上の冷樹れいきだけなの。私が憧れた人。私の強さはあの人たちを求めて身に着けたもの。残念だわ、本当残念。強かったら私は絶対に覚えてる。あの時は強さだけを求めてたから。だがから『ギィーリ』、彼方は弱いんでしょうね」


 街の人たちは家族を愛するように大好きだ。でも家族なのに、自分と同じ血が流れているのに弱い人間なんて家族だとは認めない。

 街の人たちは弱くていい。それを守るのが領主だから。だけど守る立場に立つ人間が弱いのは許せない。静葉が無意識に家族を嫌う理由でもあり、昔の静葉にとって強さがすべてであった証拠でもある考え方。今こそ改めた考え方だが、昔の知り合いである沙良とギィーリには無意識にその考え方を当てはめていた。


 「沙良、殺人者集団ミラージュのボスをやってどうだった?ギィーリ君、そんな沙良についてきてどう思った?楽しかった?すっきりした?」


 「気が晴れないことぐらいわかってるつーのっ!」


 ギィーリが剣を振りかぶり静葉に振り下ろす。素手の静葉には避けるぐらいしか選択肢はない。炎さえ纏っていなければ手で刃を止めることもできたが、今そんなことすれば火傷で両手を使えなくするだけだ。

 静葉が右に避ければギィーリは右に剣を払う。しゃがめば振り下ろす。近寄ってくれば下がりながら振り回す。明らかに素人であることが分かる。いや、剣を振り回すことが出来る分はド素人というわけでもないだろうけれど。

 だが殺人鬼として恐れられる実力はそこにはない。静葉が警戒しているのは炎だけだ。つまり元々ギィーリなど問題視していない。篠塚しのづか晶哉しょうやから殺人術を学んだという沙良だけを静葉は警戒していた。ギィーリの剣を避けながらも視線は沙良しか見ていない。


 「な、なめやがって……」


 「ん?何か言ったかしら?集中力が切れたらどうしてくれるつもり…って敵だからそれでよかったのね」


 「うっさいっ!」


 また大きな動作によって繰り出される斬撃。威力こそそこそこあるが、そんなもの静葉に当たるはずがない。動きもパターン化されていて、予備動作を消そうとう努力すら伺えず、しかも大振り。静葉でなくても、昨日今日剣を持ったばかりの茂でも、よく見れば避けれるはずだ。

 そんなギィーリより静葉が不思議に思ったのは沙良である。静葉はてっきりそんなギィーリの補助に沙良が入ると思っていた。元々魔法が得意だった沙良に、少しだけだが昔静葉自身が剣技を教えた。ギィーリよりはましに動けるはずなのである。

 だが、動かない。完成させた魔法を放つタイミングをずっと計っているまま動かない。それが静葉にとって気味が悪い。


 「ねぇ沙良。ギィーリ君にやらせるよりもあなたのほうがいいんじゃない?」


 「時津のお姉様。ギィーリを舐めているのですか?」


 「これが全力だというのなら舐めるぐらいしかできないけど?」


 「う、うるせー!!」


 「時津のお姉様。ギィーリの強さは他人の強さですわ」


 「他人の?」


 なんだそれ。強さは自分の強さだから発揮できるもので、他人の強さは脅威。そう信じているのは静葉だけではないはずである。それなりの強さを持つ者や、強さを求めている者にとって、価値があるのは自分の強さだけのはずなのだ。

 あれ。今、私苛立った。ものすごくむかついた。沙良に?ギィーリに?…違うや。この苛立ちって何かと同じだ。なんだっけ……。


 「あぁ、もういいや。瑠砺花のいう通りよ」


 これから牢で暮らす相手に何を思ってるんだろう。

 自分の罪も被ってもらうから?

 元々知り合いだから?

 私が彼女たちを裏切ったから?


 なにそれ。まだそんなことで私は悩んでるの?

 私と同じようにミラージュとして動いていた仲間や、最後まで私を信じてくれたけいには、区切りをつけた。ナイトギルドに入るって決めたときに、区切ったはずなのに。


 「さようなら、『敵』」


 「えっ、うあ、ちょっ――


 ギィーリの剣は見切っていたのだから反撃することも簡単だ。沙良を警戒して避けることに徹底していたが、静葉が痺れを切らし反撃に買って出た。

 縦に軌道を描いて振り下ろされた斬撃を軽く避けてから、ラリアットを直撃させる。ギィーリは突然の反撃に何の反応もできず、受身も取れない状況で地面に叩きつけられるしかなかった。


 「一人、撃破。さて、誰の強さが、どんな強さなの?沙良」


 「さすが時津のお姉様。二対一のこの状況で、お怪我は最初の火傷だけですのね」


 「もう一対一だけどね」


 「そうですの?」


 「えっ?」


 まさかこの状況でギィーリの意識が戻ることを期待しているかのような言い草に、さすがの静葉も少し困惑する。受身すら取れない全力のラリアットを不意打ちで喰らって、すぐに立ち上がれるほうがおかしい。


 「動揺させて気をギィーリに向けようってわけ?そうはいかないわ。そうね、起き上がってきたら今度は起き上がり小法師ラリアットにしてあげる。永遠の眠りの一歩手前を味わわせてあげるわよ」


 「ギィーリにとっては立ち上がらないほうが幸せかもしれませんわね」


 「まっ、痛い思いはしなくて済むわよ」


 起き上がれるわけない。もう一度だけ静葉は自分に言い聞かせた。

 ギィーリは弱すぎる。沙良が腹心とした理由が分からない。そしてギィーリの強さは他人の強さだと言った。それも、静葉には分からなかった。


 「一人で戦える方には分からないのですわ。他人の強さはただの脅威ではありません。他人の強さは、信頼というものを経て心強さになるのですのよ」


 「仲間が強ければ安心するってこと?それはただ甘えているだけよ、沙良。あなたはこれから一人で私と対峙する。そして一人で負けて、一人で敗北の苦しみを堪えていかなければならないの。その敗北の苦しみを乗り越えた後でも、復讐だなんて言えるのなら、そのときは一緒に羅沙らすなを滅ぼしてあげる」


 静葉を変えたのは絶対的な敗北だった。キセトと連夜れんやという二人に味わった、覆せない敗北。

 静葉と沙良は同じなのだから、きっと敗北が沙良のことも変えてくれるはず。そう期待せずには居られない。


 「さあ、私に負けるために、戦いなさい」




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ